Job Guarantee Program(JGP)とは、経済学用語の1つである。
就業保証プログラムと和訳されることが多い。本記事ではその訳語を使用することにする。
現代貨幣理論(MMT)を支持する経済学者・経済論者の多くが推奨する経済政策とされる。
政府または政府の資金援助を受ける民間団体が、求職者に対して一定額の賃金を払って雇用することを無制限に行うことを、就業保証プログラムという。
就業保証プログラムを支持する経済学派というと、現代貨幣理論(MMT)の支持者である。MMTは国定信用貨幣論を採用しており、政府に無限の資金力があることを強く肯定している。その国定信用貨幣論から機能的財政論が導かれ、機能的財政論から就業保証プログラムが導かれた。
ごく簡単にいうと、政府には無限の資金力があるので求職者を無限に雇用することができるのだ、というのが、就業保証プログラムの成立を後押しする考え方である。
中央銀行はLender of last resort(最後の貸し手)
となっていて、市中銀行に対する最低限の融資を保証している。
ならば、政府は、Employer of last resort(最後の雇い手)
になって国内の求職者に対する最低限の雇用を保障すべきである、というのが、就業保証プログラムの基本思想である。
完全雇用という言葉は、学者により定義がわずかに変わるが、「就業を希望する求職者が全員雇用されている状態」と考えておけば、だいたい正しい。そう考えると、就業保証プログラムは政府の手によって完全雇用を達成する経済政策である、と言うことができる。
ちなみに、Employer of last resort(最後の雇い手)は、アメリカ合衆国の経済学者ハイマン・ミンスキーの造語とされる(『MMT 現代貨幣理論入門
』の428ページ、ロサンゼルスタイムズの記事
)。
就業保証プログラムの雇用には、一定の賃金が支払われる。
政府が一定の待遇で労働者を集めるから、ブラック企業において就業保証プログラム以下の待遇で働いている労働者は、ブラック企業から離れる。就業保証プログラムは、ブラック企業を淘汰して、労働者を保護する政策といえる。
ブラック企業では激務薄給に悩まされて結婚が困難になり、労働者から「人としての尊厳」が失われていく。苛烈なプレッシャーに晒された労働者は、うつ病となり精神病院の世話になることもある。またブラック企業は労働者への教育を怠る傾向があり、労働者があまり上手く育たない。
一方で、就業保証プログラムなら、ある程度の収入を保証するので結婚も可能となり、労働者の「人としての尊厳」が保たれる。労働者に過度のプレッシャーを掛けないように規則を整備しておくことで、労働者は精神病院の世話にならずに済む。また就業保証プログラムは、職業訓練を同時に施すことも可能であり、労働者を上手く育てることができる。
このように、就業保証プログラムは、労働者の質と健康を維持する政策である。
好景気になったときに、就業保証プログラムの賃金を引き上げないで維持することが、重要である。
好景気になれば、民間企業の待遇は就業保証プログラムより良くなるので、就業保証プログラムで働く労働者が次々と民間企業へ引き抜かれていく。ゆえに、就業保証プログラムは民間企業の求人に対する供給制約にならない。
好景気になっても就業保証プログラムの賃金を引き上げないで維持することを従来の言葉で言うと「民業圧迫
をしないように、賃金水準を維持する」となるだろう。
就業保証プログラムで支払われる賃金は、その国内における最低賃金となる。就業保証プログラムよりも低い賃金の民間企業に労働者が流れる可能性は、非常に少ないからである。
就業保証プログラムの賃金を全国一律にすると、物価の低い地方へ人口が流れて行くことが期待できる。東京などの大都市に人口が集中する過密化と地方の過疎化を同時に防ぐことができる。
デフレとなって不景気となった場合、就業保証プログラムの賃金を引き上げることで、就業保証プログラムの職場に勤める労働者の所得を増やすことができ、消費の活性化による景気刺激が可能となる。
