ラグビーとは、スポーツの一種。日本では専ら、ラグビーユニオンを指している。
概要
「3種のフットボール」すなわちサッカー(アソシエーションフットボール)、ラグビーフットボール、アメリカンフットボールの一つでサッカーより歴史が新しく、アメフトより歴史が古い。
15人制、13人制、10人制、7人制があるが、日本では一般に男女ともに15人制を指すことが多い。2016年リオデジャネイロオリンピックで100年ぶりに正式種目として採用されるなど7人制も近年知名度が上昇している。パラスポーツでも車いすラグビーとして行われていたり、身体的負担が少なく老若男女問わず楽しめるタグラグビー、ビーチラグビーなど競技バリエーションは意外と幅広い。
オーストラリアなど一部の国ではプロ化しており、13人制のラグビーリーグが存在するが、日本には15人制の社会人リーグが存在するのみ。
イギリス発祥のスポーツであり、イングランドのほかウェールズやスコットランドでも人気は高い。サッカーと比べると日本への情報は段違いに少ないが集客力は高く、地元でW杯優勝を決めた時の熱狂ぶりからも人気の高さは伺うことができる。
また、イギリスの統治下にあったオセアニアで盛んで、とりわけニュージーランドは国技とまで言われるほど人気度も実力も世界一である。他に、オーストラリア(ただし、人気はイメージほど高くない)、西サモア、フィジー、トンガなどのオセアニア諸国、南アフリカ(ただし、アパルトヘイトの影響で白人のみ浸透し、黒人はサッカーが主流だった)、を初め、フランス(特に南部)、アイルランド、アルゼンチンなどで人気が高い。
一方、アメリカはアメリカンフットボールが存在するために、ラグビー人気は低かったが、近年大学を中心にラグビー競技人口は急増しており、ラグビーのプロリーグも発足するまでになっている。また、意外なことにドイツでは全く不人気であり、この国もむしろアメリカンフットボールの方が盛ん(世界で2番目か3番目に盛んな国とされる)である。
日本国内におけるラグビー
日本では古くから浸透し、過去にはサッカーを凌ぐほど人気が高かったが、人気ドラマ「スクールウォーズ」が放送された1980年代をピークに人気の凋落が著しく、サッカーやバスケットボールに競技者を奪われてしまい、ラグビー人口は減る一方となっている。かつては住友グループがスポンサーとなって盛んにラグビー中継を流していたが、現在は地上波での放送といえば、高校ラグビーの全国大会決勝をTBSで、大学ラグビーの一部をNHKが流すくらい。
とはいえ、近年のラグビー競技者人口は約11万人ぐらいで、しかも高校からの経験者が大半であることを加味すれば健闘している(男子バレーが12万人ぐらいなので、それと同じぐらい)方である。また、関東を中心に大学スポーツとして盛んで、早慶戦といえば野球かラグビーといわれるほどであり、現在目下9連覇の帝京大学を筆頭に、東海大学、早稲田大学、明治大学、慶應義塾大学など強豪が多い。関西では伝統的に同志社大学と天理大学、そして京都産業大学が強いが、関西ではむしろアメリカンフットボールの方が盛んである。
だが2015年のラグビーワールドカップにて、日本代表が強豪の南アフリカ代表を破ると状況は一変。下位ランクのチームが強敵を破る「ジャイアントキリング」で一躍国内ラグビー人気は上昇し、五郎丸歩やリーチ・マイケルなどの人気選手の知名度も全国に浸透した。2019年には初のアジア開催となるラグビーワールドカップの開催も決定当時は様々な面で不安視されていたが、上記のような人気獲得に加え、直前に放送されたドラマ「ノーサイド・ゲーム」の効果もあり、ラグビーの注目は更に上がりつつある。女子ラグビーにおいてもW杯効果で近年知名度が上がっており、15人制と7人制で世界を相手に奮闘を続けている。
高校ラグビー
高校ラグビーは西高東低を続けており、特に関西の高校に強豪が集まっている。中でも大阪府代表が強い(東海大仰星、大阪桐蔭、常翔学園(旧・大阪工業大付属)、かつては啓光学園など)。その大会の舞台の一つである花園ラグビー場(大阪府東大阪市)はラグビーの聖地の一つとなっている。他に関西の名門としては、V6の実績を誇る奈良県の天理高校とその天理と毎年決勝を争い、悲願の全国Vを願う御所実業高校(準優勝5回)などがあり、また京都府の伏見工業高校(現・京都工学院、優勝4回)はかつてスクールウォーズのモデルとなったが、現在は京都成章高校(準優勝1回)の勢いに押されている。また長らく出場が遠ざかっているが、戦前に5連覇を含むV9の優勝を誇る同志社高校、昭和40年~50年代前半にかけて京都の高校ラグビー界を牽引し準V3回を記録している花園高校も古豪である。
関東は神奈川県が伝統的に強豪として知られ、相模台工、桐蔭学園、慶應などが名門として知られる。東京は戦後~80年代までは上位常連であり、V5をしている国学院久我山をはじめ、目黒、保善などが複数回優勝をきめている。埼玉や山梨は80~2000年初頭までは上位を争ったが、監督の勇退後は急速に弱体化しており、むしろ流通経大柏や国学院栃木が台頭している。茨城の茗渓高校も過去に優勝経験があるものの、埼玉や山梨ほどではないにしろ、やはり先述の2校に押され気味である。
他に秋田県にある秋田工業高校は花園V15を達成した古豪として知られた。東北では他に岩手の盛岡工(優勝2回)、黒沢尻工(準優勝1回)も古豪として知られるほか、宮城の仙台育英も一時期旋風を巻き起こしたことがある。北海道の北見北斗も戦後に準V4回を誇る古豪だが、最後の準優勝以後は不振。現在の花園常連校である札幌山の手の方が今では有名であり、上位進出が期待された年もあった。
東海地方は伝統的に愛知県が強く、かつ激戦区として知られる。過去に西陵高校に優勝経験があるほか、近年は春日丘が台頭。花園でこそベスト8が最高だが、選抜大会では4強経験がある。
中国地方は山口の大津や広島の広島工に4強経験がある程度と苦戦を強いられていたものの、近年は島根の石見智翠館や広島の尾道が上位常連校として台頭。決勝にこそ進めていないが、現在は強豪として知られる。
九州は福岡を中心にレベルの高さで知られていたが、近年は毎年花園で優勝候補筆頭に挙げられる東福岡に戦力が一極集中している影響で、かつての名門だった佐賀工や大分舞鶴は苦戦を強いられており、特に大分舞鶴は花園予選の勝ちあがりすら難しくなってしまった。また90年代に旋風を巻き起こした長崎勢も低迷するなど九州全体における地盤沈下が著しい。
社会人リーグはジャパンラグビーリーグ(旧・トップリーグ)といわれ、12チームが覇権を争っている。特に社会人リーグ時代の新日鐵釜石(現釜石シーウェーブス)と神戸製鋼スティーラーズの7連覇は今も語りぐさになっている。
誕生
