90式戦車(きゅうまるしきせんしゃ)とは、日本陸上自衛隊(JSDGF)の主力戦車である。
概要
冷戦下、ソ連製戦車「T-80」に当時の主力戦車であった「74式戦車」で対抗するには性能不足であったため、「T-80」を上回る性能を持つ戦車として開発された。
戦車台数に差がある状況の中で、ソ連軍の繰り出すであろうスチームローラー=無停止前進(超越前進)攻撃の先頭にたつT-80をいかに食い止めるか。という命題に陸自が出した答えでもある。
第3世代型戦車としてはほぼ標準的な装備、120mm44口径滑腔砲と複合素材による装甲を備える。
また西側世界初の自動装填装置を備え、乗員3名で運用を可能としているが、現場の隊員達の中には乗員がそれまでの4名から3名に減員したため、各々搭乗員に対する負担…たとえば、履帯交換作業など人力を要する作業…が増大するという点も指摘されている。
特筆すべき点は以下の二つある。
一つ目は、その優れたFCS(射撃統制装置)が可能にした走行間射撃能力。
これは砲塔上面左側に設置されたYAGレーザー測距装置(円筒形のがそれ)、右側にある四角いパッシブ型赤外線画像装置から目標情報を、砲塔後部には横風・外気温を取得するセンサ、砲身の微小な歪みを検出するレーザーセンサなど数々の情報をFCSが処理する。このFCSは海外の軍事系評価サイトでは何らかの脅威計測・追尾能力をもつとされているが真偽のほどは明らかにされていない。
ただ下の動画を見るかぎりセットした目標に対して常に主砲を向けている様子などを見せていることがわかる。
FCSとすぐれた主砲スタビライザー(安定装置)によって可能になるのが行進間射撃、すなわち自車と目標が互いに移動している状況での射撃である。自分も 相手も移動しているのでその相対速度、距離は常に変動しており命中させることは難しい。
アメリカ・ヤキマ演習場では3kmという遠距離行進間射撃を初弾で命中させることに成功。演習最終日にはアメリカ軍関係者が詰め掛けたという。日本では総合火力演習などで公開される急停止直後の車体がまだ大きく揺れている最中にもかかわらず目標に向かって主砲を発射、命中するシーンなどでその能力を垣間見れることがあるだろう。
※補足 目標に対してずっと砲身向けてても走行中の起伏で多少ずれるし、本当に命中率いいの?と云う方に。 常に目標に対して砲を向けてはいるが、走行中のブレによって命中でないと判断した時は、砲手が砲撃しても発射されず、引き金を引かれた後、 最初に必中位置に砲身が来た瞬間にコンピューターが本当の発火を行います。
二つ目は、西側第3世代戦車でももっとも軽量な50tという重量とそのサイズである。
よく海外ではその形状からドイツ製戦車「レオパルド2」のコピーといわれることも多いが、前面投影面積は「レオパルド2」より一回り小さい。
これは、複合素材による複合装甲とコンパクトなエンジンが可能にしたもので、同一世代のアメリカ製戦車「M1A2」の62.1tやイギリス製戦車「チャレンジャー」の62.5tに比べると10t以上も軽量化されており、同じく複合装甲をもつ「レオパルド2」でさえ55tあり、さらにその改良型の「レオパルド2A5」では60tに達している。フランス製戦車「ルクレルク」にしても56tであることを考えると非常に小型・軽量化されたものといえる。追記すると、ロシア製戦車「T-80」で50t、中国製戦車「98式」で52tある。
開発時に公開されたという映像では、試作車両に対して「90式戦車」の120mm主砲弾を最大効果距離で前面に10発撃ち込んだものの貫通弾無しで走行に支障がない様子が映し出されているという点からも、装甲の防御能力において必要な能力を満たしていると思われる。
自動装填装置などを導入することで車体のコンパクト化を達成、なおかつ複合装甲により防御力の強化と車重軽減化を達成。すぐれたFCSと自動装填装置により命中率と主砲発射速度で仮想敵であったT-80を優越する・・・これが陸自の出した結論であった。
