クモハタとは、1936年生まれの競走馬。1939年のダービー馬。後に大種牡馬。1984年には顕彰馬に選出された日本競馬草創期を代表する名馬である。デビュー9日後のダービーに勝ったという、ラムタラもフサイチコンコルドもびっくりな珍記録保持馬。
※本記事では当時の表記に則って旧馬齢表記(数え年)で記述しています。
父トウルヌソル 母星旗 母父Gnomeという血統。母の星旗は官営下総御料牧場の基礎牝馬としてアメリカから輸入された牝馬である。
半姉の持込馬クレオパトラトマスは歴史的名牝として現役時代・繁殖牝馬としても大活躍したという、当時の日本の血統レベルからすると超絶良血。
生まれた時から雄大な馬格を評価され、当時としては破格の3万7600円(現在の2億円くらい?)で競り落とされた。栗毛の四白流星で、今見ても垢抜けた良い馬だと思う。
ところが、入厩してもうすぐデビューというところで右後脚が蹄叉腐乱、つまり蹄が腐ってしまうという病に侵され、調教が出来なくなってしまう。さらに右後脚が治ると今度は左後脚が、左後脚が治ると今度は前脚がと次々に病に冒され、デビューの危ぶまれる状況が続き、関係者の努力の結果どうにか調教が出来るまでになったのは4歳の5月になってからだった。もう大目標のダービーまで3週間しかない。
ようやく5月20日のレースでデビュー。ところがここを出遅れで負けてしまうのである。さらには肩に故障が発生。それでもクモハタはビッコをひきならが翌週[1]5月26日のレースにも出走し、なんと初勝利を挙げる。ダービーは明後日である。
レース後、クモハタは傷めていた肩の状態が悪化。飼葉も食べられず、鼻から栄養剤を混ぜた豆乳を流し込むという有様に陥っていた。とてもレースに出られる状態じゃない。常識的に考えて。
ところが馬主の加藤雄策(後にセントライトを所有することにもなる)、ダービーをどうしても獲りたくて買った高馬だったのだから出られるなら出したいという思いがあった。クモハタを診察した東大獣医学教室の松葉重雄・農学博士は「ダービー出走は見合わせて治療に専念するべき」と進言し、田中和一郎調教師も同様の意見であった。しかし、これがダービー初騎乗のチャンスだった阿部正太郎騎手は、まだ諦めていなかった。「私はレース中に今より肩が酷くなることはまずないと思うんですが……、もし酷くなって競走馬としてダメになっても、肩の故障なら種牡馬としては差し支えないでしょう」。人優先にも程がある。現在なら動物虐待で訴えられるところだ。ともかくこの一言に勇気づけられた雄策は、クモハタのダービー出走を決断した。
そしてダービー。阿部正太郎騎手の頭脳的な騎乗もあって、1馬身差で優勝するのである。20頭中8番人気。払戻金は上限の200円だったというのだから大波乱である。そりゃ、デビュー9日、ほとんど調教も出来ていないような馬なんて買えねぇよ。
デビュー3戦でダービー制覇というのは、当時は3歳戦が無かったので実は珍しくないのだが、9日目というのは流石に当時でも有り得なかったようである。もちろん、現在では色々実現不可能な記録である。
この後、クモハタは7勝を挙げるものの、当時の大レース帝室御賞典(今の天皇賞)には勝てなかった(最高2着)。どうも故障が癒えなかったようだ。引退時、加藤氏は「馬主として一度も、クモハタのレースを楽しんだことはない。満足な状態で出走したことがなかったからだ。この面倒な馬をどうにか競走馬として育ててくれた調教師、騎手、馬丁諸君に心から感謝している」と言ったそうだ。いやいや、そこはまずクモハタに謝れよ。
引退後、種牡馬になったクモハタは大活躍。戦後、内国産種牡馬の雄として輸入種牡馬セフトと覇を競い、1952年には内国産馬として史上初となるリーディングサイアーを獲得。その座を1957年まで6年間保持した。代表産駒は父と同様、顕彰馬に選出される事になるメイヂヒカリ。そして牝馬ながら天皇賞(秋)を制し、オグリキャップやキョウエイマーチ、マルシュロレーヌらの牝系祖先となったクインナルビー。天皇賞馬を7頭(これはサンデーサイレンスに破られるまで日本記録だった)も出している。残念ながら父系は残っていないが、ブルードメアサイアーとしても優秀だったため、時折現在でも血統表に名を見ることがある。
日本一の種牡馬としてブイブイいわせていたクモハタであったが、突然の不幸が襲う。馬特有の伝染病である伝染性貧血に罹ってしまったのだ。この病は、治療法が存在しない上に伝染するため、罹ってしまった馬は法律で殺処分しなければならないことになっているのである。どんな名馬でも例外ではない。
1953年殺処分、享年17歳。その名は中山の冬の重賞クモハタ記念に刻まれたが、1980年を最後に翌年創設のジャパンカップに役目を譲るように廃止されたため、今では彼の名を知る機会は少ない。
| *トウルヌソル Tournesol 1922 鹿毛 |
Gainsborough 1915 鹿毛 |
Bayardo | Bay Ronald |
| Galicia | |||
| Rosedrop | St. Frusquin | ||
| Rosaline | |||
| Soliste 1910 黒鹿毛 |
Prince William | Bill of Portland | |
| La Vierge | |||
| Sees | Chesterfield | ||
| La Goulue | |||
| *星旗 Fairy Maiden 1924 栗毛 FNo.16-h |
Gnome 1916 栗毛 |
Whisk Broom | Broomstick |
| Audience | |||
| Fairy Sprite | Voter | ||
| Cinderella | |||
| Tuscan Maiden 1918 黒鹿毛 |
Maiden Erlegh | Polymelus | |
| Plum Tart | |||
| Tuscan Red | William Rufus | ||
| Fine Feathers | |||
| 競走馬の4代血統表 | |||
クロス:Hampton 5×5(6.25%)、St. Simon 5×5(6.25%)
| JRA顕彰馬 | |
| クモハタ - セントライト - クリフジ - トキツカゼ - トサミドリ - トキノミノル - メイヂヒカリ - ハクチカラ - セイユウ - コダマ - シンザン - スピードシンボリ - タケシバオー - グランドマーチス - ハイセイコー - トウショウボーイ - テンポイント - マルゼンスキー - ミスターシービー - シンボリルドルフ - メジロラモーヌ - オグリキャップ - メジロマックイーン - トウカイテイオー - ナリタブライアン - タイキシャトル - エルコンドルパサー - テイエムオペラオー - キングカメハメハ - ディープインパクト - ウオッカ - オルフェーヴル - ロードカナロア - ジェンティルドンナ - キタサンブラック - アーモンドアイ - コントレイル - イクイノックス |
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最終更新:2025/12/25(木) 00:00
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