PCエンジンとは、1987年のNEC-HE(日本電気ホームエレクトロニクス)が発売した家庭用ゲームハードである。1988年前後から1994年前後にかけて一時代を築いた。ハードウエアの設計には多くの部分でハドソンが関わっている。そのため、本体の搭載チップにはハドソンのトレードマークである「蜂のマーク」がプリントされている。
ファミコン全盛期の当時、圧倒的なグラフィックの高さや高性能サウンドなども相まって「PCエンジンユーザー=おそらく金持ちの家庭」という奇妙な図式が成り立っていた。
ちなみによく「PC-Engine」とハイフンを入れて書く人がいるが、PC-EngineとはPC-88VAに搭載されたOSのことであり、区別が必要である。
PCエンジンでは当初、HuCARD(ヒューカード)と呼ばれるICカード型(接触式)のゲームカートリッジにてソフトが供給されていた。
当時、家庭用ゲーム機購入のモチベーションの一つとなったのが「アーケードゲームの移植」であった。初期のPCエンジンのウリは、ファミコンより再現度の高い移植ソフトが楽しめることであった。
PCEはFCと同じCPU(ただし大幅に高速化されている)を搭載し、FCの開発ノウハウがほぼそのまま使えたため、当時の開発者には敷居が低かった。また大サイズのスプライトを多数表示することが出来たため、同時期のアーケードゲームの移植にも対応することが出来た。
この点で、キラーソフトとなったのが「R-TYPE I」である。R-TYPEは、HuCARDの容量上の問題で「R-TYPE I」と「R-TYPE II」の前後編に分けての発売となった。オリジナルに引けを取らない美麗なグラフィックと移植クオリティーの高さは、初期の良作として名高い。
後述するように、PCエンジンはHuCARDからCD-ROMへとゲーム供給メディアを変えてゆくが、中期まではクオリティの高いシューティングゲームが数多く発売された。その中には、質の高い移植だけでなく、「マジカルチェイス」「精霊戦士スプリガン」といったオリジナルタイトルも存在する。またハドソン全国キャラバンの影響もあり、PCエンジンはシューティングマシンとして名を馳せた。
1988年、専用CD-ROMドライブ(商品名表記:CD-ROM2/商品名読み:シーディーロムロム)が発売された。HuCARDの容量不足に悩まされることはなくなり、「当時としては無限にも等しい」データを扱うゲームが可能となった。
(ただし、当時の税金制度のため、ハードは大変高額な商品となってしまった)
媒体がCD-ROMになったことにより、「ビジュアルシーン」と呼ばれたアニメーションの展開や、声優による肉声・高音質なBGM(CDトラックをそのまま流すことが可能)の使用が可能となった。ゲームにおける映画的演出のはしりとも言える傾向がCD-ROM2システムで見られるようになる。一方で、これまでにない大容量をいかに使うかということに開発側は悩まされることになる。
「天外魔境ZIRIA」は、CD-ROM媒体で発売された初のRPGである。当時としては桁違いのボリューム、数多く登場する敵・味方が音声で喋ることや要所要所で挿入されるアニメーションシーン、坂本龍一が担当したメインテーマなどが話題を呼んだ。
「イースI・II」は、イースシリーズの移植の中でも、今でも人気の高い一作である。
CD音源で収録された米光亮によるアレンジBGM、キャラクターの立ち絵や声優による音声収録といった「CD-ROMでしかできない」演出がふんだんに盛り込まれた。本作でプログラミング・演出を担当した岩崎啓眞は、その後もPCエンジンソフト開発でいかんなくその手腕を発揮した。
CD-ROM2システムの登場により、PCエンジンのソフト市場はHuCARDからCD-ROM2へと徐々に移行していった。1991年にSUPER CD-ROM2システムの登場ならびにHuCARDスロットとCD-ROMドライブの一体型であるPCエンジンDuoが発売されるに至ってこの流れは完全に決定的なものになり、「PCエンジンはCD-ROMのゲーム機」となった。
この時代はPCエンジン市場における円熟期であり、数々の移植タイトル・オリジナルタイトルを輩出した。
「天外魔境ZIRIA」の続編である「天外魔境II卍MARU」は、ハドソン自身も総力をあげて開発しただけあり、Super CD-ROM2初期の大作タイトルとして評価されている。前作を上回るボリュームのあるシナリオ(当時、クリアに最低50時間を要するRPGなどほとんど存在しなかった)、ビジュアル・サウンド面ともに強化された演出は、多くのユーザーを驚かせた。
「スナッチャー」は、PC-88SR/MSX2で発表されたアドベンチャーゲームの移植作である。メタルギアシリーズで有名な小島秀夫の作品。移植元に存在しなかったAct.3を追加して完全版として発表された。サイバーパンク世界を緻密に描いたビジュアル、ベテラン声優陣による音声、小島作品らしいお遊び要素も満載の魅力的な作品。やはり塩沢兼人がシナリオ上重要なキャラクターの声をあてている。
