電子書籍とは、電子機器で読むことが出来るようデータ化された書籍、あるいはそのシステムである。
概要
本、新聞、雑誌などが、従来のいわゆる"紙媒体"ではなく、文章や挿絵などを全てデータ化した形で提供される書籍である。専用の機器(Amazon Kindleや楽天Kobo等の電子書籍リーダー)や携帯端末(スマートフォン・タブレット等)、PCなどで読むことができる。
大きく分ければ電子辞書なども電子書籍に相当するほか、ウェブに掲載されている小説なども同様であるが、現在の日本では電子書籍といえば主にインターネットを経由して購入・ダウンロードを行う書籍データを指す。他に紙媒体を直接電子化したデータもあり、特定団体が公開していたり個人が所有していたりする。
古くは、辞典のデータをディスクメディアに収録して、(当時としては)小型の端末で利用可能にしたものなどがあり、ソニーやNECが90年代から構想し、現在のものに繋がる要素も持った製品を出してきた。
現在は、インターネットの普及、ひいてはiTunesによる音楽のCDメディアからの脱却などに触発される形で、Amazonを初めとする通販サイトが、電子ペーパーなどを利用した、より紙媒体に近い形での電子端末の開発などによって導入を進めている。
歴史
コンピュータが現実に登場して以来、古典的SF作品に、紙媒体を捨てて電子データとして扱われるようになった書籍という概念はしばしば登場していた。
有名なところでは、『2001年宇宙の旅』の個人用情報端末で、たとえ月への旅行途中でも、手の平大のコンピュータに新聞や雑誌のデータが一瞬で送られて来る、という、現在のスマートフォンなどに非常に近いものが描かれている(余談だが、iPhoneなど現在のスマートフォンは、映画版に登場したこの端末の姿にそっくりである)。
技術の発展に伴い、先述の通り、ディスクメディアに辞書などのデータを収録して端末で利用する、という形の、原始的な電子辞書が90年代初頭に登場した。
この時、有名な文豪の全集が同様にデータ化されていくつか発表されたものの、殆ど知名度も持たれないまま消えていった。現在の電子書籍の概念に最も近いものが、この時初めて形になっていたといえる。
やがて、インターネットの爆発的普及が訪れ、学術論文の共有などが利用されるようになると、程なくして、著作権の切れた作品をテキストデータにして配布する青空文庫や、自らの作品をネットを経由して配布する人間が現れるようになった。
しかしこの時、音楽業界では既に、iTunesとiPodの爆発的普及によって、CDメディアの衰退・データ配信の隆盛が凄まじい勢いで起こっていった。 同業界では、Appleによって、一足先に既存メディアの破壊が行われた。
Appleのような先導者のいない出版業界ではこの流れが遅れるかとも思われたが、00年代後半になると、携帯電話などの端末の高性能化により、書籍データを手元で読むことが容易に可能となった。
この頃になると、国内外で漫画や雑誌などのデータ配信が行われるようになった。
電子書籍の長所と短所
以下ではサービスとしての電子書籍を利用することのメリットとデメリットを大まかに述べる。中には電子書籍という形態そのものによるものではなくサービス提供側の意識によって生まれるものもある。
長所
- すぐに再生できる、アクセシビリティ
- 通信環境さえあれば購入手続後にすぐに読むことが出来る。中には一度作品データをダウンロードしておくことでローカルですぐに再生できるようになるものもある。
- 紙の本より安い
- 電子書籍は概ね紙の本よりは割安であり高くても同価格、逆転することはまずない。作品によって異なるがほとんどは10%から30%ほど安くなっている。
サイトによってはクーポンの配布やセールなどを行っておりさらに安い値段で購入可能なことが多々ある。
さらに時間限定での利用を可能にする代わりに値段を抑えるという利用形態が用意されていることもある。CDやDVDのレンタルのような感覚であるが対応している作品は非常に少ない。おそらくサイトよりは権利元の意向が問題なのであろう。
また、中には本来有料で配信されている作品を無料で公開しているサイトもある。この場合多くの作品は複数のサイトで同時に無料で公開されているがサイトによってはそこでだけ無料で公開されているものもある(Bookliveの日替わり漫画など)。これらは当然撒き餌であり、多くの場合は閲覧期限が定められている。
