賄賂(わいろ 英 Bribe)とは、汚職の代名詞である。俺もほしい
概要
(ゆっくりと中身をあらため)「くくく、越後屋、お主も悪よのう……」
賄賂とは、このように
贈ることを贈賄、受け取ることを収賄と区別する。賄賂のいずれの文字にもまいなう・まいないと言う意味が含まれており、それぞれの字だけで賄賂を意味することもある。
いうまでもなく、我が国においては刑法197条及び198条に基づき罰せられる立派な犯罪である。ちなみに、贈収賄はあくまで公務員を対象にした刑罰なので、大企業の重役や、評論家などにいくらばらまいたり、受け取っても刑事罰に処されることはない(株式会社の取締役や監査役、執行役ならば、場合によっては特別背任罪に問われる可能性はある)。刑法上は一般的に言われる買収よりも狭い意味でとられることに注意が必要である。
歴史・近代
賄賂ははるか昔から行われている汚職の代名詞ともいうべき行為である。古代ローマにおいて元老院議員や官吏としての地位や官職を売る(売官)記録があったり、中世ヨーロッパにおいても困窮した貴族がその地位を売ったり、中国でも宦官や高級官僚が場合によっては皇帝よりも多く書画骨董の贅沢品を賄賂によって得ていたりする事例が残っている。
そして、我が国においても国司や公家などが出世のために賄賂を贈る風習が長く行われており、行政が機能不全に陥ることがしばしばあった。江戸時代ならば柳沢吉保や田沼意次などが賄賂で財を成した人物としてよく知られている。
しかし近代に入って行政機構や官僚制度が成熟してくると、多くの国で賄賂は違法であると明記され、厳しく罰せられるようになった。とはいえ、海外旅行に出かけると、犯罪に遭遇しても警察官が賄賂を払わないとろくに動かないという話がしばしば聞かれるように、撲滅への道は困難であると言わざるをえない。
別に金には困ってない
政治家など、賄賂を貰わなければ生きていけないほど生活に困っているか…といえばそうでもなく
結論を言えば、庶民の心情に寄り添い
庶民のように慎ましく生きていればお金の心配をする必要はない。現実はお察しください。
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ただし、政治家にはその地域や国を代表する顔としての側面があるので相応の振る舞いと、それに対する待遇を受ける権利があるからそのような待遇を設定されているという側面も忘れてはならない。また、政策学の知見として給与と汚職(賄賂)には負の相関があり、高い給与がもらえてれば汚職も低く済むというのが判明している(とはいえあくまで一定の金額までなので、バカ高い給与を与えればいいというものでもない)。
少し似ているもの
特定の誰かを優遇するのが目的であれば「賄賂」となり違法であるが
法律や制度を作るのが目的なら「献金」となり合法である。
後者については レントシーキング の項目を参照していただきたい。
結果的に前者の賄賂と同じように、法律や規制を思い通り(合法)に変えてしまう事例も多い。
政治家本人がトップを務める政治団体に対して献金すれば、合法的に賄賂も可能である。
退職後に雇い入れ、何もせず高額月収・退職金を約束するものもある。(→天下り)
賄賂罪
- 第197条
- 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
- 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処する。
第198条
第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
刑法より
概要でも記述した通り、我が国の刑法では第197条及び第198条で賄賂罪として処罰されることになっている。197条は収賄、198条は贈賄について定められている。ちなみに次の199条は殺人罪。
賄賂罪は身分犯と呼ばれる、条文のとおり原則として公務員を対象にした法規である。何故ならば、賄賂罪の保護すべき法的利益は「国民の公務員の職務執行に対する信頼」(判例)や、職務行為の買収不可能性(学説)とされており、あくまで国家権力の行使や執行に焦点が当てられているからである。
賄賂が横行する弊害として、概要にあげた、お金を払わなければ警察官が動いてくれないというのが例としてあげられるが、土木工事においても賄賂を贈る業者が優先されて手抜き工事や癒着の温床になったり、行政に係る様々な許認可が金品によって左右されるようになれば、何のための制度かわからなくなってしまう。また、そのような不正が横行すれば、国民は行政、ひいては国を信頼しなくなり、行政そのものが機能しなくなるおそれすら出てくる。
