国家総動員法とは、1938年から1945年にかけて日本で施行された法律である。
概要
1938年5月5日に当時の大日本帝国において可決・施行された法律の名称。
戦争や事変に対し「国防」という目的を達成するために、必要な時に人員と物的資源を政府が自由に使用できるものにする政策であり、国内を戦時体制へ移行させるものだった。
具体的な施行内容は明記されず、それぞれを勅令に委ねるものとなっており、実質的には白紙委任状に等しいものと言えた。ちなみに国家総動員法は同盟国ドイツの「全権付与法(もしくは全権委任法)」をベースに作成されている。
経緯
対中関係が急激に悪化し続けていた1937年5月、大日本帝國陸軍は来るべき戦争に備えて国家総動員法を起案。当時はまだ戦争が起きていなかったため施行には至らなかったが、起案から約3ヶ月後の8月に生起した第二次上海事変により中国国民党軍との武力衝突が始まる。
上海から国民党軍を追い出し、首都南京を制圧し、海上封鎖で締め上げてもなお国民党軍は白旗を振らず、それどころか奥地の漢口に遷都して徹底抗戦の構えを見せる。果てしなく物資を飲み込む戦争は日本経済に悪影響を及ぼし、インフレ化の兆しまで見えてきた。支那事変勃発に伴って軍需工業動員法が発動されたがそれだけでは足りなかった。
戦争に耐えられるだけの物資を確保するべく、第一次近衛内閣は以前陸軍から起案されていた国家総動員法に着目。しかし海軍から反対を受け、内閣調査局の後身として企画庁と資源局を合併させて企画院を新設するも、国家総動員法に関する事務機関に留まり各省庁に何ら影響を及ぼさない形だけの存在だった。それでも何とか草案を第73帝国会議で提出。
しかし思いのほか反発が強く、衆議院では民政党の斎藤隆夫や政友会の牧野良三といった自由主義者と呼ばれる議員が「前例の無い広範な委任立法で、政府は猛省を必要とする」「非常時に名を借りた天皇大権干犯の法案」と厳しい非難を行ったため、1938年3月3日の国会審議中に説明役の陸軍省軍務局軍務課佐藤賢了航空中佐が「黙れ」と叫ぶ事態に。この失態で杉山陸軍大臣が遺憾の意を示し、一時は内閣総辞職になりかねない事態へ発展したが、首相が陳謝した事で辞職は免れた。強権を持つ軍部によって法案は全会一致で通過したが、社会民衆党が法案の実現を強く主張していた事も通過の要因の一つである。
そして3月24日に国家総動員法を可決、4月1日に公布を行い、5月5日に施行された。これに伴って先に発動されていた軍需工業動員法は廃止となった。
施行後
国家総動員法の施行により労働争議、経済活動、国民徴用令、生活必需物資統制令、価格等統制令、新聞紙掲載制限令など様々な制約が発令され、影響力が及ぶ項目は多岐に渡った。経済のみならず文化、娯楽、言論といった臣民生活の隅々まで統制が及び、損失が発生した時には罰則規定まであったという。また民間の企業も軍需品の生産に携わるようになった。
1941年1月には新聞紙掲載制限令が発布され、軍の機密や秘匿すべき情報は全て掲載を禁じられた。規則に反した場合その出版物は発禁処分を受けたり、原板の差し押さえを喰らった。これにより言論の自由は失われ、政府に都合が良い情報ばかりが紙面を飾るようになった。また食糧やマッチ、衣服などの生活必需品は配給制となった。
最初は部分的だったが、時が経つとともに対象品が拡大し、1941年3月に制定された生活必需品統制令によってほぼ全ての物資が配給制に。政府の統制下に置かれ、戦争遂行を優先した結果、臣民の生活は次第に困窮していく事になる。ついでに国民学校令も発令され、小学校が国民学校に改名。
1941年12月8日に大東亜戦争が勃発すると、政府の統制は更に激しくなっていった。ところが日本が戦争に敗れた事で、1946年4月1日に廃止と相成った。
学校によっては習う事もあり、知っている諸氏もいるかもしれない。またNHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」は国家総動員法下の日本が舞台であり、これで知った人もいるかもしれない。
余談・その他
- 機動戦士ガンダムに登場するジオン公国は、開戦直前の宇宙世紀0078年に国家総動員令を発布したという設定がある。元ネタは言うまでもなく国家総動員法である。ただ内容はかなり異なっていて、戦闘可能な男子全員に戦闘訓練を施すというものだった。一部資料では総動員法と記載されているが、MS IGLOOでは「令」の表記なので、そちらが公式設定と思われる。
- 近年では、中国なども日本の国家総動員法を参考にしたと思われるような戦時体制用の法律を制定しており、欧米などとの対外戦争を意識したものといわれている。詳細は当該記事にて。 → 国防動員法
関連項目
- 法律に関する記事の一覧
- 日本史
- 支那事変
- 第二次世界大戦 / 大東亜戦争 / 太平洋戦争 / アジア・太平洋戦争
- 大政翼賛会 / 近衛文麿
- 国家総力戦
- 全体主義
- 思想・表現の自由 / 言論の自由
- 国防動員法(中国の法律)
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