トレース[英:trace]とは、ある物をなぞること。あるいはその痕跡のこと。
この記事では特に、製図や絵画、イラストにおけるトレース技法について解説する。「トレス」と呼ばれることもある。
概要
製図や絵画、イラスト等において、元にする図を何らかの方法を用いて透かせ、それをなぞる事によって写しとる技法のことである。
製図などでは「トレーシングペーパー」と呼ばれる半透明の紙を用いてトレースする。イラストにおいては、「トレース台」と呼ばれる、乳白色のアクリル板の下に光源を仕込んだライトボックスの上にトレース元の図案とトレース先の紙を重ねて置き、光に透かして写しとる方法などが一般的であった。またトレース台を用いた作業は、セルアニメーションの製作過程においても欠かせないものである。
近年ではコンピューターの普及により、トレーシングペーパーなどを用いなくてもコンピューター上で容易に図案を透かせてトレースすることが出来るようになった。
絵画の模写と混同される場合があるが、模写は他の作家の作品を真似て描く過程で作家の意図を理解、体感し自らの修練とするものであり、元の図案を機械的に写し取るトレースとは手段も目的も異なる。強いて言うならトレースは模写ではなく、転写技法の一つと考えられる。
主な使用方法
作業の効率化、簡略化、クオリティアップのため
別の絵や写真を元にトレースして絵を制作することで、作業効率をアップさせつつ作画のクオリティも上げることができる。漫画やアニメの背景作画においては実写の資料をトレース(ないし模写)して利用する事は頻繁に行われている。
アニメーションでは、実写映像を撮影してその映像を1コマづづトレースし、非常に精巧でリアルな動きを再現する手法が存在する。詳しくは「ロトスコープ」の記事を参照。
自作の絵を素材とすることは特に、「セルフトレス」という造語で呼ばれる場合がある。ただし実際にトレースするわけではなく、自作の描いた絵を素材として切り貼り・加工・写すなどして絵を作ることを指すケースが多い。
手描きMAD
ニコニコ動画では、アニメなどをトレースたうえでキャラクターの一部を改変し、別のアニメキャラクターなどに置き換えたパロディ動画などが人気である。他にも実写映像をトレース(ロトスコープ)したものや、「男女」や「ゲッダン」のように別の手描き動画をトレース元にしたものも多く存在する。
また、本編をそのままアップロードした場合権利者削除されてしまうアニメなどをトレースすることで手描き動画としてアップロードし、権利者削除を逃れようとする目的のものも存在する。ただしこれで絶対削除されないということではなく、どちらかと言うとネタとしての要素が大きい。
アニメ・ゲームOPの改変パロディ動画には「○○OPパロ」としてタグがつけられており、トレースを用いたMADも多く含まれる。その他に、「手描きMAD」「手描き○○(作品名)」「トレース」「トレス」等のキーワードを平行させることで多くのトレースを用いたMADを検索することができる。
基本的に元ネタを表記していればトレース行為自体が視聴者から批判される事は少ないが、著作権侵害により動画が権利者削除される可能性はある。(この場合の削除は絵ではなく音源が原因であることも多い。)
絵の練習方法として
自身の目標としている絵師の特徴を掴むために、練習として好きな絵をトレースしてみる。初心者にとっては有効な練習方法の一つである。アニメの動画を書く場合においては素早くために慣れておくのに必要。
トレスでとりあえず線を書く感覚を掴んできたら、より高いレベルを目指して模写・クロッキーに切り替えて勉強してみるのも良い。アニメで原画を書くならこっちに移行したい。
ただし、このように他人の作品をトレース・模写した絵を「自作のものとして」公開することは、後述するトレパク行為に該当するのでするべきではない。
トレパク問題
「トレパク」とは、「トレス」による「パクリ」という意味。必ずしもとは限らないが、主にこの意味において「トレス」という呼称のほうが使用される傾向にある。詳しくは「トレパク」と「トレス疑惑」の記事も参照のこと。
トレースは元の図案をそのまま写しとる技術なので、図案の盗作問題に発展することがある。近年ではインターネットの普及に伴い著名作家のトレースが発覚して炎上、祭り状態に発展することも珍しくない。 同時に、過剰なトレース糾弾も問題になってきている。批判する側に「トレス=悪(トレパク)」というイメージが先行してしまっており、トレースの問題点についての理解が乏しいまま議論が迷走しがちである。
こうした議論の迷走の一因として、法的問題と制作方法についての議論を混同する事が挙げられる。
- 制作方法についての議論(技術的評価に対しての問題)
- 絵やイラストは「自力で描いたものであるという前提」のもとに技術的評価されやすい部分があるため、それがトレースであると判明した時、期待を裏切られた印象を受けてしまう。しかしこれは創作の姿勢を巡る主観的な議論であって、明確な悪事とは言い難い部分もある。あらかじめトレースであることが明示してあればこの点はほぼ問題にならない。
- 法的問題(著作権上の不法行為)
- 元の図案が他人の著作物であった場合、著作権の侵害にあたる恐れがある。しかし、著作権侵害は親告罪であり、権利者による訴えがあって初めて法の立場から判断が行われる。よって当事者でない第三者がどうこう言える問題ではない。 当然ながら、著作権保持者から承諾を得ている場合や、元の素材が創作物として認められないものは問題にならない。
関連動画
関連項目
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