インフレ率が過剰に高くなって景気が過熱した場合、就業保証プログラムの賃金を引き下げることで、国内すべての最低賃金が下がることになり、国内すべての労働者の所得が減り、消費を沈静化させて景気過熱を防止できる。
就業保証プログラムの職場というのは、好景気になったときに好待遇を提示する民間企業に対して労働者を快く送り出すことが運命づけられている。
就業保証プログラムの職場は、終身雇用や長期雇用を前提とするものではない。
このため、就業保証プログラムの職場には、国家に重大な影響を及ぼす事業を任せることができない。比較的に「簡単な」業務をこなすことになる。
比較的に「簡単な」業務であるが、それなりに社会にとって必要である業務というのは、探せば出てくるものである。L・ランダル・レイは『MMT 現代貨幣理論入門
』の427ページで、ニック・テイラーの『American-Made
』という書籍を引用して、1930年代のアメリカ合衆国政府の公共事業を紹介している。衣服を縫う、マットレスに綿を詰める、オモチャの修理、学童への温かいランチを提供、病人の世話をする、離村に馬で図書館の本を届ける、洪水の犠牲者を救出する、病院・高校・裁判所・市庁舎の壁に壁画を描く、等をしたという。
比較的に「簡単な」業務は、学歴や職業スキルを持っていない最下層の人にもこなすことができる。それゆえ、就業保証プログラムは底辺の人に職を与えることができる。L・ランダル・レイは『MMT 現代貨幣理論入門
』の430ページで「ある意味で、就業保証プログラムは『底辺から雇う』ので、実際に『底辺を』対象としており、取り残された人々に雇用を提供する」と述べていて、就業保証プログラムが国家の底辺を底上げするための政策であると示している。
グローバリズムという経済思想がある。国境を取り払い、人・モノ・カネの自由な移動を促進しようというものである。
グローバリズムと就業保証プログラムとの相性は、非常に悪い。日本やアメリカ合衆国のような国が、グローバリズムと就業保証プログラムを同時に実施したら、世界中の発展途上国から移民が押し寄せてくるだろう。
このため、就業保証プログラムを実施するには、グローバリズムを制限し、ナショナリズムをある程度維持する必要がある。移民の流入を制限する法規制を掛けることになる。
ベーシックインカムという経済政策がある。政府が全国民に対し、一定のお金を給付するというものである。
就業保証プログラムを有力視する現代貨幣理論(MMT)系の経済論者たちは、ベーシックインカムについて批判的であることが多い。
ベーシックインカムの欠点は、お金を給付するだけで職場を提供しないので、引きこもり・ニートのままでいる人が減らない、というところである。今どきはインターネットが普及しているので、自宅で引きこもったままでいくらでも遊ぶことができてしまう。ベーシックインカムには、引きこもり・ニートを職場に引っ張り上げるという政策効果が見込めない。
いったん引きこもり・ニートになってしまって、それが長く続いてしまうと、社会復帰がかなり難しくなる。引きこもり・ニートだったけど社会復帰して就職した、というようなブログ記事を読むと、そのことがよく分かる。「バイトの面接に行くのが怖くて仕方が無い」「働くことはとても恐ろしいことだと思っていた」などという心境が綴られているのである。
就業保証プログラムなら、ベーシックインカムよりは、引きこもり・ニートを職場に引っ張り上げるという政策効果が高くなる。求職者をすべて雇用する、という目的で行われるため、引きこもり・ニートであっても、不採用にすることができない。
就業保証プログラムの職場は、国家に重大な影響を及ぼす事業ではなく、比較的に「簡単な」業務ばかりを担当するので、引きこもり・ニートでもこなすことができる。
いったん働き始めると、「朝になったら起きて食事してから家を出る」「人に会ったら挨拶する」「上司の指示や規則に従う」「おかしい事態が起こったら上司や同僚に報告・連絡・相談(ホウレンソウ)
する」という超基礎的な動作を学ぶことができる。引きこもり・ニートのままでいるのと比べると、圧倒的な進歩となる。
就業保証プログラムが日本に導入された場合、どのような事業を実行することになるのだろうか。
