ハイネセン制圧とは (ハイネセンセイアツとは) [単語記事]

銀河英雄伝説の戦闘
救国軍事会議のクーデターハイネセン制圧
基本情報
時期：宇宙暦797年 8月頃
地点：自由惑星同盟バーラト星域惑星ハイネセン
結果：自由惑星同盟正規軍の勝利
詳細情報
交戦勢力
自由惑星同盟軍	救国軍事会議
指揮官・指導者
イゼルローン要塞駐留艦隊司令官ヤン・ウェンリー大将	救国軍事会議議長ドワイト・グリーンヒル大将
動員兵力
イゼルローン要塞駐留艦隊その他各惑星の警備隊地方駐留の巡視艦隊退役将兵義勇隊など	クーデター部隊処女神の首飾り
救国軍事会議のクーデター
救国軍事会議のクーデター - 惑星シャンプール攻略戦 - ドーリア星域の会戦 - スタジアムの虐殺 - ハイネセン制圧
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スタジアムの虐殺	イゼルローン回廊帝国寄り宙点における戦闘

ハイネセン制圧とは、「銀河英雄伝説」の戦闘のひとつである。

概要

宇宙暦797年8月頃、救国軍事会議のクーデター終盤、イゼルローン要塞駐留艦隊（ヤン艦隊）が、救国軍事会議支配下の自由惑星同盟首都星ハイネセンの制宙権を確保した戦闘。

同盟首都星ハイネセンに対する歴史上はじめての武力攻撃であり、事実上最後の戦力であった全自動防衛衛星システム”処女神^{（アルテミス）}の首飾り”を喪失した救国軍事会議はヤン艦隊への降伏を宣言。救国軍事会議によるクーデターは終結し、全同盟領内に憲章秩序が回復された。

なお、この事件には明示された名称が存在しないため、便宜上のものとして「ハイネセン制圧」の名称を使用している。

経緯

宇宙暦797年4月に同盟首都星ハイネセンにおいて発生した救国軍事会議によるクーデターに対し、イゼルローン要塞司令官ヤン・ウェンリー大将はクーデター不支持の姿勢を明確に示し、鎮圧のために要塞駐留艦隊をひきいてハイネセンへと進発した。

同年5月、ヤン艦隊はドーリア星域の会戦においてクーデター派に与した第11艦隊を撃破し、救国軍事会議は唯一の機動戦力を喪失する。いっぽう、ハイネセンにおいても、救国軍事会議の経済統制によって広がった人心の不安と流通の混乱が”スタジアムの虐殺”の惨劇へと発展し、救国軍事会議は市民の支持を失って内外に孤立を深めていった。

ドーリア星域での戦勝後、後方環境を整えたヤン艦隊は、同年7月末にハイネセンへの進撃を再開し、翌月にはバーラト星域外縁部へと到着する。

両軍の状況

ヤン艦隊はバーラト星域に到着すると、惑星ハイネセンまで6光時、約65億kmの近距離に布陣した。救国軍事会議と議長ドワイト・グリーンヒル大将のもとにはハイネセン軌道上の全自動防衛衛星システム”処女神の首飾り”を除いて宇宙戦力はもはや残されておらず、ヤン艦隊の布陣は、救国軍事会議の完全敗北と同盟憲章秩序の回復がもはや遠からぬものであることを全同盟に顕示するものとなった。

この状況に”魔術師”の異名で知られるヤン大将の名声もくわわり、それまで態度を決めかね静観に徹していた人々も雪崩をうってヤン艦隊支持を明確にするにいたった。軍内では各惑星の警備隊、地方駐留の巡視艦隊といった小部隊がヤン艦隊に合流したほか、退役将兵、さらに民間人まで義勇隊として参加を希望した。同盟憲章に明示された”抵抗権”をかかげる民間人参加志望者の動きに、ヤン艦隊側は参加資格として年齢を19歳以上56歳未満に限ったうえで受け入れている。このほか、軍関係者では前統合作戦本部長シドニー・シトレ退役元帥がヤン艦隊を訪れて支持を声明し、それまで救国軍事会議に同情的であった者たちでさえ、”スタジアムの虐殺”の影響もあり、多くが救国軍事会議を非難してヤン艦隊に参加した。