1823年、イングランドのパブリックスクールであるラグビー校においてフットボールの試合が行われていたときに、生徒の一人であるウイリアム・ウェブ・エリス少年がボールを持ち走り出したことが起源と言われている。
なお、ここでいうフットボールは現在のサッカーのことではなく、もっと原始的な「フットボール」のことであり、手を使うことはルールとしてアリだったらしい。「ボールを持って走った」 ことでラグビーフットボールが産声を上げたである。実際かなりあいまいな部分もあるのかもしれないが、記録として残されているのがエリス少年の事例のみであるため、これが起源というのが定説になっている。ちなみにラグビーワールドカップの優勝カップはウェブ・エリス・カップという名前である。
その後ラグビースクール・フットボールとして人気スポーツとなったが1863年にフットボール・アソシエーション(FA)が誕生、「ゴールキーパー以外は手を使えない」、「相手を蹴ってはいけない」などのルールを作成し現在のサッカー・フットボールが生まれた。
この時にルールに反対してFAを脱退した一部のクラブチームの代表たちが1871年にラグビー・フットボール・ユニオン(RFU)を設立し、正式にラグビーフットボールが誕生した。
ラグビーの美徳とプロ化
英国紳士たちが生み出したラグビーの美徳として有名なものに”No side精神(試合が終わったら敵味方は忘れる)”、”One for all,all for one(一人はみんなのために、みんなは一人のために)”というものがある。
一般には有名ではないが重要なものとして、アマチュアリズムというものがある。ラグビーはかなり過酷なスポーツであるが、当時のスポーツとしても珍しく報酬を求めないことを美徳としていた。
学生のうちはまだしも仕事と並行して趣味でスポーツをするのはなかなか難しく、まして数あるスポーツの中でも危険な部類に入るラグビーである。「金ももらわずにこんなんやってられっか!」と思うのも無理はない話である。
そのためイングランド北部ではノーザン・ラグビーフットボールユニオン(NRFU)が設立され、プロとして報酬が存在する22のプロチームから成るラグビーリーグが発足した。これは現在「ラグビーリーグフットボール」として発展しており、「1チーム13人で行う」「ラック、モールといった密集を排除した」など日本で一般に言われるラグビーとは似て非なるスポーツである。(詳しくは「ラグビーリーグ」に参照)
一方でイングランド南部ではケンブリッジ大学vsオックスフォード大学戦に代表されるアマチュアリズムを守ってのラグビーが続いていた。上記のリーグラグビーに対してこちらはユニオン・ラグビーフットボールであり、日本で一般に言われるラグビーはこちらである。
ユニオンからリーグへの選手の流出問題や、リーグに所属した選手のユニオンへの受け入れ拒否など、長い間ユニオンとリーグは対立関係にあった。
1987年、第一回ラグビーワールドカップが行われたことをきっかけとして、ついに1995年にラグビーユニオンがプロを容認した。日本でも2003年にジャパンラグビートップリーグが発足した。2022年にジャパンラグビーリーグワンが発足する。
ナショナルチーム
ラグビーが他のスポーツと大きく異なるのが、ナショナルチームに外国人が参加可能であるという点である。外国人であっても、他国の代表選手としてプレイしたことがない[1]れかの条件を満たせばよい。
- その国・地域で出生したこと
- 両親及び祖父母のうち少なくとも1人が、その国・地域で出生したこと
- その国・地域に36ヶ月(2020年12月31日以降は60ヶ月)以上継続して居住し続けていること
- その国・地域に累積10年以上居住していること
これにより、ほとんどの国で外国人が参加したナショナルチームを結成している。実際、2015年のラグビーワールドカップで完全な純国産チームだったのは20チーム中アルゼンチンのみだった。
36か月以上継続居住の条件が設定されている理由として挙げられるのが、イギリス人が現地の代表となれるようにするためというものである。すなわち、かつて植民地を多く持っていたイギリスで、ラグビー選手がその植民地に行き、そこでラグビーを広めてそのままそこに居住し続けた時に、そこの代表として参加できるようにというものである。
この条件はあくまでもワールドラグビーが主催する大会におけるものであり、オリンピックの7人制ラグビーではオリンピック憲章が優先され、外国人選手は参加できない。
なお、イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに分かれているが、サッカーと違って北アイルランドとアイルランドは統一チームを組んでいる。また、もともとイギリスの各王国+アイルランドの合同チームであるブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズを結成しているからか、オリンピックにもイギリス代表として合同チームが結成されている。
Tier
ラグビーでは他のスポーツでもよくある世界ランキングの他にTierという分類も存在する。このTierは1~3に分けられており(Tier3はさらに2段階に分けられているため実質4段階)、Tier1が強豪国なのだが、この分類に関しては特に厳密な決定方法というものは存在しない。
Tier1(ハイパフォーマンスユニオン)はシックス・ネイションズの参加国であるイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリアの6ヶ国とラグビーチャンピオンシップの参加国であるニュージーランド、南アフリカ、オーストラリア、アルゼンチンの4ヶ国、そして日本の計11ヶ国となっている。
ワールドカップでベスト4に入ったことがあるのはTier1の国のみで、アイルランド、イタリア、日本以外の8ヶ国がベスト4の経験がある。イタリアはTier1では最も下位で、唯一ベスト8にも入ったことがない。
Tier2はパシフィック・ネイションズカップの参加国であるカナダ、アメリカ、フィジー、サモア、トンガの5ヶ国と欧州国際選手権の通算成績上位5ヶ国のジョージア、ルーマニア、ロシア、ポルトガル、スペイン、アフリカで南アフリカに次ぐ強さのナミビア、南米でアルゼンチンに次ぐ強さのウルグアイの計12ヶ国となっている。
ワールドカップでベスト8に入ったのはカナダ、フィジー、サモアのみ。いずれも準々決勝で敗退している。Tier2だったアルゼンチンが2007年に3位となったのが最高で、そのアルゼンチンは2011年にベスト8となった後にTier1に昇格している。