とはいうものの開発直後はレオパルド2そっくりの形状(必然とそうなるのは上述の通り)、従来の74式戦車からは驚くような調達金額(4億→10億!)や50トンという重量や、配備先が北海道の部隊を中心だったこともあり北海道以外使えないという俗説ということもあって評価は驚くほど低かった。俗説についてはFAQも参照してほしい。
こういうこともあり当時流行ったフィクション小説では「川底にある石で床に穴があいた」というネタが真剣に受け止められていた…頭の痛い笑える話ではあるが本当である。
評価が変わってきたのもヤキマ演習場で初めてその能力に触れた海外からの逆評価の一面が大きい。
実戦経験はないという但し書きがあるものの、アメリカ陸軍兵士向け本による戦車ランキングでは第3位(レオパルド2、M1A2の次)。軍事アナリスト系企業の評価でも再び第3位(M1A2SEP、メルカバの次)。という高い評価を得たことで国内でも90式戦車の再評価が行われた。
(自国内の評価が悪かったわりに海外からの評価を得ると一変して手の平をひっくり返すというなんというかありがちな展開ではあるのだが)
以上のように性能は世界各国から見てもトップクラスであると見られているものの、冷戦構造の終結など世界状況の変化のため、北海道に駐屯する師団に優先的に配備され、本州では富士教導団、第1教育隊といった教育・教導を目的とする部隊しか配備が行われていない。そのため数の上でも「74式戦車」のほうが未だ主力であるといえる。
ちなみに、陸上自衛隊は諸外国の戦訓や、より発展した複合素材による装甲技術などを踏まえ、C4Iシステムなどを搭載した新型戦車「10式戦車(TK-X)」を目下開発、導入予定である。
俗説について
- 50tという重さから北海道以外では使えない。橋も渡れない
- 50tという重さからよく言われていた話だがまったくもってそういうことはない。国内におけるトレーラーの最大積載量は50tであることを考えてみてほしい。50t+トレーラーの車重を考えると70t近い車両が通っても(一応は)問題がないのだ。まぁ法令上色々と制限があるのと実際そんな積載物が通れるルートは限られているのは確かでもあるのだが。
また後述するように国内で多く運用される40t積載が可能なトレーラーは車重を考えれば50tを軽々と超える。50tの90式戦車が走ったからといってあまり問題は生じないことは明らかである。
…確かにこんな重量物が通れるのは国内主要国道が基本となるが、トレーラーが路地を走れないからといってトレーラーが使えないというのは暴論に過ぎるだろうということも理解していただけないだろうか。
ちなみに2010年4月に公開された政府の資料によると、90式戦車で主要国道に架けられた橋のうち渡れるのは65%であるという。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shin-ampobouei2010/dai5/siryou1.pdf
橋では渡れない場合においても、(例によって数は少ないが)架橋車両で橋を渡せば済むし、戦車は少々の川ならば平気で渡れることを忘れているともいえるだろう。しかるべき準備(排煙装置などを延長するなど)を施せば車体全部が川の中に入っても渡河することは可能なのだ。 - 無論、橋梁や地形、道路の構造などで50tの車両が通行できない場所もあるし、戦車の運用に支障が発生する場所も存在するが、そうであればそれは仮想敵が上陸したとしても戦車が使えない場所となりえる。
以上の点を踏まえると、せいぜい国内運用に一部の制限がある。という程度であるともいえるのでないだろうか。
ちなみに国内でも海外でも戦車はよほどの場合を除き、移動する場合は船やトランスポーターと呼ばれる大型トレーラーで移動するのが相場である(北海道の第7師団が駐屯する東千歳市街地は路面をアスファルトではなくコンクリート舗装にしている道路があり、駐屯地から訓練地まで自走して移動するケースもあるほか、第5旅団が履帯(キャタピラ)にゴムをはめて普通の国道を走ったケースもある)。
