日本雛型論(日本雛形論)または雛型理論(雛形理論)とは、日本ないし日本列島が世界の縮図を為しているとする説論である。
国学者の大石凝真素美とその弟子である水谷清が最初にこの説を唱えた人物であるとされるが、それ以前に平田篤胤や本田親徳らによって外八洲・内八洲史観というこれとよく似た学説が提唱されている。日本雛型論(以下、雛型論)の主張は大きく分けて二つあり、一つは日本列島の各地の形状や地形が世界各地の大陸や半島のそれと相似形を成しているというもの、今一つは「日本で起こることは世界でも起こる」といったものである。
この説の真偽について問う前に、まずこのような説が広く唱えられるような地理的形状を持っているのは世界でも日本位のものであり、またこの説を現在でも提唱しているのは主に日本語圏の人々に限られているという基本的な事項を押える必要がある。
また真偽という形で問う事が大変難しい論説である事も弁えておきたい。単純に「似ている」事とそこに「対応関係がある」事は別次元と言えるほどの開きがあり、似ていると言うにしても一体どの程度の相似性でもって似ていると言えるかは人によって意見の大きく分れる所でもある。確かに相似形であり、対応関係があると認めたとしても「日本が」世界の原型なのかどうかという大きな問いが生じる。つまり逆に世界を元に日本が形作られたという説を唱える事も可能な訳で、どちらかが片一方を元にしているという考えに立つ限りこの問いからは逃れられない。
少なくとも我々が教育で学ぶ考古学的知識では旧石器時代の日本はまだ列島全体が一塊になっており、今日あるような形の片鱗はほぼ見受けられない一方、同じ時期の世界は既に今の様な大陸が形成されて久しく、時系列的に考えると世界→日本の順で形作られたことになる。
◆雛型(雛形)とは実際の型を模して小さく作ったもの、模型という意味であり、この意味で使われる限り命名者は日本の側を世界を元に形作られたと考えていたであろう事が窺える。すると日本で起きた出来事がやがて世界でも起きるという関係は地学的な形成順とは逆になっている、という事になる。
◆日本列島を何かある形に譬えて表現する事は古代から行われており、奈良時代には独鈷に例えられていたとされる。また行基図には日本列島を一匹の蛇または龍が取り囲む様子が描かれており、『大日本国地震之図』などにも日本国を取り巻く形で龍が描かれている。やがて伊能図などにより日本列島の全貌が明らかになると、列島の形状そのものが龍の姿になっているといった言説が為され、これが海外に伝わったかWWII中には米国で放映された反日プロパガンダを目的とした映像(Frank Capra監督らによる映画Know Your Enemy: Japanなど)に日本列島全体が一匹の龍の姿に変わっていく場面が描かれている。
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対応関係については諸説あるが概ね九州:アフリカ、四国:豪州、本州:ユーラシア、北海道:北米という対応関係にあるという見解で一致している。本州を更に細かく見ていくと紀伊半島:アラビア半島、伊豆半島:インド亜大陸といった形で対応しており、主要な地形についても琵琶湖:カスピ海、富士山:エベレスト山といった具合に対応づけられている。
しかしここには「果たして一対一で対応付けられているのか?」という疑問も存在する。例えば中国地方は欧州亜大陸に準える事も、小アジアに対応していると看做す事も出来る。淡路島もその形状とアナトリアとの位置関係からキプロス島に当たると考えられているが、豪州からの位置関係で考えるとニューギニア島に相当する。このように、日本国内にある土地に対して世界各地に存在する土地の全てをいずれかに当て嵌めようとすれば重複は避けられず、必然的に一対多の関係にある地域・地形が出て来る。
また方位についても注意を払わねばならない。紀伊半島に顕著で、その形状と位置からアラビア半島に対応するとされるが紀伊が南西に向かって伸びているのに対しアラビアは南東に突き出ている。またアラビア半島は末広がりの形になっており、これは寧ろ朝鮮半島の形状に近いと言える。また四国についても室戸半島とヨーク岬半島を対応付けるには南北に反転させねばならない。一方カーペンタリア湾に対しては土佐湾よりも四国北部の湾状地形の方がよく似通っておりこちらを対応させた場合反転の必要はない。よって大変奇妙ではあるが四国の西側半分だけを南北に反転させると豪州の形状によく一致する。更に小津島を含めればここがタスマニア島に対応する為具合がよい、という訳である。対馬についてもニュージーランドに対応させるには180°回転または島の中心を西北西に通る線を境に反転させる必要があるなど、幾つかの地域については回転や反転、部分的な組換といった操作を施した上で対応させるた方がより一致度が増す。
また九州西岸部が入り組んだ湾と多くの島嶼に囲まれているのに対し、アフリカ大陸の海岸線は概ねすっきりしており、半島域や群島地域なども九州程複雑かつ多密ではない。これについてはアフリカ以外の地域にある半島や島などを切り離してここに付けでもしなければ上手く符号させられない。西彼杵半島・長崎半島・島原半島に架けての一帯はスラウェシ島、五島列島はフィリピン、上島・下島については恐らくハルマヘラ島がこれに対応すると考えられる。