Tier3-1はベルギー、ドイツ、ブラジル、チリ、コートジボワール、ケニア、ジンバブエ、香港、韓国の9ヶ国・地域。Tier3-2は多すぎるので国名は列挙しないが、ヨーロッパ28ヶ国、米州(メキシコ+中南米カリブ)26ヶ国・地域、アフリカ19ヶ国、アジア21ヶ国・地域、オセアニア7ヶ国・地域の計101ヶ国となっている。
ポジション
ラグビーは1チーム15人で行われ、フォワード8人、バックス7人で形成される。
スターティングメンバーの背番号はポジション毎に固定になっている。
① ② ③
④⑤
⑥ ⑧ ⑦
⑨
⑩
⑪ ⑫ ⑬ ⑭
⑮
フォワード
スクラム(バスケットボールでいうところのジャンプボールみたいなもの)、ラインアウト(サッカーでいうところのスローイン)などのセットプレーを行う。相手に当たり負けない体の大きさ、力の強さなどが要求される。
プロップ(Prop,PR)
直訳で「支柱」。No.1とNo.3の2名がいる。スクラムを支える役目であり、重量やパワーが重視される。
フッカー(Hocker,HO)
直訳で「引っ掛ける人」。No.2の1名のみ。スクラムに投入されたボールを最初に引っ掛ける役目である。
ロック(Lock,LO)
直訳で「固定」。No.4とNo.5の2名がいる。スクラムを固定する役目であり、上背や体格が重視される。
フランカー(Flanker,FL)
直訳で「側面の人」。No.6とNo.7の2名がいる。遊撃手的役目であり、スピードやタックルの上手さが重視される。
ナンバーエイト(No.8)
直訳で「8」。No.8の1名のみ。スピード、パワー、テクニック、フォワード統率力など全てが求められる万能性が必要なポジションである。
バックス
攻撃時はフォワードから供給されたボールを前進(ゲイン)させるのが目的。足の速さやパス、キックの上手さが要求される。守備時はディフェンスラインを引き、また相手のキックに備える。
スクラムハーフ(Scrum Half,SH)
直訳で「スクラム半分」。No.9の1名のみ。スクラムにボールを投入する役目だけでなく、フォワードとバックスの中間位置でフォワードとバックスを繋ぐ役目であり、敏捷性や判断力、パスの上手さが重視される。
スタンドオフ(Stand Off,SO)
直訳で「離れた位置」。No.10の1名のみ。スクラムハーフから供給されたボールを、バックスへ展開する役目であり、判断力やキック力が重視される。日本でのみスタンドオフと呼称されるが、海外では一般にフライハーフと呼ばれる。
センター(Center Three quarter Back,CTB)
直訳で「真ん中」。No.12とNo.13の2名がいる。切り込み役であり、攻守において当たりの強さが重視される。
ウィング(Wing Three quarter Back,WTB)
直訳で「翼」。No.11とNo.14の2名がいる。ポイントゲッターであり、スピードが重視される。
フルバック(Full Back,FB)
直訳で「一番後ろ」。No.15の1名のみ。スピード、パワー、テクニック、判断力など全てが求められる万能性が必要なポジションである。
ラグビーの得点方法
ラグビーには4種類の得点方法がある。
- トライ:相手のゴールエリアにボールを置いたら5得点。トライした地点から垂直に下がった位置からコンバージョンキックでさらに追加点を狙えるので、できるだけゴールポストに近づけてトライを行うことが多い。
- コンバージョンキック:トライのあとにもらえるボーナスキック。ゴールポストの間に決めれば2得点。
- ペナルティゴール(PG):相手の反則によって得たペナルティキックをゴールポストの間に決めれば3得点。
- ドロップゴール(DG):地面に落ちているボール、もしくは地面に落としてワンバウンドさせたボールをキックしてゴールポストの間に決めれば3得点。なかなかお目にかかれず、特に日本においては珍しいプレー。ちなみに、ボールをバウンドさせてキックをスカった場合ノックオンになるのでとても恥ずかしい。
ルール
ラグビーがメジャーになりきれない理由の一つが、複雑なルールにある。アメリカ人に至っては、No.1じゃないのは嫌だ こまけぇこたぁいいんだよ!ということでアメリカンフットボールを作ってしまった(アメフトの方がルール複雑じゃね?というツッコミは無視)。
大原則として「ボールより前にいるプレーヤーはプレーに参加できない」ことがある。ボールより前でプレーするとオフサイドとなる。また、ボールを持っている選手以外へのタックルは禁止されている。
反則の程度によってゲーム再開が3通りに分かれる。本記事では、緑色はスクラムとなる軽いミス(ハンドリングエラー)、橙色はフリーキックとなる軽い反則、赤色はペナルティキックとなる重い反則を色文字で示した。
試合の流れは簡単で、前半40分、後半40分の先攻、後攻で試合を行う(大学以上の場合)。その間にボールを持って走り、後方にパスを繰り出したり、前方にキックしたりして、相手のタックルを躱したりブレイクダウン(後述)を制したりしながら、トライ(5点+コンバージョン2点で最高7点)やキック(3点)により、得点を競う。サッカーなどのようなアディショナルタイムはない代わりに、前後半終了のホーンが鳴っても、現在攻撃権を持っているチームのプレーが止まらない限り(ボールが外に出る。あるいは反則を起こす)プレイは継続される。試合終了をノーサイドというが、これは日本固有の呼び名であり、国際的にはフルタイムという。
選手交代は、かつては怪我人を除いて交代できないというとんでもないものであったが、今日では7人まで交代要員を用意できる。しかし、一度交代すると交代を告げられた選手はその試合に出ることはできない(サッカーと同じようなルール)。
このプレーの流れを前提に、以下のルールが適用される。そしてラグビーを楽しむ以上、最低限この3つのルールは覚えておきたい。他にも頻繁に発生する重要なルールは太字で示した。
それからこんなルールもある。
だが、反則が起こってもゲームを中断することで反則を起こされたチームが不利になる場合は、審判の判断で一時的に「流す」ことが多い。これをアドバンテージ・ルールといい、まずルール違反のペナルティよりアドバンテージありきでプレイが継続する。そして、反則を起こされて不利な条件になった時にそのルールを遡って適用する(同じ程度の反則なら相殺される)。また、反則によるアドバンテージを得てからでも30m~40m程度ゲイン(進むこと)すると審判の裁量によりアドバンテージが消失する。
また、トライが確実に決まる状態で相手側がそれを妨げるような悪質な反則を起こした場合は認定トライといって、トライが認められる。それだけでなく、悪質な反則を行った選手は10分間の退場を命じられる(この選手退場をシンビンという)など極力反則チームをしなかったチームに対し、有利に働き掛けるようなルール構成となっている。
