ファニーサイドとは (ファニーサイドとは) [単語記事]

ファニーサイド(Funny Cide)とは、2000年生まれのアメリカ産の競走馬。栗毛の騸馬。

騸馬として、またニューヨーク州産馬として初めて米国二冠を達成し、アメリカンドリームを体現した。
名前は両親の名前から連想して付けられた。

生い立ち

父 Distorted Humor、母 Belle's Good Cide、母父 Slewac ideという血統。

父は重賞4勝を挙げた*フォーティナイナー産駒で、ファニーサイドが初年度産駒であり、初年度の種付け料は1万2000 ドルだった。母は2勝を挙げた程度で近親に活躍馬はいない。母父は未勝利馬だがGＩ馬を複数出している。何というか、血統的には強調材料は無い。因みに曾祖母の姉の玄孫(ほぼ赤の他馬)には日本で種牡馬入りしていた*エンパイアメーカーがいる。

出生はニューヨーク州の夫婦が所有する個人牧場。母馬の所有者で、配合したのはケンタッキー州のウインスターファームであり、生産者はウインスターファーム名義である。ニューヨーク州は競馬自体は非常に盛んだが、馬産はそれほどではない。

1歳8月にサラトガで行われたセリにおいて2万2000 ドルでエヴァラードという人に落札された。この金額は平均の半分ほどの安価だったが、実は先天的に「停留精巣(Ridgling)」を患っていた。この停留精巣は陰嚢の中に精巣が降りてこない症状で、放っておくと運動時に痛みを発し、場合によっては悪性腫瘍や不妊の原因にもなる。ちなみにエーピーインディもこの症状を持っており、彼の場合埋まっていた片方を摘出した。

本馬の場合は去勢が決断された。この時点で彼の牡としての未来は閉ざされたが、そうでもしなければ廃用となっていた可能性も大いにある。1歳時はフロリダで馴致が行われた。

2歳時にバークレー・タッグ調教師が本馬を見初め、その薦めを受け、一般市民からなる共同馬主グループ、サッカトガステーブルが本馬を7万5000ドルで購入。馬主と言えば大富豪とか実業家とかどっかの王族とかがメインの中、明らかに一線を画す存在ではあった。ケンタッキーダービー当日に高級車で来場する他馬の関係者に混ざってスクールバスで来場したりしていたらしい。

競走生活

2～3歳時

デビューは2002年 9月のベルモントパーク競馬場で、ここを約15馬身つけて圧勝すると、ステークス競走を2連勝。GＩとか重賞には出てないものの、2歳シーズンは3戦全勝で終えた。特に2戦目では後続を9馬身突き放し、ベイヤー指数(米国で用いられるスピード指数)では2歳馬としての史上最高値である103が与えられた。

陣営はケンタッキーダービーに狙いを定め、初戦のGⅢは5着、続くGⅡは3位入線2着(2位入線馬が薬物で失格となり繰り上がり)だったものの、出世レースであるウッドメモリアルSは*エンパイアメーカーから半馬身差の2着に入り、復調をアピール。

ケンタッキーダービー本番では7番人気。1番人気は前走を勝った*エンパイアメーカーである。
スタートが切られると、本馬は3～4番手につけ、先頭がバテ始めると直線を2番手に迎え押し切り体勢に入る。外から*エンパイアメーカーが追い込みをかけてきたものの、1馬身半差つけて快勝する。2分01秒19はケンタッキーダービーの中でも十指に入る好タイムであった。
騸馬のケンタッキーダービー馬は74年ぶり7頭目。ニューヨーク州産のケンタッキーダービー馬は初めてで、所有者が一般市民の団体という親しみやすさもあり本馬は爆発的人気を博した。
レース後、鞍上のサントス騎手が馬に刺激を与えて速く走らせる装置を使用した、という嫌疑が報じられたが、結果は潔白だった。