鹿児島県についてもそのコ字型に突き出た2つの半島はアフリカには見受けられず、南欧アドリア海を取り囲む地域がこれに相当するとみなせる。
このように九州がアフリカという一つの地域のみの雛型として構成されているという仮定ではその地理的構成を説明しきれず、他の地域からその一部を切り貼りする事で漸く一つ九州という地域を雛形論から説明可能になる。無論こういった変則的な方法で対応させていけば行く程「こじつけ」ている感が否めなくなるのも事実であり、対応付ける際には形状のみならず山岳や湖沼など内部地理的構成についても気を配る必要がある。
◆南極大陸がどこに対応するのかといった疑問も大きなポイントである。南極大陸は日本列島のどの島々とも似つかない独特の形状をしており、これについては台湾或いは樺太が符合するという説があるが両者とも形の上ではかけ離れた姿をしている。加えて台湾はマダガスカル島、樺太は南米大陸という有力候補がすでにあり、南極大陸がこれらのいずれかと重複して符合すると見なせるかは疑問の残る部分が多い。
◆相似性を説明づける幾何学的性質の一つにフラクタリティ(自己相似性)が挙げられる。これはある図形の全体と部分の形状が相似性を示すような状態を指し、自然活動でも数多くそのような形が見受けられる。この原理に基づいて日本列島が世界各地の地形に対応しているのもそのような現象の一環として認識する見方もある。しかしフラクタルは通常ある図形の一部分がその全体に相似している状態であるから、例えば遼東半島の先にそれと似た形状をもつ大連半島がくっ付いて居るような関係がその一種と理解出来るのに対し、日本列島の場合は世界各地の土地を適当に切貼りして繋ぎ合せたような作為性があり、それこそ"雛型"としか表現しようのない面の存在することも確かである。従ってこの地理的相似性をフラクタル原理から導き出すのは無理があると言わざるを得ない。
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歴史学には比較歴史学という分野が存在する。これは比較言語学・比較法学などと同様2つ以上の国や地域における歴史を比較し、それらの間にある共通点や差異を研究していくというものであり、代表的な研究成果としてアーノルド・J・トインビー(1889-1975)による大作『歴史の研究』(1934-54、全12巻)がある。同書の中で彼は21数えた人類文明を3代に区分し、それらを歴史的に見た時親子関係に当たると論じている。
この様に世界各地の文明を時系列に基づいて比較し、それらの間に共通点や関係性を見出そうとする研究は既に少なからぬ歴史学者によって行われてきているが、雛型論の提唱するような日本が世界に対して縮図の関係にあるといったような論説はまず行われていない。違例として挙げられるのが明治後期から昭和初期にかけて活躍した気鋭の歴史学者木村鷹太郎(1870-1931)で、彼は雛形論に近い主張を展開していた。彼は邪馬台国エジプト説や日本語をギリシア・ラテン語に擬えて読解くなど多くの異説で知られており、主著『世界的研究に基づける日本太古史』(1912、上下2巻)の中で「吾人は研究の結果として古事記、日本書紀は現日本國土の歴史に非ずとの断案を得たる者なり」と宣言し、また「現日本の諸國名は殆ど世界上の諸國を縮密して命名したるものと謂ふべきなり」と述べている。日本と世界の各地域がもつ対応関係についても詳細に記されており、今日雛型論として知られるそれともほぼ一致する。
いずれにしても「歴史が相似している」とは一体どのような状況を指すのか定義しなければ議論は難しい。北海道を例に上げると、近代までは蝦夷地として日本の領地とは看做されていなかった土地が編入されていったが、これは北米大陸が大航海時代に西洋人によって「発見」され、やがてアメリカ合衆国という国家を形成していく過程と比較すると一定の共通性がそこに見い出せる。しかし例えば四国については古くから日本の一部としての歴史を持っており、18世紀末に発足した植民地が起源であるオーストラリア連邦の歴史とは共通する所が少ない。
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地理的相似性以外にはどのような相似・対応関係が見い出せるだろうか。まず思いつくのは人口比である。例えば日本の現在人口一億二千万に対して九州の人口は1323万であり、これはアフリカの人口11億の世界人口に対する比率とやや一致する。また北海道の人口は約547万であり、これはアメリカとカナダの人口約3.5億の世界人口に対する比率約5%とほぼ一致する(メキシコを含むとこの比率は一致しない)。一方四国地方の人口414万に対して豪州の人口は2313万と明らかに開きがあり、伊豆半島に至ってはインドの世界人口に対する割合に比して遥かに小さい。
人口については以上のようにある程度一致する部分もあるが、都市部に集中している事も踏まえると完全に一致を見るのは難しい。
他に相似性を探るべき要素としては植生などの生態系が考えられるが、これはゾウやトラ・ライオンなどそもそも日本に生息していない動植物や、形状こそ似ていても緯経度が大きく離れている故に全く異なる環境にある地域同士を比べても到底相似性が期待できない(紀伊半島とアラビア半島など)場所も多くあるためあまり良い比較対象ではない。
