『ステラエアサービス』とは、有馬桓次郎による小説作品である。
真っ赤な軽飛行機“ステラ”に荷物を載せて、広い空を飛び回る女子高生パイロットと姉妹たちの物語。
もとは作者・有馬桓次郎が「軽飛行機で配達人をしている女の子」という着想から構想した作品。有馬の同人サークル「スタジオゴンドワナ」よりさかきいまさと作画で上梓された同人漫画版と並行して小説作品として執筆され、WEB小説サイト「カクヨム」に掲載された。
その後、第3回カクヨムWEB小説コンテスト最終選考進出、電撃《新文芸》スタートアップコンテスト最終選考進出を経て、大幅な改稿を加えたうえで『ステラエアサービス 曙光行路』としてKADOKAWA/電撃の新文芸より刊行され、有馬の商業小説デビュー作となった。以降、シリーズ化に至っている。
歴史の小さなかけちがいから、商業航空輸送がきわめて重視されるようになった現代日本。舞台は山梨県、連なる南アルプスのふもとの小さな県営空港、玉幡飛行場。
“甲斐賊”とよばれる空飛ぶ荒くれ運送屋たちの本拠地であるこの飛行場で、新設の航空運送会社「ステラエアサービス」唯一の専属パイロットとなった現役女子高生・天羽夏海は、姉・美春と妹・秋穂のサポートのもと、祖父・冬次郎と幼馴染・名取陸生の叱咤と整備を受け、緋色に塗られた亡き父の愛機・三式連絡機“ステラ”を駆って、今日も甲州の空へと飛びたってゆく。
――いつの日か、父が至った南極の空を飛ぶ、その時を目指して。
1921年の航空法制定時から、自家用13歳以上、事業用16歳以上という極端に若い航空機操縦資格が認められていた[1]日本は、無数の島嶼からなる国内の交通のために航空産業の育成を推し進め、飛行機は太平洋戦争後に至っても鉄道、船舶、自動車とならぶ身近な交通手段でありつづけた。
その太平洋戦争最末期、とくに9月15日の終戦に至る直前1ヶ月のすさまじい本土空襲によって、首都圏は外部と接続するあらゆる陸上交通路を失い、沿岸を機雷に閉ざされて孤立する。終戦後、いまだ外部との交通が復旧しない首都圏の人々が飢餓に苦しむなかで、ならず者同然の復員パイロットたちが陸海軍の放出機を手に入れて山梨の玉幡飛行場に集まり、空からヤミ食料を輸送して東京の人々を救った。人々は、救い主たる彼らを“甲斐賊”と呼んで親しんだ。
やがて首都圏への交通路が復旧すると多くのパイロットは日本各地へと去っていったが、残った“甲斐賊”たちは玉幡を小口航空輸送専門の飛行基地に仕立てあげた。そして現代に至るまで玉幡は、古く小さな機材を駆って空から物を運ぶ、荒くれ者ぞろいの空輸業者たちの拠点でありつづけているのである。
※記述は書籍版にもとづく。
天羽三姉妹の次女。県立甲斐杜高校に通う女子高生にして飛行士。
亡き父が南極で撮った記念写真を見て空に憧れ、一夜漬けと山勘、気合と勝負運で資格試験を乗り越え、学業のあいだを縫う飛行訓練の末に事業用操縦士となった女子高生。いつもお気楽な楽観主義者で、操縦には天性の才能があるが大雑把で猪突猛進なところが欠点。
夏海の姉で三姉妹の長女。柔らかい物腰と美貌で知られ、熱狂的なファンが多数いる。
父の死後、妹の夢のために航空運送会社「ステラエアサービス」を立ち上げ、社長として夏海の飛行をサポートする。幼い頃は父とともに世界中の空を巡り、起業前にはアナログきわまる玉幡飛行業組合の事務職員として手腕をふるっていた。商才にも長け、意外と現金。
夏海の妹で三姉妹の三女。市立釜無中学校に通う女子中学生。
引き籠もり体質で毒舌家、内向的な眼鏡っ娘。怜悧明敏にして高い洞察力を持ち、夏海の飛行を地上からサポートする。得意科目は地理で、地図帳から航路図まであらゆる地図を読み込み、地形から風向風速まですべて脳内でシミュレートするのが隠れた趣味。
天羽三姉妹の祖父。玉幡飛行業組合の特別顧問で、「冬ジイ」として親しまれている。
かつてはビルマ戦線で鳴らした陸軍の航空整備兵であり、捕虜収容所を経て復員後、手に入れた三式連絡機で玉幡を拠点とするヤミ食料の運び屋に転じ、“甲斐賊”を頭目として率いた玉幡の始祖。息子の芳朗に機材を譲ってからも、老いてなお盛んな玉幡の名物整備士である。
