ゴジラ対若大将 (Godzilla vs. Young Guy)とは、東宝が1964年4月1日にクランクインしたものの、未完に終わった幻の夢の競演対決映画である。カラーシネスコ。同時上映予定は『倒産の若大将』という社長シリーズとのクロスオーバーコラボレーション映画で、若大将シリーズの世界観拡大が積極的に行われる予定だった。
概要だなぁ・・・
壮絶! 脅威! 若大将とゴジラの未曾有の決戦に、東洋全土はついにSOSを発す!
監督は本多猪四郎、特技監督は円谷英二、音楽には伊福部昭と弾耕作のダブル起用が予定されていた。
1963年のキングコング、1964年のモスラと、当時のゴジラシリーズは他の映画シリーズの主役怪獣との対決ものが大いにウケており、本作は1965年の正月興行の目玉企画として1963年の海底軍艦に登場した『マンダ』とゴジラが戦う映画として最初は企画された。
ところが、脚本を担当した関沢新一が大蛇の怪獣と聞いて、『ゴジラ対青大将』なる企画を書き上げてしまう。
通常なら没となるところであったが、これをみたプロデューサーの田中友幸は「どうせなら若大将にしよう」と面白がり、このトンでもない企画は脱線に脱線を重ねてついに第3稿で『ゴジラ対若大将』のタイトルになり、主演加山雄三に加え、若大将シリーズ常連の田中邦衛、星由里子にも正式なオファーがかかり、ゴジラシリーズからは平田昭彦、宝田明、志村喬らが出演予定とされた。登場怪獣はゴジラ、若大将のほかにラドン、アンギラス、モスラが予定され、小美人の超能力で若大将が怪獣と闘う設定だった。超能力の登場は三枝未希に遥かに先駆けたものだった。
1964年4月1日には本編班がクランクインし、『モスラ対ゴジラ』の一部直営上映館でポスターの掲出も行われ、「キングコング、モスラに次ぐ第3の刺客」といった紹介も成されていたほか、劇場で3万人を対象に「ゴジラか、若大将か、どっちが勝つか大懸賞」と称して勝敗の行方を当てた人にプレゼントが送られる勝利予想を懸賞公募した。商品はトリニトロンテレビや電子ピアノ、スバル360、ライカM3カメラ、8mmビデオ、ウォークマンなどがあった(後述の理由で中止)。
5月中旬には横浜港の実景シーンから特撮班の撮影が開始、伊福部も予告編用に新テーマ曲を書き下ろしたほか、これに参加の意思を示した別作家の楽曲も数作品提供され、劇場用予告も一部が完成、あとは主演俳優たちを待つばかりという状況だった。
しかし、同時期に加山は黒澤明監督の『赤ひげ』への出演が決まり、さらに赤ひげの撮影スケジュールが遅れていたこともあって、完全主義者で知られる黒澤は本作への参加は認めず、事実上撮影の続行が不可能となる。
そこで新たに立案されたのが映画『ローマの休日』を下敷きとした上でアンギラスをリストラし、宿敵の宇宙怪獣キングギドラを倒す、というストーリーで構成された『三大怪獣 地球最大の決戦』で、この映画は前作を大きく上回る432万人(モスゴジは351万人)を動員する大ヒットとなり、キングギドラは東宝の目論見どおりにゴジラのライバルとして定着。以後のシリーズに欠かせない名悪役の一人となった。なお、横浜港のシーンの一部は三大怪獣~のゴジラ登場シーンに流用されている。
また、この作品でゴジラは白熱光しか使用しないが、これは当初加山へのギャランディにより、光線合成の予算が取れない、ということや、若大将に放射火炎ビームを当てるわけにはいかない、とした点の名残。
また、三大怪獣~ではモスラのテーマ曲がいつものモスラの歌と違う『幸せを呼ぼう』というものだが、これは当初加山に提供するはずだった作品で、この曲がゴジラ撃滅のキーになる予定だった。そのため、作詞は岩谷時子、作曲宮川奏という加山ミュージックに明るい二人が提供を申し出たものだったが、こうした経緯からモスラのテーマとして再度編曲を直し、ザ・ピーナッツのキーに合わせたものが現在知られている完成バージョンとなる。
その一方で、『ゴジラ対若大将』の存在は完全に闇に葬られ、再び企画の陽の目を見ることなく姿を消した。
なお、このアイデア自体は幾度か再利用が試みられ、1965年に「若大将でダメであればフランケンシュタインで」と『フランケンシュタイン対ゴジラ』の企画が立てられた。この企画は紆余曲折を経て『フランケンシュタイン対地底怪獣』へと結実し、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』という続編も作られた。