そのため、あくまで公務員による贈収賄を刑事罰として規定されている。ちなみに、公務員と条文には書かれているが、国公立大学の教職員や、JTや日本郵便などの特別法によってみなし公務員とされている場合も贈収賄の処罰対象となることもある。
また、賄賂の対象物として金銭が一番スタンダードでわかりやすい例ではあるが、「有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たす一切の利益」(大審院明治43年12月19日判決)と定義されているため、金銭は当たり前として、高価な宝石や家具といった有形のもの、ゴルフ会員権や(近く上場予定で、確実に騰がると予想される)非上場株の差分利益といった無形のものも該当する。
贈収賄のうち、贈賄はただ贈ることのみを構成要件としているため、一つの類型だが、収賄については様々な形があるため、6つの類型に分かれてそれぞれ法に定められている。それぞれ科される刑罰も違ってくるため重要なポイントである。
単純収賄罪(197条1項)
一番スタンダードな収賄の形。賄賂を受ける約束や要求をすれば成立する。
受託収賄罪(197条2項)
公務員になろうとする者(公務員採用試験受験者・選挙の立候補者など)が、なった後にある行為をすることを見返りとして金銭を受け取った場合に成立する。
成立する為には、その者が公務員になっている必要があるため、採用されなかったり、落選した場合は成立しない。
第三者供賄罪(197条の2)
賄賂を第三者に受け取らせることで成立する。「公務員じゃないやつに受け取らせればいいだろ」という脱法行為を取り締まるために導入された。
この罪の成立について、受け取った第三者が賄賂であると認識している必要はないとされている。
加重収賄罪(197条の3の2項)
これら3つのいずれか又は全てを犯した結果、依頼(条文上は請託)を受けた不正の内容に応じて、実行に移したり、すべき職務をしなかった場合に、文字通り加重して科される刑罰。わかりにくいが、○○という行為をしろ・○○という行為をするなという不正いずれにしても罰するという趣旨である。
事後収賄罪(197条の3の3項)
公務員であった者が、在職中の行為について不正を行う依頼を受けて、退職後に見返りとして賄賂を要求したり約束した場合に成立する。
ミソなのは退職後に行った場合に成立することであり、在職中に賄賂を受け取って、退職後に贈収賄事件が発覚した場合は単純収賄罪が適用されるということである。行為の時点がポイント。
あっせん収賄罪(197条の4)
さて、ここまでの罪状は1941年に成立したものだが、このあっせん収賄罪はここまでの罪状では裁けない類型の贈収賄事件が発生したことを受けて成立した。
戦後まもない1948年に食糧増産計画の資金的な主柱として設置された、復興金融金庫からの融資を得るため、大手化学工業会社の昭和電工が社長自ら、口を利いてもらうことを目論んだ。そして、国務大臣の栗栖赳夫や、のちに総理大臣となる、大蔵省主計局長の福田赳夫などに多額の金銭を贈賄するという大事件が発生した。これを昭和電工事件という。
当時はこのように公務員が他の公務員に対して口を利いてもらうことを見返りとして、金銭を贈ることは収賄罪として設定されていなかった。そのため、復興金融金庫を動かせる立場にいた栗栖と、賄賂を送った社長のみが有罪判決となり、福田赳夫をはじめとして他の収賄した人物の多くが無罪となった。
このような事態を防ぐため、1958年に当時の法相・唐沢俊樹が先陣にたってあっせん収賄罪が収賄罪に付加され、このようなあっせんも処罰の対象となった。とはいえ、このあっせんは不正といえる行為を示唆する必要があるため、処罰の範囲は限定されている。
慣用表現としての賄賂
賄賂という言葉を直接使わない場合も多くあり、言い換えの例としては以下のものがある
- 袖の下 和服の袖(袂)は、通気性や昔は布が高価だったことから権威の象徴として、幅が広くつくられており、その部分に金品を潜り込ませることから、袖の下が賄賂を意味する言葉になった。
- 鼻薬(をかがせる) 鼻を垂らしてぐずる子どもをなだめる為にあげるお菓子を鼻薬と呼んだから転じて。少額の賄賂の場合に用いることが多い
- 山吹色(黄金色)のお菓子 主に時代劇で出てくる表現。小判には金が使われていることから転じて用いられる。
- リベート 元は礼金や手数料の意味合いが強く、必ずしも賄賂の文脈で出てくる言葉ではないが、契約外の金品を相手方に渡した場合に用いられる
- キックバック 我が国では通信回線やリフォーム時に帰ってくるお金として用いられることが多く、合法な金銭として使われやすいが、英語圏では「Receive a kickback」で賄賂を意味する。
関連項目
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