米機の新型爆弾に依る攻撃に対する抗議文とは、太平洋戦争末期に米軍によって行われた広島市への原子爆弾投下に対し、当時の日本政府が発表した抗議文である。
この抗議文は日本政府から駐スイス公使の加瀬俊一に託され、米国政府宛てにスイス政府経由で提出された。
抗議文の日付は広島への原爆投下(1945年(昭和20年)8月6日)の2日後である8月8日付となっている[1] 。そのため、8月9日の長崎への原爆投下については触れられていない。
電文記録によると8月9日から8月10日にかけて東郷外務大臣名で加瀬公使に向けて通達されており[2]、実際にスイス政府に提出されたのは8月10日であったと思われる。
8月11日には朝日新聞が「国際法規を無視せる惨虐の新型爆弾 帝国、米政府へ抗議提出」という記事でこの抗議文について報道し全文を紙面に掲載しており、当時の国民もこの抗議文を知る事となった。なお同記事でも抗議文本文と同様、長崎への原子爆弾投下については触れていない(朝日新聞が長崎の新型爆弾投下を報じるのは翌日8月12日のことであるため)。
原文はこの記事の最後の方に記載する。ここでは、抗議文でどのような点を主張していたのかについて説明する。
この抗議文に対するアメリカ合衆国側からの反応などは不明。また、日本が長崎の原爆投下に対して追加で公的に抗議することなどもなかった。
この抗議文がスイス政府に提出された8月10日には、日本政府が御前会議でポツダム宣言の受諾(連合国への降伏)を決議し、同日中には連合国側への受諾に関する緊急通達を開始している。日米双方ともに終戦に向けての手続き・交渉が優先されたため、原爆投下への抗議やそれに対する反応などは棚上げにされていたとも考えられる。
ただし、8月15日に日本国民に向けてラジオ放送(所謂「玉音放送」)されたことで知られる終戦の詔書には「敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ慘害ノ及フ所眞ニ測ルヘカラサルニ至ル(敵は新たに残虐な爆弾を使用し、罪なき人々を殺傷し、その惨害が及ぶ範囲は測り知れない。)」として、原子爆弾投下について非難・糾弾する一文が含まれている。
日本の国会で、この抗議文について国会議員から「政府は承知しているか」という質問がなされたことがある。当時の内閣総理大臣安倍晋三はこれに対する回答として「承知している」と答弁している[3]。 同時に「この抗議文の立場を政府として継承しているかどうか」についても質問されていたが、こちらについては核軍縮の重要性について述べるにとどまっている。この抗議文で強く非難している相手国であるアメリカ合衆国は戦後日本の最大の同盟国となっているため、外交関係上の配慮と思われる。
そして戦後70年目となる2015年には、内閣総理大臣安倍晋三の米議会演説に併せて日米両国政府より「核兵器不拡散条約(NPT)に関する日米共同声明」が発表された。その内には
広島及び長崎の被爆70年において、我々は核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末を思い起こす
(英文では「In this 70th year since the atomic bombings of Hiroshima and Nagasaki, we are reminded of the catastrophic humanitarian consequences of nuclear weapons use.」)
原子爆弾投下を取り巻く日米二国間関係は本抗議文に代表されるような抗議・糾弾という怒りの声で始まった。しかし戦後70年の時間とその間の日米両国の友好関係を経て、この共同声明へと昇華・結実することができたとも見なせるだろう。
以下、「外務省外交史料館」に収蔵され「アジア歴史資料センター」にて公開されている資料から引用した原文[7] 。
本月6日 米国航空機は広島市の市街地区に対し新型爆弾を投下し瞬時にして多数の市民を殺傷し同市の大半を潰滅せしめたり。広島市は何ら特殊の軍事的防備ないし施設を施しおらざる普通の一地方都市にして同市全体として一の軍事目標たるの性質を有するものにあらず。本件爆撃に関する声明
において米国大統領「トルーマン」は 我らは船渠、工場および交通施設を破壊すべし と言いおるも本件爆弾は落下傘を附して投下せられ空中において炸裂し極めて広き範囲に破壊的効力を及ぼすものなるを以て これによる攻撃の効果を右のごとき特定目標に限定することは技術的に全然不可能なこと明瞭にして右のごとき本件爆弾の性能については米国側においても既に承知しおる所なり。また実際の被害状況に徴するも被害地域は広範囲にわたり右地域内にあるものは交戦者非交戦者の別なく又男女老幼を問わず すべて爆風および輻射熱により無差別に殺傷せられ その被害範囲の一般的にしてかつ甚大なるのみならず個々の傷害状況より見るも いまだ見ざる残虐なるものと言うべきなり。
そもそも交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有するものにあらざること及び不必要の苦痛を与うべき兵器、投射物その他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則にして それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約附属書陸戦の法規慣例に関する規則第22条および第23条(ホ)号に明定せらるる所なり。米国政府は今次世界の戦乱勃発以来再三にわたり毒ガスないしその他の非人道的戦争方法の使用は文明社会の世論により不法とせられおれりとし対手国側において まずこれを使用せざる限りこれを使用することなかるべき旨声明したるが 米国が今回使用したる本件爆弾はその性能の無差別かつ残虐性において従来斯る性能を有するがゆえに使用を禁止せられおる毒ガスその他の兵器を遥かに凌駕しおれり。
米国は国際法および人道の根本原則を無視して既に広範囲にわたり帝国の諸都市に対して無差別爆撃を実施し来り多数の老幼婦女子を殺傷し神社、仏閣、学校、病院、一般民家等を倒壊または焼失せしめたり。而して今や新規にして かつ従来のいかなる兵器、投射物にも比し得ざる無差別性、残虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり。
帝国政府はここに自らの名において かつまた全人類および文明の名において米国政府を糺弾すると共に即時斯る非人道的兵器の使用を放棄すべきことを厳重に要求す。
. JACAR B02032456000, 外務省外交史料館 A-7-0-0-9_7_1, pp. 30-32.
. JACAR B02032435900, 外務省外交史料館 A-7-0-0-9 pp. 2-3.
. 2014年10月10日
. 朝日新聞デジタル, 2015年4月29日02時39分.
. 日本経済新聞, 2015/4/28 23:12.
. 平成27年4月28日.
. JACAR B02032456000, 外務省外交史料館 A-7-0-0-9_7_1, pp. 30-32.掲示板
113 ななしのよっしん
2020/08/26(水) 01:14:48 ID: qfldutgN9Q
>>112
前後の文脈を無視して私の発言の意図をねじ曲げて混ぜっ返す事しか出来ないのですか?
114 ななしのよっしん
2020/08/26(水) 06:32:10 ID: NVmiMO82wA
いいから核の相互確証破壊による安定さえ否定する「ハーグ陸戦条約による核の禁止論」なんて暴論は捨てて、根拠があるなら別のを出してどうぞ
このままだといつまで経っても、「敵に手加減してはならない(戒め)」の範疇に核は入ってないから(震え声)という言い訳を証明できないゾ〜
115 ななしのよっしん
2022/01/04(火) 21:16:37 ID: XGay2kyotF
humanitarian consequences が「非」人道的結末となるのは意図的な誤訳なんかね
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最終更新:2025/12/06(土) 04:00
最終更新:2025/12/06(土) 04:00
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