なお、これらはあくまで新品価格での比較であり、中古売買まで考慮した場合は流石に逆転する場合が多い。 - 携帯性収納性
- 電子データも再生できる機器も幅を取らない。
- マルチデバイス
- 1つの作品にPC、スマホ、タブレットなどいろいろなデバイスからアクセスすることができる。
- 実体がないので物理的破損がない
- 情報のやりとりであるため紙の本のように破損するリスクがない。当然機器が壊れることはあるが、それでもサービスが提供されている間はアカウントさえあれば対応端末で常時読める。
- 電子情報ならではのプラスアルファ
- そのファイルが対応していれば文字列検索や目次からのショートカットを利用できる。また電子書籍特典が付随するものがある(設定資料集や書き下ろしなど)。
- 電子書籍のみで刊行されている書籍を読むことが可能
- 少数ながら電子書籍としてのみ配信されている本がある。割合としてはITを中心とした技術関連のものが多めである。エンターテイメントでいえば支援者をもたない素人作品だったりもする。紙の本と違いコストやリスクを軽減できるため個人出版が容易に行われるようになったことがこれらの増加をもたらしている。かつて企業が紙媒体で発行していたコンテンツが移行するという事態も増えた。中には企業が扱うコンテンツのさわりをまとめた書籍もある。
- 誤字・脱字等の修正
- 内容に誤字・脱字などがあった場合、修正版が再配信されるケースがある(紙の書籍でいうところの第○版)。ただし表現の自主規制での修正が入る可能性もある。
短所
- 端末の依存度
- 故障や電池切れなどを考慮する必要がある。
- 閲覧用アプリケーションの完成度
- 本棚のカスタマイズや本棚作成上限などに差があったり、動作速度の遅いものがあるなど、アプリケーションの完成度がまちまちである。
- 異なるサイトでの購入データが供用できない
- ある配信サイトで購入した書籍は、当然ながら別の配信サイト上では未購入状態である。そのため閲覧には購入した運用サイトが配布するアプリケーションしか使えず、別のサイトでも利用したければ購入し直す必要がある。Bookwalkerなど連携機能で共用できる場合もあるが、様々な制限がある。つまり店舗のポイントカード以上の縛りが発生すると考えて良い。
- 利用の制限
- 他人と貸し借りできない、複製できない、再生環境(端末)が限られる。
- 転売できない
- 物がないので古本として売れない。権利も譲渡できない。中古で購入できないので古い作品でも定価で買うしか無いことが多い。ただし、転売自体の価格は下落傾向にある為、紙の書籍と電子書籍ではほとんど違いがないと言う事実もあったりする。
- 複製・印刷できない
- 他人の著作物であっても私的利用の範囲内であれば複製するのは合法であり、メモ代わりに数ページだけをコピーして持ち歩く人なども少なくないのだが、購入した電子書籍の場合は違法コピー対策(DRM)のために印刷が禁止されているものが殆どである。一部のサービスではスクリーンショットさえ対策されている。
- 低画質
- サービスや書籍の種類によっては、画像が低画質で配信されていることがある。また端末のディスプレイ性能(解像度や輝度など)にも左右される。モノクロ表示のE Inkを採用した端末であれば、カラーイラストもグレースケール化された状態で見ることになる。カラー液晶のタブレットを使えば解決する話である為、機器の選択を間違えなければこれも短所にはならない面もある。
- 永続性が保証されない
- 作品データや電子キーの配信はサービス元が管理しているため、サービス元がそのサービスを継続できなくなると再ダウンロードやDL済みデータの復号ができなくなってしまう恐れがある。
閉鎖時の対応は運用サイトの方針やデータ形式で左右され、吸収された場合は吸収先引き続き利用できるケースがあるが、無保証というケースも少なからずある(例:楽天Raboo、ヤマダイーブックは当初保証なしであったがヤマダポイントに還元)。 - 書籍によっては紙の本ではあったはずのページや特典などが無くなっていることがある
- カバー部分が全て揃っていなかったり、裏表紙や本編以外のおまけのページがなかったりする。
帯は付いていないケースが多い。
紙の本には付いている封入特典が付随しないケースがある(CD、DVD、応募券など)。 - 品揃えが紙の本より悪い
- 近年のものであっても電子書籍への対応が紙の本より遅れることがある。
