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セマグルチド(Semaglutide)とは、2型糖尿病や肥満症の治療薬である。糖尿病治療薬としての販売名はオゼンピック®皮下注とリベルサス®錠。肥満症治療薬としての販売名はウゴービ®皮下注。
概要
セマグルチドは、選択的GLP-1受容体作動薬である。ヒトGLP-1と94%の構造的な相同性を有するGLP-1アナログであり、31個のアミノ酸残基からなる。週1回投与の皮下注製剤(オゼンピック®、ウゴービ®)と1日1回投与の経口剤(リベルサス®)が、ノボノルディスクファーマ株式会社より製造販売されている。
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とは、腸や脳で産生されるペプチドホルモンである。GLP-1は膵臓のランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促して血糖降下作用を示すほか、胃内容物排出遅延作用や摂食抑制作用なども示す。
GLP-1受容体作動薬は、日本では2010年に初めて登場した。GLP-1と同じように血糖降下作用や摂食抑制作用を示すため、2型糖尿病や肥満症の治療に用いられる。作用時間の短い内因性GLP-1よりも長く効果を示すよう改良されており、1日1回または週1回の投与でよい製剤が多い。グルコース濃度依存的に(≒血糖値の上昇に伴って)効果を示すため、低血糖のリスクも軽減されている。
開発経緯
セマグルチドは、デンマーク王国の製薬企業ノボノルディスクによって創製された。ノボノルディスク社は2009年(日本では2010年)にGLP-1受容体作動薬リラグルチド(ビクトーザ®)を上市しているが、この製剤は毎日皮下注射する必要がある。そこで、アルブミンとの親和性を高めるなどして、さらに分解されにくく改良した週1回皮下注製剤オゼンピック®が開発され、2018年に国内での製造販売承認を得た。
セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬は分子量の大きなペプチド(≒タンパク質)であり、単純に経口投与してもタンパク質分解酵素により分解され、胃粘膜をほとんど透過せず吸収されない。そこで、セマグルチドを分解酵素から保護し、胃粘膜から吸収されやすくするサルカプロザートナトリウム(SNAC)を添加した世界初の経口GLP-1受容体作動薬リベルサス®が開発され、日本では2020年に承認された。
GLP-1は中枢における摂食抑制作用も知られており、海外では肥満症患者の治療や体重管理に応用されている。肥満症患者を対象とした国際共同治験でセマグルチドの有効性・安全性が示されたため、日本初となる肥満症を適応とするGLP-1受容体作動薬ウゴービ®も、2023年に承認された。
効能・効果
- 2型糖尿病 - オゼンピック®皮下注およびリベルサス®錠の適応症。
ただし、食事療法や運動療法で十分な効果が得られない2型糖尿病の患者に限る。 - 肥満症 - ウゴービ®皮下注の適応症。
ただし、高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法や運動療法で十分な効果が得られない肥満症の患者のうち、BMI≧27kg/m2で肥満に関連する11疾患(①2型糖尿病などの耐糖能障害、②脂質異常症、③高血圧症、④高尿酸血症・痛風、⑤冠動脈疾患、⑥脳梗塞・一過性脳虚血発作、⑦非アルコール性脂肪性肝疾患、⑧月経異常・女性不妊、⑨閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、⑩変形性関節症・変形性脊椎症、⑪肥満関連腎臓病)を2つ以上有するかBMI≧35kg/m2である場合に限る。
肥満症でない患者への美容・痩身(ダイエット)目的での投与は承認されていない。痩せ薬と謳い、高額でGLP-1受容体作動薬を提供する美容クリニックもあるが、経済的利益を求め「医の倫理」に反する行為である点、副作用被害救済制度を受けられなくなる患者の不利益を軽視している点、有限の医薬品資源・製造リソースを逼迫させ出荷調整の遠因となる(≒本当に薬を必要とする患者に薬が届かない)点で問題視されている。
用法・用量
- オゼンピック®皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg SD - 週1回皮下注射する。1回0.25mgから開始し、4週間投与したのち1回0.5mgに増量する。1回0.5mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1回1.0mgまで増量できる。
- リベルサス®錠3mg/7mg/14mg - 1日1回起床時に経口投与する。1回3mgから開始し、4週間以上投与したのち1回7mgに増量する。患者の状態に応じて適宜増減する。1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1回14mgに増量できる。服用後、少なくとも30分は飲食を避ける。
- ウゴービ®皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mg SD - 週1回皮下注射する。1回0.25mgから開始し、4週間ごとに1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、患者の状態に応じて適宜減量する。
オゼンピック®やウゴービ®は、毎週同じ曜日に投与する。投与し忘れた場合、次の投与まで2日間(48時間)以上あるなら気づいた時点で投与し、その次はあらかじめ定めた曜日に投与する。次の投与まで2日間(48時間)未満であるなら投与せず、あらかじめ定めた曜日に忘れずに1回分を投与する。投与する曜日を変更する場合は、前回の投与から2日間(48時間)空ける。
