核融合炉とは核融合反応を利用した反応炉のことをさす。2010年現在、定常的な核融合反応を起こせる核融合炉は実用化されていない。将来的な実用化と発電への利用を目指して、日欧を中心に世界各国で研究が続けられている。
概要
現在は重水素、トリチウム(三重水素)からヘリウムを生み出す反応(以下D-T反応と記す)を利用すべく研究が進められている。 これはD-T反応がもっとも容易に実現できる核融合反応だからである。 しかし、もっとも容易なD-T反応でさえ、現在の技術では核融合反応に必要な条件(後述)の達成は難しい。
現段階では外部から絶えずエネルギーを供給し続けることによって、核融合反応を短時間維持できる炉がわずかに存在するのみである。 実用化に向けて、世界各国の協力のもとフランスにITERと呼ばれる核融合実験炉の建設が進められている。
定常的な核融合反応の維持、適切な構造材の開発、燃料の確保、具体的な発電システムの開発など、実用化に向けての高い技術的障壁から、22世紀の技術などと揶揄されることもある。
核融合とローソン条件
原子は陽子と中性子からなる原子核と、その周囲を回る電子によって構成されている。
陽子と中性子は核力によって結び付けられている。核力は陽子のクーロン力よりも100倍ほど強いが力が及ぶ範囲が極めて狭い。 したがって、核融合反応を起こすためには、核力>クーロン斥力となる距離まで原子核を近づけなければならない。そこまで近づけることができれば、あとは核力が原子核同士を結びつけてひとつにしてくれる。
ところが、通常の原子同士を近づけようとすると、原子核の周囲を回る電子のクーロン斥力によって反発をうける。電子は原子核のはるか遠く(原子核を1円玉とすると周囲の電子雲は東京ドーム程の大きさになる)に存在するため、そのままでは原子核間の距離が遠すぎて融合どころではない。そこでまず原子核から電子をはぎ取って裸(プラズマ)にする必要が出てくる。
しかし、単純にプラズマ化させただけでは核融合を起こすには不十分である。原子核も正の電荷を持つため、クーロン斥力によって反発を受ける。その反発力に逆らって、核力>クーロン斥力になる距離まで原子核を近づけるには、勢いよく衝突させなければならない。
温度が高くなればなるほどプラズマのエネルギーは増え、内部の原子核はより高速で運動するようになる。原子核を秒速千キロほどで運動させれば、クーロン斥力によって反発される前に、原子核同士の衝突、つまり核融合が起きる。その発生確率を上げるためにはプラズマをより高温にして、高速な原子核の割合を増やせばいい。
また、プラズマの温度が同一ならば、単位空間あたりのプラズマの数が多いほうが衝突する原子核の数が当然多くなる。そのためには、プラズマに圧力をかけて狭い空間に押し込めばいい。
ここまでをまとめると、核融合に必要な条件は以下の3つになる。
これらと加熱エネルギーなどを考慮して、求められた核融合炉の成立条件を、ローソン条件と呼ぶ。核融合研究にはこの条件などを図化したローソン図がよく用いられる。現在は実現がもっとも容易な「一億度」「100兆個/cm^3」「一秒以上」でこの条件を満たすための研究開発が進められている。
ちなみに、100兆個/cm^3というのは字面ではすごそうだが、標準状態の大気の三十万分の一以下の密度、圧力でしかない。 なお、太陽では1500万度程度の比較的低温でも核融合反応が起きている。これは重力によって中心部に強力な圧力(大気圧の2400億倍)がかかっているためである。
トカマク型核融合炉
前述のローソン条件を満たすために、様々な方法が検討されたが、現在では高温のプラズマを強力な磁場で閉じ込める方式に落ち着いた。これは磁場閉じ込め方式と呼ばれる。磁場の形成にはさまざまな方式の炉が検討されたが、トカマク型、ヘリカル型、ミラー型の3つのタイプが検討されている。
現在の主流はもっとも安価に建造できるトカマク型である。ヘリカル型には構造が複雑、ミラー型にはエネルギーロスが多いという弱点があった。ここではトカマク型の核融合炉について簡単に説明する。
まず、トカマク型ではプラズマをドーナツ状にして閉じ込める。ヘリカル型も同様である。
