概要
ロッキードP2Vの後継として、1958年に開発された。機体はターボプロップ旅客機エレクトラを改造して流用している。P-3Aは1962年から就役し、装備自体はP2Vと大差なかったが、与圧装置や広いキャビンなど、居住性は大幅に改善した。A型は109機生産され、エンジンをパワーアップしたB型が145機生産された後、装備を一新したP-3Cが1968年に登場した。[1]
機体後方のMADブーム(磁気探知装置)が特徴的。また対潜装備だけではなくハープーン対艦ミサイルなど、各種対艦ミサイルも搭載可能である。
乗組員は装備や各国の事情などの違いもあるが大体8人~14人程度。
P-3は、1回の飛行で72万5000平方メートルの海域を監視することができるが、P-3がその能力を最も発揮できるのは広い海域での索敵ではなく、SOSUSによって探知された敵潜水艦の所在を突き止める場合である。SOSUSは潜水艦の位置を直径約50キロメートルの円として探知できるといわれ、場合によっては直径15キロメートル以内まで絞り込めると考えられている。哨戒機はその数百平方キロメートルの水域を捜索することになる。[2]
搭載装置等[3]
- AN/APS-115B捜索レーダー、AN/ALQ-78ESM
- AN/AQA-7DIFAR(指向性低周波分析記録)装置
- MAD(磁気探知装置 Magnetic Anomaly Detector):ASQ-81A
- IRDS(赤外線探知装置)AAS-36 ※機首下面に装備されている。普段は収納されているようだ。
以上のセンサーがP-3Cに搭載されており、センサーからのデータはAN/ASQ-114汎用コンピュータと、戦術データ入出力管制装置AN/AYA-8Bによって通信、航法、兵器システムと統合される。
潜水艦の探知[4]
MADは地磁気の変化から磁性体である潜水艦を探知するが有効距離が短い。レーダー、赤外線探知装置は潜水艦が浮上しているか、シュノーケルを出している場合にのみに探知が可能であり、ESMも潜水艦が不用意に電波を出した時にのみ有効である。したがって潜水艦の探知の主体はやはり音響センサになる。
P-3Cは後部胴体下面に52基のソノブイ投射管があり、アクティブ(HQS-31C)、パッシブ(HQS-3D等)のソノブイを投下し潜水艦を探知する。ソノブイは直径12.4cmの円筒で、パラシュートで海面に着水後海中にハイドロフォンを吊り下げる。海中雑音測定(HQS-21B)、海中温度測定(HQS-5D)のブイも海面に投下される。
ソノブイのデータはP-3Cに送られて機上で分析されるほか、データリンクで地上の対潜作戦センター(ASWOC:ASW Operation Center)にも送られる。ASWOCもリアルタイムでデータを分析してP-3Cを支援する他、ミッション後は磁気テープでP-3Cが収集したデータを受け取り、解析してデータベースに蓄積する。
その他
エンジンは4910馬力のターボプロップエンジンを4基搭載。馬力に余裕があるため、4基のうち2基が停止しても飛行できる。この能力のおかげで、飛行距離よりも長時間の滞空が必要な飛行において燃料を節約するために意図的に1基を停止して3発で飛行することが可能(目標を発見した場合は停止エンジンを再起動し、高速飛行に戻る)。機内が与圧してあるため、高度の変化による機内の気圧の変化がなく、既存機に比べ乗員の疲労度は格段に少ない。また、姿勢と高度を一定に保つオートパイロットが装備されており、バンク角度を一旦セットすれば、高度を維持しつつ旋回するという操作を機体任せにできる。[5]
自衛隊がP-3Cの前に導入していたP-2Jは全機が無事故で退役出来たが、[6]P-3Cについては1992年に硫黄島で事故を起こし1機を失っている。[7]
日本の導入[8]
1980年代、アメリカはソ連潜水艦の脅威を声高に言い立て、日本に「三海峡封鎖」と「1000海里シーレーン×2本防衛」を要請し、日本はこれに答えてP-3Cを100機購入することを表明した。
もっとも、アメリカはCAPTOR(ホーミング魚雷を内蔵した空中投下型対潜機雷)を十分持っており、いつでも単独で日本の三海峡を封鎖することができた。シーレーン防衛にしても、外洋に出ているソ連潜水艦は1隻残らず米海軍に常時追跡されていた。この一方的なゲームに、海上自衛隊は100機のP-3Cを買って加わったのだった。
P-3Cは、東芝機械(株)がノルウェー経由でソ連に輸出した物よりも制御軸数の多いNC旋盤を使って切削したスキュード・スクリューを装備する、世界で最も静かに微速潜航できる海自の潜水艦をソノブイでいとも簡単に探知することによって、その実力を証明した。このP-3Cの飛行をソ連空軍が有効に阻止できない以上、ソ連潜水艦がシーレーンで攻撃行動を取ることは、戦果と引き換えに沈没を意味するものでしかなかった。
海外での活動
1990年代以降、海外への訓練にも数多く参加しており、面白いエピソードとしてはアメリカで多国間共同演習が行われた際に某国と思われる悪戯書きがされたという話がのこされている。
2009年以降は、ソマリア沿岸海域で多発する海賊対策として、日本はジブチへ2機のP-3Cを派遣している。
実はもう「海賊の見張り」はあまり必要ではなくなりつつあるのだが、チャイナの潜水艦がはるばるとペルシャ湾や紅海まで出てきてうろついているので、その音紋をソナー・ブイで採取する活動に忙しいようだ。P-3Cのシステムは米海軍の対潜センターと直結しているので、海自のP-3Cが収集した音紋は海自の情報資産になると同時に米海軍の情報資産にもなる。[9]
特殊仕様機(海上自衛隊)[10]
- EP-3 電子戦データ収集機…5機。胴体の上下に3~5基のドームがある。
- OP-3C 画像データ収集機…5機。側方監視画像レーダー(SLAR)を装備。機体前部下面にドームがあり、尾部のMADセンサーは撤去されている。
- UP-3C 試験評価機…1機。胴体の上にバルジがあり、そこに弾道ミサイル追跡用赤外線センサーを取り付け試験を行った。
- UP-3D 電子戦訓練支援機…3機。胴体の上下に2個ずつドームがある。ECM機材や標的を曳航する装置を持っている。
関連動画
P-3Cの美しさもそうですが、潜水艦の可愛さを堪能してください。
関連静画
関連コミュニティ
関連項目・外部リンク
脚注
- *「兵器最先端2 原子力潜水艦」1985 読売新聞社 pp.97-98
- *「第8章 対戦略潜水艦作戦」オーエン・ウィルクス 世界週報 臨時増刊号 1979
- *「海氷観測・P-3C同乗記 オホーツクは波静かなり?」河津幸英 軍事研究1990年4月号
- *「対潜システム」野木恵一 世界の艦船1993年2月号
- *「潜水艦を捜せ」岡崎 拓生 1997
- *http://www.khi.co.jp/mobility/aero/aircraft/p_3c.html
- *http://aviation-safety.net/database/record.php?id=19920331-1
- *「日本の防衛力再考」兵頭二十八 銀河出版 1995 pp.72-74
- *「兵頭二十八の防衛白書 2015」兵頭二十八 草思社 2015 pp.268-269
- *世界の艦船2014年7月号増刊「海上自衛隊2014-2015」
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