根がなくとも花は咲くとは、「事実無根のことでも話題や評判になる」という意味のことわざ。
反対の意味となることわざに『火のない所に煙は立たぬ』があるが、そちらと比較して知名度があまりに低い。
切り花は根がなくとも花が咲くことから、「事実無根のことでも」話題や評判という花が咲くということわざ。
他にも同様のことわざに以下のようなものがある。
1人が「市場に虎がいますよ」と言っても信じない。2人が言っても信じない。しかし、3人が「市場に虎がいますよ」と言うと信じてしまうというもので、もちろんここで根拠はなにもない。3人が言った、それだけなのである。『戦国策・魏策』[1]に由来する故事であり、韓非子・内儲説上[2]にも同じ話がある。
人質として趙の邯鄲へ赴く魏の太子の付き添いとなった龐蔥(龐恭とも)は、出発の際に魏王にこの喩えを出し、讒言に耳を貸さぬようにと釘を刺しておいたのだが、後年帰国なった龐蔥は王へお目通りさせてもらえなかったという。讒言には勝てなかったよ…
『戦国策・秦策』[3]ではこの故事を踏まえた言い回しが載っている。
「三人成虎、十夫楺椎。眾抽所移、毋翼而飛 / 三人虎を成し、十夫椎をたわめ、衆口の移すところ翼毋くして飛ぶ」(「三人もいれば何もないところに虎は出てくるし、十人もいれば堅い椎の木をたわませることができる。人々の話が伝わる様は、羽がないのに飛んでいるようだ」[4][5])。
これも「市に虎あり」パターンであり、曾参は曾子とも言って孔子の弟子の一人で、非常に親孝行者だったことで知られている。そんな曾参について、1人が「曾参が人を殺しました」と曾参の母に伝えるも、「うちの子はそんなことする子じゃありません」と落ち着いて機を織りつづけていた。しかし、3人が同じことを言うと機織りの道具である杼を投げ捨ててたちまち垣根を飛び出していったという故事からくる。
これも『戦国策・秦策』[6]に記載されており、秦の武王の時代、左丞相の甘茂が自分の失脚を目論んで讒言が繰り返されていることに対して、この説話を元に武王に讒言を信じないように約束させたという。
同じ故事を元にした成句として「曾母投杼」や『史記・甘茂列伝』[7]での表現「三人疑之、其母懼焉 / 三人これを疑えば、その母も懼る」[8]がある。
いずれにしても、対となる『火のない所に煙は立たぬ』とはかなり知名度に開きがある。「言われているからには何かしらの良くないことがあるのだ」と悪く考えてしまいがちなのが人間という者なのかもしれない。
しかしそういった考えがデマの温床となることは結構あり、それは噂話のレベルにはとどまらない。
ウーズル効果とは、十分に裏付けられていなかったり証拠や根拠の存在しない情報が頻繁に引用されることにより「証拠たり得る事実である」と誤解されてしまう現象を指す。
ウーズルはA・A・ミルンの児童小説『クマのプーさん』の「プーとコブタが、狩りに出て、もうすこしでモモンガーをつかまえるお話」に由来する架空の動物で、石井桃子の翻訳した日本語版ではモモンガーと訳されている[9]。
雪の積もった朝、プーとコブタ(ピグレット)は自分自身の足あとををウーズル(モモンガー)のものだと思い込み、追跡しようとする。実は彼らは木の周りをぐるぐると回っており、進むにつれどんどんと増えていく足あとを見たプー達はだんだん怖じ気づきだすのだった…。
ウーズル効果は別名「引用による証拠(evidence by citation)」と呼ばれるように出版物や学術的文書にスポットを当てた名称であり、なおかつ先述のあらすじから分かるように循環報告[10]とイメージが重なっている。これもまた三人虎を成すのバリエーションのひとつだと言えるだろう。ちなみにウィキペディアの「ウーズル効果」の記事で中国語版の記事へのリンクは「三人成虎」の記事タイトルに飛ぶようになっている。
これも同種の慣用表現であり、誤ってナチス・ドイツの宣伝大臣であったヨーゼフ・ゲッベルスが言ったと勘違いされることが多い言葉でもある。 「嘘も百回言えば~」の記事にも書かれている通り、この誤解自体が「市に虎あり」のケースに該当してしまっているのは興味深い。しかし「火のない所に煙は立たぬ」という人間心理を利用して大衆を煽動するという手法はそこそこ一般的であり、ゲッベルスの言った台詞(実際には言っていない台詞)としてお似合いであったのは確かだろう。
実際、アメリカでも1950年代にモッキンバード作戦という偽情報を繰り返し報道して信じ込ませる情報操作をしていたということもわかっている (現在は禁止されているが、陰謀論者は2020年代でも行なわれていると信じている) 。
こうしたことへの警鐘として「根がなくとも花は咲くとも言いますし……」と使う人がいてもいいはずだが、大概は「火のない所に煙を立てる者もいる」とされてしまい、こちらのことわざがあんまり使われるところを見ない。
兵庫県丹波市の大杉ダムの近くにある「ダム下公園」で根と幹が水道管工事のために途中で切断された『根なしフジ』が5月になると満開になるという、このことわざを体現したような現象があったりする。どうやら根のある他のフジから栄養を分けてもらっているようだ。
丹波市民からは『奇跡のフジ』と愛され、グラウンドゴルフが上達するとして拝まれているとか。








掲示板
4 ななしのよっしん
2024/06/03(月) 00:23:46 ID: cUUPL7g98+
朝ドラの「とと姉ちゃん」の中で『火のない所に煙は立たぬ』と主張する記者への主人公の反論として用いられてたな
5 ななしのよっしん
2024/06/03(月) 11:35:18 ID: 3KyekNq3+k
>>2-3について対応ありがとうございます。
6 ななしのよっしん
2025/02/09(日) 00:48:53 ID: FNgDFXLPYG
直接は関係ないけど、
仕掛け人に何か一点を見つめさせて、何人がそれに反応するかを調べる
という実験で、
三人以上が同じとこを見ていると反応する人数が明らかに増える
って結果が出たことがあるから、「三人」っていうのが人に反応を促す一種の閾値なんだと思う
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最終更新:2025/12/07(日) 06:00
最終更新:2025/12/07(日) 06:00
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