衛星「だいち」 単語

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ダイチ

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 「だいち」(ALOS,Advanced Land Observing Satellite、エイロス)とは、JAXAが運用した日本の陸域観測技術衛星(地球観測衛星)。
 寿命の5年を越えて運用されたが、2011年5月12日に運用を終了した。

見つめるのは大地の表情…

 2006年1月24日H-ⅡAロケット8号機により打ち上げられた、世界最大級の地球観測衛星。旧NASDAが打ち上げた「ふよう1号」(JERS-1)、及び「みどり」(ADEOS)の開発・運用で蓄積した技術をより高性化した3機の観測機器を搭載する。
 
 
 的は地図作成」「地域観測」「災害状況把握」「資への貢献である。
 
 
 軌高度は約700km。太陽同期準回帰軌と呼ばれる地球を南北に周回する軌で、98.7分で地球を1周する。回帰日数(地上の同じ場所の上に戻ってくるまでの日数)は46日(地球を671周)だが、AVNIR-2やPALSARはポイティング機(センサーの首振り機)によって観測領域を変更できる。これにより2日以内にどちらかのセンサーで地上の任意の1点を観測することが可となった。この最短での観測可周期をサブサイクルと呼ぶ。

 2006年2月14日、「だいち」が初めて撮(PRISMによる)したのは日本の最高峰・富士山であった
 だいち写真ギャラリー 日本の景観 富士山exit
 同17日、「だいち」は運用試験期間中ながらフィリピンレイで起きた大規模な地滑りの観測に投入された。
 
JAXAクラブ 週刊スペースニュース 2006年2月28日 うれしくてかなしい衛星写真exit
 JAXAプレスリリース 2006年3月1日 陸域観測技術衛星「だいち」が観測したレイテ島画像についてexit

 その後も新潟県中越沖地震、四大地震等の内外の大規模災害の緊急観測(中国から感謝状を受領)、日本の不法投棄監視やブラジルの熱帯における違法伐採の監視(ブラジルから感謝状を受領)、国土地理院の作成する地図への適用など、様々な成果を挙げた。

 ある時は息をのむ程の美しいを、またある時は助けをめる人々のを届け、人工衛星の有用性を示し続けた「だいち」は、先輩である「みどり」「みどり」の念を払拭するかのように、設計寿命である3年、寿命の5年を越えてなお運用が続けられた。

 そして2011年3月11日、未曽有の災害が故郷・日本を襲う。

東北地方太平洋沖地震での働き

 午後2時46分。内最大、世界第5位のマグニチュード9.0を観測。発生した大津波は東日本太平洋沿地域の広範囲わたってに甚大な被害をもたらし、被害の全容が掴めぬ状況に陥った。

 JAXAはいくつかのセンターが被災した中、人工衛星による災害対策支援を開始。っ先に行われたのが「だいち」による被災地の緊急観測である。
 観測は発生翌日の12日から開始され、衛星利用推進センター(SPAC)では災害関連の省庁・自治体対応を実施。海外からのデータを含め、地球観測研究センター(EORC)で一時的な処理の行われたデータを大判にプリンアウト、震災前後のデータと合わせて関連省庁・自治体に届けた。これらは資料としてすぐに使える物を用意する必要があり、発災後の1週間はほぼ徹夜状態での作業が続いた。
 「だいち」は4月22日までに400シーンを撮、10府省・機関提供した。また「だいち」はこれまで積極的に海外への情報提供をしてきたことから、そのお返しとして海外から約5,000シーン提供された。

 世界の高分解地球観測衛星の中でも飛び抜けた広さの観測幅を持っている「だいち」は、航空機が撮できなかった海岸から離れた地域、合の漂流物などの把握にもを発揮した。また間や悪時にも継続的に観測可であることは大きな強みであった。

 しかし、寿命を越えて運用されている「だいち」はいつ止まってもおかしくない状態にあり、更に1機での運用、画質の悪さなど、未曾有の大災害に対して決して充分満足の行く観測とは言えなかった。
 更に海外からもたらされるデータではきめ細かな観測は難しく、情報収集衛星はその特性上、取得したデータを簡単には開できないと言う問題が浮かび上がった。
 実際、2006年時点での計画では2010年までに後継機4機での運用体制を整備する方針であったが、諸問題から計画は変更。後継機は未だ研究フェーズであり、こうした点が非常に問題視された。

 4月14日、この様な事態を受けたJAXAは後継機打ち上げ前倒しの方針を固めた。「だいち」電喪失の8日前である。

運用終了とその後の状況

 4月22日午前7時30分頃、データ継衛こだま」(DRTS)を介して得たデータから異常が確認された。
 発生電の急低下とともにセーフホールドモードに移行。さらに搭載観測機器の電オフ状態、全機停止となり、交信が途絶え、23日以降はテレメトリ受信ができなくなった。JAXAは地上局を優先的に割り当てるなどして復旧に努めた。

 しかし懸命の復旧作業もむなしく、JAXAはついに「だいち」を交信不能と判断。5月12日10時50分、停波作業を実施、運用を終了した。

 運用終了までに650万シーンを撮した「だいち」が遺したデータ現在も利用されている。一例として、2011年7月下旬の新潟福島豪雨災害9月上旬の台風12号豪雨災害の観測では、センチネルアジアを通じて台湾国家実験研究院(NARL)の協により提供された、フォルモサ衛星2号(FORMOSAT-2、フォルモサット・ツー)の観測データとの較・解析に「だいち」の撮した画像が使用された。