また、PCエンジンならではの個性的なタイトルも存在する。「超兄貴」は、ゲームシステムとしては平凡な横スクロールシューティングでありながら、ボディビルを前面に押し出した独特の世界観と、CD音質で聴ける葉山宏治の熱く奇妙なBGMが印象深く、固定ファンがついた。葉山宏治はこの作品が出世作となり、ゲーム音楽の作曲者として評価されるようになる。ちなみに、超兄貴のゲームサントラCDは、ゲームソフトよりも売れている。
当時からある評価の一つに「PCエンジンはギャルゲーハード」というものがある。ただし、今日で言うところの「ギャルゲー」いわゆる「恋愛シミュレーションゲーム」や「恋愛アドベンチャーゲーム」は、ジャンルとしてもゲームシステムとしても確立していなかった。
実際のところ、PCエンジンで発売されたゲームの多くは「ギャルゲー」というよりは「普通のゲーム」である。
しかし、前述の通りCD-ROM媒体によるゲーム開発が手探りだった状況下のもと、インパクトを与える演出としてお色気要素が好まれる傾向はあった。NEC-HEは任天堂ほど表現規制にうるさくなかったようで、現在の基準ではとうてい不可能な残虐表現(流血、人体欠損)・性表現(乳首の露出)がまかり通っていた。中には、海賊版として直裁な性表現を含むソフトウェアを開発して流通させる会社まであった。当時の評価で言うところのギャルゲーハードとは、このような状況をさしたものである。
また、そうなるに至った経緯は不明だが、NECアベニューにより、アダルトゲームの移植がある時期から積極的に行われたのも事実である。PCエンジン市場が縮小するに従い美少女キャラクターに頼ったゲームが乱発され、親会社NECのPC-98シリーズの衰退を思い出させる状況になった。
PCエンジンがその歴史を通してギャルゲーハードであったかどうかはともかく、「ギャルゲー」を生み出したのは事実である。既にPCエンジン市場が冷え切っていた1994年に発売されたコナミの「ときめきメモリアル」は、恋愛シミュレーションのひな形となるシステムを完成させたと言ってよい。岩崎啓眞が雑誌やパソコン通信で大絶賛、口コミで評判が伝わり、再販に再販を重ねてPCエンジンの最後の大ヒット作となった。
「フラグ立て」の作業は、主人公の能力育成コマンド・女性とのイベントによる好感度の調整によって行う必要があり、『爆弾処理』と呼ばれる複数の女性との関係調整に悩んだプレイヤーも多かった。「スナッチャー」から大幅に進化したグラフィック、大量に用意された質の高いBGMなども評価された。
PCエンジンの後継機として1994年末にPC-FXが発売された。しかし、PCエンジンとのソフト互換性がなく(同じCD-ROM機ということもあり、期待したユーザーもいた)、当時の潮流であった3Dポリゴンを扱うことができないハード設計に、PCエンジン晩期の流れを誤解した販売戦略(何とコミックマーケットに企業ブース出展した)、さらにハードウェア普及の牽引役として期待された「天外魔境III NAMIDA」の発売も遅れ、ほとんど話題にならないままにゲーム市場から消えていった。
これを最後に、NEC-HEは家庭用ゲームハードからは撤退。PC-FXの失敗による業績悪化もあり、2000年に解散となる。現在、PCエンジン関連の著作権はNECビックローブが持っている。
なお、PCエンジンの立ち上げよりハード・ソフト面で貢献したハドソンは2005年4月にコナミ株式会社の子会社となった後、2012年3月1日に親会社のコナミに吸収され消滅した。
手元に稼働するPCエンジンのハード・ソフトがある人は特に問題ないが、何らかの理由でいずれかを手放した、もしくは故障などの理由で遊べない場合、以下の方法がある。
過去にはドリームキャストのドリームライブラリでもソフトウェアが配信された。
NEC-HEは、PCエンジンにさまざまな拡張性を持たせ、ゲーム機以外の機能もつけようとした。これをPCエンジンを核とする「コア構想」と呼び、家電製品専門でありハードウェアメーカーらしい発想と言えよう。しかし、このためにハードウェアがマイナーチェンジを繰り返すこととなり、ユーザを混乱させた。またソフトのロイヤルティがNEC-HEに一切入らず他社のように逆ざやでの販売ができなかったため、いずれも価格設定が高めであり、苦戦の原因となった。
商品名 | 発売時期 | 標準 小売価格 |
備考 |
---|---|---|---|
PCエンジン | 1987年10月 | 24,800円 | 初代PCエンジン。通称「白エンジン」。 |
X1 twin | 1987年12月 | 99,800円 | SHARPのパソコンX1シリーズに、PCエンジンのシステム(HE-SYSTEM)を内蔵させたもの。両者は電源以外に共有している部分はない。 |
PC-KD863G | 1988年9月 | 138,000円 | 15インチカラーCRTディスプレイに、PCエンジン(HE-SYSTEM)を内蔵させたもの。HuCARDのみではあるが、PCエンジンのソフトウェアを唯一RGB出力できるハードウェア。 |
