概要
小説家・真梨幸子の6作目の小説であり代表作になる。単行本は2008年12月に発売され、文庫本は2011年5月に発売された。
いわゆるイヤミス (読んだらイヤな気持ちになるミステリー) と呼ばれるジャンルの小説である。イヤミス特集がネット記事などで組まれると必ず、そして早々と紹介される小説の1つであり、真梨幸子、のみならずイヤミスというジャンルの代表作といっても過言ではない。その言葉が示す通り、陰惨で陰鬱でそして無慈悲な物語展開が炸裂し、後味もこの上なく悪い小説となっている。イヤミス、という称される小説がどのようなものか知りたい人はこの小説を読んでみることをすすめたい。
小説には「はしがき」と「あとがき」が存在し、文庫の帯には「あとがきまでが物語」と書かれているが、要は「はしがき」はプロローグ、「あとがき」はエピローグのような役割を果たしている。故に「あとがき」を先に読んではネタバレになる。(ちなみに文庫版に収録された書評家の 藤田香織 氏による解説は、通常の文庫解説であるので先に読んでも構わない。)
「はしがき」と「あとがき」を除いたフジコの一生を描いた本編は小説のとある登場人物が執筆した記録小説という設定であり『蝋人形、おがくず人形』とタイトルがつけられている。さらにそれに「はしがき」と「あとがき」を付け加えたものはタイトル不明の「犯罪記録本」という設定になっている。
小説『殺人鬼フジコの衝動』の中に「はしがき、あとがきをつけたタイトル不明の犯罪記録本」があり、それは「蝋人形、おがくず人形」を収録している、という2重の入れ子構造となった小説となっている。わからなかったらまあ、とりあえず読んでほしい。
売れ行きは同じくイヤミス作家と呼ばれる湊かなえ・沼田まほかる、両氏の小説と共にベストセラーとなり、累計約60万部の発行を記録している。それまで部数に恵まれなかった真梨幸子の小説ではトップの売上げとなり、真梨幸子は「フジコは殿堂入り」とまで発言した。
以下、ネタバレなしの作品紹介を行う。(最低限、紹介したい展開には触れてしまうため、それが嫌だという方は読むのを避けるのを勧める)
あらすじ
未だ犯人が捕まらない「高津区一家惨殺事件」の唯一の生き残りである森沢藤子は当時11歳。後に稀代の殺人鬼「フジコ」と呼ばれる彼女は母親、父親、妹をこの事件で失った。
大人たちはフジコに同情し、様々な気をフジコに遣い、忌まわしい事件の過去からフジコを守ろうとしていた。しかしフジコはこの大人たちの態度を利用し、両親の虐待や母親の自堕落な生活に従うしかなかった今までの冴えない人生を「薔薇色のお菓子のような人生」に新しく作りなおすことを考え始める。
「母親」「一家惨殺」という過去を振り払い「薔薇色の幸せ」を目指し人生を歩むフジコであったが、成長するにつれ様々な予期せぬ障害が立ちはだかる。それはフジコを苦しめ、藤子の希望はことごとく潰され、フジコの人生は後退の一途を辿る。それでもフジコは「母親のようにならない」という信念のもと生き続けるが、フジコの人生の区切りには絶対に世間には知られてはならない、とある「行為」が行われていた。
登場人物
はしがき・あとがき登場人物
- 高峰美也子 - 23歳の小説家。フジコの犯罪記録本の著者。『蝋人形、おがくず人形』の原稿を数年保管し続けていたが、とある理由からはしがき、あとがきを加えた犯罪記録本として世間に公表することを決意する。
- 上原早季子 - フジコの犯罪記録小説 『蝋人形、おがくず人形』の著者。自殺未遂を起こし、緊急運搬された病院のベッドで小説を書き続けた。原稿を書き終えた3日後に死亡。
『蝋人形、おがくず人形』主な登場人物
フジコの親類
- 森沢藤子 - 主人公。最終的に少なくとも15人を殺害した罪で逮捕され、死刑となる運命を辿る。稀代の殺人鬼「フジコ」と呼ばれるようになる。
- 森沢慶子 - フジコの母親。高津区一家惨殺事件の被害者の1人。
- 森沢遼一 - フジコの父親。高津区一家惨殺事件の被害者の1人。
- 森沢沙織 - フジコの妹。高津区一家惨殺事件の被害者の1人。
- 下田茂子 - フジコの叔母。家族を亡くしたフジコを引き取り、大切に育てあげていく。とある宗教の信者であり、フジコへの優しさはその宗教の教えに基づくものでもあった。姉のフジコの母親とは折り合いが悪かった。
- 下田洋次 - フジコの叔父であり茂子の夫。突如、家に居候するフジコを心では疎ましく思う。