これ以外にも細かいルールがたくさんあり、全部で180以上もある。特に密集(モール、ラック)際のルールは随時改訂されつづけているため、全部覚えるのは容易ではない。が、試合を見るだけなら上記を覚えておけば十分だろう。
タックルに関するルール
以下のタックルに関するルールも覚えておくと、試合の展開がより深く分かってくる。特に試合の流れを左右する、ボールの展開に対する反則は頻繁に登場する。なお、タックルによって相手がボールを離した後、ボールを争奪しにいく状態をブレイクダウンという。
- ボールを持っていない相手をタックルしてはいけない(ノーボールタックル)。
- 相手を捕まえずに肩だけでタックルしてはいけない(ノーバインドタックル)。
- タックルで倒された時に、相手側に倒れたりしてボールを隠したりしてはいけない(オーバーザトップ)。
- タックルで倒されたら、ボールを持っていた選手はすぐにボールを離さないといけない(ノットリリースザボール)。
- タックルして相手を倒したら、タックルした選手はすぐに倒した相手を離さないといけない(タックルホールディング)。
- タックルした選手は、タックル後にボールの動きを妨げないために、その場から離れないといけない(ノットロールアウェイ)。
- 相手の誰かがパスを投げた後、パスを受ける前の相手にタックル(アーリータックル)、またパスを投げ終えた相手へのタックル(レイトタックル)もいけない。
- 肩より上の部分でタックルしてはいけない(ハイタックル)。また、ラリアットのように腕を使って首を攻撃してはいけない(スティフアームタックル)。これらの危険なタックルは、イエローカード以上をもらうことが多い。
- 2人がかりでタックルしてきた相手を妨害してはいけない(オブストラクション)。ただし、相手に触れなければ、援護は可能。
- 1対1でタックルが成立したらタックル地点(通称タックルボックス)という枠ができるが、味方選手はタックルボックスの後方(自陣)からゲームに加わらないといけない(オフザゲート)。一見ややこしいルールだが、冷静に考えればやはりオフサイドの原則を守っている(ボールより前方で選手がボールを扱うことになるため)
- タックル地点に飛び込んでプレーに参加してきてはいけない(ダイブイン)。
セットプレー・密集プレー
セットプレーと密集プレーは覚えておくとより試合展開を楽しめるだろう。
セットプレー(スクラムとラインアウト)
いずれもセットプレーとして頻繁に見るプレーであり、特にスクラムはラグビーの特徴的なシーンとして語られることが多く、フォワードが務まるのはスクラムありきと言われるほど重要な要素である。
- スクラム
相手がボール操作のミス(ハンドリングエラー)を起こした場合、スクラムというセットプレーで再開される。また、ペナルティキックやフリーキックになる反則でもスクラムを選択することが可能。スクラムはフォワード8人同士が審判の合図(2013年からはクラウチ→バインド→セットとなって、最初から組み合うことで衝撃を減らしている)に従い、しっかり組み合ってボールが地面に投げ込まれた後、御互いに相手を押し合いながらバックスの味方に行き渡るまで続けられる。審判の合図に従わなかった場合はアーリーエンゲージ、ボールを入れる前にスクラムで押してしまった場合はアーリープッシュ、ボールをまっすぐ投げいれなかった場合はノットストレート(スクラムにおける適用)となり、いずれも相手側のフリーキックとなる。また、手を使ってボールを掻き出すことは反則(ハンド)になり、足でボールを掻き出さないといけない(但し、最後尾のナンバーエイトが手を使ってボールを持ち出す行為は黙認される)。ボールが掻き出され、誰かの手に渡れば、スクラムは解除される。腕の組み方が悪くわざとスクラムを崩したりした場合は反則(コラプシング)となる。膝を付いた場合もスクラムが崩れやすいので反則(ニーリング)。また、スクラム中は、バックスはスクラム最後尾から5m以上(ライン換算)離れないとオフサイドになる。 - ラインアウト
ボールを蹴ってサイドラインの外に出た場合、あるいはボール保持者が外に出た場合はタッチという試合停止状態になる。そして、タッチの後はラインアウトというセットプレーで再開される(キックした場合の再開の位置については細かいので省略)。ラインアウトとなると、サイドラインから5mライン、15mラインの間に各チーム最低2人以上(通常はフォワード7人が並ぶことが多い)が、1mの間隔を空けて一列ずつ並ぶ。人数はボールを投入する側が決め、ディフェンス側はそれより多くてはならない。そして、ボールを外に出したチームと逆のチームがボールをラインのど真ん中(ラインオブタッチ)に投げ(まっすぐ投げないとノットストレートという反則となる)、お互いがボールを奪い合う。このときに、ボールを投げいれた後ならばリフティングといって、ボールを捕球するために味方選手を持ち上げてもよい(組み体操のように選手を持ち上げている光景を一度は見たことがあるだろう)。誰かがボールを確保した段階で、ラインアウトは解除される。また、ラインアウト中、他の選手はラインオブタッチから10m以上ないとオフサイドになる(自陣ゴールラインまで10m以内だった場合はゴールラインより後方であればよい)。ただし、15mラインを越えるロングスローインをした場合に限り、スロワーの手からボールが離れた瞬間にオフサイドラインを越えてもかまわない。
他にも、クイックスローインといって、自陣ゴールに向かって5m以上ならば、ラインアウトが形成される前にボールを投げいれることもできる。
密集プレー(ラックとモール)
この二つも試合中によく見る状態であるが、スクラムとの違いはセットプレーではなく、試合中に、能動的に形成される。また、ラックとモールのいずれも、参加するためには最後尾の選手より後ろから参加しないとオフサイドになる。
- ラック
地面にボールが地面に落ちた状態で、選手がボールをめぐり2人以上密集することで、ブレイクダウンの一種。ラックが形成されると、スクラムと同様に手を使ってボールを掻き出すことは反則(ハンド)になる。足でボールを掻き出すか、ラックに参加している相手選手を押し込んで、その場所からどかせた後、ラックに参加していない選手がボールを確保するかしないといけない。また、タックルが起きた後にラックが形成されることが多い。
- モール
一人の選手がボールを保持した状態で、ボール保持側の選手が2人以上、ボールを奪う側の選手が1人以上が密集することで、最低3人必要になる。タックルによって相手が倒れなかった場合、あるいはラインアウト直後に形成されやすい。また、モールを形成したまま動くこともできる(ドライビングモールという)。尚、モールはタックルが成立していないのでブレイクダウンではない。モールが5秒以上止まった場合はスクラムとなる。