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冒頭で言及した内八州・外八州史観であるが、内八州・外八州という言葉が最初に用いられた文献は恐らく上記(上津文)だと思われる。上記では記紀にあるような日本列島を指す八洲(八島)を内八州とする一方、それらを生み終えた後にエゾ、オロ、カル、アカ、ウカル、リウキ、イクツムロの外八州が生まれたとするなど、日本列島に対して世界を対置させる思想の萌芽が見て取れる。
しかしここに列挙される外八州は蝦夷、琉球といった当時の日本では外地とされていた場所が含まれており、またその他の六州についての詳細は不明であるがこれらも恐らく日本の隣接地域を指しており、地球上の世界全体を範疇に収めていたとは言い難い。
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古代メソポタミア社会においても雛型論と同様の考えを元にした思想が存在した事が知られており、その後裔によって築き上げられたカバリズムには「ツィムツーム(縮退)」という概念が存在する。これは16世紀のカバリスト、イツァク=ルリアによって導入された用語で、本来無限である造化が自らを収縮させて世界創造の場を人間に譲り与えたという思想(詳しくはこちら等を参照)であり、この考えに依拠すれば世界に対して日本を一種のミクロコズムと看做すことが或は可能である。
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オカルトとはラテン語の「視界から隠す・覆う」の過去分詞occultusに由来する言葉で、現象や表象の内に隠されたものを読み解き明らかにしようとする試み全般を指す言葉だが、その意味で本説をオカルティズムに属するものとする考えが大勢を占めており、また宗教的観点からこの現象を説明付けようという考えも存在している。
神道系新興宗教団体「大本」の教祖出口王仁三郎もこの説を唱え、「大本に起きることは日本にも起こり、日本に起きることは世界にも起きる」と自らの教団にも絡めた形で教義に取り入れた。大石凝真素美も大本の機関紙『心霊界』に寄稿しており、言霊や心霊に関する言説も多かった。そのため、主に現在では 心霊主義的・宗教的・オカルト的な言説に絡めて唱えられている。
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一方、現代の歴史学・考古学・地学の分野で学術的にこの説論がとりあげられることはまずない。日本雛型論が説く「相似」が具体的になぜ起きるのかというメカニズムが実証された形で説明されたことはなく、何をもって「相似」とするのかの客観的判断基準や、その正しさを検証する方法も示すことはできていないため、学術的な対象となりえていないものと思われる。
学術雑誌でこの日本雛型論が取り上げられることもほぼ皆無である。学術論文検索ウェブサ イト「CINII」で"日本雛型論"・"日本雛形論"・"雛型理論"・"雛形理論"のいずれで検索してもほとんど情報はない。ただし唯一、2002年に雑誌『宗教と社会』に掲載された「カルマ説と終末予言の接合 : アレフの神義論」という論文においては、新興宗教団体「オウム真理教」の教祖麻原彰晃やその幹部だった上祐史浩が出口王仁三郎の雛形理論に影響されている ことが紹介されている。
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また、創作作品においても登場することがある。ライトノベル『終わりのクロニクル』内では、「神州世界対応論」という類似した概念が言及される。
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掲示板
34 ななしのよっしん
2023/04/18(火) 21:38:43 ID: fJyN6ogxb/
雛形論におけるエベレストが日本の富士山、雛形論におけるカスピ海が日本の琵琶湖だとして
雛形論における日本は、日本におけるどこなん?
35 ななしのよっしん
2023/05/22(月) 23:38:14 ID: pYqsL8hBFa
>>34
沖縄とか小笠原諸島とか色々見たで→雛形論における日本
しかしまあ言われて最初の15秒くらいはおお確かに!ってなるけど30秒くらい真面目に考えるともうツッコミ所が大量に見えてくるオカルト界きっての愉快な妄想だよなコレ
全体的に山多すぎるとか南米にあたるのどこよとか欧州=山陽山陰は無理があるだろとか西アフリカ南アフリカにこんな湾ねえよとか朝鮮半島=房総半島はバランスおかしいだろとか
SNSとか見ると現代でもマジで信じてるアホがそれなりの数がいるみたいだがあいつらはGoogle Earthとか見た事無いのかね?
例えば定番のオーストラリアと四国だってよくよく見比べたら全然違うってわかりそうなもんだがな
36 ななしのよっしん
2024/08/30(金) 11:05:54 ID: F8olKXXwIH
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/22(日) 10:00
最終更新:2024/12/22(日) 09:00
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