支那(シナ)とは、中国(おおむね現在の中華人民共和国にあたる地域)の通時的呼称。その地位は非常に複雑なので詳細はWikipediaの当該項目なども併せて参照されたい。
概要
語源
古代インドで中国を指す「シーナ」と言う梵語を漢字に音訳したもののがはじまりとされる。「シーナ」の由来には諸説あるが、一つの説として秦王朝に由来すると言う説がある。
英語の「チャイナ / China」やフランス語の「シーヌ / Chine」など、ヨーロッパ諸語での当該地域を表す表現も「支那」と同じ語源と考えられている。
第二次世界大戦以前の日本では、「支那」は概ね現在の中国にあたる地域を指す名称として普通に用いられていた。
現在でも後述の事情から国としての中国を指す意味での用いられ方はしなくなったが、「東シナ海(東支那海)」や「インドシナ半島(印度支那半島)」のように学術的呼称および歴史的地域名、更には「支那竹(メンマ)」「支那そば(中華そば ラーメン)」のようにその地域の産物を表す呼称には用いられることがある。
「支那」呼称の日本での扱われ方
現在では「支那」の呼称は日本においては差別用語とされることが一般的である。
日本と中国(中華民国)の関係が悪化し、戦争状態に突入した時期においては支那の語が戦時プロパガンダやスローガンにしばしば登場したため、これを指して「支那」そのものが差別語・蔑称である(「支那」を使用すること≒「帝国主義」「軍国主義」)と主張されることがある(外部リンク:「シナ」ということばが差別的とは?)。
ちなみに差別用語とは、その言語の話者において広く「差別的」と認識されている語のことである。ある語句が差別用語であるかどうかは衆人にどのように認識されているかによって決まる慣習であって、その語源や字義によって決まるものではないということに注意が必要である。
また漢字的意味の「支那」は「邦を支える」「本邦の支部」とされ(この場合「邦・本邦」は「日本」を表す)、「日本よりも下に見ている」と主張される。またヨーロッパでは「秦」「清」から音声が転嫁しただけであり、侮蔑的意味は含まれない。しかし日本語では、表音文字のひらがなカタカナ「しな」のみではなく、漢字で「支那」とも表現されたために、侮蔑的意味を含む単語となった、という主張もある。
「相手の嫌がる名称で呼称すべきでない」「自国の名前はその国が決めるべき」「仮に悪意が無かったとしても、我々が『ジャップ(Jap)』『倭国』『小日本』などと呼ばれて嬉しいか」(※「支那」と同じく、「ジャップ」はもともと単なるジャパン(Japan)およびジャパニーズ(Japanese)の略称・愛称だったが、第一次大戦後の国際関係の悪化に伴い軽蔑的な用例が増え、現在ではもっぱら日本および日本人への蔑称として定着している)といった倫理的観点からの意見もある。
こうした主張に対し、「支那」とは別に中国及び中国人に対する蔑称は存在しており、上述の通り「支那」の語そのものは以前から中立的に使用されてきたとする意見がある。また「中国」では中華思想や中華民族による支配を表し、そちらの方が差別的であるとする見方がある。
「支那」呼称に関する戦前から戦後にかけての政府・民間の動き
公的に支那の語を使用しないことは、戦前の1930年10月に「支那国号ノ呼称ニ関スル件」として浜口内閣が閣議決定した。
支那ナル呼称ハ当初ヨリ同国側ノ好マサリシ所ニシテ殊ニ最近同国官民ノ之ニ対シ不満ヲ表示スルモノ多キヲ加ヘタル観アリ
(支那という呼称はもとより同国において好まれず、特に最近は同国の役人や民間人にもこの呼称に対し不満を表明する者が多くなっているように見える)
という理由に基づくもので、これ以降の政府公式文書では従来用いられてきた「支那国」「支那共和国」に代わり「中華民国」が用いられるようになった。
戦後の1946年6月、外務省岡崎次官から各新聞社宛に「支那の呼称を避ける事に関する件」として改めて通達が出された。この通達文において、「支那」呼称を避ける理由については
支那という文字は中華民国として極度に嫌うものであり、 現に終戦後同国代表者が公式非公式にこの字の使用をやめて貰いたいとの要求があったので今後は理屈を抜きにして先方の嫌がる文字を使わぬ様にしたい。
と言及されている。中華民国は連合国の一員で当時の日本占領国の一つとなっており、この通達に影響を及ぼしたと考えられている。
この通達が広く適用された結果、公文書や放送・出版のみならず、「支那そば」「支那竹」と言った食品まで呼び換えが進められた(現在は「ラーメン」「メンマ」と呼ばれている)。雁屋哲原作の『美味しんぼ』の単行本第76巻第4話においても「支那そば」を題材に「支那」の呼称問題について言及している。
戦後の長い期間、「支那」と言う語の使用は公的な言論空間では禁止(自主規制)されており、現在でも報道各社では、原則として「支那」を使用しない(先述の東シナ海、インドシナ半島などは別)。しかし、最近では様々な理由からあえて支那の語を使用する人々も出てきている。この場合、前記の通り「"支"の字そのものに辺境や地方といった差別的なニュアンスがある」との非難を避けるためにカナ表記で「シナ」とすることがある。
「支那」呼称の現状
上記の通り日本の公的機関とマスメディアが使用中止したことで、今日の日本で「支那」(シナ)は一般的な単語の地位を失っている。
現代の「中華人民共和国」ないし「中華民国」を指す用法として「支那」を公共の場面で呼称した場合、他人に白い目で見られる可能性がある。「差別的である」と追求され、場合によっては立場を追われることも考えられる。TPOを考え、発言には慎重を期すべきである。特に中国と中華民国関係の人物・事物について、意図的に挑発・罵倒し反感を買いたい場合を除き、使用するべきではない。
もちろん現在の学術的な名称や過去の名称、歴史的事物の検証(例「シナ・チベット語族」「支那派遣軍」)などと用いる事には問題なく、マスメディアや日本の公的機関も使用している。先述の通り「東シナ海」など地域名称についても同様である。
なお中国的ツイッターである、いわゆる「weibo(ウェイボー)」の正式名称は「Sina Weibo」であるが、これは漢字で「新浪微博」と表記される(※新浪(シンラン Xīnlàng)は文字通り「ニューウェーブ」の意味で、運営会社の新浪公司のこと。微博(wēibó/wéibó)はツイッターに代表されるミニブログ(microblog)を指すIT用語で、実は新浪以外のネットサービス企業も同様の微博を多数運営しており、新浪はその最大手。英語表記の Sina は Sino-China を略した造語で歴史的地域としての中国を指す。英語名と中国語名において単語が非対称なのは、中華系企業あるあるである)。いずれにせよ「支那微博」ではなく、差別語との指摘は間違いである。
因みにMS-IMEやATOKなどで「しな」と打っても変換候補に「支那」の文字が出ない事から、何らかの政治的介入があったのではとの噂も聞かれる事がある(MacOSでは変換可)。なおこういった「差別用語と認識されている言葉」の変換候補が出ないケースは他にも身体障碍者関連の言葉などで多数あり、「支那」に限った問題ではない。頻繁に使用する場合は、辞書登録しておく方法がある。
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