キック
先に述べたように、ラグビーはボールを前に投げることはできない。しかし前にボールを蹴ることは許されているため、"陣取り合戦"であるラグビーにおいてキックは試合を有利に進めるために欠かせないものである。また、相手チームの反則によって与えられるフリーキック、ペナルティキック等、セットプレーとして行われるキックもある。これらのキックについて解説する。
キックの蹴り方
ラグビーのキックは、蹴り方によって3つに分けられる。
- プレイスキック
ボールを地面に置いた状態、もしくはプレーサーと呼ばれる台座に置いた状態で行う。落ち着いて助走して蹴ることができるため、精度が高い。ただし、プレイスキックを蹴ることができる機会は限られている(後述)。 - パントキック
ボールを前に投げて、そのまま蹴る。通常プレイ中は常に蹴ることが可能なので、おそらく最も見る機会が多いキック。 - ドロップキック
ボールを一度地面にバウンドさせてから蹴る、特殊なキック。キックオフ, 試合再開時, ドロップアウト等のキックは、ドロップキックで蹴らなければならない。
キックの種類
キックは通常プレイ中のキックとセットプレーでのキックに分けられる。
通常プレイ中のキック
通常プレイ中のキックは、ボールを前に進める(陣地を取る)ために行われることが殆ど。通常プレイ中のキックの中でも、特徴的なものを説明する。
- タッチキック
ボールを外に蹴り出すキック。基本的には、ボールが外に出た地点で相手ボールのラインアウトで再開される。ボールを相手に渡すことになるが、陣地を大きく回復することができる。
なお、自陣22mラインより前でのキックがノーバウンドでタッチに出た場合は、キックを蹴った地点で相手ボールとなる(22mルール, 実際はもっと複雑だが割愛)。陣地を取れずにボールを奪われることになるため、ミスプレイとされる。 - キックパス
味方にボールをキャッチして貰うことを狙うキック。相手の背後に蹴ったボールを味方が取れば、ディフェンスを突破する大チャンスとなる。しかしキックを蹴る側にも受ける側にも高いスキルが要求される。 - ドロップゴール
通常プレイ中にドロップキックでゴールすると、ドロップゴールとなり3点が入る。難易度が高く、珍しいプレー。
セットプレーのキック
セットプレーのキックのうち、PKとFKの際にはディフェンスは10m以上後退しなければならない。また、PKやFKとなった場面で、状況に応じてスクラムかラインアウト(2013年より適用)を選択することもできる。
- ペナルティキック(PK)
ペナルティキックは、PK適用となる重度の反則を犯した際に、起こされた側が行うことができるキックである。PKを直接ゴールすると、ペナルティゴールとなり3点が入る。精度の高いプレースキックで蹴ることが可能であり、相手チームも邪魔することができないので、得点が入りやすい。
また、PKをタッチに蹴り出して、陣地を稼ぐことも可能である。この場合、22mルールは適用されず、さらにキックを蹴ったチーム側のラインアウトで試合が再開される。
PKは得点もしくは大きな前進を狙う大チャンスであるため、試合を優位に運ぶには、規律を守ってなるべく相手にPKを与えない必要がある。 - フリーキック(FK)
フリーキックは、FK適用の反則を起こした場所から行うキックである。FK適用の反則は、セットプレーにおける軽微な反則が多い。FKはPKと異なって直接ゴールすることが不可能で、タッチに蹴り出した際も通常のキックと同じように扱われる(22mルールが適用され、相手ボールとなる)。また、相手チームからの邪魔も許可されている(10mの距離があるが)。
総じて、”通常プレイよりは少し落ち着いて蹴ることができるキック”といったもので、PKほどのチャンスではない。よってスクラムに変更することや、ちょん蹴りを行うことも多い。
ちょん蹴り:PKやFKにおいて、ボールをほんの少しだけ前に蹴ってから自分でボールをキャッチし、そのままプレーを再開すること。PKやFKのディフェンスは10m下がらないといけないため、上手く意表を突けばチャンスとなる。 - ドロップアウト
特殊なFKのようなもの。FKと異なるのはディフェンスの位置で、ディフェンスが前に出ることができるラインが定められており、キッカーはこのディフェンスから適度な距離を取ってキックを行う。また、このキックはドロップキックで行う。
自陣22m以内で相手の蹴ったボールを”マーク”と叫びながらキャッチする(フェアキャッチ)、相手のDGやPGが失敗する、攻撃側の蹴ったボールが防御側の一番後ろのライン(デッドライン)を越える等があると、22mラインでのドロップアウト、攻撃側の持ち込んだボールを防御側の選手がインゴールにグラウンディングする等があると、ゴールラインでのドロップアウトが与えられる。 - キックオフ/試合再開のキック
ドロップキックで行う。必ず10m以上前に蹴る必要がある等のルールがあるが、複雑なので割愛。 - コンバージョンキック
トライの後に蹴るキック。プレースキックで蹴ることができ、ゴールが決まると2点。
キックを蹴る場所はトライした地点から後ろに下がった地点である。つまり、端にトライするとキックを端から蹴る必要があり、ゴールが難しくなる。そのため、余裕があれば真ん中にトライすることが望ましい。
ただ、各国代表レベルのキッカーともなれば、端からも高い成功率でゴールを決めることができる。
日本のラグビー
日本ラグビーの国際試合における苦難の歴史
日本におけるラグビー人気は1970年代に一時的に流行したがその後は低迷しており、サッカーや野球などの人気スポーツとは大きく差がついている。2003年にラグビーのプロリーグであるトップリーグが発足したが、まだ一般の知名度は低く、人気でも早慶戦や早明戦などの大学ラグビー、花園(全国高校ラグビー選手権)には及ばない状態である。
ラグビー日本代表のファーストジャージーのデザインは赤に白の横線。胸に桜のエンブレムを付けた「桜のジャージ」が伝統で、海外ではチェリーブロッサムズやブレイブブロッサムズ(桜の勇士)あるいは単にブロッサムズと称される。国内のラグビーファンは古くから単純に「ジャパン」と呼ぶことも多い。
世界における日本のラグビーはまだまだ弱小国である。第7回までのラグビーワールドカップ全てに参加しているが、戦績は24戦中1勝21敗2分。当然ながら予選リーグを突破できたことは一度もない。
