T-62とは、ソビエト社会主義共和国連邦が開発し、ロシア陸軍が配備していた戦車である。
前史
T-54/55は戦後第1世代戦車として高い性能を持っていたが、1950年代に入り、レオパルド1やAMX-30、M60といった西側諸国の第2世代戦車の足音が聞こえ始めると、西側に対する性能の優位性に疑問符がつき始めた。
そこでソ連は負けじと第2世代戦車(後の人喰い戦車T-64)を開発する一方、開発が先行していた次世代戦車砲をT-54/55に載せちまおうぜという話が出た。それに基づき開発されたのがT-62である。
車両解説(その1)
一応T-54/55をベースとしているのだが胴体を延長したり転輪の位置が若干変わっているため別物と考えたほうが良いかもしれない。
主砲は後述する次世代戦車砲『U-5TS』。というかこれを積むための戦車。足回りやエンジン、火器管制装置はT-54/55と一緒。これらは第4次中東戦争で災いする。
主砲には自動「排莢」装置を搭載。弾を撃ったら空薬莢は、アームで受け止めて外へ放り出す仕組みが付いている(関連動画参照)。だが、うまく動作しない場合が多かったらしい。車内が非常に狭いため、装填速度は自動排莢装置が機能しない状態だと1分あたり4発程度(自動排莢装置が機能すれば10発)であった。[1]本格的な自動装填装置は次のT-64からなのだがどういう顛末をたどるかはお察しください。
砲塔内部には車長、砲手、装填手の3名が位置するが、西側戦車のようなバスケット型ではないので、装填手は砲塔の旋回に合わせて移動しなければならない。また、T-62にはジャイロ式の砲安定装置があるが、これを作動させると砲尾と砲塔が予期しない方向に動くことになるので、装填手はかなり危険な状態に置かれる。[2]
新世代戦車砲・U-5TS
この戦車砲は口径115mmの『滑腔砲』である。従来戦車砲といえば砲身の中に螺旋状の切れ込みを入れた『ライフル砲』であったが、ソ連技術陣は装弾筒付翼安定徹甲弾、いわゆるAPFSDSを世界で初めて装備した。
第四次中東戦争発生時、スエズ正面においてエジプトのT-62がイスラエルのM60A1と対戦したが、1600m/sの高初速を誇っていたT-62のAPFSDS弾は発射後1600m付近から急激に速度が低下することが判明し、M60A1は1600m以上のアウトレンジから射撃することで多数のT-62を撃破した。これを受けてT-62はレーザー測遠機の改修の他、アウトレンジ射撃に対抗するために滑腔砲の特色を利用して砲発射式の対戦車ミサイルを撃てるように改良され、爾後、ソ連戦車の特色となった。[4]
鹵獲に定評のあるT-62
初陣は中ソ国境紛争(珍宝島事件)。ここでいきなり最低1両が鹵獲されたと言われる。
そして運命の第4次中東戦争。シリアやエジプトに供給されたT-62はイスラエルのショットカル(ベングリオン)やマガフにフルボッコにされるのだが、この際大量のT-62がイスラエルに鹵獲されてしまう。これらはイスラエルによって魔改造が施され後のチラン戦車(チラン3&6)になるのだが、10両ほどがアメリカに送られハァハァ機体を徹底的にテストされてT-62の全貌がばれてしまった。
特に光量増幅式暗視装置や滑腔砲、APFSDSはアメリカ以下西側技術陣を大いに刺激し、西側第3世代戦車-M1エイブラムス、ルクレール、レオパルド2、90式戦車はそろって滑腔砲とAPFSDSを装備することになる。
ソ連は第2次大戦の戦訓で長距離での当たらない打ち合いより中~近距離での戦闘を重視しFCS(射撃管制装置)はそんなに凝らなかった。一方イスラエルはアウトレンジなんて常識だろな感じで射程とFCSにこだわった。その結果が第4時中東戦争での一方的な結果になり、さすがにソ連はこれに懲りたのか後に改良を行う。
車両解説(その2)
その後ソ連はT-62の改良型『T-62D』を開発する。こちらは対戦車ミサイル防御装置『ドロスド』とレーザー測遠機、簡易型であるが複合装甲を搭載。さらに最終バージョンである『T-62M』では進化したFCSと戦車砲発射型ミサイル、『9K116-1シェクスナ』まで搭載した。なお、T-64以降に配備された自動装填装置『カセトカ』は最後まで搭載されなかった。
T-62はソ連国内で2万両程度が製造されワルシャワ条約機構や中東に供給されたほか、チェコスロバキアでも1500両ほどが製造されている。現在ほとんどの国で退役しているT-62であるが、北朝鮮では天馬号の名前で現在も配備されており、最新の天馬5号ではT-90並みのFCSと125mm砲が搭載されているとか。
1960年代前半より配備が始まり、長きに渡りソ連・ロシアの機甲部隊の一角を担い続けたT-62だったが2013年1月3日、ロシア国内において全車の退役が発表された。
2022年に勃発したロシア・ウクライナ戦争では、大量の戦車を失ったロシア軍が倉庫に残されていたT-62を引っ張り出したが、30両以上がウクライナに鹵獲されている。[5]
関連動画
戦車シム「Steel Armor Blaze of War」でのT-62。自動排莢装置の動作がよく分かる。
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関連項目
脚注
- *ちなみにM60は分間11発。第4次中東戦争では射程や命中精度だけでなく弾の発射数でも負けたのが敗因ともいわれている。
- *PANZER 1986年9月号 p.40
- *従来の赤外線サーチライトではなくほんの少しの明かりでも増幅する現代の暗視ゴーグルの元祖。
- *「機甲戦の理論と歴史」葛原和三 芙蓉書房出版 2009 pp.131-132
- *ロシア軍、引っ張り出してきた旧式戦車「T-62」をほぼ無傷で戦場に放置 2022.10.29
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