賢いのはクラブとは、クラブが賢いということである。
賢いのはクラブとは、要するに『ひみつのアイプリ』のダークカルテットスターのキャラクターソング、「ニュースタージョーカー」のAメロの歌詞である。
簡単にこの個所を説明する。まず『ひみつのアイプリ』の敵キャラクターであるダークカルテットスターは、各人のベースとなった本来のカルテットスターと同様、4人それぞれがトランプのスートモチーフである。このため、このAメロで各キャラクターが自身のスートにちなんだ歌詞を歌うわけだ。
それが以下である。
| キャラクター | スート | 内容 |
|---|---|---|
| ダークサクラ | ハート |
|
| ダークタマキ | スペード |
|
| ダークアイリ | ダイヤ |
|
| ダークリンリン | クラブ |
|
ダークサクラ、ダークタマキ、ダークアイリは自分のスートの見た目・形の持つ性質などにちなんだ歌詞を歌ってきた。だが、それにも関わらず、ダークリンリンのクラブだけ急に「賢いのはクラブ」とのみ言われて済まされてしまった。
おまけに、このダークリンリン、およびオリジナルの四之宮リンリンというのは、知性派のデータキャラである。つまり、キャラクター自体が賢いポジションにあたる。
結果として、以後この賢いのはクラブという歌詞はネタにされることとなった。例えばリンリンが頭脳労働やひらめきを示す場面で、賢いのはクラブとはやし立てることが恒例となったのである
しかし、あまりにもネタにされたあまり、ある反論が散見されるようになった。トランプのスートでクラブは知識の象徴なので、この歌詞は合っているという主張である。確かに、日本語でネットで検索すると、クラブは知性のスートと紹介されることが多い[1]。
しかし、結論から言うとこれは、ごく一部で述べられている極小的な解釈が2010年代以降市民権を得ただけの可能性が高い。それには2段階あり、1つ目は戦後の「トランプ占い」ブームをきっかけに日本でのみ通用するローカルな解釈がほそぼそと語り継がれてきたというもの。2つ目は、その解釈がバズった結果ネットでひたすらコピペされたことで定着してしまったというものである。
本題に入るために、まず大前提について指摘しておきたい。そもそもいま日本で見かけるトランプのスートはあくまでもフランス式という点である。
簡単にトランプの歴史を追うと、イスラーム圏からヨーロッパに入ったトランプは、ドイツで形を変え、フランスでさらに簡略化された結果が今の日本のトランプである。よって、こうしてトランプが複数文化圏を渡り歩いた結果、トランプのスートというのは以下のバリエーションがあるのである。
| 地域 | クラブ | ハート | スペード | ダイヤ |
|---|---|---|---|---|
| イスラーム圏 | ポロ用スティック | 杯 | 剣 | 貨幣 |
| イタリア | こん棒 | 杯 | 剣 | 貨幣 |
| スペイン | こん棒 | 杯 | 剣 | 貨幣 |
| ポルトガル | こん棒 | 杯 | 剣 | 貨幣 |
| スイス | どんぐり | 盾 | バラ | 鈴 |
| ドイツ | どんぐり | ハート | 葉 | 鈴 |
| フランス | クラブ | ハート | スペード | ダイヤ |
上の表を見た結果、とある前提知識がある人には本論に対してある推測が働く。ラテンヨーロッパ圏のトランプとは、タロットの小アルカナとも言える。つまり、タロットの小アルカナにそういう解釈があるのではないかという疑問が出るのである。
確かに、黄金の夜明け団の影響などで、「小アルカナとフランス式トランプのスートは対応し得る」とみなす見解が、19世紀以降成立している。だが、近世以来のマルセイユ版にも、黄金の夜明け団などの影響が強い近代にできたもう一つの主流・ウェイト版にも、そんな意味はない。
まず、マルセイユ版の小アルカナは四大元素の意味付けを除くと数秘術的な傾向が強く、スート単位で何らかの象徴を示すという解釈はあり得ない。
ウェイト版も、ワンド(クラブ)の立ち位置は意思や行動であって、知性担当はソード(スペード)なのである。
つまり、2通りある伝統的なタロット占いにクラブ=知識という見方がない。あっても20世紀以降の新しい教えとみなせられる。よって、この仮説は簡単に放棄できるのである。
タロットの可能性が消えたことで、クラブ=知識という解釈が実在するかどうかを、トランプの側でしかできなくなった。では、トランプを使った同様の存在、トランプ占いはどうだという話になる。
ところが、そもそもトランプ占いは組織的体系化がほとんど行われておらず、19世紀以前はほぼ個々人の経験的な感覚でやっていた。つまり、近世以前にさかのぼる統一的な解釈などハナからないのである
だが、やがてイギリスなどのアングロサクソン系諸国では、ハート=感情、ダイヤ=富、クラブ=挑戦、スペード=困難というざっくりした区分けが、20世紀になるころからできてきた。20世紀初頭のシリル・アーサー・ピアソンが偽名「P.R.S. Foli」で書いた本などに、確かにこれっぽい記述も出てくる。
ただし、もう一度前の段落に戻ってほしい。クラブは知識や知性と言ったポジションでは全くない。近現代にふんわりできたトランプ占いのやや統一的な解釈に、クラブ=知識という見方がないのである。
長々と書いてきたが、結局結論としては20世紀前半にクラブ=知識という解釈が全くなかった。ここまで絞り込み出来ると20世紀後半が初出の可能性が高い。
