オスカー型原子力潜水艦とは、ソビエト/ロシア海軍が運用している原子力潜水艦である。
ソ連海軍の計画名は949型潜水艦(グラニート)、949A型潜水艦(アンテーイ)。
1950年代からとりあえず原子力潜水艦の開発に成功したソ連海軍は、さらなる発展を遂げるべく、原潜の拡充を目指し、主にアメリカ本土への核攻撃を行うSSBN、水上艦艇への直接攻撃を行うSSN、そして艦隊への飽和攻撃を行うSSGNの整備を行った。
このうちSSGNが目的とするのが、米海軍空母機動部隊への飽和攻撃である。
これは超音速爆撃機+超音速ミサイル+ECMに潜水艦発射巡航ミサイルを組み合わせたシステムである。
これらを実現するべく、1960年代から開発が開始された第2世代原子力潜水艦群はソ連海軍の原子力潜水艦運用能力を飛躍的の向上させた。その中で建造されたのがチャーリーⅠ/Ⅱ型である。
このシステムは1970年代に実施されたオケアン演習においてその効力をいかんなく発揮し、特にオケアン72演習においては90秒間に100発もの巡航ミサイルを着弾させることに成功した。
しかしながらアメリカ海軍も、1970年代にはタイフォン・システムこそ頓挫したものの、ターター-Dシステムが実用化され70年代後半にはイージスシステムの海上試験が行われていた。更には空母艦上にはE-2CホークアイやF-14が配備され艦隊の防空力が飛躍的に上昇していった。
これに対抗する形でソ連海軍は新たなフォーマットを構築することになる。
それが「宇宙ISRシステム+洋上・海中プラットフォーム+長射程対艦ミサイル」である。
そしてそのフォーマットの中でSSGNの任を担うのが本型である。
新世代対抗フォーマットの中で海中プラットフォーム(SSGN)を担当する。
SSGNとしては世界最大級の排水量を持ち、本型を上回る排水量を持つ潜水艦はオハイオ級原子力潜水艦、タイフーン級潜水艦、ボレイ型原子力潜水艦の3艦種のみである。これらは全てSSBNである(オハイオ級1~4番艦を除く)。
設計はルビーン海洋工学中央設計局。前級であるパパ型潜水艦の知見が多く取り入れられている。なお、本型からは搭載ミサイルと艦が協調して設計された初めての艦である。
兵装、電子装備、船体全てを、目標達成のためには金もサイズも制限なしで設計した結果、非常に大型の艦容を持つ。
船体構造としては、9.1mの耐圧殻2つを平行に並べ、耐圧殻と外殻の間に12基のミサイル発射装置を備える。この発射装置には1基に付き2門の発射管を備え、前方にに60°傾斜して装備されている。
この配置により耐圧殻と外角の間はかなり広く、最大で5m以上あると言われている。この為、水上艦艇の装備する短魚雷では有意な損害を与えられないのではないか、と言われている。
また後述する電子装備もかなり大きく嵩張るため、船体もそれに応じ巨大になっている。
また、これらとともに船体の大型化に寄与しているのが居住性の確保であり、トレーニングルームや、リラクゼーション施設の設置に加え、 小鳥や観賞魚の飼育も出来るなど、艦内環境の充実が図られている。
セイルプレーンにはロシア海軍伝統の緊急脱出カプセルが装備されている。
Ⅰ型と比べⅡ型は1区画挿入されたことで全長が11m伸び、計10区画からなる。この改装は居住性の向上、並びに静粛性の向上に充てられていると考えられている。
区画構成は前方から1.水雷室 2.制御室 3.戦闘室及び通信室 4.居住室 5.居住区、ディーゼル発電機室 6.原子炉室 7.主推進タービン室 8.主推進タービン室 9.電動機室 10.舵機室、となっている。なお脱出用ハッチは第4、第10区画に装備されている。
これらの区画は緊急時には確実に隔離されるよう設計されている。はずだった。
またⅡ型は電子装備がアップグレードされており、潜舵も大型化され運動性が向上している。
潜舵の最頂部にはセンサー繰り出し部があり、おそらくは曳航ソナーの繰り出し部ではないかと考えられている。
