ひえもんとり単語

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ひえもんとりとは、薩摩地方でかつて行われていたられる習である。

※当記事にはグロテスクな記述を含みます(画像はありません)。苦手な方は閲覧注意

概要

里見弴の小説以降では、周囲の多くの薩摩の民が罪人の肝を引きずり出し、一番最初に手に入れて名乗りを上げた者が勝利する競技として描かれることが多い。

江戸時代の文献には「冷物取」というものが残っているものの、そちらでは「死体の試しり」とされている。また、その時点でさえもあくまで伝え聞いた話とされており、実際にやっていたとまで断言はできない。

具体的な手順についても創作物で登場するひえもんとりは「冷物取」とは違うものになっており、様々に描かれている。それぞれの文献・創作物同士の具体的な関係(何が何を出典としたのか)に関しても不明である。

実際にやっていたかどうかは不明だが、少なくとも現在鹿児島県薩摩地方では当然行われていないので、そのイメージらないように注意が必要である。

橘南谿『西遊記』の補遺

1782年~1788年にかけて各地を旅したたちばな南谿なんけいが、現地で聞いた話をもとにして記述した『西遊記[1]』の補遺にある、「義」の項内で「冷物取」が記されている。

死体に対する試しりとして行われていたもので、後にられるような競技の要素は記述を見る限りでは含まれていない。

又、罪人など有りて仕置に成ざる時は、待うけて其屍を乞ひ、ためしものとす。又、罪人、病気にて中にて死せし時、又は行倒れ者など刑所へ取捨たるを、其盗来りて切りためす。是を冷物取ひへものとりといふ。就中臭気など有りて気保あしきものといふ。是らのたぐひ種々、強盛不敵の事ども多し。すべて引用者注:薩摩風俗也。

『東西遊記2』, 宗政五十緒 校注, 社, p.217-218より

ちなみに「義」の項には、薩摩隼人切腹や後世に「肝練り」としてられる行為と思われるものも掲載されている。

鹿児島市の伝承

なお、鹿児島市にある800m南側には刑場があった。ここにも「冷物取」が行われていたとする伝承が残っている。

処刑が終った後は,「冷物取ひえものとり」と言って若者達が集まって囚人死体を剖き肝臓,胆嚢を取り出させることで肝試しとして使われた。人り半次郎桐野)はよく来ていたそうだ。

鮫島潤「元文の板碑」, 鹿児島市医報 49-11, 2010.exit

里見弴『ひえもんとり』(小説)

里見とんの短編小説である『ひえもんとり』では、で行われたひえもんとりの一連の様子を描いている。こちらは競技として描かれている。

罪人の座席の周囲で一般人の参加者たちが輪になり、罪人に対してが振り下ろされた間に一斉に肝を取ろうと飛びつく。他人を傷つけないために物の使用は禁止されているので、死体で噛みついて割いたり、できたを手で掘ったりすることになる。一番最初に肝を取ったものは役人に知らせようと名乗りを叫ぶ。

以下のような理由で行われていたと述べられている(要約、一部現代に改変)。

  • 施政者側からいえば、太の世の士気を鼓舞し、緊する役に立つ
  • 参加者側からいえば、競争心・名誉心を満足させ、血生臭い奮にを忘れることができるうえに、手に入れた肝をの原料として高く売ることができる

下記のようにあとがきには書かれている。

鹿児島の東、川内の流域なるで、最下級の士分に生れたが、幼時に見したところを、晩年、他人から聞いた噂話かなぞのようにさら\/とつたけれど、私には印ぶかく、いつかはものにしようと、謂はゞ永年とつて置きの題材だつた。

『里見弴全集第一巻』, 筑摩書房, p.505のあとがきより

つまり、里見弴自身が経験したわけではなく、父親から伝え聞いた話を題材に小説にしたとしている。

『司馬遼太郎が考えたこと』(随筆)

司馬遼太郎もひえもんとりについて記述しているが、里見のものとはまた異なる内容になっている。

こちらは「を割いて」とあるように物の使用が認められている。また、「死体を食べることもあった」という要素が追加されている。

肝だめしはある。自分の肝だめしどころか、他人の肝までとる。刑場で打首の刑があるときけば競ってを割いて肝をとるのである。その肝を蔭干しにしてにするとも言い、あるいは単に度胸の競いあいだけだともいい、あるいはそれをその場で食ってしまうという凄い事例もあったらしい。南方原住民は、敵の勇者を食う。薩摩ではこれを「ひえもんとり」というが、あるいは遠い時代の食人のの名残りかもしれない。

