BRICS、BRICs、BRIC、BRICS+とは、国家間の外交機構・国際枠組であり、または特定国家群を指し示す経済とマーケティング、国際政治と外交上のタームである。
概要
BRICSまたはその類語には二重の意味がある。国家間の実際の機構・枠組を表す名称としてのBRICSと、特定国家のカテゴリーを表すタームとしてのBRICSであり、原義はむしろ後者の方である。
用語の初出は2001年。ゴールドマン・サックスに所属する経済学者、ジム・オニールが提唱したBRICである。これは当時の西側先進国(特にG7)に対する新興国家群、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中華人民共和国(People's Republic of China)の4ヶ国を表す物であった。
BRICの観念は大いに流行し、派生語としてBRICsとBRICSも生まれた。BRICsはBRICの単なる別表記である場合も多いが、ニュアンスとしては4ヶ国以外の類似国家を含める余地を複数形のsに与えるものである。そしてこのsを大文字化し、南アフリカ(South Africa)としたのがBRICSである。ただし、南アフリカの経済規模・成長見込は4ヶ国に比べてかなり弱く、IBSA(印・伯・南ア)の外交的枠組をついでに括っただけのことであったため、本当にBRICs機構がIBSAと合流してBRICSと改名するまでは一般的ではなかった。
他の派生語にはBRIMC(Mはメキシコ)とBRICK(Kは韓国)、二つを併せたBRIMCK、またはBRICA(Aはアラブ諸国、特に湾岸諸国)、BRICET(Eは東欧諸国、Tはトルコ)といったものがあるが、これらははっきり言えば、投資家を惹き付けるために粗製濫造されたキャッチフレーズ群であった。
そもそも提唱者のオニール自身がゴールドマン・サックスの人間であり、BRIC自体がマーケティング用語として生み出された面もあるのだが、その当初のメッセージ性ははっきりしていた。BRICが近い将来に、現在のG7や先進国全体を凌駕する、世界で最も経済力のある主要国家群になるということである。この点において、当時G7に次いで、BRICに並ぶ経済力を持ったメキシコと韓国を含めなかったのは、この2ヶ国の経済はすでにG7同様成熟しており、伸び代が薄いと(2001年の時点では)見たためである。
これには単なる投資用語以上の説得力とインパクトがあり、BRICは国際情勢を捉える重要なタームとして力を持ち始めた。先進国対BRICという構図が国際政治において意識されるようになり、その影響があったのかどうか、実際にBRIC間での国家協力の動きが模索されるようになった。
そして2009年、第1回BRICs首脳会議にて、ついに国家間機構としてのBRICsが正式に発足することが宣言された。2010年の第2回首脳会議には前述のIBSAの縁で南アフリカが招かれ、2011年より正式加盟、名称もBRICSに改められた。飛んで2024年には本来のBRICSに含まれない国も加盟したため、メディアではEUやASEANの例にならって拡大BRICSやBRICS+という名称で区別する向きがあるが、正式名称はBRICSのままである。
BRICS原5ヶ国はいずれもいわゆる地域大国にあたり、GDPは世界全体の3割弱と、大きな存在感を示している。5ヶ国あわせて面積は世界全土の約3割、人口は世界人口の45%を占めており、その比重の大きさは明らかである。また、資源国としても知られており、石油シェアは2割、石炭は3割、粗鋼は約半分を占めている。
提唱の2001年から20年以上が経過し、BRICS全てを併せた経済的な影響力は増している。しかし当初の予測を裏切らずに伸びているのはインドと中国だけで、他の国はやや失速気味である。BRICS台頭論の前提であった、先進国の成長停滞も思われていたほどではなく、特にアメリカは何だかんだ経済的優勢を堅持している。また、国別では良くても、一人あたりGDP(2022年版)はトップのロシアであっても15000$ほどで世界61位。最下位のインドは2300$で143位と悲惨なことになっている。他にも周辺国との領土紛争や自国民への抑圧や権威主義的な姿勢などが問題視されており、注目が高まっている。
