Me262とは、ナチスドイツが第二次世界大戦において開発・運用したジェット戦闘機である。
概要
Me262は世界初の実用ジェット戦闘機 兼 ジェット爆撃機である。1939年にメッサーシュミット社が開発計画を立ち上げ、技術的、運用的、総統閣下的紆余曲折を経て1944年に実戦配備された。武装は30mm機関砲4門に空対空ロケット24発を搭載、水平飛行での最高速度が870km/h(at 高度6000m)に達し、その恐るべき火力と速度を活かして連合軍をドーバー海峡とウラル山脈の向こうに追い返す大活躍!・・・・・・とはいかず(それでも爆撃機迎撃に相当に活躍はしたが)、ベルリンにはソ連の旗が掲げられた。
開発経緯
Me262の開発は、1939年にBMW社が開発中のジェットエンジンを搭載するジェット戦闘機の開発計画をメッサーシュミット社が立案したことに始まる。
初期プランでの設計は完成度が高かったが、BMW製ジェットエンジンが当初より大きく重たくなることが確定し、設計通りに搭載すると重量バランスが狂うことが判明。苦肉の策として主翼に18.5度の後退角をつけて重量バランスを取っている。つまり空気力学的な機能とは全く別の理由で後退角がつけられており、飛行性能に対する利点はほとんどないと言ってよい[1]。他にも、エンジンの搭載位置が翼桁から主翼下部に変わり、正面から見た胴体形状も楕円形から三角形に変更され、武装が20mm機関砲3門から30mm機関砲4門に変更させられるなど、原型のげの字も無さそうなレベルでの設計変更を余儀なくされている。
それでも何とか1941年春には試作1号機の試験飛行にこぎつけるが、BMWのジェットエンジンが未完成だったため機首に従来と同じレシプロエンジンを搭載しての初飛行になってしまった。一応、この試験で操作性は良好だと判断されている。その後、BMW製ジェットエンジンを搭載しての試験飛行も行われるが、このエンジンが信頼性?何それおいしいの?状態だったため、ついに1942年にユンカース社製ジェットエンジン、ユモ004に換装された。ついでに機首のレシプロエンジンもようやく撤去され、代わって20mm機関砲3門が搭載された。同年には試作2号機(翌年事故で大破)、試作3号機も製作され、問題点の洗い出しと改善が続けられていくこととなる。そして1943年に試作4号機がドイツ空軍首脳部に公開され、同年7月には海パンにゴーグルとマフラ―で出撃する変態男ことアドルフ・ガーランドが試乗して「天使とダンスだ!天使に後押しされているようだ」と絶賛。レシプロ機からジェット機への転換を主張した。
これでMe262はドイツ空軍次期ジェット戦闘機としての道を確約されたかに思えたが、ここで登場するのが我らが総統閣下、アドルフ・ヒトラーである。1943年11月にMe262の実物を見たヒトラーが「これ(Me262)は爆撃機として使え」とまさかのジェット機の利点をブチ壊す宣言を下す[2]。これに対してデ○ズニーも恐れぬ男ことガーランドは平然と戦闘機隊総監の権限を活用し、独断でMe262を戦闘機として開発することを続行させ、生産も戦闘機型のみ行わせた。その後、Me262が戦闘機として開発・生産されていることを知ったヒトラーが激怒し、「Me262を戦闘機と呼ぶの禁止!」「今後は爆撃機型のMe262のみ生産しろ!」と厳命。ジェット戦闘機Me262の道は断たれたかに見えた。
しかし、1944年6月に入ると状況が一変する。ノルマンディーに英米連合軍が上陸し、ドイツは本格的に二正面作戦を強いられることとなる。これを受けてヒトラーは前言を撤回、ガーランドに対してMe262の一部を戦闘機として運用することを許可し、ジェット爆撃機Ar234の生産が軌道に乗ればMe262全てを戦闘機として運用することを認めた。
こうして、Me262は爆撃機を迎撃するための戦闘機として本格運用されることとなる。
性能
Me262の性能において特筆すべきは、その速度性能と火力である。まず速度性能について、Me262の最高速度は高度6000mで870km/hであるが、これを1944年に各国で運用された戦闘機の最高速度と比較すると以下の表のようになる。
所属 | 機種 | 最高速度 |
ドイツ空軍 | Me262 | 870km/h |
Bf109G-6 | 640km/h | |
Fw190A-8 | 640km/h | |
アメリカ陸軍航空軍 | P-51D | 703km/h |
アメリカ海軍 | F6F-5 | 612km/h |
イギリス空軍 | スピットファイア Mk.IX | 650km/h |
赤色空軍(ソ連) | La-7 | 680km/h |
大日本帝国陸軍 | 四式戦闘機 疾風 | 660km/h |
大日本帝国海軍 | 紫電改 | 594km/h |
