王様の仕立て屋とは、大河原遁による、主に服飾を題材とした漫画作品である。
概要
2003年に『オースーパージャンプ』で読み切りが載った後、同年に『スーパージャンプ』本誌で『王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜』のタイトルで連載開始。2011年の同誌廃刊後はタイトルを『王様の仕立て屋 〜サルトリア・ナポレターナ〜』に一新し、『グランドジャンプPREMIUM』で2013年まで連載し『グランドジャンプ』へ移籍した後、現在は同誌で『王様の仕立て屋~フィオリ・ディ・ジラソーレ~』を連載中である。
コミックスは『サルト・フィニート』が全32巻、『サルトリア・ナポレターナ』が全13巻、『フィオリ・ディ・ジラソーレ』が現在も好評続刊中である。この他に、傑作選が4冊出ている。コミックスについてはニコニコ静画の電子書籍でも配信されている。
基本的な物語のラインは「服飾版ブラック・ジャック」或いは「服飾版美味しんぼ」といった処だが、唐突に古典的漫画の絵柄で例え話を入れてみたり、所謂ヲタネタを放り込んだりと、ギャグ表現も豊富。このような本作ならではという演出もあって一種独特な雰囲気を持ち、根強い人気を持つ漫画である。
また、服飾ライターである片瀬平太の監修を受けている事から、ちょっとした男のお洒落の入門書的側面もある。また、服飾のみならず、靴や時計といったファッションや歴史などの薀蓄ネタも作中で解説されていたりと、なかなかに読み応えのある内容となっている。
ちなみに作者の大河原遁氏は本作連載前の1990年代中期に『週刊少年ジャンプ』で『かおす寒鰤屋』という古道具屋ネタの漫画を連載していたことがあり、こちらも薀蓄ネタが多め。全1巻で既に絶版ではあるが、本作で興味を持たれた方は古本屋で探してみるといいだろう。
あらすじ
王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜
ナポリの泥棒市にサルトを構え、師匠譲りの凄腕と莫大な借金を背負う日本人職人「織部悠」と愉快な仲間達による服飾関連を主軸とした物語。
王様の仕立て屋 〜サルトリア・ナポレターナ〜
師匠の借金もあらかた返済した「織部悠」だったが、天才的な腕からカモッラには金づるとして目を付けられており、今後もタカられ続けるおそれがあった。そんな現状ではかなりヤバイと言うことで、ベリーニ伯の庇護を受け、カモッラと手打ちをすることに。その条件としてベリーニ伯の融資を受け、きちんとした店舗を持つこととなった。
王様の仕立て屋~フィオリ・ディ・ジラソーレ~
ユーリアをライバル視するゾーエ率いる「サービスジャングル」イタリア支社がやってきた事で「織部悠」の周りは更に賑やかになった。訳ありの特急受注に応える為、今日も織部ら職人達は奮闘する。
前2部と異なり、今作では1話完結方式になっている。
主要キャラ
サルトリア・オリベ (織部と愉快な仲間達)
織部悠が親方を務める、スパッカナポリの仕立て屋。元々は看板も出さず織部が一人でやっていたのだが、愉快な仲間との出会いや、数々の難しい仕事を繰り返していくうちに発展し、今では看板を掲げて新進の仕立て屋として商売をしている。ただ親方が悠長すぎるので、店はいつも借金返済に苦しんでいる。
ナポリ仕立ての店ではあるのだが、親方の技術が高いのでサヴィル・ロウのようなブリティッシュでもミラノでもクラシコイタリアでも、頼めば何でも作ってくれる。通常の納期のビスポーク(リアルだと2ヶ月~半年程度)は程ほどの金額で受けてもらえるが、一週間~10日の特急仕事だと通常の5倍程度の値段で引き受ける。但し特急を引き受けすぎたせいで、「あそこはボったくる」という風評も立っているとかいないとか。
- 織部悠
- ナポリが誇る伝説的職人であり、「ミケランジェロ」とまで呼ばれたマリオ・サントリヨ親方の唯一の弟子。以前は看板を出さずに商売をしていたが、現在ではサルトリア・オリベの親方である。凄腕であり、通常は時間のかかるオーダーを特急料金であっという間に仕立てる等、神業の持ち主。ただし本人は特急仕立てについては「反則」「邪道」であると言っている。
マリオ親方がカモッラに対してこさえた借金(円にして優に1億はある)を肩代わりしており、仕立てを特急で高く請け負うことで借金に充てていた。が、折角の技術がありながら裏社会に借金を払い続けていることを快く思わないベリーニ伯の仲裁で手打ちに。条件として自分の店を持つこととなった。