国際的枠組としてのBRICS
2009年より毎年首脳会議を開催しており、世界中の耳目を集めている。
開催地はBRICSに所属する国の持ち回りとなっていて、第1回はロシアのエカテリンブルクで開かれ、直近の第16回ではロシアのカザンで開催されている。基本的には対面による会談だったが、2020年から2022年にかけての三回分はコロナウィルスの感染拡大を見てオンライン会議となった。
内容としてはBRICS間の協同や、結束に向かう為の取り組みの協議を行う。それに加えて、近年ではドルへの対抗から貴金属が価値の裏付けとなる独自通貨構想を打ち出したり、2023年の第15回では一転した拡大方針を採用し、2024年にアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、エチオピアの4ヶ国が正式に加盟した。2024年から2025年にかけてインドネシアが新たに加盟し10ヶ国体制となり、新たに設けられたパートナー国という枠組に12ヶ国もの名前が並ぶことになった。他には、2024年の加盟を保留したまま不明瞭な立場で関わるサウジアラビアがいる。
2013年の第5回会議ではIMF(国際通貨基金)の代替・補完を目指した新開発銀行(NDB)の設立が合意され、2014年より活動を開始した。現在の資本金は1000億ドルに及ぶともいわれている。また先述した新通貨(各国の貨幣の頭文字をとってR5とも)発行に向けて各国は金保有量を増やしているという話もある。主に脱ドル化を目指している。
経済面以外でも2011年頃からはアメリカを経由しなければならないコストを嫌気して、BRICS間での海底ケーブルを提案したり、加盟国間でのスポーツ競技会や映画祭、知的交流なども行われている。
新興国の経済発展が世界経済上の重要議題となるなかで特に牽引役となるこれらの国の動向はこれからも注視していく必要があるだろう。
一見主に中露の姿勢から反欧米や反西側のような組織に思われることがあるが、その実は加盟国間ですら向いている方向がバラバラであり、まとまりを欠いていると指摘されることもある。例えば2024年の会議で新通貨についてロシアが提議したが結局他の国から反対されて立ち消えになっているし、インドなどは中露と関係を持ちながらも欧米とも深い貿易関係を持っている。
加盟国(2025年2月現在)
現時点では正式加盟国は10ヶ国、パートナー国は12ヶ国、計22ヶ国の大所帯となっている。加えて毎年の首脳会議では多くのゲスト国家が招かれる。
原加盟国
2009年6月の第一回会議から参加している国。この時点ではまだBRICs。
2010年に加盟
2011年4月の第三回会議より参加。これでBRICSとなる。
2024年に加盟
2024年10月の第16回会議より参加。以降はBRICS+と呼ばれることがある。
アルゼンチンとサウジアラビアも、上記4ヶ国との同時加盟が予定されていた。だがアルゼンチンは政権が代わり、加盟予定日直前にドタキャンした。一方サウジアラビアは加盟予定日を過ぎてから保留を表明し、以降は加盟していないようなしているような謎の立ち位置になっている。両者とも対米関係に配慮したと見られる。
2025年に加盟
当初は下記のパートナー国として招待されていたが、正式加盟することになった。
パートナー国(2025年2月現在)
2024年10月に導入され、以下の国々が招待された、加盟予定国・準加盟国・オブザーバー国の枠組。首脳会議にオブザーバーとして参加し、BRICSの機構に限定的に参加できる。会議ごとの適時のゲスト国とは別。
加盟申請国(2025年2月現在)
加盟を申請し、正式加盟国の全会一致に基づく招待を受け取れば、加盟国やパートナー国になることができる。
アルジェリアは2023年に加盟を申請し、2024年9月に撤回したものの、翌10月にパートナー国として招待されている。
申請から加盟までは決まった公開手続がない。このため、ひたすら曖昧すぎる立場で関わるサウジアラビアや、まことしやかに申請が噂されている北朝鮮のような国もある。
関連項目
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