北欧 (北ヨーロッパ、Northern Europe) とは、ヨーロッパの北部一帯を指す用語である。具体的にどの地方や国を含めるかは、論者や地域分類の用途等によって異なる。
概要
狭義の「北欧」は、デンマーク王国・スウェーデン王国・ノルウェー王国のスカンディナヴィア諸国(スカンディナヴィア三王国)にフィンランド共和国とアイスランド共和国を加えた5ヶ国である。フィンランドの自治領オーランド諸島ならびにデンマークの自治領フェロー諸島およびグリーンランドを加えて5ヶ国3地域と表現することもある(北欧理事会:Nordic Council)。
一方、エストニア共和国・ラトビア共和国・リトアニア共和国のバルト三国を北欧に加える場合もある。これらの国は歴史的にドイツ・ロシア・スカンディナヴィア諸国の影響を強く受けてきた。
また、国際連合の分類では、これらの8ヶ国に英国(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)とアイルランド共和国を加え、10ヶ国としている。
北欧の国
国名 | 分類 | |||
---|---|---|---|---|
デンマーク |
狭 |
バ |
国 |
北 |
スウェーデン | ||||
ノルウェー | ||||
フィンランド | ||||
アイスランド | ||||
エストニア | ||||
ラトビア | ||||
リトアニア | ||||
イギリス | ||||
アイルランド | ||||
オーランド諸島 | ||||
フェロー諸島 | ||||
グリーンランド |
北欧理事会とノルディック・バランス
一般的にノルディック・バランスと言った場合、ソビエト連邦とアメリカ合衆国が対峙した東西冷戦下での北欧五か国による東西でのバランスある独自外交姿勢のことを言う。
しかし、21世紀現在でも北欧理事会は欧州連合との経済的協力に関しては一定の距離を持ち、アメリカ合衆国にも、対するロシア連邦にも追従しすぎない独自のバランス感覚を持っている。
欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、ユーロ(€)など、導入レベルや加入レベルも北欧理事会は少しずつ異なり、彼らと一定の距離を取っている。
以下に、北欧理事会の外交バランスについて表にして示す。
国名、欧州連合への加盟状態、北大西洋条約機構への加盟状態、欧州自由貿易連合への加盟状態、ユーロの導入状況の順。全て2015年1月現在。
国名 | 欧州連合(EU) | 北大西洋条約機構(NATO) | 欧州自由貿易連合(EFTA) | ユーロ(€) |
デンマーク | 加盟(本国のみ) | 加盟 | 非加盟(脱退) | 未導入 |
スウェーデン | 加盟 | 非加盟 | 非加盟(脱退) | 未導入 |
フィンランド | 加盟 | 非加盟 | 非加盟(脱退) | 導入 |
ノルウェー | 非加盟 | 加盟 | 加盟 | 未導入 |
アイスランド | 非加盟 | 加盟 | 加盟 | 未導入 |
国単位で見るならばノルウェーとアイスランドは経済的に中立を保ち、スウェーデンとフィンランドは安全保障的中立といったところだろう。デンマークは理事会でEUとNATOの両方に加盟する唯一の国家だが、王国全てがEUに加盟しているわけではなく、ドイツ占領の経験を踏まえての国家的中立と同盟を求めており、実現しなかったスカンディナヴィア軍事同盟を歓迎していた(後述する)。
欧州連合と北欧理事会
北欧理事会のうち、欧州連合(EU)に参加しているのはデンマークとスウェーデン、フィンランドである。
ノルウェーとアイスランドが参加していないのは、漁獲量の制限や、捕鯨への反対が吹き荒れる欧州からの圧力に、漁業国、捕鯨国である両国の国民感情が根強い反発を持っているからでもある。
デンマークはEUに所属するが、デンマーク領グリーンランドは自治権と独立性が強く、EUの前身である欧州共同体(EC)から脱退してから復帰していない上、デンマーク領フェロー諸島も捕鯨国であるため、EUには加盟していないなど、デンマーク王国は本土以外はEUに参加していない状態である。
ノルウェーはEUへの加盟を、国民投票で2度にわたって否決している。ノルウェーはロシアの影に隠れているものの世界3位の天然ガスの輸出国であり、世界9位の石油産出国でもあり、経済的に安定しているため、EUという枠に入り、自国産業をけん引する漁業と伝統である捕鯨を制限され、わざわざ貧相国の面倒を見るというデメリットの大きい加盟には否定的である。