対する救国軍事会議は、その勢力をハイネセンの重力圏内に限られ、もはや首都星の地表と地下の一部を支配しえているにすぎない存在となりはてていた。しかし、クーデターの帰趨がもはや事実上決したとはいえ、クーデター派に”首飾り”しか抵抗の手段が残されていなかったわけではなかった。純軍事的に有人惑星ハイネセンの武力占領が困難事である、という点のみならず、クーデター派は政軍中枢をはじめとするハイネセン10億同盟市民すべてを人質となしえたからである。

事態の経過

ヤン大将の計画

ヤン大将は、すでに”処女神の首飾り”を軍事的な脅威とはとらえておらず、むしろ有人惑星制圧の困難さを重視するとともに、救国軍事会議がハイネセン市民を人質にして脅迫に出た場合には対処しえないことをおそれた。そのため、首都星防衛の要・無敵の防衛システムとして彼らが信仰する”首飾り”を破壊して抵抗意欲を撃砕するいっぽう、策謀によってその執念にも打撃をあたえ、無益な抵抗に及ばせないよう企図した。

そこで起用されたのが、先立つドーリア星域の会戦時にヤン艦隊司令部に潜入し、拘束されて帰順したバグダッシュ中佐である。彼は通信を介し、自身がヤン大将の暗殺という任務を受けて潜入したことを語り、一連のクーデターが帝国のラインハルト・フォン・ローエングラム侯爵の陰謀によるものであったと証言して救国軍事会議の大義を全面的に否定した。

これは単なる宣伝工作ではなく、ヤン大将がクーデター発生以前より情勢を精緻に洞察して得ていた結論であった。グリーンヒル大将以下の救国軍事会議幹部はバグダッシュ中佐の証言に当然反発したが、彼らにクーデター計画をもたらしたアーサー・リンチ元少将は冷笑とともに証言が事実であることとを認め、一同に強い衝撃をあたえた。

”処女神の首飾り”の破壊

バグダッシュ中佐を用いた策謀と並行して、ヤン艦隊は”首飾り”の破壊を実行した。バーラト星系の第六惑星である氷の惑星シリューナガルから、容積1km³、質量10億tにおよぶ氷塊12個を切り出し、円筒型にした中心にハザード・ラム・ジェット・エンジンを設置し、”首飾り”を構成する12個の軍事衛星に対して送り出したのである。かのイオン・ファゼカス号にヒントを得た作戦であった。

ハイネセン地表に突入しないよう慎重に機動を計算されて送り出された氷塊は、星間物質を取り込むジェット・エンジンによって亜光速まで加速し、実効質量を極大化させた状態で12個の軍事衛星に突入した。むろん”首飾り”も、その質量と速度を危険因子として察知し迎撃を試みたが、レーザー砲の指向性の高さと攻撃を受けた氷の蒸発が威力を削いだうえ、そもそも氷塊が巨大にすぎ、効果的な破壊はかなわなかった。

ハイネセンを護る”処女神の首飾り”は、一個ものこさず瞬時に全滅した。12個の軍事衛星すべての破壊は、地表への降下の阻害要因を無くすことにくわえ、”首飾り”にたよるハードウェア信仰そのものの破壊をかねてもっとも効果的な方策をとった結果であるが、のちに第八次イゼルローン要塞攻防戦時の査問会においてヤン大将が糾弾される原因のひとつとなっている。

救国軍事会議の降伏

”首飾り”の全滅という事態は、計画どおり救国軍事会議の抗戦意欲をほとんど完全に挫折させた。グリーンヒル大将は敗北を認め、市民を人質にとって抗戦できるというエベンス大佐の意見を、これ以上の抵抗は無益であり、国家と国民の再統合に有害ですらある、として退けた。大将は最後に、同盟の救国を願って実施したクーデターが帝国の策謀の結果でしかなかった、という証拠と証人だけは抹消すべくリンチ少将を糾弾したが、撃ち合いとなったすえ逆に射殺されるにいたる。リンチ少将も直後に殺害された。

ヤン艦隊はすでに軌道上に展開して降下作戦を始めようとしていたが、エベンス大佐がリンチ少将の遺体と証拠の処分を指示したうえで指揮を引き継ぎ、”救国軍事会議議長代行”として全面降伏を表明する。彼はヤン大将に対してクーデターの正当性を訴えるとともに、グリーンヒル大将の死を”自殺”として伝え、彼自身、通信を終えた直後に死亡している。