司馬遼太郎が考えたこと〈9〉エッセイ1976.9~1979.4』, 新潮文庫, p.96より

平田弘史『薩摩義士伝』(漫画)

漫画薩摩義士伝』で、ひえもんとりは「東西両軍に別れて死罪人をにのせて放ち これの生肝を争奪するという実戦さながらの凄絶の」として冒頭で描かれる。

ただし死罪人は、迫りくる参加者に殺されずに刑場にある一本の木の幹に触れることができれば自由の身となることができた。

貧窮の中にいた薩摩の下級武士たちの不満の解消として、叫を伴う示現流・夕方の稽古とともに、の施策として行わせられるようになったと描かれている。

だがそれだけではもはや貧困差別への不は解消することはなくなっていた。作中冒頭で最後の死罪人とされた斯波左近も下級武士であり、横暴な上級武士の振る舞いに対する遺恨から複数名で彼らを殺し、ひえもんとりに死罪人側として参加していた。

山口貴由『衛府の七忍』(漫画)

漫画衛府の七忍』でも登場している(単行本では4巻)。「肝が妙として売買される」「参加者同士で傷つけあわないように素手で行う」など、内容は里見弴版と似たものになっているが、「生き様し」「生虜」「生き肝」と記述されているように、生きた状態で罪人の肝を取るという点が異なる。

ひえもんとりもした!」という台詞はこの作品がおそらく初出で、作中のひえもんとりの勝者である武市千加太郎(お千加)の発言として登場している。獲得直後の名乗りではなく、改めて島津義弘豊臣秀頼に対して自分が獲得者であることをアピールする台詞として登場している。

関連動画

関連漫画

関連項目

脚注

  1. *孫悟空などで知られる中国の同名の物語が有名だが、そちらではない。『東遊記』という紀行文もあり、両者を合わせて『東西遊記』と呼ぶ

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ひえもんとり

4 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 08:29:37 ID: sSYRkrAdrS
先生みたく面おかしくやったかの脚色が後世にインパクトの強い部分だけが残ってしまったみたいな感じなんやろか?
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5 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 09:17:45 ID: qwBgzT76TU
生きてる人間の肝は温かいから冷物とは呼ばれなさそう
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6 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 11:23:43 ID: PQegULvj88
が登ったのち、血気盛んなリンクが各地のマモノめがけて突進!
のみでマモノの生き肝を奪う、その理由は素材を集めて装備を強化するのみに非ず
ハイラル勇者はこのような競技で戦技を磨き、類なき厄災となるのだ!
リンクひえもんとりもした!ひえもんとりもした!」
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7 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 11:29:11 ID: D/ymZuti4E
誤まだれ〜にごわす
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8 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 15:22:15 ID: VkA3sAQGd1
>>7
またにごわすか。 衛府ん前に他の記述を書きしたためておくんは女々か

関係ないけど最近七初めて読んだ、度重なる語録と画像検索の印とは裏にどれも自然シーンに見えた。
さすが若先生ばい、でも金玉ぶっこ抜かれて「サーセン!ぶっこ抜かれやしたァ!!」はどう考えてもやっぱ笑うばい
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9 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 15:43:06 ID: sy/brr7ypg
材料になる肝は収入のはず
試し切りはあったかもしれんが大事な肝を肝試しに使うとは思えん
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10 ななしのよっしん
2023/12/08(金) 16:57:29 ID: x6hEbYKNhy
>>2
仮にやってたとしても滅ルール細かい上地味なパターンだろうしな…
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11 ななしのよっしん
2024/01/18(木) 20:29:18 ID: PG09ZP2uri
出来たばかりのの試し切りに「刑死者の死体を色々と切ってみる」というのは江戸時代それなりの事例があるので、その延長線上の何かが伝言ゲームで変質したと考えれば、まあ……
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12 ななしのよっしん
2024/01/18(木) 20:42:28 ID: nESvGUO49a
衛成のことかな
土 塀 越 し 四 ツ 胴 切 断 !
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13 ななしのよっしん
2024/01/25(木) 14:36:00 ID: S3goPpUvVB
泰三子のだんドーンにも出てきたな
内容はここに上がっているものとはどれとも違う
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