シリーン(1895年生の牡馬)単語

シリーン

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シリーン(Cyllene)とは、1895年生のイギリスの競走馬である。栗毛の牡馬。
オーナーブリーダーのチャールズ・デイ・ローズ氏(のちに銀行事業の貢献などの功績で准男爵)によって生産された。

概要

父Bona Vista、母 Arcadia、母父 Isonomyという血統。
父のBona Vistaは2000ギニーの勝ち馬であり、当時流行したニックスの父 Bend Or×母父 Macaroniという血統である。この配合では他にイギリス三冠馬 Ormonde、アスコットゴールドカップ勝ち馬Martagon、エクリプスS勝ち馬Orvi etoなどが生産されている。Bona Vistaは引退後ジャーヴィス調教師の薦めによりローズ氏が購入した。
母のArcadiaは2歳時に2勝しただけで1000ギニーとコロネーションSでは着外に終わっている。
母父のIsonomyは当時の古馬長距離の主要レースであるアスコットゴールドカップ、グッドウッドカップ、ドンカスターカップを勝利し、種牡馬としてもCommonとIsinglassという2頭の三冠馬を輩出した。母母父のHermitも7回連続イギリスリーディングサイアーになっており、ローズ氏はその血統も見込んで牝馬の仔を購入し、Dist ant Shoreと名付けられたその牝馬はローズ氏の牧場の基礎繁殖牝馬となり、本馬の祖母となった。

Arcadiaの3番目の仔は5月28日生とサラブレッドの中でも遅生まれであり、体も他の仔馬と比べて小さく、また先に生まれた半きょうだいが2頭とも未勝利に終わっていることもあって、クラシック登録をしていなかった。しかし、1歳秋にウィリアム・ジャーヴィス調教師に送り込まれるときには立派で美しい馬体になっていた。ローズ氏がクラシック登録をしなかったことを後悔したことは想像に難くないだろう。

このArcadiaの3番目の仔は母親の名から連想して、ギリシャのアルカディア州にある神話のヘルメスの生誕地と言われるキュレーネー山からシリーンと名付けられた。

シリーンはどこかのキ●ガイ馬と違って非常に温厚な馬であった。奇しくも幼駒のころに見栄えがしなかったためクラシック登録されなかったという共通点があるのだけれど。^[1]シリーンは装蹄のときやブラッシングのときも人が動きやすいように気を使い、調教でも乗り手の意思を察知し率先的に動いた。ジャーヴィス調教師もシリーンを気に入り大切に扱ったという。

2歳の3月にセフトンパークプレートでデビューすると2着馬に3馬身をつけて楽勝し、2戦目の1000ソヴリンワースSでは3/4馬身差で勝利した。3戦目のトリエニアルSでは後の1000ギニー勝ち馬Nun Nicerに3馬身差をつけて勝利している。
4戦目となる当時の2歳主要レースのナショナルブリーダーズプロデュースSではローズベリー卿の送り出した牝馬 Ebbaとの対戦になり、シリーンはEbbaより7ポンド多く背負うことになったがアタマ差で辛勝した。しかし10月のインペリアルプロデュースSでは136 ポンド(約61.7kg)も響いたのか最後の直線で大きくよれ、10ポンドのハンデ差があったDie udonneに1馬身差で敗北し初黒星を喫する。Die udonneは後にミドルパークプレート・サセックスS・英チャンピオンSを勝利することになる。

3歳時にはクラシックに登録していなかったこともあり4月のコラムプロデュースSから始動するが、何故かこのレースでは走る気を見せず3着に終わった。1ヶ月後に出走したニューマーケットSでは2000ギニー2着のWant age、後に人気薄でダービーに勝利するJeddahなどの有力馬が集まったが、シリーンは2着に4馬身差をつけてレコード勝ちを収めた。この勝利としばらく後のJeddahのダービー制覇により、シリーンは世代最強とみなされるようになった。

次走は5ヶ月の休養を挟んでジョッキークラブSに出走した。ジョッキークラブSは当時の最大レベルのレースで、賞金は同年のダービーの賞金5450ポンドを大きく上回る8878ポンドだった。当然有力馬が多く集まり、2000ギニー2着・ダービー2着と3歳時はシルコレだったものの4歳になってチャンピオンS・エクリプスS・プリンセスオブウェールズSを勝利したVelasquez、昨年の1000ギニーの勝ち馬 Chelandry、この年のオークス馬 Airs and Graces、2歳時にシリーンに黒星をつけたDie udonneなどが出走したが、シリーンはVelasquezに6馬身差で圧勝した。その後3歳シーズン最終戦としてサンダウンパークフォールSに出走し、持ったまま4馬身差で楽勝した。

4歳時には当時まだ権威があったアスコットゴールドカップに目標を定め、2日前のトリエニアルSに調教代わりに出走し2馬身差で勝利した。ゴールドカップにはフランスからジョッケクルブ賞(フランスダービー)などを勝利したGa rdefeuが出走してきたが、シリーンはゴール前で鞍上が馬の首を撫でる余裕を見せながら2着に8馬身差で勝利し、Ga rdefeuは3着に敗れた。この年の三冠馬 Flying Foxとの対戦も期待されたが、シリーンは脚部不安でそのまま引退した。

ローズ氏の牧場で種牡馬になったシリーンは150ギニーという良心的な種付け料に設定され2年目まで満口になった。
しかし、初年度の産駒の2歳の成績は2頭が条件戦を勝利するだけとなり、シリーンの価値は暴落していった。一応2年目の産駒にダービー馬 CiceroとチャンピオンSなどに勝利し後に後継種牡馬として活躍するPol ymelusがいたのだが、シリーンの名誉回復には至らず、結局1908年にアルゼンチンに売却された。

ところが売却された翌年からMinoru、Lemberg、Tagalieとダービー馬を次々と輩出し、1909・1910年にはリーディングサイアーとなった。種牡馬として4頭の英ダービー馬輩出は2020年にGalileoに更新されるまでWaxy、Sir Peter Teazle、Blandford、Montjeuと並んで最多タイであった。
アルゼンチンでも3頭のナシオナル大賞(アルゼンチンダービー)勝ち馬を輩出するなど活躍した。アルゼンチンの牧場で30歳まで生き、最後の2年間は「生きているのか死んでいるのかも分からない」と評されるほど寝たきりの状態であったが、死後大切に埋葬された。

彼の子孫はPol ymelus - Phalarisを通してNearco、Native Dancer、Tom Foolなどが活躍した。また、1919年生の牝馬Selene(シリーン)にも母系にシリーンの血は入っている。ややこしい。

そのさらに子孫の活躍はこの記事を見ている方には説明するまでもないだろう｡