 現在後継機としてレーダー衛星・陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)が運用中、衛星・陸域観測技術衛星3号(ALOS-3)が開発研究中(それぞれ2t級)。中衛星の2機体制には大衛星1機での運用に関わるリスク(打ち上げ失敗や故障などの衛星喪失で観測網にが開く等)の低減といった的がある。それぞれ性の向上が図られ、3号センサーは40億画素相当(「だいち」は8億画素相当)を標としている。

 2号3号の後はそれぞれの後継機を順次打ち上げる方針で、気象衛星「ひまわり」情報収集衛星のようにシリーズ化したい考え。「だいち」に倣い、災害チャータやセンチネルアジアといった組みへの参加等、積極的な際協も続ける予定。

 その最期まで故郷に尽した「だいち」は制御不能となったため50年以上後には大気圏に突入、消滅すると考えられている。

 2013年2月22日称決定が発表された「だいち2号」は翌年5月24日に打ち上げられた。衛星バスは「いぶき」と同系列のもの。三種類の観測モード(広域観測モード、高分解モード、スポットラトモード)を持ち、スポットラトモードは観測幅25kmで分解1~3m。また衛星を機体ごと振るローポイティング(左右観測機)により任意の地点の観測頻度を向上させる。

「だいち」を見よう

  2011年10月18日海上保安庁は多年にわたり衛星画像を提供したとして「だいち」に感謝レーザー線を放った。
 JAXAプロジェクトトピックス 2011年10月20日 感謝の気持ちを込めて、海上保安庁から「だいち」にラストメッセージexit
 
 実はこの様な大規模な設備がなくとも「だいち」の観測は可である。の防人達の心に倣い、宙の観測者に直接思いを伝えるのもいいかもしれない。

 HEAVENS ABOVEexit
(英語サイト)
「だいち」はもちろん、様々な人工衛星等の軌を調べることができる。


 「だいち」やISS等の観測を行うコミュニティなど様々な条件に左右されるので見えなくても文句を言わないように!
以下の動画2012年7月16日に撮されたもの。
 

主な観測・通信機器

PALSAR(パルサーフェードアレイ方式Lバンド合成開口レーダー)
 「ふよう1号」搭載のSAR(合成開口レーダ)の衛星から発射したマイクロ波の反射を観測するセンサーであり、を問わずにデータの取得が可分解の変更ができ、高分解モードで10m。SCAN SAR(広域)モードは約250~300kmの観測幅を観測でき、これは一般的な合成開口レーダーの3~5倍に当たる広さである。
 太陽電池パドルの反対側にある斜めに取り付けられたパネルレーダーの送受信機。

PRISM(プリズムパンクマチック立体視センサー)
 幅70kmの広範囲を2.5mの高分解で観測し、地表のデータを取得する。直下視、前方視、後方視の3方向を独立した学系(可視望遠鏡と考えて良い)で観測し、地表の凹凸を標高という形でデータを取得できる。これによってステレオ視(立体画像)を可にする。
 衛星前側のっぽい部分が前・後方視のセンサーである。直下視のセンサーは少し離れて衛星の下側(地球側)前方にある。

AVNIR-2(アブニールツー、高性可視近外放射計2)
 「みどり」搭載のAVNIR。10mの地上分解をもつ。の3色+近外領域の4種類で観測することにより、多的なカラー画像を製作することが可ポイティング可度(首振り度)が40°から44°に良されたことで、災害時などの緊急観測に速に対応でき、極域の一部を除く地球上すべての地域を、3日以内に観測することができる。
 衛星の下側やや後方に設置。
 

 約70km四方の観測領域は諸外の同種衛星べても広く、特に大規模災害時にを発揮する。等で較されやすい情報収集衛星(偵察衛星)は、逆に限定された地域を集中的に観測するめられる。700kmという軌高度も観測領域と各センサー分解バランス等を考慮し、最も的に合うものとして選定された模様。

 「だいち」はこれらの機器で取得した観測データを直接、またはデータ継衛こだま」(DRTS)を介して地上へ伝送する。それらを合成過去に得られた画像と較・解析し、初めて有用な資料となる。このため、実は"時からどれだけの情報(画像)を取得し、蓄えているか"が発災後の観測と同じぐらい重要になる。
 
 
データ継衛通信部(DRC)アンテナ
 静止軌上のデータ継衛と通信を行うためのアンテナ。「だいち」は軌高度が低いため、地上局が地球の裏側にある場合など直接データを伝送できない際ははデータ継衛を介する必要がある。大量の観測データを効率よく地上に伝送するためのものだが、「だいち」の状態を地上から監視するためにも利用される。

 衛星上側のパラボラアンテナDRCアンテナ

レーザーリフレク(LR)
 地図作成に必要となるGPSを用いた衛星位置決定の校正・検証のために搭載。複数のを組み合わせたもの。地上のレーザ測距局から発せられたレーザ信号がLRによって反射され、再び測距局に戻ってくる時間を測定することで、衛星の正確な位置を知ることが可となる。地上の複数の測距局から発せられたレーザ信号を同時に反射するために、LRは視野である衛星直下を中心とした60°の範囲内にさえぎるものがい位置、衛星の進行方向から見てPRISMの直下視センサー右側にある。
 海上保安庁の"ラストメッセージ"に使用された。

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