ヒトヨタケ(一夜茸)とは、その名の通り儚い命を一夜に燃やす毒きのこの一種である。
概要
ニコニコ大百科:菌類 ヒトヨタケ |
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分類? | ハラタケ目ヒトヨタケ科ヒトヨタケ属 | |
学名? | Coprinopsis atramentaria Coprinopsis→Coprinus属(ササクレヒトヨタケ属、旧ヒトヨタケ属)+のような atramentaria→インクの |
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ハラタケ目 Agaricales? | ||
このテンプレートについて |
本記事ではヒトヨタケという和名のきのこ(C・アトラメンタリア)を主に扱うが、他のヒトヨタケの仲間についても簡単に解説する。
「一夜」の名の通り、一晩できのこが溶けてなくなってしまう短命なきのこである。溶けるのはきのこ自身の酵素による自己分解が起こるからだが、胞子が黒いので、溶けた様子はあたかもインクのように真っ黒である。英語ではヒトヨタケの仲間は"Inky caps(インクの傘のきのこ)"と総称される。実際に、かつてはヒトヨタケの傘を茹でて得られた液体がインクとして用いられていたという。[1]なお、全てのヒトヨタケの仲間が溶けるわけではない。
ヒトヨタケの仲間は山に入って探すというよりは、むしろ庭や畑など身近な場所でよく見られるきのこである。特に有機物に富んだ場所でしばしば大発生し、放置された畳などからわっと一斉に生えている光景も見られる。身近すぎる場所としては、家の中の湿った場所や下着に見つかるきのこがこの仲間であることが多い。
毒性
ヒトヨタケの仲間には食用になるきのこも多いが、寿命が短いということは足が早いということでもあるので、傘の縁が黒ずみ始めたらもう食べないほうがよい。
ヒトヨタケとその仲間にはコプリンというアミノ酸を含むものがあり、これが毒成分(正確にはその前駆体)として知られている。摂取するとアルコールを分解するのに必要な酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼの作用を阻害してしまうので、アルコールとともに摂取するとひどい悪酔い状態になり、重症になると血圧低下を起こす。
つまり、ヒトヨタケは決して酒の肴にしてはいけないのである。
きのこを食べた1-2日後にアルコールを摂取しても発症してしまうことがあるという。コプリンによる中毒は通常治療の必要はなく、放っておけばそのうち快方に向かうが、重症の場合は酸素吸入・抗低血圧薬の投与などが行われることもある。
ヒトヨタケ(C. atramentaria)はコプリンを含むきのことしては最も普通だが、全てのヒトヨタケの仲間がコプリンを含む毒きのこというわけではない。例えば、人工栽培もされているササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)はコプリンを含まないといわれているので、お酒と一緒に食べても安心だ。
その他・豆知識
- 漫画家の松本零士は押入れに入れてあったパンツ(猿股)に生えたきのこをサルマタケ(猿股+茸)と名づけ、同じく漫画家のちばてつやに食べさせたことがあるが、それがヒトヨタケの仲間ではないかといわれている。このエピソードはテレビ番組「トリビアの泉」(2003年8月20日放送分)でも紹介された(68へえ)。
- きのこを扱った芸術作品で著名なものといえば、何といってもエミール・ガレの「ひとよ茸ランプ」だろう。ガレはヒトヨタケに創作意欲を刺激されて6つのランプを制作したが、これらは名作として名高い。
現存する3つのランプのうち2つが日本にあり、東京のサントリー美術館と諏訪湖畔の北澤美術館に行けば見ることができる。残りの1つはガレの故郷であるナンシーのナンシー派美術館にある。
- 多くのきのこの襞からは、未だに機能や役目がよく分かっていない、シスチジアというナゾの細胞が飛び出ている。1729年にミケリはヒトヨタケのシスチジアを観察し、それは「襞同士がくっついて胞子を飛ばすことができなくならないように、つっかえ棒のように離す役割を持っているのではないか」という仮説を立てている。
- なお、使用済みティッシュからも栽培できることが確認されており、食糧難を解決する糸口として注目されている。
関連動画
関連項目
脚注
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