日本版就業保証プログラムの事業の候補の1つとして挙がるのが、「災害の後片付け業務」である。
地震で建物が半壊になり、家財道具を大量に片付けねばならなくなる。台風やそれに伴う洪水で、民家が泥まみれになり、家財道具が水に浸かって後片付けをする必要が出てくる。そうした片付けに対する支援は、2020年現在のところ、民間ボランティアに頼っているのだが、これを就業保証プログラムで行ってしまう。
ちなみに、日本は災害多発国であり、台風や洪水や地震と言った大規模な災害が毎年のように発生している。日本で起きた災害の一覧の記事で、そのことが確認できる。
もう一つ、日本版就業保証プログラムの事業の候補の1つとして挙がるのが、除雪である。
日本の雪国には大量の雪が降る。交通機関が麻痺したり家屋・自動車が凹んだりして、大規模な災害が起こっているのと同じ状況となる。冬になって雪が降り積もる季節になったら、除雪作業を就業保証プログラムで行って、雪に苦しむ地方民を救援する。
政府が、求職者を無制限に片っ端から雇用するということは、世界各地で見られてきた。
政府が求職者を無限雇用すると聞いて、誰もが即座に連想するのは、軍隊である。軍隊を貧困労働者の受け皿にして救貧の装置にするという考え方は、昔ながらの考え方である。アメリカ合衆国において、ロクに産業のない貧乏州の子女は、軍隊に就職するのが一つの選択肢となっている。
1930年代のアメリカ合衆国において、ハーバート・フーヴァー大統領が雇用促進局(WPA)
を設置して、フランクリン・ルーズベルト大統領がそれを引き継いだ。雇用促進局(WPA)は超大規模な失業者雇用を行い、ニューディール政策の中核的存在となった。道路、橋、民間及び軍の建物、空港滑走路、などあらゆるものを建設し、演劇・音楽・芸術作品提供といったことも行った(『MMT 現代貨幣理論入門
』の426~427ページ)。
就業保証プログラムは、いきなり大々的に行う必要は無く、それぞれの国家の事情に合わせて、小規模なものに抑えて良い。それの例が、アルゼンチンとインドである。アルゼンチンは各貧困家庭から世帯主1人だけ参加を認める制度を導入したし、インドは農村の労働者限定で就業保証プログラムを実施した(『MMT 現代貨幣理論入門
』の420~421ページ)。
| 第8章、つまり407~442ページで就業保証プログラムを紹介している。 | |
| 第7章、つまり106~124ページで就業保証プログラムを紹介している。 122~123ページには、MMT支持の経済学者であるビル・ミッチェルのベーシックインカム批判論を取り上げている。 |
|
| 118~119ページに、就業保証プログラムについての記述がある。 | |
蝙蝠 氏による無料漫画。 |
掲示板
11 ななしのよっしん
2021/08/13(金) 17:04:36 ID: EImXQD9m7a
パソナみたいなブラックな民間セクターよりは、国が雇用を提供した方がマシだよな
外国人の流入が進んでいない日本にしかできないプログラムだから、やるなら早くやるべき
12 ななしのよっしん
2022/01/04(火) 09:53:16 ID: xXBVqdnokp
これって韓国がおじいちゃんに掃除の仕事とか斡旋している奴のそうなのかな?よく考えれば結構いい政策やな
13 ななしのよっしん
2025/01/20(月) 00:36:57 ID: eu5IKkLW4G
問題は賃金じゃないかなあ
最低賃金ギリギリにするにしても中小企業は反対するだろうしそれだけじゃなくても大手でも他のアルバイトよりマシだってなって人手不足になって影響多いから反対するだろうし
かといって上の作業所と同じ賃金にするなら自立は出来ないしもっと上のステージに行きたいという就労意欲も削がれる可能性があるし
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最終更新:2025/12/24(水) 21:00
最終更新:2025/12/24(水) 21:00
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