夏海の幼馴染。県立甲斐杜高校に通う男子高校生。
冬次郎に弟子入りして整備の腕をみがいている見習い航空整備士で、未熟で生意気だが根気があり、冬次郎からは怒鳴りつけられつつも直弟子として気に入られている。美春を女神とあがめ惚れ込んでおり、「天羽美春親衛隊」の栄えある001番でもある。
県営玉幡飛行場の管制塔にときおり現れる若い女性管制官。
“甲州ウィッチ”とは、甲府盆地の地形と気流、飛び交う無数の機材に通暁し、どれほど厳しい天候、あるいはラッシュアワーでも完璧な誘導で航空機をみちびく、彼女の神業級の管制技倆に奉られた通称である。その正体が中学生の秋穂であることは管制塔の外には隠し通されている。
夏海たち三姉妹の父親で冬次郎のひとり息子。10年ほど前に死去している。
かつては父から受け継いだステラに乗り組んで甲斐賊たちのリーダーとして活躍し、娘の美春とともに世界中の空をかけめぐっていた。なお、三姉妹の母親は生前に家を出ていた様子である。
山梨県・甲府盆地に位置し、年間発着回数10万回を誇る甲信最大の航空輸送基地にして、関東地方の物流の一大拠点が山梨県営玉幡飛行場である。旅客線は存在しない純然たる貨物飛行場で、税関と救難飛行隊をのぞく全てを自営空輸業者の協同組合である「玉幡飛行業組合」が管理している。
釜無川沿いに南北に伸びる1500mの滑走路を持ち、敷地は各業者が保有する無数の格納庫や事務所、各種の飛行機やスクラップで埋め尽くされている。こぢんまりとしたターミナルビルにある管制塔からは、飛行場周囲半径30km・高度5000m以下の空域を通称「玉幡管制区」として“甲斐賊”の小型プロペラ機がひしめく飛行場周辺を管制している。
この玉幡飛行場に集う中小の自営空輸業者こそ、“甲斐賊”の名で総称される無頼のパイロットたちであり、使用機材もC-46“テンマ”のような古い輸送機どころか二式複戦だの四式重爆撃機だのといった大戦機ばかりと玉石混淆の旧型レシプロ機ぞろい。その多くは冬次郎の整備技術に託されている。
飛行場設備は全体的にボロく、しかも“甲斐賊”どもの気分と悪ノリのもとファジーに管理されており、長くもない滑走路には不必要どころか無意味な軍用大型ジェット機対応の耐熱特殊アスファルト舗装を採用しているなどアバウトでちぐはぐ。しかも利用者は当然そんな大雑把で無茶苦茶な“甲斐賊”しかいないとあって、彼らが誇る高い操縦技倆と矜持と義理人情が保たせているような飛行場である。
日本国際航空工業・陸軍三式連絡機。連合軍識別コードはStella。羽布張りの単葉機で、きわめて低い失速速度が特徴の軽快な小型飛行機。
もとは陸軍が終戦後、民間に放出したものであり、天羽冬次郎が玉幡飛行場からヤミ食料を運ぶために手に入れた機材。その当時、無頼漢ばかりの“甲斐賊”をまとめあげる旗頭として「赤備え」よろしく真っ赤に塗られ、玉幡のカナメとして自営空輸業者たちに知られていた。
のちに芳朗が受け継いで愛機とし、その死後は玉幡飛行業組合の格納庫の隅で埃をかぶっていたが、夏海の事業用操縦士デビューにあわせ、冬次郎の手によってレストアされ、真っ赤な塗装も塗り直された。三倍の速度は出ない。
先述の通り舞台は山梨県であるが、玉幡飛行場もかつて同名で実在した飛行場をモデルとしている。1933年に開設され、その後隣接された競馬場を買収し拡張され、太平洋戦争の時は陸軍に接収され山梨県の防空拠点となっていた(但し、戦争末期は飛ばせる飛行機がなく、甲府空襲ではまったく役に立たなかった)。終戦後飛行場は閉鎖され、現在は山梨県立農林高等学校や山梨県警察学校、釜無工業団地になっている。
(WEB版第一章のみ暫定公開中)
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最終更新:2025/12/12(金) 01:00
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