この表から、最高速度の測定条件がそれぞれの戦闘機で違うことを考慮に入れても、Me262の速度が隔絶したものであることがわかる。当時の空中戦闘では30km/h相手より速ければ一方的に優位を保つことが可能だと言われており、実際にMe262はその高速を活かした運用が行われた。
速度性能の次に特筆すべきが火力の高さである。Me262は武装として30mm機関砲Mk108を4門、さらに追加で空対空ロケットR4Mを24発搭載できた。両方とも対爆撃機用に開発されており、機関砲は4発、ロケットなら1発命中すれば爆撃機を撃墜可能なほどの火力を有していた。これ以外の武装としては、50mm機関砲を搭載した試作機が試作されている。[3]
しかし、この圧倒的性能は多くの欠点に目をつぶって得られたものである。
搭載するジェットエンジンには大量の問題があった。低速時における加速力が致命的に低く、最高速度を活かすには十分な加速距離を取る必要があり、急旋回など速度を失う機動は厳禁とされた[4]。低加速力を補うためにスロットルを全開にして燃料を過剰に投入したところで効果は薄く、逆に高温で燃焼室が溶かして破壊する恐れがあった。また、このことはスロットル操作に対する機体の反応が鈍いことを意味しており、機体設計のまずさによる下方視界の悪さや、降着装置の脆弱性と相まって着陸を困難なものとした。他にも、燃費の悪さによる航続距離低下の問題や、ジェットエンジン特有の高温排気に耐えられるのはコンクリートで作られた滑走路のみであり、ドイツ本国の航空基地でしか運用できないなどの問題もあったが、これらの問題はMe262が実戦配備された時期には戦線がドイツ本国に近づいていたため重要視はされなかった。とどめにエンジンの寿命は良くて70時間であり、実戦運用ではこの半分以下の時間でエンジンは寿命を迎えてしまうため、飛行中に片方もしくは両方のエンジンが故障することなど日常茶飯事であった。
結局のところ、Me262の長所も短所もエンジンの先進性に起因したものだったと言えるだろう。
実戦
1944年に実戦配備され、当初はMe262の機体特性を十分に把握し活用することができるベテランパイロットのみに与えられた。が、戦況が切羽詰まってベテランも少なくなった1945年には新米パイロットにも与えられるようになる。また、1945年3月には戦闘機隊総監の地位を追われていたスピットファイアを欲しがる男ことアドルフ・ガーランドを隊長として、ドイツ空軍トップエース達を集めてMe262に乗せたドリームチームJV44が編成されている。
実戦においては、機体特性を理解したベテランの操縦するMe262ならば高速で護衛機を振り切って爆撃機のみを攻撃し、戦果をあげることが可能であった。しかし新米パイロットは連合軍機の挑発に乗って禁断の格闘戦に誘い込まれて速度を失い、撃墜されてしまうという事態が続出した。また、ベテランが操縦するMe262にしても離着陸時を狙われるとどうしようもなく、撃墜されるしかなかった。このため、Me262が離着陸する時にはレシプロ戦闘機Ta152などが滑走路上空で護衛するなどの戦術がとられた。
Me262のキルレシオはだいたい4対1(敵機4機を落とすのにMe262は1機落とされる)であり、これはドイツ軍が想定した数値であった。
対する連合軍は高速を出しているMe262にバカ正直に戦いを挑むことは避け、格闘戦に引きずり込んで速度を落とさせる、離着陸時や基地で駐機中のMe262を狙う、Me262関係の工場や基地を爆撃するなどの戦術で対抗した。ジェット戦闘機にはジェット戦闘機で対抗するみたいなハードウェア勝負をする気は無かったようである。
結局、脆弱で繊細なジェットエンジンを搭載したMe262は戦略爆撃を受けるドイツにおいて十分な数や運用体制を揃えることができず、戦局に影響を与えることはできなかった。
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関連項目
脚注
- *空気力学的な利点を得るには30度以上の後退角が必要であるとされる。
- *一応、Me262は理論的には爆撃機としても運用できるようには作られていたし、ヒトラーの「爆撃機として運用可能か?」という質問に対してゲーリングも開発担当と打ち合わせの上で「理論的に可能」と返答している。
- *逆に言うと、火力が高くないと対処できない敵機(この場合は4発の大型爆撃機)が多数ドイツ本土に侵入していたということであり、ドイツ軍のジリ貧を示す武装でもある。実際、アメリカ軍の戦闘機はそのような大型爆撃機に対処する気はもとより無く(実際、日独共に大型爆撃機は実戦配備していない)、搭載する武装も対戦闘機用の軽量なものが主流だった
- *とは言え、低速時の加速力の低さは初期ジェットエンジン共通の問題であり、これの解決は二軸式とアフターバーナーの登場を待たねばならない。
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