艦首に650㎜魚雷発射管と533㎜魚雷発射管を備え、その下部に艦首ソナーを備える。
搭載兵装としては魚雷や機雷、対潜ミサイルの他に、巡航ミサイルを装備する。
魚雷に関しては従来の533㎜魚雷の他に、620㎜ウェーキホーミング魚雷を持つ。
主兵装たる巡航ミサイルはP-700【グラニート】(NATOコードネームSS-N-19シップレック)。設計者はチェロメイ設計局である。
このミサイルは射程900㎞、超音速、弾頭は重量500㎏のHE或いは500kt相当の破壊力を持つ核弾頭である。
これにより、防護半径500㎞という空母機動部隊の外側から攻撃することが可能となった。
ただし、これほどの能力を実装するため、金もサイズも糸目を付けなかったため、全長10.5m、全幅2.6m、直径0.88m、重量6,900㎏というマンモスミサイルとなってしまった。
これほどの大きさのミサイルを24基運用するために艦は巨大なものとなっている。
さらに、これほどの大射程を実現されるためには中間誘導が欠かせないが(地球は丸いため普通のレーダーでは相手は見えない)、これを実現させるISRシステムを運用している。
艦固有のセンサーとして、艦主ソナー、曳航ソナー、舷側ソナーを備え、マストには航海レーダーと捜索レーダーを備える。
これらのセンサー情報の他に、艦の捜索範囲外の捜索には、全地球規模海洋監視衛星システム【レゲンダ】により得られた情報を連動させ目標捜索・誘導・戦果評定を行う。
なお、このレゲンダシステムの受信解析装置は大変嵩張るものだったらしく、これも艦の大型化に一役買っている。
1980年にオスカーⅠ型が就役、1986年にオスカーⅡ型が就役している。
オスカー型はⅠ型2隻、Ⅱ型16隻が計画され13隻(1型2隻、Ⅱ型11隻)が完工している。
冷戦の終結とソ連の崩壊それに伴う財政難のため運用に難のあるⅠ型はすでに退役済み。
Ⅱ型に関しても2隻が予備役に回り8隻が現役。なお、Ⅱ型10番艦(通算12番艦)K-141クルスクは事故により失われている(後述)。
ソ連崩壊後は低調であるものの運用・建造は進められ、コストのかかるSSBNの運用が難しいこともあり、比較的活発に活動している。ポスト冷戦後はその高いミサイル運用能力を見込まれ、改めて活動の機会が増えてきている。
この様に高いポテンシャルを持つ本型であるが、ソ連崩壊後レゲンダシステムの運用は停止され、搭載ミサイルであるグラニートを十全に運用することが不可能となってしまった。
そこで本型搭載ミサイルを【オーニクス】と【カリブル】に換装することを計画していると伝えられている。
従来のグラニート区画はヤーセン型原子力潜水艦と同じ【オーニクス】三連装発射機に換装され、【カリブル】に関しては艦首533㎜発射管から運用されると考えられている。
2000年8月12日、バレンツ海に於いて演習中のK-141クルスクが艦首魚雷発射管において爆発が起こり沈没した。乗員111名全員が死亡している。
この事故に際しノルウェーの地震観測所が2分間隔で2度の爆発を計測している。
原因についてはいまだ不明とのことであるが、現在では620㎜重魚雷の燃料が漏出し、それが魚雷発射管内で爆発したことが原因と言われている。
発射管扉の閉鎖が不完全であったことから爆発が艦内に向かい、更に本来魚雷発射管室内で留まる筈の被害が換気ダクトを通じて発令所に伝わり司令部要員が全滅したことも被害を大きくした事の一因であるといわれている。
その後艦内の残存魚雷が爆発、10個ある区画のうち第1~第5区画が破壊された。原子炉は緊急停止し原子炉区画は残存した乗組員により閉鎖されたが水没。
爆発の衝撃で緊急脱出ポッドへの通路がふさがれ、司令部が全滅したため緊急浮上も行われず、自力での脱出が不可能となった。
爆発直後には最低でも23人の生存者が最後尾の第9区画にいたことが確認されていたが、8月12日午後6時以降艦内の酸素が尽き全員が死亡したと考えられる。