アイスランドは2008年に国家破綻という前代未聞の危機に陥り、EUへの加盟とユーロの導入を一度は申請した。加盟の信を問う国民投票を実施するとしたものの、漁業界や国民の猛抗議により2014年2月、反EUを掲げる政権が誕生したことを機に、結局国民投票を経ずにEU加盟計画を完全に廃案とした。
北大西洋条約機構と北欧理事会
北大西洋条約機構(NATO)は、デンマークとノルウェー、アイスランドが所属している。
デンマークはNATOに所属しているが、以前はスウェーデンのスカンディナヴィア軍事同盟を歓迎していた。しかしこれが挫折すると、NATOに加入するものの、対敵するワルシャワ条約機構(ОВД)への対応でアメリカ他の西側諸国と対立、デンマーカイゼーション(デンマーク化)とレッテルを貼られた。それでもなお、デンマーク軍は非常に優秀で、国際社会の評価は高い。
スウェーデンはNATOに所属せず、専守防衛を基本とした中立政策を保つ重武装中立国であり、北欧五か国によるスカンディナヴィア軍事同盟機構を提唱したこともあるが挫折(後述する)。ロシアとの緊密な軍事関係も、NATOへの参加を妨げている理由の一つであろう。
フィンランドは東西冷戦期にはソ連の影響が強く、親ソ的な外交姿勢(いわゆるフィンランド化)が続いていたが、ソ連崩壊後にはそういった空気は薄れている。しかし、ロシアと国境を接することや、東西の勢力争いに巻き込まれぬよう欧州連合に所属しながらもNATOには所属せず、というバランスを保っている。
ノルウェーはNATOに所属。対ロシアにおいては最前線の国家の一つである。第二次世界大戦での亡命政権がイギリスにあったことなどもあり、安全保障面では欧米寄りで、スカンディナヴィア軍事同盟にもNATOへの合流を条件にするなど、難色を示した(後述する)。NATO所属ノルウェー空軍は、ロシア空軍とのスクランブルが多い。しかし冷戦当時からアメリカ軍基地は置いておらず、ロシアへの刺激を避けている。
アイスランドはNATOに所属するが、イギリスと漁業権を争った「タラ戦争」において、領海の拡大を認めなければNATO軍の基地を撤去することをほのめかし、欧米に大幅な譲歩を引き出したほか、2006年にはNATOのアメリカ軍が撤退、基地を閉鎖するなど、NATO内での関係をそれほど重視していないようだ。アイスランドには軍もないため、実際の関わりも少ないということもあるにはある。
ユーロ(€)と北欧理事会
ユーロ(€)を導入しているのはフィンランドのみである。デンマークのデンマーク・クローネ、ノルウェー・クローネ、スウェーデン・クローナは比較的安定した通貨として知られている。
フィンランドは、東西の要所として冷戦下でバランス外交を繰り広げていたが、その外交姿勢故にソ連崩壊の煽りを一気に受け、旧通貨のフィンランド・マルッカは価値が暴落、恐慌が発生してしまった。企業は途方もない債務を背負うことになってしまい、経済が衰退。1996年に欧州為替相場メカニズムに参加し、1999年にはユーロ導入を決定、2002年からユーロを正式に導入した。ノルディック・バランスゆえの破綻という皮肉な結果であった。
アイスランドのアイスランド・クローナは、2008年の世界金融危機において価値が暴落してしまい、EU加盟とユーロ導入を検討したのだが、上で書いたように国民からの反発によって廃案としたため、2015年現在もイルカ、鱈、ドラゴン、ししゃもなどのデザインされたファンタジーな通貨が全土で使用されている。
2008年当時は通貨の暴落によって、むしろ輸出が大幅に増えて収支が改善、景気が回復したという。国家経済の破綻によって対外債務不履行の危機に陥ったが、実はその際にロシアがアイスランドへの救済を申し出ていたりして、慌てたIMFが救済のために口を挟むというエピソードもある(国家としての義理を立てる為か、2014年のウクライナ危機では、アイスランドはロシアへの制裁に参加しなかった)。
だが、他国人の預金を自国の税金で救済するという議会の法案に対して、大統領が拒否権を行使(アイスランドの大統領は象徴的存在であり、拒否権行使は異例)、国民も法案を否決、再提出、再拒否、再否決…を経て結局わざと銀行を破産させ、借金を踏み倒し、金融関係者や銀行家を逮捕しまくるという荒業を行使している。
この時の行為は欧米から強い反発を受けているが、その後の経済成長、逆にEUの経済不調なども重なり、結果としてアイスランドはユーロを導入しなくて正解だったようである。
現在のアイスランド政権も反EU的であり、EU加盟計画を廃案にしてしまったため、導入は当面なさそうである。
ちなみに、各国の通貨に使用されているクローネ(クローナ)は、全て「王冠」を意味する。
スカンディナヴィア軍事防衛同盟
