レシプロエンジン(Reciprocating engine)とは、往復動機関あるいはピストンエンジン・ピストン機関とも言われる熱機関の一種である。
概要
簡単なたとえ話から始めよう。手で握りこぶしを作り、肘をまっすぐにし、腰の辺りでこぶしで円運動をしてみてほしい。すると、手は円運動をしながらも、肩は上下運動を行っているだけであるということに気がつくはずだ。
さて、自然界では単純上下運動は非常に多く存在する。例えば海の波涛も、そこに「浮き」を浮かせれば単なる上下運動になることが予想できるだろう。
さらに、バネのような反発する素材を使い、「肩を意図的に押し下げれ」ば、押し下げた後でつぶされたバネが反発し、結果押し下げる力だけで上下運動が得られる。さらに「こぶし」に棒を握らせ、さらに棒の一部分を固定すれば、機械でも上下運動を円運動に変換できる。
なお、専門用語的に言えば、この「こぶし」がクランク、「腕全体」がピストンであり、「上下運動」はピストン運動とも呼ばれる。
エンジン(特にレシプロ機関型)とは、このようにして機械の「腕」を作り、上下運動などから円運動などを取りだして、それを動力として仕事をする機関(厳密に言えば原動機の1つ)のことである。
レシプロエンジンの発展型として、腕もこぶしも使用せずに円運動から直接動力を得る「ロータリーエンジン」、さらに理論上は最高の熱効率を得る「スターリングエンジン」などが存在する。また、「天空の城ラピュタ」の飛行船タイガーモスのエンジンでもある「焼玉エンジン」はレシプロエンジンの1種である。
ちなみにジェットエンジンはガスタービンの一種である。名前が示す通り、構造的にはタービンである。
燃料(点火機構)による違い
別の区分として、「気化ガソリンを含む空気を圧縮し、スパークプラグによって点火し燃焼させる」ガソリンエンジンと、「軽油・重油等を空気と共に圧縮し断熱圧縮を利用して点火、燃焼させる」ディーゼルエンジンが存在する。
種類
-
外燃機関
-
内燃機関
- 木炭エンジン
木炭を不完全燃焼させて発生する燃焼性ガスを燃やして動く。 - 石炭エンジン
石炭の粉末を燃やして動く。ディーゼルエンジンの一つ。 -
ガソリンエンジン
ガソリン機関とも、動力を生み出すコストが安い為、自動車、自動二輪車などに幅広く利用されている。 - ディーゼルエンジン
ディーゼル機関とも、実用的な内燃機関の中ではもっとも熱効率に優れる。 - 焼玉エンジン
焼玉機関とも言われる。或いは点火方法の特徴からセミ・ディーゼルとも。 - 水素燃料エンジン
水素ガスを燃料とし究極の無公害エンジンとも、ただし課題が多い。 - ロータリーエンジン(回転式エンジン)
主に初期の航空機で使われていたエンジンで、固定されたクランクシャフトを中心にエンジン本体が回転する。
英語でロータリーエンジンと言うとこちらを指す場合が多い。 - ミラーサイクルエンジン
バルブ操作により容積一杯まで空気を吸わずに燃焼させる方式。燃費が上がる。特定の燃料に依存しない。 - ターボコンパウンドエンジン
その名の通りレシプロエンジンの動力に排気タービンで得た動力を複合して、通常のレシプロエンジンより大きな出力を引き出すエンジン。ただし構造が恐ろしく複雑になるため、レースカーや大型レシプロ旅客機で採用された以外は殆ど普及していない。 - 2ストロークエンジン
簡単にいえば、クランクシャフトが1回転してるうち、つまりピストンが2ストローク(1往復)するうちに一連の行程(吸気・圧縮・爆発・排気)が終了するエンジンのこと。一般的な4ストロークエンジンは2回転で一連の工程が進むため、単純に言えば同じ回転数で倍のパワーが出せる。もちろん諸条件によって単純に倍にはならないが、小排気量でパワーを手軽に出したいときには重宝する方式として、かつてはバイクや軽自動車のエンジンで多数採用された。
他にも、ディーゼルエンジンでも2ストロークは存在し、戦車などの軍用車両のエンジンに使われたりしている。また、船舶用や発電用などで使われる大型・低回転のエンジンでは2ストロークのほうが主流だったりする。
- 木炭エンジン
気筒配置による種類
(仮称)と書かれているものは正式名称が不明な物です。
気筒数 | |
---|---|
直列(Inline、Straight)、並列(Parallel) | 2気筒・3気筒・4気筒・5気筒・6気筒・8気筒・9気筒・10気筒・12気筒・14気筒 |
V型、L型、倒立V型、180°V型(Flat) | 2気筒・3気筒・4気筒・5気筒・6気筒・8気筒・10気筒・12気筒・16気筒・18気筒・20気筒・24気筒 |
狭角V型、VR型 | 4気筒・5気筒・6気筒 |
水平対向 | 2気筒・4気筒・6気筒・8気筒・10気筒・12気筒・16気筒 |
星型(Radial)5気筒ベース | 5気筒・10気筒・15気筒・20気筒 |
星型(Radial)7気筒ベース | 7気筒・14気筒・21気筒・28気筒・42気筒 |