第7回(2011年)までの唯一の勝ち星は第2回(1991年)のジンバブエ戦(52‐8)と大差をつけたとはいえかなりの格下相手であった。また敗戦の中では第3回(1995年)に世界最強と名高いオールブラックス(ニュージーランド)戦とはいえ国のW杯史上最多得失点差となる17-145という歴史的惨敗をリザーブ主体の相手に喫している。2回の引き分けも確実に勝てると踏んでいた第6回(2007年)、第7回(2011年)のカナダ戦であり、実質限りなく負けに近い引き分けであることを考えると散々な成績である。
スーパーラグビーにサンウルブズ参戦(2016年~)
2016年
2016年に世界最高峰の国際ラグビーリーグであるスーパーラグビーにトップリーグの選抜チームであるサンウルブズが初参戦したが、1勝1分け13敗と最下位に沈み、特に7試合目のチーターズ(南アフリカ)には17-92と記録的な惨敗を喫した。この試合後、2015年当時のW杯における日本代表のヘッドコーチで現イングランドの代表監督であるエディー・ジョーンズ氏から「ラグビーチームとして恥、勝てないのに喜ぶ古い日本のラグビーチームに逆戻りした」と馬鹿に批判され、日本国内や海外からも弱すぎて参戦した意味があるのか?という声も聞かれる有様であった。唯一の1勝もサンウルブズと同じく初参戦だったアルゼンチンのジャガーズに勝ったのみで、南半球3強(ニュージーランド・オーストラリア・南アフリカ)のチームからは1勝も上げられず、レベル差がありすぎるのを痛感する形となった。
ただし、上記はサンウルブズのチームの準備が日本ラグビー協会の内部対立などで遅れ、また各トップリーグのチームも主力を出し渋った影響があったのは追記しておきたい。
2017年
参戦2年目となり雪辱を帰すとの意気込みでのぞむも、プレシーズンマッチでサンウルブズ以外のトップリーグ選抜チームと練習試合を行ったが敗北寸前まで追い込まれ、何とか逆転勝ちしたものの、スーパーリーグ開幕前からすでに暗雲が漂っているといっても過言ではなく、前途多難な状態にあった。結局スーパーリーグ開幕戦のハリケーンズ(ニュージーランド)に17-83で大敗すると、その後も調子は上がらず、特に13試合目のライオンズ(南アフリカ)には7-94とスーパーリーグ史上最多タイとなる14トライを献上して惨敗を喫するなど、最終的に2勝13敗に終わった。特に守備面が破綻しており、失点は昨年より大幅に増加するなど大敗が目立った。
しかしその一方で6試合目のブルズ(南アフリカ)に21-20で勝利して南半球3強の所属チームから初勝利を挙げ、最終戦ではブルース(ニュージーランド)に48-21で快勝するなど意地を見せ、最終的に2勝をあげたことで、今シーズン1勝1分13敗と大不振だったレベルズ(オーストラリア、今季サンウルブズとは対戦なし)の成績を上回り、18チーム中17位と最下位を脱出するのには成功した。また昨年に記念すべき初勝利をあげたアルゼンチンのジャガーズには11試合目で対戦して逆転負けを喫して雪辱を許したが39-47と大激戦を繰り広げるなど悪い試合ばかりではなく、接戦を落とさない勝負強さを身に着けることが来季以降の課題になりそうである。
そして……
3年目も3勝13敗と相変わらず成績が上がらず(15チーム中最下位)、それも響いたのか日本のやる気のなさも相まって2020年限りであっさりとサンウルブズはスーパーラグビーから追い出される羽目になった。
なお2019年は参戦4年目と言うことで軌道に乗ってきたのか、2019年4月13日時点では2勝6敗ながらスコアに関しては敗戦時でも善戦してる試合が過去3年より格段に多く、サンウルブズとしてはようやく強化と戦術が功を奏してきた矢先のことであり、寝耳に水を浴びせられるような出来事であった。関係者や日本のラグビーファンからしても無念であっただろう。
なお除外が確定し糸が切れてしまったと言うわけではなかろうが、サンウルブス4年目のシーズンは最終的に9連敗を喫し、2勝14敗と2年連続3回目の最下位に終わった。特に11戦目のハイランダーズに0-52と惨敗したあとはまともな勝負にならない試合がほとんどであり、また最終戦ではサンウルブズと同時参戦のジャガーズに10-52と屈辱的な大敗を喫するなど、最終的にはふがいない試合を繰り返した初年度と大差ない得失点差に終わり、2020年の最終参加を前に何とも言えぬほどの惨状となった。撤退後は現在構想中の新規プロリーグへの参入が検討されている。
ラグビー日程の変革
上記のサンウルブズの大敗を受け、ラグビーの日程全体にもメスを入れることを日本ラグビー協会が主体となって動いている状態にある。
例えば日本の社会人以降のラグビーのシステムは高卒の叩き上げを育てるのではなく、大卒を即戦力で取る方針に1980年代頃から転換したのが影響したのか、社会人と大学生との実力差は開く一方であったが、「1989年以後に大学勢が社会人のトップチームからわずか2勝しか挙げられていない」「日程短縮による負担の軽減」「日本代表&サンウルブズの集中強化」の3つを大義名分の理由として、2017-2018年シーズンからラグビーの日本一を決める日本選手権の参加枠から大学枠を廃止するという大胆な改革が実施される。
上記の変更は目先のW杯に向けた国際代表強化を最優先するあまり、大学ラグビーの一層の地盤沈下を招き、長期的には日本ラグビーの更なる弱体化を招くのではないか?と懸念する声もあるほか、アマチュアチームの参加を許さない大会など、もはや日本選手権でもなんでもなく、大会そのものを存続させる意義があるのか?という声が出てくることも予想されるが、これらを封殺する結果を出すことが一層求められていると言えよう。
日本代表のW杯、そして五輪7人制での躍進(2015-2019)
上記のような課題点はまだまだあるものの、日本代表そのものは近年地力がついてきており、2012年11月に日本代表が海外遠征の試合で初勝利を挙げている。相手はグルジア(現ジョージア)、ルーマニアと格下チームではあるが確かな進歩である。
また日本人選手の田中史郎選手、堀江翔太選手(共にパナソニック所属)らが2013年からスーパーラグビーのチームと契約している。スーパーラグビーとはラグビー強豪国であるニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの15のクラブチームで争われる世界トップクラスのラグビーリーグであり、野球で言うところのメジャーリーグ、サッカーで言うところのセリエAである。両選手の今後の活躍が期待される。
そしてついに2015年の第8回W杯本選のBグループ初戦で南半球3強の一角にあたる強豪スプリングボクス(南アフリカ)戦で終了間際のロスタイムに逆転勝ち(34-32)し、W杯における2分けを挟んでの連敗を16で止めた。ラグビーはアップセットがまず起こらない競技(世界ランク10位以下のチームが南半球3強の正代表に勝ったことはこの試合まで皆無だった)として知られており、世界ランキング13位の日本が同3位の南アフリカからあげたこの大金星は「ラグビー史上最大の番狂わせ」としてラグビー業界のみならずスポーツ業界通してですら衝撃を与えた。残る3試合は過去1勝しか出来てない古豪スコットランドには敗れたものの、過去の戦績では分が悪かったサモアとアメリカに勝って予選プールで3勝1敗としたが、勝ち点で及ばず3位でプール戦敗退となった。ちなみに過去のW杯において3勝を挙げながら予選プールで敗退したのも史上初である。