自衛隊でも「90式戦車」の移送には特大型運搬車というトレーラーに乗せて移動することになっている。ただしこれまた数が少ないのも事実で移動の制限がある一つの理由となっているのだが。ちなみに法令上、移動する時間も制限されるほか、別の車両による先導など様々な制限もあるとか。
ちなみに「74式戦車」などの移送に使用される最大積載量40tの73式特大型セミトレーラー(民間トレーラーもこのサイズが多い)で「90式戦車」を移送する際は、砲塔と車体を分離すれば移動が可能であり、「90式戦車」はこの分離が容易であるといわれていることも書いておきたい。- 車両一両あたりの価格が非常に高いため配備数が少ない
- 配備当初の価格は11億。ちなみに今は量産効果などもあって平成19年度予算では1両あたり8億程度(Wikipediaより)。これを高いと読むか低いと読むかは海外の戦車1両あたりの調達費用を見てみるといい。
「チャレンジャー2」や「ルクレルク」は10億。「レオパルド2」はドイツ国内で7億、海外輸出向けは10億。「M1A2」はアメリカ国内で7億、サウジアラビア輸出向けで10億以上の足元を見られたようなボッタクリ価格といわれている。さらに「M1A2SEP」については改造にあたって5億以上が必要とされるほか、一部の軍事評論家が言うように安易に海外の車両を調達したとしても価格上のメリットは生じないし、また前述したサイズと重量の問題があることを忘れてはいけない。 - 配備されてから一度も改良を受けていない
- これも一部正確であり一部不正確である。「90式戦車」が配備されたのは西側第3世代戦車でも後発で、90年代に配備がスタートしている。「90式戦車」「ルクレルク」以前は80年代配備で、その段階で10年近い差が生じていることを忘れてはいけないだろう。
ただ、「90式戦車」が前述したようにサイズが小さいために新たな装備を付け加えるだけのスペースも、すべてを入れ替えるだけの予算も費やしたとしてもそのメリットが少ないと考えることもできるだろう。
アメリカでは「M1A2」の改良型である「M1A2SEP」へと改装するにあたって、元車両に対して5~6億程度の改造費を必要とすることを考えると、「90式戦車」を改良する予算を割くより、配備数で主力的位置にある「74式戦車」の代替である「10式戦車」を開発したほうが(国内戦車開発技術の維持や発展のためにも)良いと防衛省が判断したとも考えられる。またその背後には前述したトランスポーターなどの戦車運用のための周辺車両を更新しなくても良いという利点があるのも理解してほしい。 - 日本で戦車は不要じゃないか。そもそも国内で戦車が必要になる状況というのは…
- よく見受けられる意見だが重要な点が抜けている。
万が一日本に敵対する勢力が占領などを目的とした場合、濃密な海・空の防御を突破してなお、すくなくとも「90式戦車」より同等、あるいはそれ以上の性能を持つ戦車を「90式戦車」と同数、あるいはそれ以上上陸させないと「90式戦車」の餌食になってしまうだろう。
つまり、それだけ相手に対して上陸に要する負担、「90式戦車」を越える戦車開発や対抗装備、実際に戦車を運搬する船舶などの準備、ひいてはそれを日本に上陸させるための海・空の装備の準備を強いているということを忘れないでほしい。これが防衛としての陸上兵力の意義の一つ、抑止力効果でもある。
つまるところ「90式戦車」とは敵に回すと厄介で、味方にいると頼もしく、ただそこにいるだけでも日本に敵対する勢力にとっては疎ましい存在であるともいえるだろう。
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http://dic.nicomoba.jp/k/a/90%E5%BC%8F%E6%88%A6%E8%BB%8A


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読み:キュウマルシキセンシャ
初版作成日: 09/01/24 23:56 ◆ 最終更新日: 12/02/25 20:23
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