プラズマは真空容器に格納される、真空容器の内側にはブランケットがあり、ここで熱の取り出しとトリチウムの生産を行う。さらにその内側に第一壁、プラズマ内の不純物を除去するダイバータ、プラズマの位置を調整するリミターが配置される。
そして真空容器の周囲をコイルで覆う。このとき、ドーナツの輪に沿う方向(トロイダル磁場)とドーナツの穴を貫く方向(ポロイダル磁場)に磁場ができるように配置する。この真空容器にガス注入装置、加熱装置、プラズマ制御装置、排気装置、各種センサーその他いろいろとくっつければ、トカマク型核融合炉の出来上がりとなる。てか、このあたりは文章で説明してもわからんので、適当にぐぐって図を見てくれ。見てもわからんが
で、このトカマク型核融合炉の大雑把な運転シナリオは以下のとおり。
- ドーナツの輪に沿う配置のコイルに電流を流して磁場を形成して、燃料ガス注入開始
- ドーナツの穴配置のコイルにも電流を流してプラズマ放電開始、プラズマ電流を増大させる
- プラズマの位置や形状を調整し、プラズマ電流を安定させる
- 燃料の注入や加熱装置を使ってプラズマを高温高密度化させる(ここで核融合反応)
- 加熱を停止、プラズマ電流を0にしてプラズマを消滅させる
トカマク装置はソビエトで発明された。日米欧ソのトカマク装置は高温プラズマの特性解明に大いに貢献した。現在最新型のトカマク装置として下記のITERが建設中である。
ITER(イーター)
正式名称はInternational Thermonuclear Experimental Reactor。フランスのカダラッシュにて建設中のトカマク型核融合実験炉である。
日欧露米中韓印の7極(世界の人口の半数以上!)によって推進され、建設10年運転20年で総額1兆円を超える国際プロジェクトである。プロジェクト開始から終了までは半世紀ほど費やされることになる。
核融合炉研究の歴史はプラズマ研究の歴史でもある。いかにして高温高圧のプラズマを作り出すかの研究が半世紀にわたって続けられてきた。その研究の過程で装置をでかくをすればするほど、プラズマの生成に有利になることがわかってきた。そしてトカマク装置はでかくなり続けた。・・・なりすぎて金がかかりすぎるようになった。一国ではやってらんねーよと投げ出したくなるほどだった。
そこで1988年から日米欧ソの4極を中心にITER計画がスタート。カナダの撤退やアメリカの一時離脱、コスト高騰による設計見直しが行われるなど、プロジェクトはけして平坦な道のりではない。
プロジェクト当初からの参加国であること、高い技術力をもつことから、ITER計画において日本は主導的な立場にある。
ITERでは核融合炉の科学的・技術的可能性の実証が目標とされ、実用化に向けた多くの新技術が投入され、それらの検証が行われる。
核融合研究の未来はITER計画の成否にかかっているといっても過言ではない。
2020年から核融合炉の組み立て作業を開始しており、最初の実験は2025年12月に開始される予定になっている。[1]
D-T反応のトカマク型核融合炉と軽水炉の比較
以上を踏まえて、一般的な原子炉の軽水炉とトカマク型核融合炉とを比較すると以下のような利点と欠点がある。ITERへの国際的批判と反論はWikipediaにも詳しく載ってるしそっちも見てね。
利点
- 暴走が発生しない
- 核分裂炉は反応度事故により、炉心の破壊や広範囲の放射能汚染が発生するリスクがあるが、核融合炉では反応度事故は原理上起こりえない。プラズマを閉じ込めるための磁場を発生させるコイルが壊れると反応が続かなくなって止まる、そもそも1回の実験で使う燃料が1gにすら満たない等々。
- 緊急炉心冷却装置が不要
- 分裂炉では炉を緊急停止させても、熱を長時間放出し続ける。放置すれば炉心溶融につながるため、冷却のために大量の水を炉内に注入する必要がある。 融合炉ではプラズマの密度が非常に希薄なため、プラズマを閉じ込めている真空容器が破壊されるようなことはありえない(プラズマを閉じ込める容器が65トンに対し燃料が0.02g)。また、放射化した構造材の崩壊熱も小さく、無視できる。
- 燃料が事実上無尽蔵かつ、供給場所を選ばない
- 重水素は重水から、トリチウムはリチウムに中性子を当てることで確保ができる。 どちらも海水中に大量に存在しており、海からの採取が可能である。そのため、石油やLNGのように輸入に頼ることなく発電が出来る。量も豊富で100万キロワット級核融合炉100万基が1万年稼動したとしても枯渇には程遠い。なお川内原発1号機が出力89.0万キロワットてことで100万基も動かす必要ないんでそこんとこよろしく。
