FC大阪・花園ラグビー場整備問題とは、Jリーグに所属するサッカークラブ「FC大阪」が、ラグビーの聖地である「東大阪市花園ラグビー場」の管理者として、東大阪市との間で結んだ協定(第2グラウンドの改修・寄贈)を履行せず、Jリーグの試合開催を巡ってラグビー界や行政との間に深刻な対立を生んでいる一連の問題の総称である。
サッカークラブがラグビーの聖地を管理するという異例の状況下で、約束の不履行や芝生の管理問題、行政とのすれ違いが重なり、Jリーグのスタジアム問題の中でも特に複雑な様相を呈している。
概要
「西の花園」と称される日本ラグビーの聖地・花園ラグビー場は、2020年に公募設置管理制度(Park-PFI)の公募で、日本ラグビーフットボール協会などが中心となったグループ「ワンチーム花園」が敗れ、FC大阪が参画する「東大阪花園活性化マネジメント共同体」が管理者となった。これは、Jリーグ加盟を目指す上でホームスタジアムを持たなかったFC大阪が、J3基準を満たすスタジアム(5000人規模)を確保するため、花園第2グラウンドを改修し、市に寄贈するという提案が市に評価されたためである。
しかし、地盤の問題などで改修費用が想定以上にかかることが判明すると計画は進まず、FC大阪は暫定措置としてJ1基準を満たす第1グラウンドをホームスタジアムとしてJ3に参入した。市側はあくまで「暫定」と考えていたが、クラブは第1グラウンドの使用を継続。改修の約束は反故にされ続け、聖地の芝生がサッカーの試合開催により荒れる事態に、ラグビー関係者やファンからは「花園の乗っ取りだ」という強い反発が生まれた。
さらに、Jリーグが第1グラウンドに対して屋根のカバー率不足などを理由に制裁を科したことで、東大阪市長や市議会も激怒。市長がクラブに花園からの撤退を求める事態にまで発展した。2024年12月に改修期限を2028年3月末とする協定が再締結され、2025年6月にはクラブから具体的な建設計画が提出されたものの、これまでの経緯から、市議会や市民の不信感は根強く残っている。
問題の背景――なぜ東大阪だったのか?
この問題の根源は、FC大阪側の差し迫った事情と、東大阪市の思惑が一致したことにある。
FC大阪側の事情:ホームスタジアムの確保
Jリーグに加盟するには、基準を満たしたホームスタジアムを持つことが絶対条件である。しかし、当時のFC大阪には定まったホームスタジアムがなかった。もともとは大阪市の長居公園(ヨドコウ桜スタジアムなど)を拠点と考えていたが、セレッソ大阪の親会社であるヤンマーの子会社が長居公園の指定管理者となったため、事実上、そこを本拠地とすることが困難になった。J3昇格という目標を達成するためには、早急にホームスタジアムを確保し、ホームタウンとなってくれる自治体を見つける必要があったのである。
東大阪市側の思惑:「スポーツのまち」への転換
一方の東大阪市は、2019年のラグビーワールドカップ開催を機に、「ラグビーのまち」から、より広い「スポーツのまち」としてのブランドを確立しようとしていた。そこにプロサッカーチームを誘致することは、その構想にぴったりと合致した。FC大阪が提案した「老朽化した第2グラウンドを、クラブが改修して市に寄贈する」という計画は、市にとっては財政負担なく施設がリニューアルされ、サッカーという新たなコンテンツも手に入るという、非常に魅力的な話だったのである。
このように、「Jリーグに上がるためにスタジアムが欲しいFC大阪」と、「施設の有効活用と市のPRをしたい東大阪市」の利害が一致したことが、この複雑な問題の始まりであった。
用語解説:Park-PFIと指定管理者制度
この問題を理解する上で、両制度の違いを知ることは重要である。
指定管理者制度
自治体が所有する既存の施設の「管理人」を民間事業者に任せる制度。事業者は自治体から管理委託料を受け取って施設の維持管理や運営を行う。基本的には受け取った委託料の範囲で管理するのが仕事である。
Park-PFI (公募設置管理制度)
公園内にカフェや売店など、儲かる施設を自ら新しく設置・運営する「開発事業者」を公募で選ぶ制度。事業者は自らの資金で新しい施設を建てる。その代わり、その新しい施設で得た利益は自分たちのものになる。そして、行政から管理委託料ももらったうえで、その利益も活用して公園全体の管理を行う。
花園のケースでは、FC大阪のグループは単なる「管理人」ではなく、「自分たちのお金で第2グラウンドをスタジアムに改修する」というPark-PFIの提案をしたからこそ、管理者として選ばれた。この「第2グラウンドの改修・寄贈」という開発部分が、この問題の最も重要な約束だったのである。しかし、FC大阪はこの「開発」を履行できなかっただけでなく、芝生管理など基本的な「管理」業務にも疑義が生じており、事業者としての役割を果たせていないと厳しく批判されている。
