絶対フォント感とは、活字・書体として打ち込まれた文字列を見て、それが何のフォント・書体であるかを見分け、言い当てられる能力である。
明朝体、ゴシック体、筆書体、etc……人間の言葉を平面上に表現する文字、これを装飾した「書体」には非常に多くの種類が存在する。デジタルフォントだけでも非常に数多あり、これにDTP以前の写真植字、活版印刷、レタリングを含めると可能性は果てしない。
「絶対フォント感」とはこれらを一見して感覚で何の書体なのか概算・特定することが出来る能力のことであり、聴こえた音から音階や和音などを特定できる「絶対音感」になぞらえてこう呼ばれるようになった。似たような概念には、声優の声を聞き分けられるという「ダメ絶対音感」などが知られていることだろう。
「絶対フォン感」と呼ばれることもあるが、広く定着しているのは微妙に語呂の悪いフォント感の方である。
某フォントが使用されている ニコニコ大百科のロゴ |
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例えば、ニコニコ大百科(仮)のロゴに使われているフォントは何であろうか?という問いに対し、フォント名を答えることが出来るだろうか。
こうした問題に答えることができるのは、おそらく動画師やデザイナーなどフォントを多く使うような人物に多いと思われるが、この回答能力のことを絶対フォント感と言うのである。熟達したこの感覚の持ち主は、少しの文字数を見ただけでそれが何の書体であるかを当てることが出来る場合まである。
単語未登場ながら現代においてこの感覚をいち早く取り上げたウェブメディアがデイリーポータルZである。2005年に公開された有名な記事「フォントのわかる男」で、DTP(コンピュータを用いた出版の職種)に携わる人物らが街歩きをして利きフォントをする様子が特集され今日まで公開されているのだが、残念ながら彼らは間違えまくっている。例えば道路案内板の書体は「じゅん」や「スーラ-DB」ではなく「ナール-D」で、中吊り広告の書体は「リュウミン-R」でも「マティス-DB」でもなく「Ro本明朝新がな-M」であるし、安全第一の書体も「新ゴ」ではなく「ゴナ」である。このように、プロの職にあってもこんがらがるような分野なのである。
和文書体は仮名に個性が出やすいので比較的当てやすいが、漢字のみでは違いのわからないフォントも多く、見本帳を持っていても正しく見分けられるとは限らない。場合によっては仮名も酷似した非常に怪しげなフォントもあるため非常に注意が必要となる。稀に、そうした書体も字間や僅かなアウトラインの変化で見分けたりする人物もいるが、それこそ相当なフォント感の持ち主であろう。
さて、この単語自体が登場した時期は定かでないが、Twitter上では音MAD作者chas氏の2009年5月に投稿したツイートが2023年現在に確認できる最古のものである。2014年にはすど氏のツイートが大きく話題となり、2015年からはデザイン雑誌「MdN」で3部にわたってこの単語で特集が組まれ、Cygamesからクイズアプリがリリース。2017年に読み上げられたフォントの札を取るかるたが発売、2020年には日本におけるタイプファウンドリー最大手であるモリサワの公認漫画「フォント男子!」に名前が登場するなど、色々なメディアが取り上げることで徐々に知名度を上げていき、公然の用語として地位を確立していったものである。
一目でフォントを見分けられる能力を絶対フォント感と定義するのに対し、複数のフォントを比較することによって特定までは行かなくとも違いを感じ取り区別できることを相対フォント感という。この定義に従うと先述したすど氏のツイートやCygamesのアプリにおいて言及された「異なる書体が混じっていると気づく」行為は相対フォント感に分類されるものと言えよう。
2020年に更新された、モリサワ公認漫画「フォント男子!」では次のように定義されている。
これによって、違いはわかるが特に名前を言い当てることができない場合は明確に相対フォント感に定義されているものと考えられる。
……などといった亜種的な技能の存在もあり、絶対フォント感は一枚岩でない。「これはより雰囲気が緩い」「これはデザイン系」などと、系統や傾向を理解して雰囲気やジャンル名に分類できる大まかなフォント感の存在も知られ、これも相対フォント感に分類しようという意見がある。
広義的にはいずれも絶対フォント感として捉えられる。そもそもがよくわからない専門的な能力であり、どちらで定義しても何ら社会的問題はないことだろう。先述した記事にあったように、プロのDTPオペレーターでも特定能力はあやふやな人が全然いるし、それで何ら実用上問題はない。書体をいかに系統づけ、どの場面にどの書体が合うかを審美できさえすれば、全然それで良いのだ。
以上で述べたように、絶対フォント感がなくて困ることなどはないが、「このフォントが可愛く使ってみたいが何のフォントか分からない」などといった時、ある程度フォントを覚えておくとそれを特定できたり、あるいは似たフォントを思い出して代替する、などといったことが可能になってくるので何かと便利である。
これを習得する際、何の取っ掛かりもなく字形とそれの書体名を暗記しようというのは至難を極めるので、段階を踏むべきだ。まずは相対フォント感に親しみ、徐々に目利きできるようにしていくのがベターだろう。
とりあえずは、見かけた文字を「これは明朝体で、これは教科書体で、こっちがゴシック体、これはデザイン書体に分類される」などと、大まかに分類系統できるようになるのがスタートラインである。「かわいい感じ」とか、感覚的な記憶でもよい。
それから、発見した文字と書体見本を往復して書体の名前を知っていく。フリーフォントを探す場合はフリーフォントの紹介サイトなどをみてみる。有料フォントを探す場合は、多くの書体会社(タイプファウンドリー)はホームページにオンライン見本を公開しており、何社かは試し打ちも可能にしているので積極的に試したい。モリサワ、写研、フォントワークス、ダイナコムウェアなど、代表的なところは把握しておけると良いだろう。
会社だったり、フリーフォントか否かなどまで記憶していると、だんだんと試験で出題傾向から予想が付けられるかのように、出やすい書体の傾向まで考えて絞り込むことが出来るようになってくる。
反復練習あるのみである。答え合わせを繰り返し、ある程度慣れてきたら街中で看板文字からフォントを当てて答え合わせしてみたり、「フォントかるた」といった製品で腕試ししてみるのも良いだろう。次第にパーツや筆運びに目が慣れてきて、名前とそれが結びつく、かもしれない。
掲示板
2 ななしのよっしん
2023/04/19(水) 10:41:14 ID: R49tXU9C9M
>>1 フォント感もフォン感も両方使われてますが、なんでか正語として定着してるのはフォント感の方なんですよね、微妙にフォント感のほうが前出ですし
3 ななしのよっしん
2023/04/19(水) 12:49:37 ID: fGxGc2dSls
絶対フォント感とかいうワードを見た時のぼく「フォントかなぁ?」
4 ななしのよっしん
2023/04/28(金) 09:58:23 ID: D+vVEREc2K
記事内にあったリンクの「フォントの分かる男」だけど、「薬物乱用は」のフォントも間違ってるんだよな(多分平成角ゴシック)
ちなみにリンク先で答えが出ていない「ダメゼッタイ」は平成丸ゴシックだと思います
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最終更新:2024/12/01(日) 02:00
最終更新:2024/12/01(日) 02:00
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