星型(Radial)9気筒ベース | 9気筒・18気筒 |
星型(Radial)11気筒ベース | 11気筒・22気筒 |
複列星型(Radial) | 6気筒・12気筒・16気筒 |
W型、Y型 | 3気筒・12気筒・18気筒 |
W型、WR型 | 8気筒・12気筒・16気筒・18気筒 |
H型 | 4気筒・8気筒・16気筒・24気筒 |
U型、2軸式V型、タンデム2、スクエア4 | 2気筒、4気筒、8気筒・12気筒・16気筒 |
X型 | 8気筒・16気筒・24気筒 |
デルティック | 9気筒・18気筒 |
その他 | 単気筒・2気筒斜板機関・並列式V型24気筒(仮称)、W型24気筒・菱形配置4バンク対向ピストン24気筒(仮称)・6バンク星形配置24気筒(仮称)・複列30気筒 |
カム・バルブ配置による種類
- SV(サイドバルブ)
最も簡単なバルブ構造。エンジン下部に配置したカムシャフトで駆動する上向きに取り付けたバルブを、シリンダーヘッドの高さまで伸ばしたもの。シンプルだが、燃焼室の形が極めていびつになり、圧縮比が大きくとれない、吸排気のロスが多いなどのせいで効率や排ガス対策面で問題が多い。 - OHV(オーバーヘッドバルブ)
カムシャフトの配置はSV式と同じだが、ロッカーアームを使って駆動力を方向転換し、シリンダーヘッド上部にバルブを配置できるようにした。燃焼室の形状の自由度が大幅に向上し、SV式の効率や排ガス対策面での問題はほぼ解消された。ただし、バルブ駆動部が重量物となり、高回転には向かない。尤も、カムシャフトの位置を上げるなどの工夫である程度のカバーは可能である。アメリカ製を中心に大排気量のエンジンでは未だに採用され続けている。 - OHC(オーバーヘッドカムシャフト)
- SOHC(シングルオーバーヘッドカムシャフト)
カムシャフトをシリンダーヘッドより上に配置し、ロッカーアームで吸気側と排気側両方を駆動する。バルブ駆動部が大幅に軽量化され、高回転を可能とした。 - DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)
カムシャフトをダブル、つまり2本配置し、吸気側と排気側で別々に作動するにしたもの。燃焼室の形状をより理想に近づけることが可能となり、カム1本ごとの機械的負担も減ることからより高回転、高効率を追求することが出来る。一時は高性能エンジンの代名詞であり、メーカーによってはツインカムエンジンとも呼んだ。21世紀の現代では高性能エンジンの定義がより多様化したことと、この機構自体が珍しいものでは無くなったため、ことさらに強調されることは無くなった。 - TOHC(トリプルオーバーヘッドカムシャフト)
ドゥカティのレース用単気筒バイク、125デスモとスズキのスクエア4を搭載したコンセプトバイク、ファルコラスティコに採用された形式。ドゥカティの物は明白にトリプルカムシャフトだが、スズキの物はシリンダーヘッド単位ではTOHC、機構的にはDOHCで、その内の一本を共有した物である為シリンダー列単位では1.5OHCと見做せる代物である。 - QOHC(クアドラプルオーバーヘッドカムシャフト)
名称は筆者が考えた便宜上の物である事に注意。ドゥカティの公式サイトにて言及されている4つのカムシャフトを持つエンジン。余りにも複雑で大型過ぎた為開発は中止となったらしい。実際に製造されたか不明。
- SOHC(シングルオーバーヘッドカムシャフト)
- スリーブバルブ
一般的なバルブを用いず、シリンダーとピストンの間に円筒(スリーブ)を挟み込み、そのスリーブを上下動または回転させて、そこに開けられた穴で吸排気を制御する。吸排気のロスが少なく、燃焼室を自由に設計できることが大きなメリットだが、スリーブとシリンダー内壁の擦れ合うことによる摩擦損失が大きく、熱膨張による変形も絡むため機械的信頼性の確立が難しかった。上記の一般的なバルブ方式のエンジンが改良されると長所のアドバンテージも失われ、廃れてしまった。
冷却方式による種類
- 空冷エンジン
外気で直接気筒を冷やす方式のエンジン。
構造が簡便で軽量な利点があるが、一方で振動や排ガス規制への対応が難しく、周囲の環境条件によって稼働状態が左右されやすい欠点も持つ。エンジンオイルを積極的に使って冷却するものは油冷エンジンと呼ばれるが、広義ではこの空冷に含まれる。 - 液冷エンジン
気筒を覆うジャケット内の液体(水や不凍液入りの水、油など)で気筒を冷やす方式。ジャケットの液体はラジエーターで外気によって冷やされる。
振動や排ガス内の有害物への対処がしやすく環境条件の変化にも強い利点があるが、ジャケットやラジエータがあるため構造が重く複雑な欠点を持つ。
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関連項目
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