艦番号 | 艦名 | 起工 | 就役 | 建造所 | 所属 | 現況 |
K-525 | アルハゲンリスク | 1975/7/25 | 1981/1/24 | セヴマシュ | 北方艦隊 | 除籍・解体済み |
K-206 | ムルマンスク | 1979/4/22 | 1983/12/15 | セヴマシュ | 北方艦隊 | 除籍・解体済み |
艦番号 | 艦名 | 起工 | 就役 | 所属 | 現況 | |
K-148 | クラスノダール | 1982/7/22 | 1986/9/30 | 北方艦隊 | 予備役 | |
K-173 | クラスノヤルスク | 1983/8/4 | 1986/12/31 | 太平洋艦隊 | 予備役 | |
K-132 | イルクーツク | 1985/5/8 | 1988/12/30 | 太平洋艦隊 | 現役 | |
K-119 | ヴォロネジ | 1986/2/25 | 1989/12/29 | 北方艦隊 | 現役 | |
K-410 | スモーレンスク | 1986/1/29 | 1990/12/22 | 北方艦隊 | 現役 | |
K-442 | チェリャビンスク | 1987/5/21 | 1990/12/28 | 太平洋艦隊 | 現役 | |
K-456 | ヴィリュチュンスク | 1988/2/9 | 1992/8/18 | 太平洋艦隊 | 現役 | |
K-266 | オリョール | 1989/1/19 | 1992/12/30 | 北方艦隊 | 現役 | |
K-186 | オムスク | 1989/7/13 | 1996/7/20 | 太平洋艦隊 | 現役 | |
K-141 | クルスク | 1992/3/22 | 1994/12/30 | 北方艦隊 | 爆沈・除籍 | |
K-150 | トムスク | 1991/8/27 | 1996/12/30 | 太平洋艦隊 | 現役 | |
K-329 | ベルゴロード | 1992/7/24 | ― | ― | 建造中止 | |
K-135 | ボルゴグラード | 1993/9/2 | ― | ― | 建造中止 | |
K-165 | バルナウル | ― | ― | ― | 建造中止 |
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掲示板
13 ななしのよっしん
2016/12/12(月) 06:38:04 ID: gP8SKByQr0
あ、よく読んだらちゃんと放射線遮蔽してあるって書いてあったorz
14 ななしのよっしん
2019/02/05(火) 17:15:49 ID: 6xdYZMbfb7
K-141クルスクが爆沈・除籍とあるけど、もしやこれって事故で海中に沈んで
他国からのクルーの救助を断ったっとニュースでも報じられた潜水艦?
15 ななしのよっしん
2023/03/03(金) 03:57:44 ID: 0eG5Y+1jh4
追加情報
・サイズが大きくなったのは制限が設けられなかったからだけでなく、設計期間が限られていてそこまで手を回せなかったから、という面もある(60~70年代のソ連海軍の設計案はそんなのが多いらしい)
・建造予定数は38隻(それくらい発注すれば20隻くらいは完成するだろう、というソ連特有のひどい理由)
・セヴェロドヴィンクスの第402造船所は11年で8隻の本級を完成させた(準戦時とはいえ、水上排水量が1万tを超える超大型潜水艦を2年足らずで完成させられるあたり恐ろしい)
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最終更新:2024/05/13(月) 11:00
最終更新:2024/05/13(月) 11:00
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