スティーブン・ホーキング(Stephen Hawking)はイギリスの理論物理学者である。
概要
宇宙論の研究者として、特異点定理やブラックホールの蒸発などの研究で有名。『ホーキング、宇宙を語る』をはじめとする啓蒙書の執筆で一般にも知名度が高い。
1942年1月8日、イギリスのオクスフォードに生まれる。ちなみにガリレオ・ガリレイの死後ちょうど300年である。
オクスフォード大学を卒業し、ケンブリッジ大学大学院の博士課程に進学。大学院に入って間もなく筋萎縮性側索硬化症の診断を受け、あと数年の命と宣告される。病気の宣告を受けて無気力に陥り、研究をせずに、ワーグナーを聴いたり、SF小説を読みふけったり、アルコールに溺れたりと自堕落な生活を送る。しかしこの頃に最初の妻ジェーンと出会い、病状も安定し始めたこともあり、研究に復帰する。1967年にジェーンと結婚し、三子をもうける。
病気の進行により1970年代のはじめには車椅子での生活となるも、研究では重要な成果を次々と挙げ、1974年、史上最年少で王立協会の会員に選ばれる。1979年にはニュートンがつとめたことで有名なケンブリッジ大学のルーカス教授職に就任する。
筋萎縮性側索硬化症は発症から5年程度で死に至るとされており、ホーキングは例外的な事例といえる。
賭け事が好きで、はくちょう座X-1がブラックホールか否か、ヒッグス粒子が発見されるか、などで賭けたこともある。ホーキングは常に自分の予想と逆に賭けるので、たいてい負けている。
2012年ロンドンパラリンピックの開会式に登場しスピーチを行った。
2014年、「モンティ・パイソン 復活ライブ!」にて、宇宙の壮大さを歌う「Galaxy Song」の後に物理学者のブライアン・コックスが映像にて登場。歌詞のでたらめさをもっともらしく解説している背後からホーキングが電動車椅子で爆走、コックスを跳ねると「学者ぶるな小僧」と言い捨てて、宇宙へと飛び立つと「Galaxy Song」を電子音声で歌った。映像終了後、客席で観覧している姿がスクリーンに映されると、観衆はスタンディングオベーションで喝采した。
その後ホーキングverの「Galaxy Song」が2015年4月よりiTunesで配信されている。
2018年3月14日、アルベルト・アインシュタインの誕生日(139年目)に76歳でこの宇宙を去った。
主な業績
宇宙を大局的に支配する重力を扱う理論である「一般相対性理論」とミクロなスケールにおける物質やエネルギーの振る舞いを記述する「量子力学」。我々の宇宙がどのようにして誕生し、どのような運命をたどるのかを知るにはこの両方を研究しなければならないが、両者はある意味で水と油のような関係で統合は困難を極めた。この難題に先陣を切って取り組んだ一人がホーキングである。
特異点定理
数学者のロジャー・ペンローズと共同で1965年から取り組んだ問題。宇宙全体をアインシュタインの一般相対性理論で説明しようとすると、必ずどこかにそれが破綻してしまう「特異点(シンギュラリティ)」が存在することを証明した。これによって一般相対性理論を否定した訳ではないが、同理論が宇宙の全てを説明できる万能理論でないことは確定した。
特異点のイメージは、密度が無限大で時空が限りなくひん曲がってしまった点である。こいつが宇宙にむき出しのまま存在していたらその周りでは物理的に「何でもあり」になってしまうので、できれば避けて考えたい。
一番発生しそうな場所は、恒星の重力崩壊によって生じるブラックホールだ。理論上全てのブラックホールの中心は特異点になってしまう。そして特異点を連れたブラックホールは宇宙の至るところにいやがるのでこのままでは宇宙ヤバイという話だが、ブラックホールの場合は特異点の周りを「これ以上近づいた物質は二度と出てこられませんよ」という事象の地平面が包んでいて逆ATフィールドのような役割を果たしているので、一応セーフということにした。
それでも「裸の特異点」が存在していると考える物理学者もいた。「事象の地平面が検閲してるから大丈夫」という立場のホーキングは、裸の特異点論者の一人キップ・ソーンと賭けをした。当然、これはフラグである。その後コンピュータシミュレーションによって、事象の地平面に覆われていない特異点が存在しうることが証明された。
虚数時間と無境界仮説
ホーキングが特異点定理を証明したころは、ちょうどビッグバン理論の正しさが認められようとしていた時期でもある。もし宇宙が膨張し続けているのだとしたら、誕生の瞬間まで遡ると無限小の点になってしまう。これは要するに特異点である。
何とか特異点を避けたいホーキングが導入した裏技が「虚数時間」という概念だ。実数時間と空間で考えるから宇宙に境界を設け、「始まりに特異点があった」と考えなければならないのである。ならば我々が知る「時間」と「空間」という概念の壁を取り払ってしまい、「虚数時間」がぐるぐる回っていたと考えれば丸く収まるのではないか、ということらしい。
この理論は物理学者のジェームス・ハートルと共同で研究して1983年に発表したのでハートル=ホーキングの境界条件または無境界仮説と呼ばれる。
ブラックホールは蒸発する
ブラックホールは近づいた物質を必ず吸い込むので、永遠に成長を続けるかのように思える。ところがそんなことはない、仮に外部からの供給がシャットアウトされていたら、出て行くモノもあるので長い時間をかければブラックホールは蒸発してしまうぞとホーキングは主張した。
これには色々な説明の仕方があるが、代表的なのは以下のとおり。
量子力学によれば、真空は絶えずゆらいでいるので、一定の確率で何も無かったところから物質と反物質のペアが誕生することがある。これはブラックホールの事象の地平面近くでも起こる。物質と反物質のペアは誕生直後に再びくっついて対消滅することもあるが、どちらかががブラックホールに飲み込まれてもう片方は外に逃げおおせることもあり得る。結果的にブラックホールはその分のエネルギーを失ってしまう。
この効果はホーキングが初めて計算して1974年に発表したので「ホーキング放射」という。ホーキング放射によって太陽と同じ質量のブラックホールが蒸発するまでにかかる時間は(パラメータの選び方などにもよるが)約2千不可思議(2×1067)年と見積もられる。途方もない時間ではあるが、ブラックホールとて命は永遠ではないのだ。
関連動画
2:55あたりから登場。
関連項目
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