作中、描写が猿になったり海老になったりとまあ大変。
通称:ナポリタン、ジャッポーネ - マルコ・ジュリアーニ
- 織部の家の居候である靴職人見習いの少年。靴職人の弟子にして、サルトリアオリベの店員。
当初は靴磨きで生計を立てる、靴職人の弟子という立場で登場。年端もいかない少年ながら、靴とそれに使われる皮革に関しては織部も一目置くほどの目利きを誇る。やがて織部の家に住み付くようになり、織部の愉快な仲間第一号となる。織部の客に対して靴の面でアドバイスをする。
当初はトラブルメーカーであったが、このキャラはいつの間にかどこかへ旅立ってしまった模様。料理にも精通していてこだわりが深く、その腕は今すぐに店を開いてもおかしくないレベル。ただその技量が発揮される場面は、主に織部やセルジュの賄いを作る程度である。何故か日本ネタに詳しい。
通称:小動物 - セルジュ・リヴァル
- フランスの有名ブランド「リヴァル」の御曹司。
父親のアランは服飾職人で「リヴァル」の総帥でもあるが、彼の息子への教育方針、特に工房での服飾修行が物凄くスパルタであったため、兄であり服飾職人でもあるエリック共々、父をとても恐れている。
有名モデルだったが色々あってパリを脱走、今は織部の元で弟子として修行中。
モデルだけにかなりの美少年であり、作中ではよく女性人気を集めたりもしている。
ちなみに師匠である織部は、セルジュの思い人であるエレナがガチ惚れしている相手でもあり、セルジュにとって恋敵でもある。
ジラソーレ社
ユーリア・ペルッツィを中心とする、フィレンツェの女子大生服飾サークルを起源とする新進の服飾メーカー。元々はカジュアル婦人服を専門としていたが、ユーリアの私怨から紳士服分野にも進出。ナポリに拠点を設け本社機能を移し、紳士服部門はナポリ仕立てを軸としてパターンオーダー、イージーオーダー、フルオーダーを手がける。婦人服及びカジュアル部門は、支店となったフィレンツェで引き続き行っている。愛称は「ひまわりさん」。
当初は紳士服に対する理解の低さから窮地に陥ることもあったが、織部や織部、あと織部の助力もあって徐々に実力を高めつつある。しかし未だに社長のユーリアがやらかして、窮地に陥ることも。ロンドン、パリ、ニューヨークに支店を持つ。創立メンバーは全員で12人。
- ユーリア・ペルッツィ
- ジラソーレ社社長でユウの兄弟弟子でもあるカリスマデザイナーのペッツオーリの一人娘。
かつて母が危篤の時に父がファッションショーに出演して自分一人で母の死を看取った事から父を憎むようになり、後に長じて大学時代の友人や後輩と共に ジラソーレ社を興してからは、打倒ペッツオーリを目指して攻めの経営でジラソーレを一流アパレルメーカーに押し上げた女傑。ただし、父への対抗意識から時たまヤリ過ぎなレベルでの無茶を度々行い、幹部一同から叱責されることも。元祖問題児。
ピザ大好きで体型維持に悩まされている。
通称:シャッチョさん もしくは ピザ - ベアトリーチェ・パスコリ
- ジラソーレのフィレンツェ支店長補佐兼経理担当。冷徹かつものすごいやり手で、詐欺じみた手で周囲を動かしての顧客の獲得や、あれよあれよという間にオリベを思いのままに動かしたりと、かなりの策士ぶりであり、彼女を御することができるのは社長のユーリアか副社長のサンドラだけだと作中でも言われるが、この両者でもイマイチコントロールしきれない。
その一方で愛社精神は幹部随一であったり、「アドリブやイレギュラーに弱いが故に綿密な策を練る」と自白したり等、意外にかわいい面もある。
通称:おかっぱ - ヴィレッダ・インパラート
- ラウラやイザベッラと共に行動する、ジラソーレ社の遊撃隊員。
当初は「修復師の修行をしている、日本人青年の恋人」という、今では誰も覚えていない設定で登場した。 この青年のお陰で靴の魅力に目覚め、マルコと同じ靴職人の親方に弟子入りしたものの、(つまりマルコの妹弟子)最近ではこの設定もどこかへ旅立ってしまった。
現在の活動はジラソーレ社にあって、遊撃隊の知恵袋として働くことが主。おかっぱが信頼を寄せるほどの策士ぶりで、あらゆる危機に際して情報収集、戦略の立案、ネゴシエーションに辣腕を奮う。情報収集という名目でサルトリア・オリベに居座っていることも多い。通称:物知り姉ちゃん - ラウラ・フォンターナ
- 織部の知己である大ブランドの総帥ペッツオーリの経営する服飾学校で天才と呼ばれていた少女。