- 下田健太 - 茂子の息子。フジコより年下。
1章
- 母親 - 自堕落な生活を送る女性。娘たちの給食費も支払わず、消耗品の買い換えも惜しむが自身の美容に関しては金に糸目をつけず、化粧品のセールスに大金を支払ってまで化粧品を購入する。実際、外見はいわゆる「美人」と称されてもおかしくはないものであった。
- 父親 - 見栄っ張りな男性。土木関係の仕事に就き、稼ぎこそあるものの、金銭感覚が崩壊しており収入に見合わない支出を繰り返す。腹をたてると娘に暴力を振るう。
- 妹 - 幼さ故のわがままで姉を困らせる次女。しかし機転が効く性格なのか、父親の暴力からはいつも上手く逃れている。
- 化粧品セールスのおばさん - 化粧品会社の販売員。かなりのやり手であり、数々の顧客を獲得しており、そこには母親も含まれる。母親に様々な美容情報や商品を提供している。試供品として、ピンク色のリップクリーム・口紅を常に持ち歩く。
- Kくん - 見た目こそ可愛らしいが、不良の中学生とつるむ悪童。常にいじめる相手を探しており、弱い相手をいたぶる事に快感を覚える。しかしその性格が災いして、とある悲劇に見舞われてしまう。
3章
- クーコ - 「高津区一家惨殺事件」の後、転校したフジコの新しい小学校に通う女子児童。フジコが転入したクラスで一番影響力のある女子グループのボスでもある。「クーコ」というあだ名で呼ばれる。性格はわがままで傲慢。家が貧乏なのかフジコは不潔な印象を持つが、グループで良いポジションを獲得するために彼女に気に入られるよう、腐心することとなる。
- 小坂恵美 - どの女子グループにも属さない優等生の女子児童。不正を必ず教師に告発するためクラスメイトからは疎まれている。フジコのとある悪事を目撃してしまい、それ以来、フジコはどこか彼女に怯えるようになる。
- 小坂初代 - 小坂恵美の母親。フジコの叔母である茂子が信仰している宗教の信者でもある。そのため茂子との繋がりで、たびたびフジコとは顔を合わせる事になる。
- 茶色いジャンパーの記者 - 「高津区一家惨殺事件」の真相を探る記者。唯一の生き残りであるフジコにつきまとう。しかしある日を境に一切姿を現さなくなる。
4章
- 辻山裕也 - フジコが中学生の時に出来た初めての恋人。フジコより7歳上。資産家の息子であり、都会を感じさせる大人っぽさにフジコはどんどん惹かれていく。しかし彼のフジコに対する愛情はかなり薄い。
- 大月杏奈 - 高校に進学したフジコがアルバイト先で出会った、後に親友になる女の子。美人で人当たりも良く、フジコの大きな癒しの存在になる。しかし、同時に彼女と並ぶ自分の姿にフジコはどこか劣等感を覚えてしまう。
5章
- 小野田静香 - 保険会社の営業職の社員。職業安定所の前で困っていたフジコに一緒に営業で働かないか、と声をかける。初めこそ「スカウト」という目的でフジコに優しくしていたが、フジコが正社員になってからも何かと声をかけ、一緒にいるようになる。
- 辻山美波 - 裕也との間に出来たフジコの娘。顔はフジコ似である。
7章
続編
- 『私は、フジコ』
2012年に発売された『殺人鬼フジコの衝動』の限定版文庫とセットで販売された短編小説。続編の『インタビュー・イン・セル』の前日譚となっている。
2013年に徳間文庫で書き下ろされた『殺人鬼フジコの衝動』の正式な続編。続編の制作は編集側からの提案であったようで、作者いわく「挑戦してみよう」という思いで新たに書き下ろされた物語となっている。故に前作で示唆された結末や登場人物の末路が一部変更されているが、破綻したものではないため違和感なく読み進める事が出来るものとなっている。
メディアミックス
- 舞台 『殺人鬼フジコの衝動』
2013年に初演2015年に再演された舞台版。主演は新垣里沙。
2015年11月から動画配信サービス「Hulu」で配信されているオリジナルドラマ。主演は尾野真千子。オリジナルキャラクターが数名登場し、タイトルも『フジコ』と改題されているが内容は『殺人鬼フジコの衝動』に即している。なお、続編の『インタビュー・イン・セル』の内容は踏まえていない。
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関連項目
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