概要
第二次世界大戦における独ソ戦を舞台として、赤軍(ソビエト連邦の軍隊)の若き女性狙撃兵「セラフィマ」と、彼女が所属する女性狙撃兵部隊の戦いを描いた小説作品である。
2021年11月17日、早川書房より単行本として刊行。カバーイラストは雪下まゆ。
戦争の悲劇を描いた歴史小説であり、女性狙撃部隊員らの関係性を描くシスターフッド小説であり、類まれな才能を持つ狙撃兵が活躍する様子を描いたアクション小説であり、戦争で家族を亡くした女性の復讐譚でもある。それらの様々な要素が絡み合いながら、最終盤で「敵」に放たれる銃弾へと収束していく。
冒頭の「プロローグ」と「第一章 イワノフスカヤ村」はインターネット上にて無料で公開されている。ただし、本作は「終盤に向けて盛り上がっていく」タイプの作品であるため、この冒頭部分では魅力は完全には感じ取れないかもしれない。
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史実の戦争を舞台にしているため実在の人物も複数登場し、主人公と顔を合わせたり会話をしたりすることもある。伝説の女性狙撃兵リュドミラ・パヴリチェンコ、卓越した司令官ゲオルギー・ジューコフ元帥、本作の時代ではエリョーメンコ大将付き政治委員だったニキータ・セルゲーヴィチ・フルシチョフなど。
小説家「逢坂冬馬」にとって本作がデビュー作品。早川書房などが主催するミステリー小説の文学賞である「アガサ・クリスティー賞」に応募され、同賞史上初めてのこととして、選考委員全員が満点を付けて満場一致で大賞として選出されたことでも話題となった。
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アガサ・クリスティー賞の受賞作としては間違いなく過去最大最高の話題作。
11月発売だったため同年末のミステリーランキング等の期間からは外れたが(翌年度の対象となる)、新人のデビュー作にして第166回直木賞候補作に選出(受賞した2作との決選投票まで残ったが落選)。
そして2022年4月に第19回本屋大賞を受賞した。
また、2022年5月には第9回高校生直木賞を受賞した。
本作はいわゆる「推理小説」ではないため、「なぜ本作がミステリー小説の文学賞に投稿され、受賞したのか?」と首をかしげる人も居るかもしれない。しかしアガサ・クリスティー賞の選考対象は「本格ミステリをはじめ、冒険小説、スパイ小説、サスペンスなど、アガサ・クリスティーの伝統を現代に受け継ぎ、発展、進化させる総合的なミステリ小説」(早川清文学振興財団WEBサイトより)とされており、冒険小説である本作はクリスティー賞の対象である、いわゆる「広義のミステリー」に含まれる。ジャンルの範囲に関しては「ミステリー」もしくは「冒険小説」の記事を参照。
もしそれでも納得いかんという方は、「アガサ・クリスティーも『ビッグ4』とかの冒険小説を書いてるんだからいいじゃん」と思っておけばいいと思う。
登場人物
- セラフィマ
- 本作の主人公。
- 1924年生まれで、1940年の「プロローグ」時点では田舎の村に住む狩人の少女。幼いころに見た「ドイツ軍と帝政ロシア軍が第一次世界大戦のさなかに和解して手を取り合った」という内容の演劇をきっかけに、外交官としてドイツとソ連の友好を取り持つことを夢見てドイツ語を学んでいた。
しかし、彼女が18歳の頃に村に起きたある悲劇をきっかけとして殺意と復讐心に駆られるようになる。 - そしてその殺意と復讐心の対象の一人でもあるイリーナの計らいで女性狙撃兵訓練学校分校に入学させられ、そして後には凄腕の狙撃兵となる。
- イリーナ
- 元・歴戦の女性狙撃兵。
- 怪我を機に一線からは退き、女性狙撃兵を育成する訓練学校の教官となっている。そして教え子らが巣立った際には、彼女たちによる狙撃兵小隊「第三十九独立小隊」の指揮官となる。
- ドイツ軍に殺されるところだったセラフィマを拾って「戦いたいか、死にたいか」という選択を突きつけ、自らの訓練学校で狙撃兵として育て上げる。だが、その過程で行った冷酷な振る舞いによってセラフィマの復讐心と殺意の対象となる。
- シャルロッタ
- セラフィマと同じく、イリーナの教え子である女性狙撃兵訓練学校分校の生徒。後に「第三十九独立小隊」の隊員。
- 人形のように美しい少女でありセラフィマは初対面の際に「貴族のお姫様のよう」と評してしまったが、教条的な共産主義者である彼女はその言葉に激怒した。モスクワ射撃大会で優勝した経歴を誇るなど、プライドの高さも見せる。しかしイリーナをまっすぐに尊敬して慕ったりと、本来は明るく無邪気な性格である。
- アヤ
- 同じく女性狙撃兵訓練学校分校の生徒、後に「第三十九独立小隊」の隊員。
- 不愛想なカザフ人の猟師であり、飛びぬけた狙撃の天才を持つ学校一の名手。片付けが苦手で部屋がとても汚い。
- ヤーナ
- 同じく女性狙撃兵訓練学校分校の生徒、後に「第三十九独立小隊」の隊員。
- 教官・指揮官であるイリーナより二歳年上であり、女性狙撃兵訓練学校在学時点で既に二十八歳。母性に溢れた女性であり、自らの実子たちは既に空襲で死んでしまっているが、戦争で犠牲になる子供たちを守るために戦っている。ママみがすごいのでシャルロッタがあるとき間違えてママと呼んでしまい、それをきっかけにしてイリーナ含めた仲間たちからママと呼ばれることになる。
- オリガ
- 同じく女性狙撃兵訓練学校分校の生徒、後に「第三十九独立小隊」に帯同する。
- ウクライナ出身のコサック。気弱だが親切で、なにかとセラフィマに食ってかかってくるようなシャルロッタとも仲が良いなど誰からも好かれる人物。セラフィマと二人きりとなったあるとき、ウクライナやコサックの誇りについて、そしてソ連の体制に対する批判めいた考えをセラフィマに告白するが……。
- ターニャ
- 「第三十九独立小隊」付きの女性看護兵。
- 少年っぽい顔つきをした、変わり者だがいいやつ。彼女もイリーナに「戦いたいか、死にたいか」という選択肢を突きつけられ、自分なりの選択をした一人。
関連動画
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電子書籍
参考文献
※本作内「主要参考文献一覧」のページには多数の書籍が掲載されているが、その中でも「本作の本文中にもタイトルが登場する書籍」という特筆点から上記を代表して掲載。
関連リンク
関連項目
- 小説作品一覧
- 早川書房
- ミステリー / 冒険小説
- 直木賞 / 本屋大賞
- 独ソ戦
- 赤軍
- 狙撃手
- 復讐
- カチューシャ(歌曲)
- 戦争は女の顔をしていない
- リュドミラ・パヴリチェンコ
- ゲオルギー・ジューコフ
- スターリングラード
- ケーニヒスベルク
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