- 燃料が比較的安全で高レベル放射性廃棄物を出さない
- 分裂炉の核燃料や使用済み核燃料は放射能を持つ。また、ウランとプルトニウムは燃料であると同時に、核兵器の原料でもあるため、取り扱いや処分が非常に厄介である。 重水素はありふれた物質で、核兵器転用の恐れがない。トリチウムは半減期12.3年の低レベル放射性物質であり、かつては核爆弾の燃料の一部として使用された歴史もあるが、現代ではより扱いの容易な代替物質(重水素化リチウム)があるためそれほど重要ではない。したがって、ウランやプルトニウムのような国際的な監視、管理を行う必要もない。
- 燃料の単位質量あたりのエネルギー発生量が多い
- D-T反応とU235の核分裂によって発生するエネルギーを比較すると、単位質量あたりの発生エネルギーはD-T反応が3倍以上多い。(U-235の核分裂は約200Mev、D-T反応は17.58Mevのエネルギーが放出される) また、D-D反応で直接発電が実用化されれば、電力へのエネルギー変換効率においても、核分裂炉を格段に上回る。
- 燃料の循環サイクルが発電所の敷地内で完結する
- 分裂炉では燃料の加工、使用、再処理にそれぞれ大規模な施設が必要である。それらの施設間の燃料の運搬も厳重な管理下のもと行われる必要がある。 融合炉では発電所敷地内で排ガスからの燃料循環とリチウムからのトリチウムの生産を行うことが可能である。つまり、初回起動時にトリチウムを持ち込んだあとは、放射性物質を発電所敷地内だけで管理できる。
欠点
- 技術的に困難
- すでに確立された技術である核分裂炉に対し、核融合炉では新開発が必要な技術、検証すべき事柄が非常に多い。その多くはITERによって確認される。ITERが成功すれば核融合発電の実用化に向けて技術的障壁の多くは解決される。(というか、あとは実験して確かめられればOKって段階まで研究が進んだから、ITER計画が実行に移された)
- 強力な磁場が発生する
- プラズマを閉じ込めるために強力な磁場を用いるが、磁場の人体や自然環境への影響、法律上の取り扱いをどうすべきかなどはまだまとまっていない。
- 強い中性子線が発生する
- U-235の核分裂で発生する中性子の平均エネルギー2Mevに対し、D-T反応では14Mevの中性子が発生する。また、軽水炉では中性子の減速によってエネルギーはさらに低下するが、核融合炉ではそのままのエネルギーが構造材に照射される。したがって、分裂炉よりも照射損傷による構造材の脆化、硬化、膨張の影響が大きくなると見込まれている。もちろん放射化もする。周辺住民に避難を強制させるほどのものではないが対策が必要。
- 本当に実用化できるかがわからない
- それを確かめるために実験炉のITERが建設中である。ITERの成功は実用化に向けての構想や概念の検証が成されたことを意味する。以降は原型炉(発電と工学的な検証)→実証炉(経済性の検証)→商業炉(実用化)と開発が進む予定である。 このペースだとリアルに22世紀実用化になりかねないので、原型炉と実証炉を一つに統合し、2050年あたりの実用化を目指した計画も存在する。
これらの計画はITERの成功を前提にしているため、ITERが失敗したときどうなるかは、お察しください。
実用化にあたっての障害
- コストが非常にかかる。
- 実用化に向けての最大の障害だと思われる。ITERが国際的プロジェクトとなったのは、総額で1兆円を超える莫大な費用を一国では負担できなくなったという面が大きい。 また、研究が順調に進み、技術的に核融合発電が可能になったとしても、発電コストが他の方式の発電所よりも劣っている可能性もある。
- 新開発が必要な技術が多い(多いので以下列挙)
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関連項目
脚注
- *「太陽エネルギー再現」へ、核融合炉の組み立て開始 仏
2020.7.30
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