北欧中立防衛同盟とも呼ぶ。第二次世界大戦後にスウェーデンの外相オースティン・ウーデンの提唱によって構想された、当時連合軍に占領されていたアイスランドを除く北欧4ヶ国による中立的防衛同盟のこと。(英:Scandinavian defence union)。ソ連影響下のフィンランドを含まない3国中立防衛同盟とする場合もある。
1940年から第二次世界大戦、戦後にかけて、フィンランドはソ連の影響下(後に枢軸国として参戦)にあり、ノルウェーとデンマークはドイツによって占領されていた。スウェーデンは中立を維持したが、積極的に隣国へ関わろうとはせず、ノルウェーの占領にもフィンランドの参戦にも関与しなかったため、いわゆる「隣国見殺し」の末に守った中立だと国内外から非難を呼ぶ。その為、北欧諸国による中立的な防衛機構を作ろうとしたのがスカンディナヴィア軍事防衛同盟である。
同盟が締結された場合、北欧諸国は主権国家としての力を持つが、外交政策や安全保障上の問題はスカンディナヴィア同盟として単一のものであることが望まれたが、結局この同盟は成立しなかった。
以下に、第二次世界大戦前後の北欧五か国について示す。
国名、戦前の国が置かれていた状況、戦中の政権と姿勢、戦中の占領状況、戦後の状況、影響を及ぼした国家と組織の順。
国名 | 戦前 | 戦中 | 占領状況 | 戦後 | 影響を及ぼした国家/組織 |
デンマーク | 独立国 | 独国軍事占領下 | ナチスによる占領 | 独立国 | ナチス・ドイツ |
スウェーデン | 独立国 | 中立 | 非占領 | 独立国 | 無し |
フィンランド | ソ連傀儡政権 | 枢軸国として参戦 | 非占領 | 敗戦国 | ソビエト社会主義共和国連邦 |
ノルウェー | 独立国 | イギリス亡命政権 | ナチスによる占領 | 独立国 | イギリス |
アイスランド | 丁王国同君連合 | 英国軍事占領下 | 連合軍による占領 | 独立国 | イギリス・アメリカ連合軍 |
フィンランド
フィンランドは第二次世界大戦を枢軸国として戦ったが、ドイツ敗戦後にはドイツ軍と戦った(ラップランド戦争)。しかし、それらの姿勢ゆえに戦勝国ではなく敗戦国としての扱いを受け、戦後はソ連の影響下に組み込まれることになった。ソ連と国境を1300キロに渡って接するフィンランドは、スカンディナヴィア防衛軍事同盟についてソ連からの圧力を受け、ソ連からの承認を得なければ参加が難しいという立場に立たされた。
フィンランドは1948年にソ連と友好協力相互援助条約(通称YYA条約)を結んでおり、これは軍事的性質を多分に含むものだったため、フィンランドからスカンディナヴィア軍事同盟への参加許可に対するソ連からの返事は「ぶっきらぼうに否定的だった」。
これらのことからフィンランドはスカンディナヴィア同盟に参加することを断念し、ソ連の影響下に留まった。
デンマークとノルウェー
デンマークはドイツ占領の経験からこの同盟を歓迎し、スウェーデンと共に前向きな姿勢を見せた。
しかしノルウェーは上記の、特に安全保障上の問題で難色を示した。北大西洋条約機構とのつながりや、東西冷戦に挟まれた状態での自分たちの主権を守りきることは難しいと考えたと言われている。
また、ノルウェーは第二次世界大戦中に亡命政権をイギリスに置いており、これらのことからも西側諸国との関係悪化は避けたい立場であった。西側としても、北欧諸国を東への緩衝帯として確保しておきたい思惑があった。
ノルウェーはスウェーデンと激しい議論の末、これらの交渉から辞退した。ノルウェーの辞退により、これらの軍事同盟についても立ち消えとなる。
デンマークとノルウェーはこれらの交渉が決裂した後、NATOに参加しているが、デンマークはNATOの中で西側諸国と対立することがあった。
スウェーデン
特にノルウェーを相手にした激しい議論の末、軍事同盟は立ち消えることになってしまったが、スウェーデンはデンマークやノルウェーと違い、ソ連影響下のフィンランドとも異なる立場、つまり東側に与することなくNATOにも参加しないことを決めた。
これらは他国との関係より、むしろ国内からの世論が中立を支持したことによるものだった。スウェーデンは外交的立場は西側諸国であっても、安全保障上は中立であるべきで、そのためにNATOへの参加は不要であるというものだった。
その実、東西冷戦が熱き戦いへと変貌した場合は、NATOへ参加して東側陣営と戦うことをノルウェーを通じて密約を交わしていたと言われる(それは存知の通り、冷戦が熱戦に変貌しなかったために実現しなかった)。
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