ここから先は、戦後に出た50年代の久保清にはじまり、木星王とか黄泉とか70年代から増え、近年の鏡リュウジとかにいたるその辺の有象無象の本、少女漫画誌の記事、「ムー」辺りのオカルト誌をひたすら読むことになる。正直調査に時間がかかるので、賢いのはクラブの原因がかなり新しいを導けたので、いつまで遡れるかは一旦留保したい。
ここまでは過去から現在までを辿ったが、逆に現在から過去に遡る形で確実にどこまで遡れるかを見たい。手法としては、ネット検索のコマンドで、2025年時点でいつより前には確実にあったかを見ていく形になる(もうほぼほぼどのブログサービスも壊滅してるけど)。
まず、Google検索で範囲指定すると、2015年以前と指定するとタトゥーに関する解説で個人サイトが一つ、2016年以前とすると占い学校の解説でもう一つ加わるなど、せいぜい2つか3つくらいである。つまり、現在時点でののGoogle検索とは打って変わって検出できなくなる。よって、2010年代まではGoogle検索に残っていないような、影も形もない言説だったと思われる。
一方で、Xの場合は自動botのウソ雑学コピペ系が2013年頃から大量にクラブは知識の象徴と吐き出している。この情報の出どころは、元ポストはすでにないのだが、2013年1月5日に呟かれた次の投稿である。
便乗ですが、トランプに関するトリビアを一つ。スペードは死、ハートは愛、クラブは知識、ダイヤは富を表しているため、JQKはスペードからは顔を逸らし、ハートとダイヤには顔を向けている。知識に関心がないと思われる若者のJはクローバーからも顔を逸らしている。 #有益なことを呟こう
先ほどのGoogle検索の例と合わせると、ネットにおけるエポックメイキングがこのツイート(当時)のバズ(原文は既にないがカウント系のbotを見る限り3000以上ふぁぼられている)によるものと思われる。つまり、2013年に呟かれたこれがバズり、自動botなどでひたすらコピペされた結果、クラブ=知識が定着した可能性が高い[2]。
では、さらにこの情報の出どころはどこまで遡れるのか。ここで、Yahoo知恵袋に登場してもらう。Yahoo知恵袋で投稿を古いものから順に調べていくと、2011年1月5日以降、トランプのスートの解釈を聞く質問が散見されるようになる。そしてこの回答がまさに、このクラブ=知識なのである。
よって、Yahoo知恵袋から2010年末〜2011年初頭にクラブ=知識と一般人に刷り込む何らかのきっかけがあったのではないかという仮説が立てられる。
ここまで見てきた結論を述べよう。トランプ占いで誰が言い出したのか、そもそもトランプ占いに起源があるのかについては結局のところ全くわからない。しかし、賢いのはクラブというのは、2011年前後に何らかのきっかけがあって言われるようになり、2013年初頭にTwitter(当時)でバズった結果、日本に定着したガラパゴスなスートの解釈だと思われるのである
ここで、あえて発想の転換をしてみたい。トランプのクラブが、形としてはもはやこん棒、クラブとは到底見なし得ず、英語圏でも日本語圏でもクローバーとして扱われがちという観点である。クラブ=クローバーと考えて、賢いのはクローバー、と考えればなんらかの文化的背景が見いだせるのでは?という点からの検証も行いたい。
しかし、結論から言うと、クローバーにしたところで文化的背景は何もなかった。ただ、賢いの英語・クレバー(clever)とクローバー(clover)の音が近いため、気取った雰囲気を醸し出せるということで、若干の使用例があるようだ。
まず、辞書に載ってない。そこは大前提となる。そのうえで、用例としてはないかと英語のコーパスに複数当たってみる。
しかし、コーパスを検索した結果も、イギリス圏のBNCには全くヒットがなく、アメリカ圏のCOCAはclever cloverが1件、clover the cleverが2件ヒットする程度。文語の用例を調べられるツールであるコーパスに乗っていない時点で、文語としてはほとんど使われない組み合わせというのである。
一方で、固有名詞としてなら、若干の用例がある。Clever Cloverを名乗る団体は複数あり、ミシガン州にClever Cloverというブティックがあるなど、店の名前もちらほら見つかる。さらに言えば、マイリトルポニーのオタクにはClover the Cleverの一例を挙げれば済んでしまうだろう。
というか、日本にもアイドルマスター ミリオンライブ!にスートモチーフのCLEVER CLOVERというユニットがいる。この一言で、まあ言葉遊びとしてなら日本人でも思いつくレベルとできてしまう。
しかし、結局のところクローバーを賢いとする解釈も、イディオム、コロケーション、スラング、ミームとなるほどのものではなかった。主にアメリカに限定して、たまに使われる固有名詞の範囲を出ないようだ。
わかりません。クラブが賢くても賢くなくても、賢いのはクラブという歌詞はこれから先もネタにされ続けるでしょう。
抜けがあったらごめんな…
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最終更新:2025/12/16(火) 11:00
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