天使(てんし)とは、アブラハムの宗教の神話・伝説に登場する天の使いである。神の使者。
概要
神の御使いとして神の傍に侍したり、人間を導いたり、時には人間に裁きを与えたりする存在。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などのいわゆる「アブラハムの宗教」における神話・伝説の中に登場することが多い。
ユダヤ教ではヘブライ語「םַלְאָךְ」(マルアハ、マルアーク)と記されていた。これがキリスト教の新約聖書ではギリシア語で「使者」を表す 「Ἄγγελος」(アンゲロス)と訳された。イスラム教のクルアーンではアラビア語「ملائِكة」(マラーイカ)とされている。
ギリシア語「Ἄγγελος」(アンゲロス)は英語「angel」(エンジェル)の語源となっており、日本人にはこのエンジェルが耳馴れていると思われる。英単語の語源辞典には、ギリシャ語からさらにさかのぼる語源としてサンスクリット「アンギラス」を挙げているものもある。
外見
現代の天使の印象像としては背中から生えた2枚の羽と頭上に光る天使の輪が特徴。また、裸の子供の姿で描かれることも多い。
ただ、天使の外見については「旧約聖書」「新約聖書」ではほとんど書かれておらず、初期の絵画では翼のない天使が描かれることが多かった。上記の「羽、天使の輪、子供」という天使は、ギリシア神話のキューピットやニケ、ローマ神話のヴィクトリアなどから影響を受けて描かれたものもある。一方、同じアブラハムの宗教のイスラム教の聖典「クルアーン」では、天使は明確に翼を持った存在と書かれている。
なお、キリスト教神学では、天使は肉体を持たず、精神のみの存在であるとされることがある。
天使の翼
天使は白く巨大な翼を持っている印象が強いが、その翼は猛禽類の翼を元にしていることが多い。
これはその他の鳥類の翼を元にしたのでは人体部分と比較した際にどうしても貧弱に見えてしまうからといわれている。
このことは一見かわいく、美しく見える外見にだまされて、猛禽類のような獰猛さを隠そうとしないものたちへの比喩表現として『天使』という言葉がいかに適切かを表しているのかもしれない。
役割
天使の役割は神のなすことの補助である。
預言者に天啓を与え、聖母には受胎告知を行い、聖人が昇天する際に迎えに来るなど、御使いとして様々な仕事をこなす。神の代行者として人間を導く存在である。
しかしその一方で、キリスト教におけるカタストロフィ『最後の審判』において、人類滅亡のきっかけとなるラッパを吹くのも天使の役割である。天使はあくまで神の代行者であり、人類の味方であるとは限らないということは覚えておくべきである。
キリスト教の天使
階層
カトリックでは天使には大きく分けて3つ、細かく分けて9つの階層が存在していると考えられている。
ただし、この階層は、偽ディオニュシオス・アレオパギタという5世紀頃の神学者の著作「天上位階論」によって考えられたものである。5世紀というのは聖書成立からだいぶ後であり、本来最高位と考えられ、神のそばに控え、聖書の中で重要な役割を果たすミカエル達大天使が下から二番目というおかしな物になっている。これでは人間に天啓などを伝えるだけの役割ならば特に問題はないが、『ヨハネの黙示録』などに描かれているようにサタンとの戦いにおいてミカエルが天使を率いるなどの場面では下位の天使が天使の軍団を率いるなどの矛盾点が現れてしまう。
現代の創作においてはこの矛盾を覆すためにミカエルたちを第一位の熾天使に持ってきたり、あるいはそもそもこの位階にとらわれないことも多い。大天使が変わらず最高位とされることもある。
下層の天使達は普段見るような人型の天使であるが、上位の天使になると、羽や目の数が増え異形の姿をしていることも多い。また、聖母マリアに受胎告知をした大天使ガブリエルなど下層の天使は人との関わりも多いが、上層の天使になるとエデンの園から追い出されたアダムとイブが戻ってこないよう番人としての役割を負うなど、決して友好的なものではない。
位階 | 名称 | 古典ギリシア語読み (ただし座天使まではヘブライ語の転写) |
英語読み | ||
---|---|---|---|---|---|
単数形 | 複数形 | 単数形 | 複数形 | ||
父 | 熾天使 | セラフ | セラフィム | セラフ | セラフィム |
智天使 | ケルブ | ケルビム | ケルブ | ケルビム | |
座天使 | トロン オファン |
トロノス オファニム ガルガリン |
スローン オファン |
スローンズ オファニム ホイールズ |
|
子 | 主天使 | キュリオス | キュリオテス | ドミニオン | ドミニオンズ |
力天使 | デュナミス | デュナミテス | ヴァーチュー ヴァーチャー(慣用) |
ヴァーチューズ | |
能天使 | エクスシア | エクスシアイ | パワー | パワーズ | |
聖霊 | 権天使 | アルケー | アルカイ | プリンシパリティ | プリンシパリティーズ |
大天使 | アルカンゲロス | アルカンゲロイ | アークエンジェル | アークエンジェルス | |
天使 | アンゲロス | アンゲロイ | エンジェル | エンジェルス |
現代の聖書に登場する天使
現代のカトリックが正典と定めている聖書内において登場する名前のある天使はミカエル・ガブリエル・ラファエルの三名のみである。また、ラファエルに関しては旧約聖書のみに登場する。