また2017年のテストマッチでは強豪フランスと引き分けたほか、ライバルであるトンガに39-6で圧勝するなど結果を残したほか、2018年には同じく格上であるイタリア相手に1勝1敗と健闘した。
2019年の日本開催のW杯前のテストマッチでは7人制の強国で知られ、15人制での過去戦績も3勝14敗と分の悪かったフィジーに34-21と8年ぶりに勝利。ライバルのトンガには41-7で快勝、アメリカにも34-20で勝利するなど3戦全勝と好調を維持している。
なお2019年W杯では過去の対戦成績では日本が圧倒的に分が悪いイギリス勢のうち、過去未勝利のアイルランドと前回大会で大敗を喫したスコットランドの2国が同グループ。特にアイルランドは2017年のテストマッチを含め、全試合ダブルスコア以上で完敗している日本に取って極めて相性が悪い難敵。スコットランドも過去の対戦で1勝、かつ接戦になった試合もそれなりにあるが、逆に前回のW杯のように大敗した試合も多く、やはり日本に取って格上の強敵となる。また前回大会ではチームの勢いの差がもろに出たために快勝できた上、ここ数試合では割と分がいいサモアも過去の対戦戦績では4勝11敗であり当然侮れない。目標とするベスト8入りには、まず開幕戦で過去5勝1敗と分がいいロシア戦で弾みをつけ、サモアにも勝利するのが最低条件。かつアイルランドかスコットランド相手に最低1勝しなければならないと言う厳しい状況である。
いよいよ始まった2019年W杯では開幕戦のロシアに対し30(4トライ)-10とトライ数によるボーナスポイント1を含め勝ち点5を獲得。そして世界ランキング2位の強豪・アイルランド相手に19-12で逆転勝利。2016年に引き続き大金星を挙げた。この勝利は前回大会の南アフリカを破った1戦と同様「ラグビー史上最大の番狂わせ」、試合会場が静岡(小笠山総合運動公園エコパスタジアム)であったことから「静岡ショック(Shizuoka shock)」とも呼ばれている。3戦目のサモアにはロスタイムで4つ目のトライを奪うという劇的な展開で38-19で勝利。台風での中止も憂慮される中で無事開催された4戦目のスコットランド戦では一時21点差をつける猛攻を見せる。終盤に追い上げられるも28(4トライ)-21で逃げ切り、4連勝で勝ち点19とし、初の決勝トーナメント進出。準々決勝では南アフリカにノートライで敗れたものの、令和元年台風第19号などの大きな災害に直面した日本列島に大きな勇気と希望を与えた。
7人制ラグビーの躍進と急滑落(2016~)
2016年のリオデジャネイロ五輪では初採用された7人制ラグビーで下馬評を覆して見事ベスト4に進出した。予選リーグではイギリスに敗れたものの、ニュージーランドを降す番狂わせを演じ、ケニアも降して2勝1敗で予選リーグを通過、決勝トーナメント緒戦ではフランスを降した。準決勝で優勝したフィジー、3位決定戦では南アフリカと7人制世界ランキング1~2位の強豪には完敗したが、7人制では当時世界ランキング15位の日本は十分に旋風を巻き起こしたと見ていいだろう。
……がその勢いは続かず上位進出が期待された地元開催の21年東京五輪の7人制ラグビーは12チーム中11位と毎年惨敗を喫していた7人制W杯同様の結果に逆戻りする。初戦で本来の動きからほど遠かったフィジー(最終的には五輪二連覇)を相手に接戦の末に落とすと、前回大会では接戦だったイギリスに0-34で零封負けを喫し、さらに同格のカナダにも12-36と全くいいところなく大敗する。さらに9-12位の順位決定トーナメント初戦で前回大会では圧勝したケニアにも7-21と完敗し、実質的な最下位が確定。最終戦の韓国こそ勝利したが、韓国は日本が開催国で出れていたからこその出場で圧倒的な格下であり、どうやっても負ける相手ではなかった(かつてのW杯でジンバブエに勝ったようなもの)ことを考えれば19-31と大苦戦したことまで含めてまったく喜べない結果である。
惨敗の要因としては日本ラグビー協会の迷走であろう。リオ五輪で4位に入った際の瀬川HCが続投を希望してたにも拘らずメダルを取れなかったという理由で解任(表向きの記事では勇退にされているあたり、全く期待されてなかった7人制が予想外の快挙を成し遂げたことで、その実績を掠め取りたかったとしか思えないラグビー協会上層部の意向が垣間見える闇深さ)されたのを皮切りに、後任として就任した海外出身のHCもラグビー協会が意思疎通をおろそかにしたことで結果的に解任に到る。そしてその後任HCが17年以降に多忙を極めていた岩淵氏という謎人選であり、7人制男子ラグビーを専門に指揮する上ではマイナスでしかなかったことである。その結果として指導も戦術方針も一致できず、方向性を習熟できなかったことが結果的に海外勢に対してフィジカルで劣る日本に劣って最悪の結果を招いたと言ってよい。
その悪い流れを引きずったまま、2022年の7人制ワールドカップのアジア予選においてグループリーグこそ全勝で突破したが、肝心の準決勝で格下の韓国に14-21で敗退して早々に予選敗退が決定、史上初めて7人制W杯の本大会出場すら逃す大惨事に繋がった。さらに2023年のアジア大会でも準決勝でライバルの香港に7-12で敗戦し、3位決定戦でも格下の中国に21-19と辛うじて逆転する辛勝にとどまった。
この流れの悪さからしてもフランスで行われる24年五輪では結果を残す以前に、本戦出場に進めるかどうかの瀬戸際に立たされ、アジア予選においてワールドカップ予選で敗れた韓国に31-0と大差で雪辱するも、中国に14-21で敗戦するチグハグな出来で3チームが2勝1敗で並ぶ事態となり、韓国につけた大差のおかげで辛うじて得失点差で予選リーグを通過。それでも決勝ではライバルの香港を21-14で振り切り、意地でパリの切符を掴み取った。
その後の日本ラグビーは……
2020年にコロナショックもあったことで、スーパーリーグはシーズン半ばで中止され、サンウルブズは期限よりも早くに解体、日本代表も国際試合が大幅に減らされたことで日本ラグビー界の国際事情は停滞し、2年以上も日本代表としての強化試合が激減。2022年後半になってようやく強化試合の日程が戻りつつある。