若干14歳で究極の型紙を完成させるなど、その天才性を認められていたが、長年現場で揉まれた織部に敗北を喫したことで、織部を打ち倒すべく、学校を飛び 出しナポリへとやってきた。その後、ビアッジオ親方に弟子入りしたり、ジラソーレの内紛に巻き込まれる形で入社、ジラソーレを代表する職人になったりと日常は慌ただしいが、やっぱり織部には勝てない。織部を打倒したいという意思から、会社の命令や都合を全く考えずに突っ走ることがある。
話が進むにつれてその描写も減って来たのだが、時々思い出したかのように「打倒オリベ」を主張する。しかし周囲からは「あー、はいはい、そうね」「まだ生きてたの?その設定」という扱いをうける。
問題児その2。
通称:ツインテール - イザベッラ・ベリーニ
- 遊撃隊員の一人にして、ベリーニ伯の娘。
伯爵とジラソーレを近づけ、今では大株主の一人として有力者との仲を取り持つなどしている。聡明なお嬢様で真人間ではあるのだが、キャラが濃すぎる周囲の人物に良くも悪くも馴染んでいる。
日本に行った際にヲタ文化に目覚めた。 通称:お嬢
ペッツオーリ社
ジャコモ・ペッツオーリを総帥とする高級服飾メーカー。紳士服及び婦人服を扱っており、プレタポルテからオートクチュールまで手がける。
- ジャコモ・ペッツオーリ
- ミラノのブランド「ペッツオーリ」総帥。ミラノ貴族。ユーリアの実父でもある。
服飾のデザイナーとして技術の吸収に貪欲であり、「ペッツオーリ」ブランドが確立した後にナポリのマリオ・サントリヨに弟子入りしたことで一時期ナポリを騒がせた。その縁で織部悠とも知り合い、師匠の借金を彼が被ったことを知って代理返済を申し出るが断られ、代わりに保証人になることで借金取り立てを幾分か大人しくさせた。このことで悠から恩人と言われ、悠はペッツオーリの頼みごとなら大抵引き受ける。娘のユーリアには反発されているが、それでも何かとユーリア、ひいてはジラソーレに助け船を出すことが多い。
通称:先生 - アンドレア・フォンターナ
- ペッツォーリ社幹部の一人で、ラウラの父。日本支店長を経て、現在はナポリ支店長。
代々がペッツォーリ家に仕えてきた職人であったが、ペッツオーリが近代的な企業となったことで、ペッツオーリ社を乗っ取ると言う野心に燃える。しかし先生が引退の瀬戸際に陥った時はお家騒動の後始末を嫌がって乗っ取りを拒否し、復活すると再び野心に燃え出すなど、かなりヘタレな描写がされている。また娘と同様、この設定はしばしば忘れられる。
高級ブランドを扱っているという自負からか織部を見下すような発言をすることも多く、先述のヘタレキャラとも相まってあまり良い描写はされていない。しかし一流の職人として技量を発揮する場面や先達を敬う場面もあり、また娘を思う父としての心情が描かれるなど、決して憎まれ役や悪役ではない。織部のことも、見下しながらもその高い技量を信用している。キャラとしては憎まれ・悪役ではなく、どちらかというと「愛されるイジラレキャラ」と言えるだろう。織部が巻き込まれた騒動の二次被害を受け、一緒に右往左往することも。
妙な姦計を巡らし仕事上で失敗をやらかすこともあるが、ペッツオーリ先生からの信頼はいつでも変わらず厚い。
織部曰く「本人が腕の良い職人だから、二つのことを器用に考えることが出来ない」。
通称:ラウラパパ、統括
ナルチーゾ
大手通販サイト「サービスジャングル」イタリア支社が立ち上げた服飾自社ブランド。特急受注も受け付けている。既製品は一定の人気があるものの、特急受注の方は滅多に来ない上にリッカルドが経費でとにかく飲んだくれて社の財政を圧迫している為、運営はいまいち不安定。「ナルチーゾ」は「水仙」の意。
- ゾーエ・シャッカルーガ
- 「サービスジャングル」イタリア支社長。社会学者の父の影響か、社会運動的な発言が目立つ。「ナルチーゾ」設立の際にリッカルドを引き抜いた。ユーリアへの対抗心から大人げない手段を使ったり、しばしばユーリアと喧嘩するなど困った一面も。
- キャサリン
- 「サービスジャングル」イタリア支社幹部。ゾーエの補佐をしている。周囲の人間(ゾーエ、ドナ、リッカルド)が軒並み問題児である為、人事異動願を出すほど苦労している。
- ドナ・ウィンストン
- 「ナルチーゾ」専属スタッフ。優秀ではあるものの、しばしば自分で自分の体を縛って息を荒くする変態さん。
そのほか
- ジャンニ・ビアッジオ