CD-ROM2 | 1988年12月 | 57,300円 | 世界初のCD-ROMメディアを利用したゲーム機だが、単体でゲームが出来るわけではない。PCエンジン本体とインターフェースユニットが必要。音楽CDプレイヤーとしては単独で使用可能。「システムカード」が付属しており、これをPCエンジン本体に差すことでCD-ROM2システムが起動する。なお、システムカードにはいくつかのバージョン違いが存在しており、単体売りもされた。 |
PCエンジン シャトル |
1989年11月 | 18,800円 | PCエンジンの廉価版として発売された。CD-ROM2システムを増設できない代わり、価格は安めに設定。デザインも円形の変わったものだが、CD-ROM2の躍進により普及せず。 |
PCエンジン コアグラフィックス |
1989年12月 | 24,800円 | PCエンジンのマイナーチェンジ版。AV出力が可能となった。連射パットも付属。 |
PCエンジン スーパーグラフィックス |
1989年12月 | 39,800円 | PCエンジンのグラフィック性能を強化したハードウェア。アーケードゲームの移植を目的としたのだと思われるが、専用ソフト5本・両対応ソフト1本という結果に終わる。 |
PCエンジンGT | 1990年12月 | 44,800円 | PCエンジン唯一の携帯ゲーム機で、HuCARDをプレイできる。据え置き機のゲーム機と互換性を持つ珍しい携帯ゲーム機。2.6インチのカラーのTFT液晶画面は綺麗ではあったが、テレビ画面でのプレイを前提としたソフトウェアを遊ぶのはつらいものがあった(特に白色以外で表示された文字が潰れやすかった)。さらに重量もあり、電池切れも早かったため携帯には向かない仕様だった。しかし、GTのみで対戦可能な「コラムス」など、GTを意識したソフトも多少は存在した。テレビチューナーユニットを別売。 |
PCエンジン コアグラフィックスII |
1991年6月 | 19,800円 | PCエンジンコアグラフィックスのマイナーチェンジ版。 |
PCエンジンDuo | 1991年9月 | 59,800円 | PCエンジンとSUPER CD-ROM2システムの一体型ハードウェア。CD-ROM機としてPCエンジンを知ったユーザのエントリーモデルとして普及した。 |
PCエンジンLT | 1991年12月 | 99,800円 | ディスプレイとゲーム機の一体型マシン。ディスプレイは4インチTFT液晶。本体側はパットと一体型になっている。ノートパソコンのように2つ折りにできる。コンパクトな構造ではあるがバッテリーはなく、携帯ゲーム機として考えられたものではない。 |
SUPER CD-ROM2 | 1991年12月 | 47,800円 | PCエンジン本体がSUPER CD-ROM2システムのゲームをプレイするために必要な周辺機器。従来のCD-ROM2を既に持っているユーザはシステムカードのバージョンアップ(ver.3.0)という形で対応すればよく、改めてこのハードを買う必要はなかった。 |
PCエンジンDuo-R | 1993年3月 | 39,800円 | PCエンジンDuoの廉価版。ヘッドフォン端子・バッテリーパック端子が廃止された。 |
レーザーアクティブ | 1993年8月 | 89,800円 | Pioneerのレーザーディスクプレイヤー。オプションの「PC Engine Pack」を組み込む事でPCエンジンのゲームがプレイできた。 |
PC Engine Pack | 1993年8月 | 39,800円 | Pioneerから発売。上段、レーザーアクティブのオプションユニット。 |
アーケードカード | 1994年3月 | 17,800円 (PRO) 12,800円 (DUO) |
CD-ROMシステムの更なる強化を図ったシステムカード。CD-ROM2システム所持の場合はPRO、SUPER CD-ROM2システム所持の場合はDUOが必要となる。使用できるメモリが格段に増えており、当時人気を博していた対戦格闘ゲームの移植を狙ったもの。専用ソフトよりは対応ソフトのほうが多い。対応ソフトの多くでは、アーケードカードを差すことにより読み込みのキャッシュが確保され、劇的にロード時間が減る。発売時期の遅れと価格設定から普及しなかった。 |
PCエンジンDuo-RX | 1994年6月 | 29,800円 | PCエンジンDuo、Duo-Rの廉価版。内蔵パットが6ボタンになった(PC-FXのものとデザインが酷似している)。 |
バーチャルコンソールでPCエンジンのゲームをプレイする場合、クラシックコントローラまたはゲームキューブコントローラがあった方が便利である。また、ソフトの購入にはWiiポイントが必要である。
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最終更新:2024/05/19(日) 10:00
最終更新:2024/05/19(日) 10:00
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