AH-64とは、アメリカ合衆国をはじめとした西側諸国で運用されている攻撃ヘリコプターである。
概要
AH-1が搭載していたTOW対戦車ミサイルに代わり、レーザー誘導方式のAGM-114を最大16発搭載する。機首に搭載したTADSと呼ぶ目標指示器でロックオンして発射するので、TOWのように命中まで射手が誘導し続ける必要は無い。ほかに19発入りの2.75インチロケット弾ポッドを最大4個搭載可能。前部胴体には30mmチェーンガンが取り付けられており、最大1200発の弾丸を搭載可能。
後の改修型ではFIM-92やブリムストーン対戦車ミサイル(イギリス向け)、spike対地ミサイル(イスラエル向け)が運用できるようになった。
TADSは機首先端のターレットで、目視照準系、IR暗視装置、TV、レーザーデジグネーター、レーザートラッカーが組み込まれている。TADSの上には赤外線を使用するPNVS(パイロット夜間視界センサ)もあり、夜間でも射手やパイロットが広い視野で目標を捜索できる。
生残性も徹底的に強化されており、ローター、操縦系統、燃料系統、乗員室の防弾が改良されたほか、エンジンの排気温度を下げるIRサプレッサーが装備され、ローターの騒音もAH-1Sより50%低減されている。もし墜落しても、毎秒13mの落下速度までなら乗員は95%の確率で生存できる。
滞空時間は環境やミッション内容で変化するが、ヨーロッパでの対戦車ミッション(ヘルファイア16発と機関砲弾1200発を搭載、高度600mで飛行)で2.33時間になる。
現在でも生産されており、2023年にはポーランドへの売却が承認されている。
開発
アメリカ陸軍はワルシャワ条約機構軍、特に圧倒的な戦車に対抗するため、夜間や悪天候でも作戦でき、将来の戦車や対戦車ミサイルの発達も考慮に入れた新しい攻撃ヘリの開発に着手、1973年6月にAAH(次期攻撃ヘリコプター)として、AH-1を大幅に上回る性能を持つ機体を開発することにした。
1973年7月にヒューズ社・ベル社との間でテスト機の開発契約を締結。ヒューズのYAH-64が4枚ローターでパイロットが射手の後ろに座る形式であったのに対し、ベルのYAH-63はローター2枚、パイロットが射手の前に座る設計だった。
両社の原型機は1975年9月に初飛行、1976年12月にヒューズの機体が採用されることが決定した。
派生
1984年にAH-64 A型の導入がスタート。1991年の湾岸戦争で実戦参加。その能力が周知されるとともに装備を最新のものにアップデートする計画がスタート。グラスコクピット化、新型のローター・ブレードの導入および電子機器のアップデート、特徴的な外見のAN/APG-78ロングボゥ・レーダー(ヘリのローター上部に取り付けられた鏡餅状のもの)の導入など様々な新機軸を取り込んだD型が『アパッチ・ロングボウ』として1993年前後に実現した。新規導入分だけではなく既存のAH-64Aもすべて改修作業をうけてAH-64D型となっている。
湾岸戦争では高評価を受けたものの、続くイラク戦争などでは歩兵・ゲリラなどが携行するMANPADS(携行型対空ミサイル)の普及などにより損害が増加。対地攻撃ヘリコプターとして評価が低くなった。
ただしAH-64そのものもD型にたいして順次アップデートを行い、当初のBlock1、Block2とアップデートが続く中、最新型のBlock3が導入。Block3については既存のAH-64A/D型を改修するアパッチ・ブロック3・A(AB3A)、完全新規製造のアパッチ・ブロック3・B(AB3B)の二つの導入方法があり、うち、既存機体改修の場合は導入後30年を経過している機体もあることから、胴体部分の新規交換が行われている。(ここまでくると、もう新規製造とほとんどかわらないレベルではあるが)
2012年8月に、D型Block3をE型と改称し、あわせて『アパッチ・ガーディアン』という名称をつけることとなった。
E型の特徴は外見上の違いはあまりないものの、ほぼすべての装備に対してアップデート化が行われているだけではなく、UAS(UAVの発展を受けて最近ではUASと呼ばれている)である無人機指揮能力を獲得。レベル4と呼ばれる武装および操縦の遠隔指揮をAH-64Eのコクピットから行えることとなった。MQ-1Cグレイイーグル(プレデターの発展型)の遠隔指揮だけではなく、まだ正式採用ではないが、AH/MH-6Xリトルバード無人機の遠隔指揮にも成功している。
また、イラク戦争で露呈したMANPADS(携行型対空ミサイル)に対する脆弱性への対応のひとつとして、現在開発導入が進められているMALD(空中発射型デコイ)もこれらUASに搭載するのではないかと見られている。(イスラエルのAH-64Dはすでに実戦でデコイを使用しているといわれる)
米軍ではD型Block3=E型は、前述した既存機体改修分634機、新規製造分56機のあわせて690機の導入が計画されており、これにより既存のアパッチを運用する27個大隊(1大隊おおよそ24機)すべてがAH-64E型の導入を行うと考えられている。