このほか、巨人が怪獣と戦う、という案は1966年のテレビ特撮ドラマ『ウルトラマン』にて「遠い宇宙からやってきた正義の巨人が悪の地球怪獣をやっつける」という企画へと変化して使われた。
また、平成ゴジラシリーズでは、やはり『ゴジラvsモスラ』の次回作として『ゴジラvs若大将』の復活企画が一時議題に上ったが、これを平成シリーズ脚本の大森一樹は「いくらなんでも若大将はねえだろ!」と一蹴し、それならばと特技監督の川北紘一が「『ゴジラ対メカ大将』なんてどう?」としたが、田中友幸は「遊びでゴジラシリーズを作るな! それならメカゴジラを使えばいい!」としたことで結実したのが平成ゴジラシリーズの当初の完結編として製作された『ゴジラvsメカゴジラ』だった。
伊福部昭による「ゴジラ対若大将」の予告編音楽が平成Gフォースメカゴジラのテーマ曲として流用されているのはこの名残である。
また、ゴジラマニアには有名なネタのためか、これを想像したと思われるパロディも存在する。
そのひとつにあるのが『ドラゴンボールZ 超サイヤ人だ孫悟空』に登場するスラッグで、このキャラクターは口笛に弱い、という弱点があるのだが、 当初『ゴジラ対若大将』では若大将はエレキの超音波でゴジラと戦うという予定だった。『Dr.スランプ』にゴジラを登場させるほどの強烈なゴジラマニアである鳥山明はこれを面白いと思い、巨大化するナメック星人の弱点を音波にしたのだという。漫画『ONE PIECE』や『FAIRY TAIL』、『進撃の巨人』もこの作品のパロディを含んでいるため、人間そっくりな巨人が怪獣と戦うようなシーンが幾つか見られる。
ゴジラシリーズ内では長らく大きな巨人とゴジラが戦う、という作品は作られなかったが、ゲーム作品では1999年のドリームキャスト作品『ゴジラ ジェネレーションズ』において巨大化した科学者の『ジャイアント芹沢博士』が登場、一部ながら本作の再現となった。
現在では、半裁ポスター1枚と1997年に札幌で行われた展示会のみで出品された数少ない現存台本があるのみとなっている。
ゴジラ対若大将 50年目の真実
上の概要最後にもちゃあんと書いてある通り、以上の内容は全部デタラメである。
この作品の本当の出所は実はインターネットにある。
本作の『企画』が生まれたのは2001年の自主制作映画公開プロジェクトの『シネマ秘法館』というイベントの第18回上映会からで、この催しにおける「バカすぎる作品大放出!!」という部に出品された中村犬蔵監督(中村捏造名義)の『ゴジラ対若大将 予告編』というアマチュア作品が本当の大元である。
これに荻窪東宝という個人サイトが「『ゴジラ対若大将』60年代プログラムピクチュアの仇花」と称した上記のような『設定』を付け加え、さらに作品のポスターと台本の『写真』を掲載、サイトの最後の部分にもきちんと『これはフェイクである』という旨を記して公開した。ポスターに至ってはきちんと「折り目」までついている手の込みようだった。
また、予告編は今のところ著作権の問題もあり一般公開はされていないものの、荻窪氏によればゴジラが高圧線を切った場面で若大将の電気が消える場面を挟むなどして絶妙に組み合わせられた偽予告だそうである。なお、若大将を選んだ理由は明かされていないが、恐らくこれは『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』においてゴジラが加山の「幸せだなぁ」のポーズを取る事から来ているものと推測される。(その意味ではゴジラと若大将のコラボは『実在した』とも言えなくは無い)
これが発表された当時は日本でパソコン通信に代わりインターネットがようやく普及してきて、まだ10年も立っていないような頃で、この手の遊びが流行っており、FLASH黄金時代の作品を筆頭にバカ映像や奇妙な共演作などが数多く作られた。格闘ゲームのMUGENもその流れの一つである。そんな中でもひときわ人気を博したのがアイドルコラージュ(アイコラ)というもので、これはエッチな写真に美人アイドルの写真を切り貼りしてくっ付けるという古来からの遊びがデジタル技術の向上に伴って『本人ソックリ』に作れるようになったものだった。