上の三名に加えて4大天使として有名であるウリエルに関しては外典とされたもののみに登場する天使であり、カトリック総本山から堕天使の烙印を押されたこともある(後に復帰)。
外典ではさらに多くの天使が登場するが、ここでは割愛する。
堕天について
天使は様々な理由(増長、人への愛情など)によって堕天し、堕天使へと変じる。
堕天の代表例として真っ先に挙げられるのが大天使長として天使の頂点に立っていたといわれるルシファー=サタンである。「ヨハネの黙示録」によればルシファーは自らに付き従う天使を率い、神に戦いを挑んだが破れ、地獄まで落とされそこの支配者となったといわれている。
外典においては人類の監視のために地上に使わされたアザゼルという天使がその仲間200人ごと堕天し、人の娘との間に子供をもうけた。この子供達はネフィリム(ネピリム)と呼ばれる巨人であり、世界を大いに乱した。この事態を収拾するために神は大洪水(ノアの箱舟の伝説)を起こし、その後アザゼルは荒野の穴の中に監禁され、荒野の悪魔と呼ばれるようになったといわれている。
キリスト教神学における天使
神学・スコラ哲学において天使とは極めて重要な存在であり、中世ではトマス・アクィナスやアウグスティヌスやエックハルト、近代ではカール・バルトなどが天使について論じた。こうした学問を「天使学」と呼ぶことがある。
イスラム教の天使
日本では係わり合いが薄いため創作の対象になりにくく、知名度も高いとはいえないが、イスラム教もまた、その母体となったユダヤ教から天使の概念を引き継いでいる。
当然の事ながら、ユダヤ教から引き継いだ天使はキリスト教とも重なる。ただし、それぞれの名前はアラビア語読みされ、ミーハーイール(ミカエル)、ジブリール(ガブリエル)などとなっている。
イスラム教において最も重要とされる天使はジブリールである。ジブリールはイスラム教の開祖ムハンマドに天啓を授けイスラム教を興させた天使であり、イスラム教の聖典コーランもジブリールがムハンマドに伝えた神の言葉が元になっている。
どこかのエロゲ会社は自分達の作ったゲームがイスラム教徒に知られないように気をつけるように。
イスラム教神学における天使
中世ではイブン・スィーナー(アヴィセンナ)、イブン・ルシュド(アヴェロエス)などが天使や宇宙について議論し、キリスト教神学に影響を与えた。
ゾロアスター教の天使
ゾロアスター教では善神アフラ・マズダと悪神アンラ・マンユが存在すると考えられているが、アフラ・マズダに従う七柱の神(アムシャ・スプンタ)を「七大天使」と呼ぶことがある。
天使の登場する創作作品
絵画
文学
アニメ・漫画・ゲーム等
その他多数、天使を題材にした創作作品が存在する。
「天使」が付く名称
作品名・楽曲名
- 天使 - KOKIAの6thシングル曲。
- 天使 - 佐藤亜紀の小説。
- 天使 - 桜沢エリカの漫画。およびそれを原作とする2006年公開の日本映画。
- 天使(原題:Angel) - 1937年公開のアメリカ映画。
- 天使(エンジェル) - 甲斐バンドの楽曲。
その他「天使」がつく作品名は非常に多数存在する。ニコニコ大百科を「天使」で検索すると大量に見つけることができる。
人名
主に架空の人名。名字としては「あまつか」と呼ばれることが多い。(関連:日本の苗字(名字)の一覧)
- 天使聖羅(あまつか せいら) - 小説およびアニメ『GJ部』の登場人物。三女。
- 天使真央(あまつか まお) - 小説およびアニメ『GJ部』の登場人物。長女であり部長。
- 天使恵(あまつか めぐみ) - 小説およびアニメ『GJ部』の登場人物。次女。
- 天使恵(あまつか めぐみ) - 漫画およびアニメ『天使な小生意気』の主人公。上記と同姓同名だが別人。
- 板垣天使(いたがき えんじぇる) - アダルトゲーム『真剣で私に恋しなさい!』の登場人物。
- 天使(Angel Beats!) - アニメ『Angel Beats!』の登場人物。
- 天使(実況プレイヤー) - ニコニコ動画のゲーム実況プレイヤー。
その他用語
- 天使(とある魔術の禁書目録) - ライトノベル『とある魔術の禁書目録』の用語。
- 天使(ドラゴンボール) - アニメ『ドラゴンボール超』に登場する神の付き人の総称。
比喩
天使はしばしば「風貌が可愛らしい」「誰にでも優しい」「無垢で純粋である」「明るく笑顔の絶えない」人に対しての比喩として用いられる。「天使ちゃんマジ天使」「運営の天使」「ただでさえ天使のミクが」など。
また、「クリミアの天使」と呼ばれたフローレンス・ナイチンゲールに由来して、看護師(特に女性看護師)のことを「白衣の天使」と表現することがある。
人間の良心の象徴としての視覚的表現として使われることもあり、その場合は悪事を唆す悪魔と対決して描かれることもある。 (→「天使と悪魔(葛藤の表現)」の記事を参照)
創作作品以外の関連項目
- 宗教
- アブラハムの宗教
- 旧約聖書
- Y・H・V・H
- ヘブライ語
- セラフィム
- ドミニオン
- アークエンジェル
- 四大天使
- ミカエル
- ガブリエル
- アザゼル
- サリエル
- アズラエル
- ラミエル
- ゼルエル
- ジブリール
- イスラフェル
- アルミサエル
- サキエル
- 堕天使
- ルキフェル - なお「ルシファー」「ルシフェル」の記事も別にあるが、特定の創作作品に関連した内容が主。
- 悪魔
- ふたなり - 天使は両性具有とされることがある。
- 神話上の関連用語一覧
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