リベルサス®を服用し忘れた場合、その日は服用せず翌日の起床時に忘れずに1回分を服用する。錠剤を粉砕したり分割したりせず、1回1錠をそのまま服用すること。ちなみに、添加されているSNACの量はどの錠剤も同量(300mg/錠)で、SNACの量とセマグルチドの吸収率は比例しせずかえって吸収が低下するため、7mg錠2錠を14mg錠1錠の代用とすることができない。1回14mgに増量となったら、7mg錠が残っていても服用しないこと。
作用機序
セマグルチドは、GLP-1受容体作動薬である。膵臓のランゲルハンス島β細胞上にあるGLP-1受容体に選択的に結合し、ATPからのcAMP産生を促進させ、グルコース濃度依存的にインスリンを分泌させる。分泌されたインスリンは、肝臓や筋肉などの細胞表面にあるインスリン受容体に結合し、血中のグルコースを細胞内へと取り込ませることで、血糖値を低下させる。
また、GLP-1は摂食抑制作用も有する。GLP-1受容体作動薬による摂食抑制メカニズムとして、消化管のGLP-1受容体から迷走神経および延髄孤束核を介した作用と、中枢への直接的な作用が考えられる。食欲が抑制され喫食量が減少するため、体重が減少する。
リベルサス®に添加されているSNACは、pH緩衝作用を有し、胃の低pH環境において錠剤周囲のpHを上昇させる。低pHで活性化するタンパク質分解酵素の作用が抑えられるため、セマグルチドの分解が抑制される。また、セマグルチドをモノマー化する作用や細胞の脂質膜を流動化させる作用が確認されており、これらが吸収促進につながっていると考えられる。
禁忌・副作用
GLP-1受容体作動薬はインスリンの代替薬ではない。糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡・前昏睡、1型糖尿病の患者は、速やかにインスリン製剤によって治療されるべきである。また、2型糖尿病の患者であっても重症感染症の患者や、手術などの緊急の場合においては、インスリン製剤による血糖管理が望ましい。したがって、これらの患者へのGLP-1受容体作動薬の投与は禁忌である。本剤の成分によって過敏症をきたした患者への投与も禁忌。
副作用は、嘔吐、腹痛、便秘、下痢といった消化器症状が比較的多い。GLP-1受容体作動薬はグルコース濃度依存的に作用するため低血糖のリスクが少ないが、低血糖を引き起こす可能性はゼロではない。低血糖の初期症状として冷や汗、動悸、手の震えなどがあるため、そのような症状があればブドウ糖や砂糖を含むジュースを摂取し、必要に応じて医療機関を受診すること。重大な副作用として、急性膵炎の報告もある。急性膵炎は嘔吐や激しい腹痛を伴い、重症化すると約10%が死に至るため、そのような症状がみられた場合にも医療機関を受診すること。なお、膵炎と診断された患者への再投与は行わない。
同種同効薬・関連薬
GLP-1受容体作動薬のステム(語幹)は、ペプチドを意味する“-tide”である。さらに、アメリカドクトカゲが分泌するエキセンディン-4に由来する“-enatide”系、GLP受容体作動薬を意味する“-glutide”系に細分化される。GLP-1受容体作動薬は2023年10月時点で10種類(皮下注射剤9剤+経口剤1剤)が上市されており、GIP受容体にも作用する二重作動薬の製剤や長時間作用型インスリンアナログとの配合剤もある。
- エキセナチド(バイエッタ®) - 1日2回朝夕食前に皮下注。
- リラグルチド(ビクトーザ®) - 1日1回朝または夕に皮下注。
- リキシセナチド(リキスミア®) - 1日1回朝食前に皮下注。
- デュラグルチド(トルリシティ®) - 週1回皮下注。
- セマグルチド(オゼンピック®、リベルサス®、ウゴービ®) - 週1回皮下注または1日1回起床時内服。
- チルゼパチド(マンジャロ®) - GIP/GLP-1受容体作動薬(デュアルアゴニスト)。週1回皮下注。
- レタトルチド - GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬(トリプルアゴニスト)。
- スルボデュチド - GLP-1/グルカゴン受容体作動薬(デュアルアゴニスト)。
- アルビグルチド
- タスポグルチド
- エフペグレナチド
GLP-1に関連した糖尿病治療薬として、ビルダグリプチン(エクア®)、リナグリプチン(トラゼンタ®)などのDPP-4阻害薬がある。GLP-1を分解する酵素であるDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)を阻害することで、内因性GLP-1による血糖降下作用を示す。GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬は、併せてインクレチン関連薬と呼ばれる。
非ペプチド系・低分子量のGLP-1受容体作動薬として、ダヌグリプロン、ロチグリプロン、オルフォルグリプロンがある。もし、これら低分子量のGLP-1受容体作動薬が実用化されるならば、リベルサス®と異なり食後投与可能な経口剤となる可能性がある。ただし、ロチグリプロンの開発は中止された。
肥満症治療薬として、マジンドール(サノレックス®)、オルリスタット(アライ®)などがある。オルリスタットは腸管からの脂肪酸の吸収を抑制するリパーゼ阻害薬で、一般用医薬品・要指導医薬品として薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入可能。食事や運動の改善と併行して、1日3回内服する。
GLP-2受容体作動薬として、テデュグルチド(レベスティブ®)がある。腸管の大量切除や生まれつき腸管が短いことに起因する、短腸症候群の治療に用いられる。GLP-2(グルカゴン様ペプチド-2)は、腸管粘膜の増殖や栄養分の吸収促進に寄与している。
関連動画
関連リンク
関連項目
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