日本での運用
2001年、防衛庁(当時)はAH-1Sの後継としてAH-64Dを選定、62機の調達を計画して富士重工業でライセンス生産が開始された。しかし年に2機という調達ペース、日本独自仕様の盛り込みによる初度費の上昇により調達単価は高騰した。おまけにF-15K導入のオフセット契約でAH-64Dの主要コンポーネントの生産を請け負っていた韓国の大韓航空が生産ラインの閉鎖を希望し、ボーイングとアメリカ政府がそれを認めたため、日本におけるライセンス生産そのものが困難になった。その後、2013年度に13機で調達を打ち切ることが決まった。[1]
打ち切りの理由は他にもいろいろ噂されているが、
- AH-64D/Block2(生産単位・バージョン違いみたいなものと思ってほしい)で導入を開始したら、アメリカ側メーカー(ボーイング社)では米軍向けのBlock3の生産が開始され、国内メーカーに送られるブラックボックス部分のパーツが以後生産されないことが判明した。
(というのが防衛省の言い分のようだが、米国メーカーボイーング側では「部品供給もするし、必要ならアップデートも検討する」という公式発言がある) - 部隊導入を開始したらある装備品が使用する電波帯域が国内ではすでに使われていて使用できないのが判明した。
- 部隊導入を開始したら予想以上に運用コスト(人的問題? 金額的問題?)がかさむことが判明した。
- イラク戦争などの戦訓を踏まえると攻撃ヘリの有効性に疑問を持たれつつあるため。
などなど話が上がっているが、真偽のほどは定かではない。
よほど自衛隊の中の人がAH-64Dに納得できない問題があったと見るべきか。ただ、いかなる理由であっても最近にない大不祥事かつ大失態であることには間違いがない。AH-64Dの配備を決めた中の人は大丈夫だろうか…。
結果的に13機で調達終了という形になったため、2008年、残り3機分に残り47機分に盛りこまれる予定だった国内メーカー側の生産設備の導入経費+ライセンス生産違約金などなどが加わることとなり、この3機にかぎり本来の1機あたり83億円に133億円が合算、216億円という高額な予算要求が行われた。
ぶっちゃけ、世界一高価と言われる戦闘機、F-22とほぼ同じ値段である。
当然というか、防衛費削減の中でこんな額が通るわけもなく、この3機分の導入が見送られることになった。
つまり、この時点で10機導入で中断。ライセンス生産メーカーである富士重工業は本来導入予定の50機分導入で見込んでいた350億円が未回収されることなった。
2009年9月2日富士重工業は発注機数の大幅減に伴う必要経費負担を防衛省に要望する事が明らかになった。2010年度概算要求でもAH-64Dの導入予算計上を見送った為、上述した一機ごとに上乗せ予定だったライセンス料の未回収分約350億円に加え、ボーイングから購入した3機分の部品代金約100億円につい ても請求するとしていた。防衛省の言い分は単年度調達であるため違約金は生じないという意見のようだ。
(この問題は結局裁判にまでなり、一審は富士重工の訴えが退けられたものの、二審では支払いを命じ、平成27年12月17日、最高裁は前述のライセンス料未回収分351億円あまりの支払いを国に対して命じる二審判決を確定した。"国は従来通り初期費用をメーカーに支払う信頼を守る義務があるべき"というわけで、当然の話でもある)
元々AH-64がライセンス生産されるメリットは、国内に生産ライン・整備設備があることで機体のメンテナンスにかかる費用、時間が軽減されることなる(と、稼働率が向上する)。FMSやボーイングからの直接購入ではライセンス生産より安く済むのだけれど、定期整備などボーイング社から技術者を派遣してもらう必要がある。これでは望むとき、望む形で整備が行えないデメリットが生じるので、防衛省はそういう対応を望んでいたし必然と国内生産メーカーはこれらの生産・整備に必要な設備投資が必要になるので巨額の予算が必要になる。これを当初予定の60機に割り当てる予定が、半分もいかないうちに中断します。では国内メーカー側も立場がないだろう。
以後のAH-64の調達については、2011年度予算要求の中にふたたび計上されていることが明らかになった。しかも1機のみで調達費用54億円としている。再び計画通り13機までの調達を行う予定なのかもしれない。(この顛末をうけて、自衛隊では導入にあたり設備導入費を導入機材数分分割して割り当てる、という方式を取りやめる場合も出てきたのは良い傾向と言えるだろう)
2022年末に公表された防衛力整備計画では、将来的に攻撃ヘリと偵察ヘリを全廃し、無人航空機へ移行することが明記されているため、追加調達はないものと見られている。
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関連項目
脚注
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