その技術を応用して作られたのが、この偽映画のポスターで、よくよく見ると若大将は『エレキの若大将』のポスターから、さらにゴジラは『ゴジラ(1954年)』『キングコング対ゴジラ』からそのまま流用されていることがわかる。登場人物も昭和ゴジラは基本同じ人物の再登場は無いので、芹沢博士や山根博士が映っている時点でフェイクとわかる。また、モスラ対ゴジラ上映当時は『ゴジラ』は基本的に次なる挑戦者を迎え撃つ立場だったので、『○○対ゴジラ』というスタイルでタイトルがつけられていた。『ゴジラ対○○』というスタイルが初めて用いられるのは『ゴジラ対ヘドラ』からとかなり遅いので、ここからも識者には「ニセモノ」とわかるようになっている。
さらにこの記事では筆者がサイトに載っていた設定から書いているうちに思いついた裏話を勝手に創作、より『実在しない映画』であることがわかりやすいように記述させていただいた次第である。
(なお、『フランケンシュタイン対ゴジラ』という企画は実在し、怪獣映画で勝敗予想の懸賞があったのは本当だが、後者は実はガメラが元ネタ。懸賞の賞品もよく見ればこの時代に実在しないものばかりとわかる。また、鳥山明が熱狂的なゴジラマニアなのは事実で、彼は『ゴジラ(1984年)』にエキストラで出演していた。ただし、スラッグの部分は全部ウソ。なお、実際に鳥山が参考にしたかは定かではないが、宇宙人が地球人に無害な音波が弱点、という大本のネタは恐らく『怪獣大戦争』のX星人で、ティム・バートン監督作『マーズ・アタック』がこれを模倣していることが知られるほか、結構昔のSF映画にはありがちな宇宙人定番の「弱点」でもあった。)
但し、60年代のシリーズものの映画はこのようにコラージュでポスターを製作したものが結構あったのは事実である。
しかし、いつしかこのネタを『本当に実在した幻の没映画企画』と本気で勘違いした一部のユーザーがラジオへの投稿、NEVERまとめを筆頭とするまとめサイトへの転載、さらにアフィリエイトサイトでの紹介や一時期流行したトリビアの泉のパロディサイトなどによって『ゴジラと若大将が闘う映画が企画されたことがある』などと紹介されてしまったことでこれを信じきってしまう人が続出。これをフジテレビに送っても『ガセビアの沼』に沈められるだけだぞ。
もし、こんなものホンマに実現してれば『ゴジラvsキングギドラ』は『ゴジラvsキング若大将』だったかもしれないし、『ゴジラ FINAL WARS』のカイザーギドラはX星人秘蔵のカイザー若大将になっていたかもしれないというのに・・・
日本国内でもまだまだギャラクシー・クエストの宇宙人並に純粋な人が多く、ウソを見抜けない人が多いことを図らずも実証した一例といえるだろう。これでは振り込め詐欺を筆頭とする電話特殊詐欺やワンクリック詐欺が無くならないことも理解いただけるだろう。これを信じてしまうった人はネット上に多く存在しているUFOの目撃談やら、根拠の無い都市伝説、人種差別のもっともらしい理由を全部真実だと思うのと同じことだということを理解しておこう。いかにまとめサイトの情報源がいい加減で裏付けも何も無いものであるのかがよく理解いただけるだろう。これらの文章でインターネットの情報とは、如何にもそれらしく魅力的に記載したものであれば個人編集の百科ページでその記述がウソ塗れとあっても簡単に信じ込んでしまう、というネット文書特有の魔力と、その魅了に至るまでの恐ろしさを僅かでも感じていただけていたのであれば、書いた人としてはありがたい次第である。
最後になりましたが、このような素晴らしい『原作』を与えてくださった中村監督ならびに荻窪支配人に感謝を込めて
関連動画
ゴジラ対若大将に関するニコニコ動画の動画を紹介してください。
関連コミュニティ
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関連項目
- ゴジラ
- 若大将
- 夢の共演
- ジャイアント芹沢博士
- ゴジラ対エヴァンゲリオン - コレは一部ホントに行われるコラボ
- B級映画/バカ映画/うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい
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