クラブの弁明
第2グラウンドの改修が約束の期限通りに進まなかった理由について、クラブ側は主に以下の3点を挙げている。
- 地盤の問題: 当初の想定よりも第2グラウンドの地盤が軟弱、あるいは工事が難しい状態であることが判明し、基礎工事などに追加の費用と工期が必要となった。
- コロナ禍と資材高騰: 計画進行期が新型コロナウイルスのパンデミックと重なり、世界的な建設資材の価格高騰によって、当初の見積もりでは工事費用が全く足りなくなった。
- 資金不足: 上記2つの想定外の要因が重なった結果、計画を大幅に上回る資金が必要となり、クラブ単独での資金調達が困難になった。
ただし、これらの理由は、すでに約束の期限を破り、暫定のはずだった第1グラウンドの使用を常態化させた後に公に語られ始めた。そのため、東大阪市議会やラグビー関係者からは「後付けの言い訳ではないか」と見なされ、「本当に計画を進める意思があったのか」「問題を早期に市と共有し、解決策を模索する努力をしたのか」という点で、強い不信感を持たれる結果となっている。
経緯まとめ
| 時期 | 主な動き・やり取り | 関係性の変化・ポイント |
|---|---|---|
| 2019年11月 | 【約束の始まり】 FC大阪の吉澤務会長(当時)が、花園ラグビー場第2グラウンドをJ3基準(5000人収容)に改修し、市に寄贈するという計画を提案。 |
Jリーグ加盟を目指すクラブと、施設の有効活用を目指す市との間で、Win-Winの関係が期待される。 |
| 2020年 | 【管理者就任と計画の停滞】 FC大阪が参画する共同体が花園ラグビー場の管理者に就任。しかし、第2グラウンドの改修は地盤の問題などで事実上停滞する。 |
計画の前提であった改修が進まないまま、管理者としての立場だけが確定する。 |
| 2021年 | 【キーパーソンの急逝】 計画を推進してきたFC大阪の吉澤務会長が急逝。 |
クラブの経営体制が変わり、市との約束の詳細や背景が新体制に十分に引き継がれなかった可能性が指摘される。 |
| 2021年~2022年 | 【第1グラウンドへの移行】 第2グラウンドが未整備のため、FC大阪は暫定措置として第1グラウンドをホームスタジアムとしてJリーグに届け出て、2023年からのJ3参入が決定。市は2023年3月までの第2グラウンド完成を求める覚書を交わす。 |
「暫定」のはずの第1グラウンド使用が常態化し始める。ラグビー関係者からは「聖地の乗っ取り」という懸念が強まる。 |
| 2023年3月 | 【約束の反故】 覚書の期限を過ぎても第2グラウンドの工事は始まらず、約束は反故にされる。クラブは第1グラウンドの使用を継続。 |
市とクラブの信頼関係が大きく損なわれる。 |
| 2024年9月~11月 | 【対立の激化】 市議会で問題が追及される。さらにJリーグが第1グラウンドに制裁を科したことで、市長や議会が激怒。「市民の誇りがこのような扱いを受け、怒っている」と表明し、J2昇格に必要な確認書にサインしないとJリーグに通知する。 |
ラグビー界だけでなく、行政もクラブとJリーグに対して強い不信感を抱く、全面的な対立構造に発展する。 |
| 2024年12月 | 【協定の再締結と不信感】 市長が「新スタジアムが完成しないなら撤退を」と要求。これを受け、クラブは「2028年3月末までに第2グラウンドを完成させる」という協定を市と再締結する。 |
一応の決着を見たが、再度の約束破りへのペナルティが不明瞭であるとして、東大阪市議会ではこの協定内容にも疑問の声が上がる。 |
| 2025年6月 | 【具体的計画の提出】 クラブ側が、総工費約15億円とする第2グラウンドの具体的な建設計画を市に提出。市はこれを受け入れ、市長もJ2昇格に必要な確認書に署名する意向を示す。 |
計画がようやく具体化し、設計段階へと移行。しかし、市議会やラグビーファンからの不信感は根強く、計画の履行が厳しく監視される状況は変わらない。 |
関係者の認識とそれぞれの立場
この問題を巡っては、各関係者がそれぞれの立場から発言を行っており、その認識の隔たりが問題をより複雑にしている。
ラグビー関係者
ラグビー関係者や昔からのファンにとって、この問題は単なる施設利用のトラブルではなく、「聖地が乗っ取られ、尊厳を傷つけられている」という、非常に深刻で感情的な問題として受け止められている。管理者選定の公募で敗れたこと自体への衝撃や屈辱に加え、芝生がサッカー仕様に管理されることによる選手の安全への懸念、ラグビーの利用が軽んじられることへの不安が根底にある。特に、約束が履行されないことのしわ寄せは、プロだけでなく、聖地に憧れるアマチュア選手にまで及んでいる。
