独ソ戦とは戦死者数2500万人以上(推定)となった第二次世界大戦における戦域の一つ。
ソヴィエト(ロシア)側からは大祖国戦争、ドイツ側からは東部戦線と呼ばれる。
概要
第一次大戦後、ヴェルサイユ体制化で西欧から孤立したつつあったドイツとソ連は、奇妙な接近を始めつつあり、やがて秘密協定を結んでポーランドを共同で分割するに至った。後知恵的には、イデオロギー的には対立するはずのナチスドイツとソヴィエトロシアは、その方法論的な部分に類似を指摘することも可能であるが、当時の国際社会にはドイツとソ連の接近は驚きをもって迎えられた(極東の某国では「欧州情勢は複雑怪奇」なる発言が飛び出すに至った)。
しかし独ソの表面的な友好は長続きせず、ヒトラーは東方にドイツ民族の生存圏(レーベンスラウム)の拡大を目指し、対するソヴィエトもルーマニアに領土を割譲させるなど秘密協定の枠を超えて野心をあらわにし、両者の内在的な対立が浮上しつつあった。
1941年6月22日、ドイツは「バルバロッサ」作戦を発動。ソ連領土に侵攻を開始した。ヒトラーに作戦を決意させた動機が何であったかは見解の分かれるところであるが、イデオロギー的な背景のほかにも対英作戦の手詰まり、ソ連の軍備増強に対する警戒などが指摘されており、もし実行していなければ逆にソ連による先制攻撃もありえたかもしれないとする説もある。が、近年の研究では、「ドイツ生存圏の確保」という大義名分のもと、「ボルシェヴィズムとスラブ民族を文字通り根絶やしにする」という「絶滅戦争」にあったことが定着してきている。
当初、ドイツ軍は航空優勢と機械化された先鋒部隊によって破竹の進撃を続け、ウクライナ、ベラルーシを制圧するとともにレニングラード、首都モスクワ、スターリングラードと言ったソ連主要都市を脅かすに至った。クーデターの猜疑心にとらわれたスターリンが1930年代に行った大粛清により、赤軍の大佐以上の将校は65%が殺されていた。このため、赤軍には連隊以上の規模の戦術単位の指揮を取れる軍人が極端に不足しており、まともな抵抗がほぼできないままに、ドイツ軍に各個撃破・包囲殲滅されてしまったのである。
しかし、やがてドイツ軍の兵力は広大なロシアの大地を進撃するのは不足するようになり、ロシアの道路事情の悪さ、悪天候、鉄道規格の違いなどによる補給能力の低下がそれに拍車をかけた。そもそもドイツはイギリスをはじめとした他の連合国とも戦争を継続しており、生産能力も限界に達しつつあった。
翻ってソヴィエト赤軍は、スターリン体制において(強引に)進められた重工業化が功を奏し、戦争初期の出血を補って有り余るほどの生産能力を手に入れた。そこそこの性能で、未熟な兵士の手荒な使用や過酷な気候に耐えるソヴィエトの兵器体系も赤軍の戦力増大を後押しした(「半世紀以上沼に沈んでいても動く戦車があるらしい」「またまた、ご冗談を」)。
モスクワへの攻勢が頓挫し、スターリングラードで第六軍が逆に攻囲され、壊滅するに至って独ソ戦は転換期を迎え、ドイツは主要都市もコーカサスの石油資源も確保できないまま守勢に転じた。
日々増大する赤軍の戦力を前に、ドイツは何度か反攻を試みるものの、この時期になると赤軍側の戦術も洗練されてきており、初期の大敗北を生き残った中級・下級の将校たちも、その経験によってより大きな規模の指揮を学んだ。徴兵された兵士たちは督戦隊が監視し、ドイツ軍に背を向けた兵士を即座にその場で銃殺する恐怖によって支配した。これらの要素によりしばしばドイツ軍部隊が赤軍の機械化部隊に拘束・包囲される事態が生じた。
戦略爆撃による民間人の死傷と生産能力の低下、イタリア降伏、連合軍のフランス上陸と、まさに四面楚歌になったドイツに対し、西と東から連合軍が迫るも、結局は赤軍が首都ベルリンを制圧し議事堂に赤旗を掲げた。
かくして独ソ戦は終了し、ドイツは分割され、一度はエルベ川で手を結んだはずの米ソが冷戦に突入するのである。
スラブ民族絶滅を企図したヒトラーの戦争指導のもと、独ソ戦当初の赤軍捕虜の扱いの劣悪さ、占領地からの徴発は過酷を極め、のみならずアインザッツグルッペンによる蛮行・虐殺が横行した。反攻を始めた赤軍も、「ドイツ軍の捕虜になっても助からない」とわかっている上に、督戦隊によって退却を禁じられた状況で苛烈な戦闘を行い、逆襲を受けたドイツ軍も、ヒトラーの死守命令乱発によって降伏を禁じられたために、戦闘の凄惨さはさらに膨れ上がった。やがて赤軍の優位が動かなくなると、開戦当初の状況を裏返したような赤軍の報復が、ドイツ軍捕虜やドイツ国民に対して行われるようになる。
結果、独ソ戦では、ソ連側2000~3000万人、ドイツ側600~1000万人(いずれも軍民をあわせた数字)という、人類史上最大の死者数を計上する戦争となった(参考として、日中戦争から太平洋戦争を通した日本の総戦没者数は軍民合わせて310万人である)。
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