直営サイトでは予定通り配信されても、それ以外のサイトでは1ヶ月以上遅れるといったことが珍しくない。 - 販売日を気にしない場合はそれほど問題にならないケースである。
- 一覧性が低い
- 紙の本であれば何冊でも机に広げて同時に見ることができるが、電子書籍はモニタや端末のサイズ、個数により制限を受ける。
- 保存容量の問題
- ダウンロード型の場合は当然端末へ保存するので、その分の容量を確保する必要がある。これが何百・何千冊となると本体のストレージ以外にも外部メディアが必須となる。特に漫画など絵が中心のものやページ数が多い専門書籍となるとその傾向は顕著で大容量の外部ストレージが必須となってくる。
- ダウンロードにかかる回線
- 当然ではあるが購入した書籍を利用するにはストリーム型・ダウンロード型問わずダウンロードを行うためのネットワーク回線が必要となる。
大抵のモバイル通信回線は上限制限があるが、この回線を利用すると使用量によるが上限に到達しやすくなる。そのため大量にダウンロードを行う場合はWifi接続で行うなどの対策が必要となってくる。 - 書籍に手を加えることができない
- 紙の本であればマーカーでの強調、ペンでのメモなど書籍へ手を加えることができるが、電子書籍ではマーカーやメモの書き込みが可能なサービスとそうでないサービスが存在するようだ。可能だとしても、文章・図版内から余白まで好きな所に書き込みが可能な紙書籍の自由度には及ばない。
短所?
以下は某掲示板など不特定多数が電子書籍そのものについて語ると必ずといっていいほど上がるものであるが、短所と言い切るにはどうかと思うものである。
- 本棚が埋まらないので充足感が得られない
- 要は個人の慣れと趣味の問題である。
- 価格が割に合わない
- 値引きが足りないという主張がされる。概ね "従来の紙の本と違って出版サイドは諸々のコストやリスクが大幅に削減できているはずである、逆にユーザーサイドは利用の制限や将来読めなくなるリスクがある、だからこの程度の値引きでは割に合わないと感じる" ことが原因であるとされる。
関連動画
主な電子書籍サービス一覧
名称 | 運営 | リンク | その他 |
DLsite | エイシス | ◆ | 1996年開始 |
青空文庫 | 青空文庫 | ◆ | 1997年開設 |
DMMブックス | DMM.com | ◆ | 2000年開始 |
電子文庫パブリ | デジタル出版者連盟、モバイルブック・ジェーピー | ◆ | 2000年開始 |
どこでも読書 | モバイルブック・ジェーピー | ◆ | 2004年開始 |
コミックシーモア | NTTソルマーレ | ◆ | 2004年開始 |
まんが王国 | ビーグリー | ◆ | 2006年開始 |
コミック.jp | エムティーアイ | ◆ | 2006年開始 |
めちゃコミック | アムタス | ◆ | 2006年開始 |
Renta! | パピレス | ◆ | 2007年開始 |
ソク読み | and factory | ◆ | 2007年開始 |
Kindle | Amazon Services International LLC. | ◆ | 2007年開始 |
Rakuten Kobo | Rakuten Kobo Inc. | ◆ | 2009年開始 |
Apple Books | Apple | ◆ | 2010年開始 |
BOOK☆WALKER | ブックウォーカー | ◆ | 2010年開始 |
Reader Store | ソニー・ミュージックエンタテインメント | ◆ | 2010年開始 |
Kinoppy | 紀伊国屋書店 | ◆ | 2011年開始 |
ブックライブ | BookLive | ◆ | 2011年開始 |
dブック | NTTドコモ | ◆ | 2011年開始 |
honto | 大日本印刷 | ◆ | 2012年開始 |
LINEマンガ | LINE Digital Frontier | ◆ | 2013年開始 |
少年ジャンプ+ | 集英社 | ◆ | 2014年開始 |
マガジンポケット | 講談社 | ◆ | 2015年開始 |
ピッコマ | カカオピッコマ | ◆ | 2016年開始 |
※ BOOK☆WALKERと統合。
関連項目
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