赤外線とは、「赤」色の「外」に存在する電磁波である。
我々人間の肉眼では見ることができない。熱線とも呼ばれる。
分光学などの分野ではIR(infrared)と略称される。
こたつから出る赤い光=赤外線という人もいるが、赤外線は肉眼では見えない。
概要
赤外線は可視光線の赤色よりも波長が長く、ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指す。
波長は約0.7μm~1000μm程度。(1000μm=1mm)
赤外線は温度の高い物体ほど多く出て、熱作用が強いという性質がある。
室温が20℃の時の物体が放射する赤外線の最大波長は10μm程度である。赤外線を発するには必ずしも高温である必要はなく、人体や物体も非常に微弱な赤外線を放出している。
赤外線は波長の短い順に、「近赤外線」・「中赤外線」・「遠赤外線」の3つに分けられる。
ただしそれぞれの区分は、使うところによって若干異なり、近赤外線と遠赤外線の2つに分けたり、10μmまでを中赤外線としている所もある。
下記の区分はその一例である。
近赤外線
近赤外線は、約0.7~2.5μmの波長があり、赤色の可視光線に近い波長を持っている。
赤外線カメラや赤外線通信などに使われるのもこの波長である。
2011年11月7日にNIH(アメリカ国立衛生研究所)が、0.7μmの近赤外光を使用してがん細胞を破壊する動物実験に成功した。
中赤外線
中赤外線は、約2.5~4μmの波長があり、近赤外線の一部として分類されることもある。
単に赤外線という場合はこの波長域を指す。
赤外線吸収スペクトルでの有機化学物質などの分光分析に利用される(後述)。
遠赤外線
遠赤外線は、約4~1000μmの波長があり、電波に近い性質を持っている。
絶対零度以外の物体からは必ず放射されており、高い温度の物体ほど放射する量が多くなり、放射のピークの波長は温度に反比例している。
例えば炭火は約800℃で、ウチワで扇ぐと1000℃ほどになるので、放射のピークが近赤外線や可視光線に近づいて赤く見える。近赤外線は目に見えないがデジカメなどで写すことができるため、焼き肉の場面を撮影すると邪悪な紫の炎が見えることがあるのでお試しを。この近赤外線だけを撮影するのが「赤外線写真」、中赤外線や遠赤外線を撮影するのが「サーモグラフィー」(熱源映像装置の一種)である。
ピークを外れた遠赤外線も放射する量は増えるため、炭火は温度の低い物体よりも多くの遠赤外線を発している事になる。「遠赤外線は内部から温める」という謳い文句があるが、実際は全く逆で、遠赤外線は様々な物体に吸収されやすいため表面のみを加熱する。焼き魚や焼き鳥が炭火だとこんがり焼けるのは遠赤外線のおかげである。
遠赤外線が発せられる物体は比較的低温のものが多く(ガスコンロは1800℃にもなる)、暖めるのに時間がかかるので、表面が焦げる前に内部まで熱が伝わるのである。炭火は「高火力」と称されるが、これは「高温」ではなく、赤外線の放射量が多いという意味である。
放射量は物体や表面状態により異なり、セラミックスは放射量が高いためヒーターとして使われ、金属は放射量が少なく反射率が高いためヒーターの裏に設置して反射板として使われている。
4~14μmの波長は動植物の成長や健康に必須なため、「育成光線」とも呼ばれる。
化合物の分析に
赤外線を化合物に照射すると、物質内の結合がバネのように振動したり回転するなどしてエネルギーを吸収し、構造中の官能基を反映した吸収パターンを示す。これを利用して、化合物の構造の推定、既存のデータと比較することによる未知検体の同定などが行われている。特に1300~650 cm−1 の領域には物質固有の吸収スペクトルが現れるため指紋領域と呼ばれる。
基本的には結合の数が多いほど、結合している原子が軽いほど振動しやすいため高波数(低波長)の赤外線を吸収する。例えば水酸基(-OH)は3600~3200cm−1、アミノ基(-NH)は3500~3300cm−1と水素の軽さを反映して高波数の吸収を示す。他に代表的なものとしてカルボニル基(C=O)は1700cm−1に吸収を示す。
ちなみにCO2に温室効果があるのは、構造的に赤外線を吸収して振動しやすいため。水分子も振動してより広い範囲の赤外線を吸収するので、水蒸気は地球温暖化に最も寄与している。電子レンジのマイクロ波で水が温まるのも同じ理由である。
その他
- 赤外線は肉眼では見えないが、デジタルカメラを通すと見える。テレビやエアコンのリモコンで試すと分かりやすい。(ただし人体や物体が発する赤外線は微弱すぎるので検知できない)
- 蛇や吸血動物(身近では蚊など)、赤外線を認識する動物・生物もいる。
- 軍用の暗視装置も赤外線を検知・映像化できるが、時代によって用途は変化している。
- ミサイルが目標を追尾する方式のひとつに「赤外線誘導」があり、熱源誘導/ヒートシーカーとも呼ばれる。先端のカメラセンサーが対象の熱源(特にエンジンの排気など)を認識、追尾して命中する。初期は機体後方やエンジン排気の高温が確認できる角度からしか検知・発射できなかったり、熱源の塊である太陽を追いかけるといった欠点があったものの、現在は技術の進歩によって射程内ならば機影自体の熱源を検知し、全方位からの発射が可能となっている。(逆に熱源や赤外線をばらまくフレアやIRジャマーといった対抗策もある)
- サーモグラフィー、サーマルサイトといった熱源映像装置では特に赤外線の有無や強弱を視覚化する。
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関連項目
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