- 織部の師匠であるマリオ親方の兄弟子に当たる人物。
高い技術力を持ち、どのようなドレープラインにも完全に合わせられると、生前のマリオ親方も全幅の信頼を寄せていた。長年、マリオ親方の下職を務めていたが、近年は下職の仕事が減ってきたため引退し、パスタ問屋併設の食堂を経営していた。しかしラウラの弟子入りが切っ掛けで織部の下職を受けたり、ジラソーレの相談も受けるようになった。
キャリアからも分かるように本格的な仕立てを得意とし、特に芯地に関しては抜群の技量を持つ。だが作中で最も見られる御大の服は、メイド服などの萌え衣装である。
ラウラが弟子入りした際は、ボケたフリをして魔改造な萌え衣装をラウラに着せてウェイトレスをさせていた。それは股下数センチのミニスカで絶対領域を確保しつつ、どんなに動いてもパンチラをさせないという超絶技法の仕立てであった。最近ではボケたフリすらせず、普通にラウラや相談に来たジラソーレの幹部に情報提供と引き換えに萌え衣装着用でウェイトレスをすることを要求している。また男性が来た時は猫耳執事風にしており、イタリアの爺さんと言うことを考えると、異常なほど日本の萌文化に異常に精通していると言えるだろう。愛読書は電撃萌王。
通称:カサルヌオボの御大 - ベリーニ伯
- ナポリ貴族の伯爵。世界的な実業家であり、裏社会(カモッラ)にも影響力を持つナポリ屈指の実力者。
没落した貴族であっても当人に実力と意思があれば取り立てる公正明大な人物であるが、その公平さゆえに当人に直接、辛辣に欠点を指摘してしまう面もある(織部はこれで一時期ガチで廃業を考えた)。また、貴族としての誇りが高く、気性が荒い面もあり、時には個人的理由で権力を振るおうとすることも。権力ってステキ。
ナポリの伝統文化を保護することも行っており、そのおかげか着道楽で、ジラソーレ社の株を購入したり、織部とカモッラの関係を断ち切り自分の店を開くための資金提供とカモッラとの交渉を引き受けたりしている。
通称:伯爵 - アラン・リヴァル
- フランス・パリのモード服ブランド「リヴァル」総帥。一代で「リヴァル」をトップブランドに成長させたカリスマ。
「人を殺そうと決意すると、不思議と静かな気持ちになる」なんて息子に語れるくらい辛酸な経験をしてきたためか、嫉妬深く劣等心の強い激情家(だがこの性格ゆえに高い行動力と目標を持てたとも言える)。こうした負の感情は同業者で貴族という嫉妬対象ドストライクなペッツオーリだけにとどまらず、息子のセルジュ(罪状:イケメン)にまで向けられ、敵と認定した相手は一片の慈悲もなく、むしろ嬉々として叩きつぶそうとする。この性格と行動により、作中ではたびたびトラブルの発端や拡大要因となる。問題児その3
ちなみに、「リヴァル」には新人教育のための工房があるが、非常にスパルタで大量の落伍者が出るだけでなく、卒業しても「リヴァル」による対抗商戦で安心できないと言われるが、アラン自身は卒業者らの才能・技量を認めており、自分の死後に花開くだろうと語っている。 - リッカルド・サントリヨ
- 織部の師匠であるマリオ・サントリヨの実子にして本作最強の仕立て屋。そして本作最大の問題児。
確かに業界TOPを狙えるレベルで腕は立つのだが、とにかく駄目人間。
手付金を酒飲んで使い果たして逃走したり、工房にある高級生地を勝手に持ち出して質に入れて飲んじゃったり、注文をほっぽり出してふらりと放浪の旅に出ちゃったりと、正気とは思えないレベルで社会不適合者だが、腕はそれこそいきなりTOPブランドでモデリストになれるレベルで、その手で作り出されたスーツの数々はまさに至高のレベル。リヴァルの工房に厄介になった際には、その工房で鍛え上げられた職人達ですら一目置き、崇拝するに至ったとかそういった腕をもち、それ故に存在そのものを業界中からもてあまされている。 - 通称:のび太 油虫(ゴキブリ)
ニコニコ動画での王様の仕立て屋
直接の関連動画は少ないというか皆無に近いが、主にアニメ等で、昨日の今日といったあり得ない速度で用意された服が出てくるシーンで「泥棒市のユウ・オリベが一晩でやってくれました」等のコメントが飛び出す事が良くある。
また、その衣装がコスプレや萌え関連の場合「カサルヌオボの御大が一晩でやってくれました」というバリエーションもありうる。
関連静画
関連動画
関連商品
ニコニコ静画(電子書籍)でも有料配信されている。
関連項目
関連サイト
- 4
- 0pt