2023年5月、ワールドラグビーのTier1再編に伴いトップティアのハイパフォーマンスユニオンへの昇格が決定。実績で見れば7人制ラグビー五輪2連覇やW杯8強3回など日本よりずっと上の実績を残しているフィジーのほか、日本とほぼ同格の代表チームを持つサモアやトンガがTier2に据え置かれたことから、テストマッチ全般で安定したパフォーマンスが残しているというより、直近2回におけるW杯の実績や国内のプロラグビーリーグ(実態はセミプロだというのは置いておくとして)再編が進んだことなどが評価されたとも言える。しかしながら、2023年のパシフィックネイションズカップで1勝2敗となったことやテストマッチの連敗が続いたことで世界ランキングは14位まで落ちてしまった。
2023年のW杯に行われた強化試合は前述のパシフィックネイションズカップも含めてコロナ過の影響もあってか敗北を重ねてしまう結果(とはいえ直前の強化試合の出来が良かったのは2019年くらいで、W杯で初めて3勝を挙げた2015年も強化試合の結果は散々だったとか言ってはいけない)となったものの、W杯初戦ではW杯初陣のチリに42-12で快勝。過去テストマッチ全敗という難敵イングランドには前半こそ食い下がったが、後半にミスを重ねてしまい12-32で敗戦。そして次大会に向けたシード権、さらには決勝トーナメント進出に向けての最大の正念場と言われ、直前のテストマッチで敗退したサモアに序盤から得点を重ね、終盤に追われたが28-22で振り切って2勝目。プール最終戦ではW杯4強2回の実績を残し、かつテストマッチでは1勝しかできていない強豪アルゼンチン戦に8強入りをかけて臨んだものの、27-39で惜敗しグループリーグ3位[2]で日程を終えたが、イングランドとアルゼンチンに善戦した試合は大きく評価された。
2023年11月現在、日本の男子世界ランキングは12位、女子の世界ランキングは11位。男子は19年のW杯期間中には過去最高順位となる7位を記録していた。W杯での活躍を繋げるため、またこれからの国内ラグビー人気を未来へ盛り上げるためにも、一緒に頑張ろう!日本!(なおラグビーのランキングはワールドカップ中にも変動するため、注意が必要)
メディア
ラグビーで最も有名なメディアは伏見工業高校ラグビー部をモデルにしたドラマ「スクールウォーズ」だろう(尤も、これによってラグビー=危険なスポーツというイメージも浸透したそうだが)。今でも当ドラマのテーマ曲「ヒーロー(holding out for a hero)」はラグビーのテーマソングとして認識されている。
ラグビーワールドカップの日本開催が決定してからは、池井戸潤原作の「ノーサイド・ゲーム」の方が知名度は高いかも。海外映画では南アフリカ元大統領のネルソン・マンデラの実話を基にした「インビクタス/負けざる者たち」が有名。
一方、ラグビー漫画は1対1の対決が少なく主人公を絞りにくいのと、ルールの複雑さ、はたまた競技柄泥臭い表現が敬遠されてヒット作が生まれず、「ALL OUT!!」(ただ、これも18巻で、最後は打ち切りに近い形で連載終了)が出るまでは「ウォー・クライ」の12巻が最長で、他はいずれも10巻以内の短命に終わっており、卓球、ハンドボールらと並びスポーツ漫画の鬼門といわれている。それでも大学ラグビーを題材とした「ノーサイド」(集英社ビジネスジャンプ・7巻完結)など、極端に短命だった作品ばかりではない。また過去にはサンデーコミックスが何度もラグビー漫画を送り出しており、なかいま強の「ゲイン」(7巻完結)、菊田洋之の「HORIZON」(7巻完結)などがあるが、ブームに便乗した連載は始まっても、2015年から始まった数作品はいずれも3巻までの短命に終わった。
また、競技自体がスポーツゲームの本場であるアメリカで人気がなかったため、ゲームソフトも他のスポーツに比べ少ない。
余談だが、アメリカの団体スポーツはスペインやセルビアなどで人気を誇っているバスケットボールを例外としても、野球、アメリカンフットボールなどヨーロッパではほとんど流行っていない球技の聖地なので、ラグビーに限らず欧州で盛んなサッカーやバレーボールなどもさして人気がない。北米欧州の共通でそれなりに盛んな団体スポーツとしてはアイスホッケーが目立つぐらいである。一応女子サッカーではアメリカが世界ランクの上位常連と強いのと、サッカーが世界レベルでメジャースポーツなこともあって以前ほどアメリカにおけるサッカーはマイナースポーツではなくなっているのだが、ラグビーの方はアメフトの影響もあると思われるが、未だに浮上のきっかけがない。特に2023年のW杯は出場常連国だったアメリカとカナダがTire3のチリにプレーオフで得失点差で敗れて出場を逃すなど、北米全体が世界的な15人制ラグビーの底上げについていけない状態となりつつある。
大百科に記事のある選手
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
- スポーツ
- フットボール
- サッカー
- アメフト
- 7人制ラグビー
- 車いすラグビー
- スクラム組もうぜ!
- ラグビーワールドカップ2019
- ジャパンラグビートップリーグ
- ジャパンラグビーリーグワン
- オールブラックス(ラグビーニュージーランド代表)
- スプリングボクス(ラグビー南アフリカ代表)
- スポーツ競技の一覧
関連リンク
脚注
- *プレイさえしなければ他国の代表歴があっても問題ないようで、ピーター・ラブスカフニは南アフリカ代表として選出されたことがあるものの出場できなかったため、南アフリカ協会とワールドラグビーの許可の下で日本代表としてプレイしている。
- *……実は残り1試合を残してすでにグループリーグ1位で通過を決めていたイングランドが、この試合に勝利した場合に日本とアルゼンチンの試合で負けたほうが勝ち点0なら逆転3位で次回シード権、あるいは運よく勝ち点2以下の引き分けでかつサモアの大差勝利が条件ながら逆転2位での決勝トーナメント進出の可能性も残していたサモアとの対決となり、イングランドは士気の差からか動きも悪く、先制しながら逆転され試合時間の半分以上をサモアにリードを許す苦しい展開。それでも底力を見せて後半33分にトライとゴールキックを決めて再逆転し、なんとか18-17で辛勝したのだが、もしこの時サモアがイングランドを破る大番狂わせになっていればイングランドとアルゼンチンから勝ち点を奪えず、得失点差も稼げていなかった日本は次回のシード権を失う4位敗退が決まっていた。その後、イングランドとアルゼンチンはトーナメントでもベスト4以上に進出したことを踏まえると、『選手層を分厚くするした上で、ライバルとの直接対決で勝ち点を与えない戦いをする』というのも今後の日本のレベルを一段上げるのに必要かもしれない。
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