アポロン(Ἀπόλλων、Apollon)とは、ギリシア神話の音楽、予言、牧畜、弓矢の神である。
概要
オリュンポス十二神の一柱。
ゼウスと女神レートーの息子で、アルテミスとは双子の兄妹である。聖地は出生地であるデロス島と、神託が下される地として高名なデルポイ。
シンボルとしての聖獣は狼、蛇、鹿、聖鳥はカラス、白鳥、雄鶏など。聖樹は月桂樹、オリーブ、棕櫚など。
レートーに嫉妬したヘラは、「いかなる大地の上でも子を産めないように」という呪いをかけた上で大蛇ピュートーンにレートーの殺害を命じる。ピュートーンは身重のレートーを執拗に追いまわし、出産を妨害し続けた。
大地とは見なされない浮き島・デロス島にて、難産の末にアルテミスとアポロンは産み落とされるが、生まれた直後にアポロンは立ち上がり、逆にピュートーンを追いかけた。そしてデルポイの地に追い詰めると手にした弓矢で射殺し、以後その地はアポロンの神託の下される聖地となった。
これは元来ガイアの聖地だったデルポイを、アポロンを奉ずる人々が奪ったのを正当化するため、新たに作られた神話だとも言われている。
文化的な性格を持つ詩歌の神である一方、「遠矢射る」アポロンとしては病疫の神として知られる。『イーリアス』では自分を信奉する神官の嘆願に応じ、神罰としてアルテミスと共にアカイア(ギリシア連合軍)の陣地に疫病を蔓延させた。
転じて医療神としても知られ、医療神アスクレピオスの父でもある。
数多の二つ名を持つ神であり、ポイボス(輝く)を筆頭に、ヘリオス(太陽)、アギュイエウス(陽光)、リュケイオス(光、狼)、ディドゥマイオス(双子)、ピュティオス(ピュトンの)、スミンテウス(鼠)、パルノピオス(イナゴ)、キュリカリオス(ヌカカの)、アケストル(癒し手)、イアートロス(医師)、ゲネトル(祖先)、ニンフェゲテス(ニンフの主人)、ノミオス(牧歌)、マンティコス(預言者の)、ロクシアス(ひねくれ者)、ムーサゲテス(詩神ムーサの主人)、アルギュロトクソス(銀の弓持つ)、ヘカエルゴス(遠矢射る)、ニュクテイ・エオイコス(夜に酷似した)等々……
これ以外にもまだまだあるので、興味のある人はwikipedia英語版記事に行くと良いかも知れない。
逸話
笛の呪い
ある時アテナは笛(アウロス)を製作し、神々の前でその音色を披露した。ところが笛を吹く時に頬が膨れて折角の美貌が台無しになった事で笑われてしまい、機嫌を損ねた女神は笛に「これを持つ者に災いが訪れるように」と呪いをかけて捨ててしまった。
その後、笛はサテュロス(半獣神)のマルシュアスが拾い、演奏するようになった。神の手になる楽器は見事な音を出し、マルシュアスは笛の名手としてもてはやされるようになる。いつしかその腕前はアポロンの竪琴にも勝ると評判になり、これを聞いたアポロンは怒りを覚えてマルシュアスと音楽で競う事となった。
この時「勝ったものは負けたものに何をしてもいい」という条件がつけられ、いくつかの派生があるものの、いずれも結果はアポロンの勝利に終わった。しかし怒りが収まらないアポロンはマルシュアスを捕らえ、生きたまま皮を剥いで殺してしまった。
またこの勝負に際してマルシュアスを支持したプリュギア王ミダースは、アポロンの怒りをかって耳をロバに変えられてしまった。後にこの逸話はイソップ(アイソポス)により『王様の耳はロバの耳』という話として広く知られるようになった。
白いカラス
かつてカラスの色は美しい白(または銀)で、美しい声を持つ鳥だった。
しかしある時、アポロンの愛人であるコロニスが人間と不義密通をしていると報告。これはカラスの見間違えだったとも、自分がサボっていた事をごまかす為の嘘だったとも、本当だったともされている。
ともあれアポロンは報告を受けて激怒し、自ら矢を放ってコロニスを射殺した。しかし死の間際にコロニスが「貴方の子を身籠っている」と告げた事でカラスの言葉は嘘だと露見し、アポロンはカラスに呪いをかけて追放した。それ以来カラスの羽は喪服のように黒くなり、鳴き声も醜くなってしまったという。
この時コロニスが孕んでいたのが、後に医療神となるアスクレピオスである。
黄金と鉛の矢
ある時アポロンは愛の神エロースと偶然出会い、その小さな弓矢を馬鹿にしてからかった。エロースは「確かに私の矢は小さいが、この矢は貴方がたをも殺す事が可能なのですよ」と言うと、愛情を芽生えさせる黄金の矢をアポロンに、愛情を拒ませる鉛の矢を河神ペーネイオスの娘ダプネーに打ち込んだ。
たちまちアポロンはダプネーに魅了されて近づこうとするが、ダプネーはこれを拒絶して逃げ出した。尚もアポロンは執拗に彼女を追いかけ、ついに川岸へと追い詰められる。ダプネーは父に祈り「どうかこの姿を変えてください」と叫ぶ。願いは聞き届けられ、アポロンが触れた瞬間、娘の姿は月桂樹へと変わった。
失恋したアポロンは嘆き悲しみつつ「せめて私の聖樹になってほしい」と願い、ダプネーはそれを受け入れる。以後月桂樹はアポロンの象徴たる聖樹となり、デルポイの大祭で開催される競技の優勝者には、月桂樹の葉で編まれた月桂冠が授けられる事となった。
この故事を受け、現在でも陸上競技などで、表彰に際して選手に月桂冠が授けられるのが通例となっている。
またジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻「アポロンとダプネー」はこの神話をモチーフとしており、まさに月桂樹へと変身していく瞬間をとらえた傑作として知られている。
起源
小アジア起源の女神レートーを母親に持ち、トロイア戦争では一貫してトロイアに味方したように、彼もまた非ギリシャ的な側面を持つ神である。
彼はエトルリアの地ではアプル(Apulu)として信仰されたが、一方フリやヒッタイトの神話にもアプル(Aplu)という神が信仰されていた。
この小アジアの神は元来アッカドの神であり、その本来の意味はアプル・エンリル「エンリルの息子」で、この二つ名を持つ冥府の王ネルガルを指していた。
ネルガルは時にメソポタミアの太陽神シャマシュと同一視されるが、もしアポロンがその名の由来をネルガルに持つなら、病魔の神、死の神、太陽神、そして主神の息子としての性格の多くを彼から引き継いだのであろう。
関連動画
関連項目
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