ナーシャ・ジベリ(Nasir/Nasser Gebelli, ناصر جبلی )は、かつてスクウェア(現スクウェア・エニックス)に在籍していた伝説的なイラン系アメリカ人プログラマである。
概要
1957年イラン生まれ。渡米し情報工学(計算機科学)を修め、1980年に友人のジェリー・ジューエル(Jerry Jewell)[1]と共にAppleII用のゲーム製作会社シリウスソフトウェア(Sirius Software)を立ち上げ、一時期は月に1作というハイペース製作の中、『ゴーゴン』(Gorgon)[2]や『スペースエッグズ』(Space Eggs)[3]などのヒット作を世に送り出したものの、1981年に退社。
その足で新会社ジベリソフトウェア(Gebelli Software)を立ち上げてからは『ホライズンV』(Horizon V)・『ジーニス』(Zenith)といった現在のFPS(ひいては3D)の元祖といえる個性的な作品を製作するようになったものの、まだまだ時代が彼に追いついてなかったからかヒットには恵まれず、1984年に前年のアタリショックの影響もあって古巣(といっても2年余り前)のシリウス共々倒産の憂き目を見た。
その後いろいろあって(世界放浪の旅とか)、友人のソフト会社経営者ダグ・カールストン(Doug Carlston)からNES旗揚げにプログラマとして参加するよう勧められて来日。任天堂で宮本茂と面会するがあまり気が乗らず、結局はスクウェアで出会ったジベリファンの坂口博信に熱心に口説かれてスクウェアへ入社する。
当時は珍しかった3D描写の『とびだせ大作戦』『ハイウェイスター』などを手がけた後、『ファイナルファンタジー』(以下FF)シリーズの開発にメインプログラマとして参加する。間違いなく初期「FF」を支えた中心人物の一人であり、FFシリーズが生まれたのは彼の功績によるところが大きい。
なかなか面白い人物でもあったようで、タイトル画面に自分の名前を真っ先にクレジットしたり、隠しコマンドで自分の名前を仕組んだりと、意外と自己主張が強い。『FF1』のおまけゲームである15パズルを勝手に作っていたという逸話も残っている。
ナーシャがFFシリーズの製作に携わったのは『FF3』までである。その後1993年に『聖剣伝説2』の開発に参加後、スクウェアを去る。
現在はカリフォルニア州に住んでいるとのことだが、今もゲーム業界に関っているのかどうかは不明。
坂口博信との親交は続いているらしい。
謎の技術
そのプログラミング技術はまさしく天才と呼ぶに相応しく、彼の手がけた作品は極めて高度なグラフィック表現が用いられている。『FF2』『FF3』の飛空艇が地面に影を落としながら通常歩行の8倍という驚異的速度で動く(同時に海面の波の模様が常に動いている)のは有名。その驚異的スピードはバグに近い挙動を利用したものだとも言われている。ちなみに『FF3』の戦闘シーンは、スーパーファミコンに移行した後の『FF4』以降と比べても遜色ないほどスピーディである。
また、さほど話題にならない『とびだせ大作戦』『ハイウェイスター』にしても、高低差まで表現した3D描画を平然と行っている。これらはラスタースクロールを利用した描写と思われるが、後代のスーパーファミコンやメガドライブならともかくファミコンの性能上普通にできる描写ではなく、普通は後発の『アタックアニマル学園』やFC版『スペースハリアー』のようにBGのパレットの切り替えで3Dを表現する所である。他社製で『とびだせ大作戦』と同タイプの3D表現を行っているものとしては『コズミックイプシロン』(アスミック)があるようだ。
ナーシャが作ったプログラムは、他の人間が見るとまったく理解が出来ないものだったともいうが、本人は全容を完全に把握していたらしい。『FF3』でバグが発見された時に、現場に行かずにその場の電話越しでプログラムの修正指示をして開発スタッフを驚かせたという話が伝わっている。
その一方でナーシャが関ったゲームはバグが多いことでも知られる。『FF1』の頃はRPGというジャンルがよくわかっていなかったらしく、奇妙な計算式や効果の無い魔法などが多数見られる(この辺りは他のRPGのプログラムにもよく見られるものであり、開発仕様変更上のミスや捨てデータ放置の可能性も大いにあるが)。とりわけ『FF3』『聖剣伝説2』の破壊的なバグ(要リセット)は有名。
『FF3』について
予定されていながらも結局WSCに『FF3』が移植されなかった(にも拘らず続篇の『FF4』はWSCにもGBAにも移植された)理由のひとつとして、DSリメイク版発売時に「WSCでは技術的に難しかった」という発言もあり、ナーシャの技術力の高さの証明となっているが、それは8倍速飛空艇のことだとは言われていない、はず。飛空艇の速度はWSC版『FF2』でも十分に再現できているので、移植が難しかったのは戦闘シーンの表現や容量の問題など、他の部分に関してと思われる(参考→http://dol.dengeki.com/soft/interview/ff3/index.html)。
『FF3』は「プログラムの解析が難しかったから」「オリジナルのソースを紛失したから」という話も吹聴されているが、それらの噂はいずれもソースが不明である。仮にプログラムが残っていたとしても、昔のファミコン用のデータがWSCに流用できるとは考えにくいので、そこまでナーシャのせいにするのは怪しいものである。
事実、WSC版の『FF1』はFC版でおかしかった部分も本来の仕様どおりに修正されているので、一から作り直したものなのだろう。逆に『FF2』は仕様が再現されていない部分がやたら多い。
「ナーシャ・ジベリ」という人物は神格化され、本人が努めてメディアへの露出を控えているせいもあり、デマのようなものも多く見受けられる状態である。そのあたりを含めて彼は伝説的な存在なのかもしれない。
関連動画
関連項目
脚注
- *なおジェリーは現在、非営利団体を主宰。芸術活動を通じ子供たちの団体行動スキル育成を支援する活動を行う一方、レジャー産業向けに合衆国唯一の「お化け屋敷専門学校」をプロデュースするなど、こちらもなかなかユニークな人物である。
- *アーケードの大人気横スクロールSTG『ディフェンダー』(Defender, Willams Electronics (現 WMS Industries)のクローン移植作(の一つ。なおクローン移植は現在では著作権侵害で訴えられる可能性もあるが、当時は高度な技術力を以て完成度(ハードの垣根を越えた再現の良さ、オリジナルの欠点を補う妥当な改良など)の高い作品を自室のPCへ供給するハッカーたちへの賞賛もあり、こうした行為はごく当たり前に行われてきた)。
- *アーケードの大人気インベーダータイプSTG『ムーンクレスタ』(Moon Cresta, 日本物産)のクローン移植作品(の一つ。なおクローn(ry
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