- 聖地の惨状: 全国高等学校ラグビーフットボール大会で使用される第2グラウンドは、改修されないまま座面が破損するなど老朽化が深刻化。また、第1グラウンドの芝生もサッカー仕様で管理され、ラグビーのプレーには危険な状態だと指摘されており、「一生懸命にやっている選手たちに申し訳が立たない」と、最高の舞台でプレーできないラガーマンを想う声が関係者から上がっている。
- 試合機会の喪失: これまで花園で開催されていた大学ラグビー選手権の準決勝が、近年は三重県の鈴鹿市で開催されるようになるなど、大学生にとっても憧れの舞台でプレーする機会が失われている。
- 聖地の主・花園近鉄ライナーズの苦境: この問題は、花園をホームスタジアムとする地元のプロラグビーチーム「花園近鉄ライナーズ」の活動にも深刻な影響を及ぼしている。ライナーズは、FC大阪が改修を約束した第2グラウンドを日常的な練習拠点としているが、そのグラウンドが老朽化したまま放置されているため、プロチームとして最も重要な練習環境が著しく損なわれている。また、自分たちのホームでありながら、芝生の管理などを他競技のクラブに主導されるという屈辱的な状況に置かれている。
著名なラグビー関係者の声
ラグビー日本代表として史上最多キャップ数を誇る大畑大介氏も、自身のYouTubeチャンネルなどでこの問題に言及。聖地がこのような状況にあることへの深い悲しみを表明するとともに、特に高校生への影響を強く懸念している。
東大阪市議会
市議会は、党派を超えてクラブと市の執行部(市長)の双方に厳しい目を向けている。ラグビー経験者でもある川口泰弘市議や、元ラグビー選手の浅田均市議らは、ラグビー側の立場から問題を厳しく追及している。
一生懸命にやっている選手たちに申し訳が立たない。最高のコンディションでお迎えをして最高のパフォーマンスを発揮していただくということが私はとても大事だ。
ラグビーの聖地である花園が、このような形で使われるのは断腸の思いだ。選手の安全が第一であり、現在の芝の状態は到底容認できない。
また、市議会全体としては、約束が反故にされ続けた経緯や、市の監督責任、再締結された協定の実効性などについて、市長に対し厳しい質問を繰り返している。
サッカー関係者・ファンの視点
サッカー関係者や一部ファンからは、問題の根源は公募で敗れたラグビー側にあるという見方も出ている。公式な論評は少ないものの、個人のSNSやブログでは以下のような意見が散見される。
JRFU(日本ラグビーフットボール協会)と組んだ指定管理のチームが負けたことで、FC大阪の花園メインホーム化が実現したことはどう考えても事実でしょう。奪われたという表現が不適当なら「守れなかった」でもいいです。
大島 和人(Kazuto Oshima) (@augustoparty) のX(旧Twitter)での投稿 (2024年11月22日), 2025/08/12閲覧
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ラグビーってマイナースポーツで、集客力もなくて、協会に運用ノウハウもない。
元々、花園ラグビー場自体が無用の長物だったのよ。今まで保有できたのがラッキーやと思うべきだし、ファン自身も気づいてるんやとおもう。
mito@正義の鉄槌💙 (@augustoparty) のX(旧Twitter)での投稿 (2024年11月24日), 2025/08/19閲覧
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これは、公募設置管理制度(Park-PFI)という公正な入札の結果を尊重すべきであり、その後の問題をFC大阪だけの責任にするのはおかしい、という考え方である。
東大阪市民
東大阪市民の思いは、ラグビー関係者とは少し異なり、より多角的で複雑である。
- 「市民の誇り」の毀損: サッカーやラグビーに直接的な関心がない市民にとっても、Jリーグが「花園ラグビー場」に制裁を科したことは、「市民の誇りである花園が、外部から低い評価を受けた」と映り、強い不信感や怒りを生んだ。これは野田前市長が「市民の誇りがこのような扱いを受け、怒っている」と代弁した通りである。
- 行政への不信感: なぜこのような事態になったのか、という東大阪市の管理責任を問う声も少なくない。「そもそもなぜサッカークラブを管理者として選んだのか」「協定の履行をなぜもっと厳しく求めなかったのか」といった、市の対応への不信感を持つ市民もいる。
