MLRS(Multiple launch rocket system:多連装ロケットシステム)とは、アメリカが開発した砲兵ロケットランチャーである。
概要
冷戦期、東側の優勢な機械化戦力を制圧するために開発された長射程砲兵ロケット・システムの一種。アメリカ以外ではドイツなどのNATO諸国、日本や韓国などでも運用されている。
ロケットは通常の砲兵に比べて精度に劣るため、多連装化して広い地域を制圧するための兵器として発展してきたが(WW2における”カチューシャ”や”ネーベルヴェルファー”等が著名である)、MLRSはその極致とも言える兵器である。クラスター弾頭を搭載した227ミリロケットは目標上空で数百発の子弾をばら撒き、100×200メートルほどの範囲の非装甲目標を一度に制圧する。
このようなMLRSの一斉射撃による制圧は湾岸戦争において実際に行われ、イラク側は「鋼鉄の雨(スチール・レイン)」と呼んで大変恐れた。
しかし21世紀に入る頃には、クラスター弾頭の不発弾による付随被害が国際的に問題視されるようになり、オスロ・プロセスなどの枠組みで規制されるようになった。日本でもクラスター弾を全廃することを決定しており、自衛隊のMLRSが使用する旧型ロケット弾頭は廃棄することが決定されている。
システム[1]
SPLL(自走ローダー/ランチャー)は車体部分はFMC社によって生産されている。駆動・走行装置の大部分はM2/3ブラッドレーのコンポーネントを流用している。乗員は操縦手、射撃手、車長の3名で射撃は3名が乗車したままで可能。
SPLLの後部にボート社が製造したLLM(ランチ/ローダー・モジュール)が設置されており、2個のLP/C(ランチポッド/コンテナ)が装填されている。LP/Cは軽合金構造で6本のロケット内蔵ランチャー/コンテナをまとめている。
再装填はLLM内のフレームを前進させ、フレームに付属しているホイストを使ってLP/Cを交換するだけで完了する。(装填作業自体は3名で行えるが、予備のLP/Cの輸送は当然別の兵員が必要である)再装填に要する時間は3分で、斉射の間隔は8分。個々のロケットは4.5秒間隔で発射される。
HIMARS
HIMARS(ハイマース High Mobility Artilleery Rocket System)はMLRSのシステムを装軌車両から装輪車両に変え、発射機も12発(コンテナ×2)から6発(コンテナ×1)に変更した。戦闘重量が15.9tなのでC-130で輸送が行える。1両の単価は348万ドル。[2]
使用するロケット弾
※アメリカはオスロ条約(クラスター爆弾禁止条約)には参加していないものの、クラスター弾型は既に生産していない。
GMLRS(Guided Multiple Launch Rocket System)
GPSとINSを併用する精密誘導ロケットで、射程は70kmを超える。
- M30 …クラスター弾型。404個のM101子弾を収納しており、広域制圧に使用する。
- M30A1 …クラスター弾の代わりにタングステンの破片をばら撒くことで広域を制圧する。※クラスター弾と違い、不発弾が発生しない。
- M31 …2006年より運用。重量296kg、単一弾頭型で、弾頭重量は91kg、射程は15~70km。CEPは5~10mを実現している。単価は9.5万ドル。
MGM-140 ATACMS[3]
- ブロックⅠ …1991年に初配備された。重量1.7t、全長4m、直径61cmの一段式の固体燃料ロケットで、弾頭には950個のM74子弾を搭載し、慣性誘導で25~165kmの射程がある。
- ブロックⅠA …1997年に実用化され、子弾を300個に減らして軽量化するとともにGPS/INS誘導により70~300kmの有効射程を実現した。
- M48 …2001年から配備され、子弾を使わないユニタリー(単一弾頭)型になり、以降製造されるミサイルはすべて単一弾頭になった。
- M57 …2004年配備。目標に対して垂直に落下直撃する仕様。2016年配備のM57改良型では近接センサー搭載で9m以下のCEPを実現していると言われる。
PrSM(Precisition Strike Missile)
ATACMSの後継としてアメリカ陸軍が開発している新型ミサイルで、最大射程は500km。HIMARSなら2発、MLRSは4発搭載できる。導入は2023年を目指している。[4]
その他
- 日本では平成3~7年度の中期防衛力整備計画(1990年12月閣議決定)で、130mm自走多連装ロケットの後継として導入が決定した。(130mm自走多連装ロケットは単弾頭のロケットを30発連射できるが、射程距離は155mm榴弾砲より短い14.5kmだった)。[5]平成4年度(1992)から調達に着手、平成6年度(1994)から18年度(2006)にかけて約100両を調達した。[6]
- GLSDB(Ground-Launched Small Diameter Bombs) - MLRSで使用されているM26ロケットに航空機搭載型精密誘導爆弾であるSDB(Small Diameter Bomb)を組み合わせたもので、射程は150kmにもなる。
2024年2月にウクライナの戦場で使用され始めたのではないかと報道されている。[7]
関連動画
↓市街地におけるGMLRSによる支援砲撃の例。戦車砲や機関砲では届かない角度にいるスナイパーを、GPS誘導による支援砲撃で建物ごと排除している。
関連コミュニティ
関連項目・外部リンク
脚注
- *「MLRS多連装ロケットシステム」吉田 直也 PANZER 1985年12月号
- *「2010年代の海兵隊砲兵&射程70kmの狙撃ライフル」軍事研究2012年12月号
- *「海外派遣されるミサイル砲兵旅団:THAADとMLRS」軍事研究 2017年6月号
- *アメリカ陸軍の次世代地対地ミサイルPrSM 3回目の試射に成功2020.5.3
- *クラスター弾の軍事的有用性と問題点 国立国会図書館 福田毅 2007
- *ソ連やゴジラを相手にしてきた多連装ロケットシステム 次の相手は、やっぱりあの国? 2017.3
- *ウクライナ軍、待望の新型ロケット弾GLSDBを使い始める 米供与の新兵器 2024.2.16
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