アマビエとは、疫病が流行したときに絵が描かれる妖怪、幻獣、予言獣である。
概要
江戸時代末に瓦版を通じて予言獣として広まった。その記録によると1846年に肥後国(現在の熊本県)で目撃されたようだ。特徴は以下の通り。
肥後に現れたアマビエはこんなことを言った。
そして海に帰っていった。
記録に残っているアマビエのエピソードは以上である。絵を描くと一体何が起こるのかはよくわかっていない。おそらく話の流れからして「疫病が収まる」のではないかと推測されている。
ちなみに原文は
肥後国海中え毎夜光物出ル所之役人行
見るニづの如の者現ス私ハ海中ニ住アマビヱト
申者也當年より六ヶ年之間諸国豊作也併
病流行早々私ヲ写シ人々ニ見セ候得と
申て海中へ入けり右ハ写シ役人より江戸え
申来ル写也(現代語への訳例「肥後国の海中に毎夜光るものが出るので、そこの役人が行って見てみると図のような者が現れ「私は海中に住むアマビヱという者。今年から6年間諸国は豊作、しかし病が流行、早々に私を写して人々に見せなさい」と言って海中に入っていった。右は写し役人から江戸に申し来た写しである」)
となっている。
京都大学付属図書館に上記の文章・絵が載っている紙資料が保管されており、「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」にてインターネット公開されている。
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https://twitter.com/kumainlib/status/1235841385980284934
ちなみに民俗学者/日本風俗史家/妖怪蒐集家の「湯本豪一」氏がアマビエや後述する「アマビコ」に関する多数の資料を蒐集し、考察と共に複数の著書などで紹介している(本記事「関連商品」参照)。それによって、20世紀末から21世紀初頭にかけて知名度が増したらしい。
湯本氏はこの「アマビエ」と「神社姫」という人魚のような存在の類似点を指摘し、また「アリエ」や「山童」といった妖怪らとも外見や伝わる話の特徴から接点を見出しているとされる。湯本氏はこういった「アマビエ」「神社姫」「人魚」「件(くだん)」といったような「予言する幻獣」を、「予言獣」または「予言と除災の幻獣」などと名付けて分類しているという。
アマビコとアマビエ
「アマビエ」の記録は上記の1つのみである。これに対し、「アマヒコ」あるいは「アマビコ」と読める妖怪?が熊本や宮崎、新潟の複数の記録に残っている。表記は「海彦」「あま彦」「尼彦」「天彦」など。あるいは「天日子尊」「尼彦入道」などと少し付加されているものも。
これらの多くが「豊作や疫病を予言する」などの共通の特徴をもつ。そのため、「実はアマビコを間違えた結果、アマビエが生まれたんじゃないか?」という説がある。「海彦」と表記している最初期の例などでは「日本人の7割が死ぬよ!そうならないように私の絵を描いてね!」という割と脅迫めいたことを言っている。
これらアマビコの姿はまちまちだが、「鱗はなく、全身が毛でおおわれている。足先には爪があり、丸っこい目をしている」といったアマビエと大きく異なるものもある。
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https://twitter.com/rekihaku/status/1239463961969319936
「アマ」は「海士」や「海女」とも書けるように海とのかかわりが深い言葉である。上記の記録の多くにおいても、海で目撃されていたり、「海に住む」と自ら申告していたりする。「ヒコ」は漢字では「彦」になり、古来から男神・男性の名として使われてきた。そのため、アマビコも男であると解釈されることが多い。
一方、アマビエの性別は不明だが、現代の日本人は「しずえ」などの「エ」で終わる名前を女性として認識することが多い。残っている絵も長髪であるため、現代ではアマビエは女性として描かれることが多いようだ。「人魚」との類似点なども関連しているのかもしれない。
これらの各種「アマビコ」については、インターネット上(福井県地域共同リポジトリ)にて公開されている「長野栄俊」氏による文献『予言獣アマビコ考--「海彦」をてがかりに』内で、絵の画像と共に詳細が紹介されているため、本記事下部の「関連リンク」から参照されたい。
水木しげる・ゲゲゲの鬼太郎のアマビエ
もともとアマビエは白黒で書かれていたが、水木しげるが描いたものに色が付けられている。髪は緑色でくちばしは桃色、鱗は桃色・水色・薄緑色などカラフルである。
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https://twitter.com/mizukipro/status/1239819124965949441
水木しげる原作のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第5期にも登場しており、髪が桃色で鱗が緑色になっている。下半身は三本足ではなく、魚のような姿になっている。一人称が「あたい」。第26話ではメインを張る。鬼太郎に好意を寄せているが、かわうそとの絡みがむしろ多い。
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https://twitter.com/Ruru179/status/1236167730606161920
現在描かれるアマビエのデザインはいろいろあるが、配色は水木しげる・ゲゲゲの鬼太郎のアマビエに影響を受けたものが多い。
令和のアマビエ
令和2年(2020年)の2月、新型コロナウイルスが日本に蔓延していた。この状況の中で、それまでは主に予言獣として扱われていたアマビエの「疫病が収まる(のではないか)」という側面が注目された。そして、「アマビエの絵を描いて新型コロナウイルスを食い止めよう」という動きがネット上で現れた。
もともとアマビエは一部でもコロナウイルス等と絡めて話題に上がっていた(参考)が、最初のブームのきっかけとなったツイートは、妖怪掛け軸専門店「大蛇堂」の公式Twitterアカウントが2020年2月27日に投稿した以下のものであったと思われる。
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https://twitter.com/orochidou/status/1232956377754001408
これを受けてアマビエの画像が徐々に投稿されるようになる。
当初は局所的なブームだったが、3月に入るとアマビエが下記ツイートから特に広まった。
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https://twitter.com/youmisedori/status/1234763436711563264
その結果アマビエが多く描かれるようになり、1万いいね以上を獲得するものも出現した。
なお
❌🦐
関連動画
(妖怪紹介系の動画。アマビエに関する部分は、再生時間05:11頃から)
MikuMikuDance
3DCGムービー制作ソフト「MikuMikuDance」用のモデルが制作され、配布されている(→リンク)。
関連静画
関連商品
関連リンク/参考文献
- 新聞文庫・絵 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
- 予言獣アマビコ考--「海彦」をてがかりに 長野, 栄俊, 若越郷土研究, 2005.01, vol.49, no.2, p.1-30. - 福井県地域共同リポジトリ
関連項目
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