- 当事者意識の差: もちろん、市内在住のラグビーファンは関係者と同様に強い憤りを感じている。しかし、より多くの一般市民にとっては、スポーツチーム間の対立というよりは、「市の評判」や「税金の使われ方(もし公費が投入されるなら)」といった、より広い視点での関心事となっている。
FC大阪
クラブ側は、協定の履行が遅れていることへの謝罪を示しつつも、一部の発言がさらなる不信感を生む結果となっている。
近藤祐輔社長(協定再締結後の発言、2024年12月)
, 2025/08/12閲覧
この発言は、J3基準は満たすものの、将来的なJ2昇格を見据えたスタジアムではないことを示唆しており、「J2に昇格したら結局また第1グラウンドを使うつもりではないか」という新たな疑念を生んだ。
この問題に関わる疑義
- 指定管理共同体の構成と責任の所在:花園ラグビー場の指定管理者である「東大阪花園活性化マネジメント共同体」は、FC大阪、HOS株式会社(代表企業)、天正株式会社の3社で構成されている。このうち、第2グラウンドの改修・寄贈はFC大阪が中心となって提案した事業であるため、改修の頓挫やそれに伴う責任の追及は、主にFC大阪に向けられている。他の2社は公園全体の管理を担う立場であり、インフラ投資を伴う開発事業の直接的な責任は問われていないのが現状である。
- 親会社を持たない経営体制と資金調達:FC大阪には、Jリーグの他クラブのような大規模な親会社が存在しない(かつての親会社アールダッシュは倒産している) 。クラブの運営は複数の地元企業や大企業のスポンサーシップに支えられている。このため、スタジアムの改修・建設といった数億円規模のインフラ投資は、スポンサー契約の範疇を超え、クラブが独自に資金を調達する必要があった。コロナ禍と資材高騰という想定外の事態が重なったことで、この資金調達が困難になり、約束の履行が遅れることになった。
- 建設主体の変容:当初、第2グラウンドの建設主体はFC大阪のはずだったが、後の市議会では東大阪市ということになっている。これについて当時の市長は「FC大阪の善意の寄付であるため」と回答している。
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管理者としての責任と施設の状態:FC大阪が参画する共同体は、市から年間数億円の指定管理委託料を受け取っているにもかかわらず、その業務を十分に果たしていないと厳しく批判されている。具体的には、
- サッカー仕様に芝生を短く刈り込むため、選手の安全上、長い芝を必要とするラグビーのプレーに適さない危険な状態になっている。
- 本来、管理者が行うべき芝刈りを市職員が行っていた事実が市議会で明らかになり、税金の二重投入だと問題になった。
- 改修が約束された第2グラウンドの観客席は、座面がバキバキに割れたまま放置されるなど、老朽化が深刻な状態である。
- クラブ側の認識とキーパーソンの急逝:当初の寄贈を表明した中心人物である吉澤務会長が2021年に急逝。その後、クラブ側は「当時の担当者がいないため詳細は不明」と回答しており、法人としての約束を継承する意識が疑問視されている。
他自治体・競技団体への反響
この一件は、全国のスポーツ関係者や、同様にスタジアム・アリーナ問題を抱える自治体の議員・職員の間で、重要な「反面教師」として大きな反響を呼んでいる。
- Park-PFI制度への警鐘: 民間事業者の提案内容や資金計画を自治体が十分に精査せず、安易に管理者として選定してしまうと、後から約束が履行されずに取り返しのつかない事態になるという教訓として共有されている。
- 異種競技間の対立という新たな火種: サッカーとラグビーという、芝生の管理方法が根本的に異なる競技が、片方の「聖地」を共有しようとした結果、深刻な対立を生んだ。これは、他の地域で多目的スタジアムの建設を検討している自治体にとって、「本当に異種競技が共存できるのか」「文化的な摩擦をどう乗り越えるか」という、これまであまり意識されてこなかった課題を突きつける形となった。
- 行政の責任問題: 「行政は金を出さない、民間がやるべき」というスタンス(民設民営)が、結果として無責任な事業者を呼び込み、市の資産である「花園」の価値を毀損してしまったという見方もある。これは、他の自治体にとって、民間事業者に丸投げするのではなく、行政がどう関与し、管理監督していくべきかという重い課題を提示している。
関連リンク
ニュースサイト
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資料等
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