*エンパイアメーカー等有力馬が回避したプリークネスステークスでは1番人気に推される。何かズルしたとか言われている中、そんなの関係ねぇ！　と言わんばかりに圧倒的なパフォーマンスを披露。道中先団、４角先頭、大差ぶっちぎりで圧勝。2着との着差9馬身3/4は9.5ハロンで開催された時に限れば当時のレース史上最大記録である。
サントス騎手は勝利後に手のひらを大きく開き、「何も持ってませんよ～」とアピール。ニューヨーク州産馬による本競走勝利は107年ぶり3頭目で、またニューヨーク州産馬、騸馬による二冠達成は史上初である。

勿論全米はアファームド以来となる三冠馬の誕生に期待をかけた。ベルモントステークスでは1番人気に支持され、プリークネスステークスをスキップして万全の体勢で乗り込んできた*エンパイアメーカーとの一騎討ちというのが前評判であった。
不良馬場で行われたレースでは、ファニーサイドはハナを切って先頭に立つ。しかし直線に入るまでに勢いを失い、そのまま*エンパイアメーカーともう1頭に突き放され、5馬身離された3着に敗退。アファームド以来となる三冠達成はベルモントパークの泥濘に沈んだ。

少し休養を挟んでハスケル招待ハンデに挑むが先頭に9馬身離された3着に、熱発などによる休養を挟んだBCクラシックでは見せ場無くブービーの9着に敗退し、3歳シーズンを終えた。
エクリプス賞最優秀3歳牡馬には本馬が選出され、また全米サラブレッド協会がその年最も印象に残った競馬シーンを表彰する"Moment of the Year"に選出された。まさしく全米のアイドルだった。

古馬以降

翌年も現役続行。というより種牡馬入り出来ない騸馬なので長く走り続ける他ないのである。
2004年初戦のオプショナルクレーミング競走を勝利し、以後GＩや重賞で入着を繰り返す。4月にGⅢを勝利し、10月に行われた大レース、ジョッキークラブ金杯にて直線の叩き合いを制し、GＩ3勝目をマーク。しかし続くBCクラシックはゴーストザッパーの10着に敗退。

翌年以降も現役を続けたが、正直言ってしまうと書くべき内容はない。2006年にドミニオンデイS(GⅢ)に優勝したが､GＩなどの大レースとは縁が無くなり、7歳時のワズワースハンデ(格付け無しの一般競走)で1年ぶりの優勝を挙げ、ここを最後に競馬場を去った。
一応、6歳で重賞を勝ったケンタッキーダービー馬はグレード制施行後では本馬が唯一である。

通算成績は38戦11勝。GＩ競走はケンタッキーダービー、プリークネスステークス、ジョッキークラブ金杯の3勝。獲得賞金は353万ドルに達し、サッカトガステーブルが本馬を購買した金額のおよそ45倍以上にあたる。

引退後、ニューヨーク州競馬協会が引退式を挙げた。しばらくはタッグ師の下で繋養されていたが、2008年 12月にケンタッキーホースパークへと寄贈され、2023年 7月17日に疝痛の合併症によって死亡するまで同地で余生を送った。

父ディストーテッドヒューマーは本馬の活躍以後人気が急上昇し、BCクラシックを制したドロッセルマイヤーなどを出し2007年のリーディングサイアーとなる。全盛期には種付け料が30万ドルに達した。しかしながら最良の産駒と言えば本馬、ファニーサイドであり、やはり停留精巣によって去勢を余儀なくされたのが残念である。

ニューヨーク州という非主流な産まれ、強調材料の無い血統、先天性の疾患により去勢を余儀なくされ、市民グループによる所有という逆境まみれな生い立ちだが、彼は夢を確かに掴み取った。チャンスは誰にでも平等に与えられるものである、というアメリカンドリームの定義に則れば、彼は正にアメリカンドリームの体現者では無いだろうか。無論、タッグ師やサッカトガステーブルの尽力もあればこそである。

血統表

Distorted Humor 1993 栗毛	*フォーティナイナー Forty Niner 1985 栗毛	Mr. Prospector	Raise a Native
			Gold Dig ger
		File	Tom Rolfe
			Continue
	Danzig's Bea uty 1987 鹿毛	Danzig	Northern Dancer
			Pas de Nom
		Sweet est Chant	Mr. Leader
			Gay Sonnet
Belle's Good Cide 1993 栗毛 FNo.6-d	Slewac ide 1980 鹿毛	Seattle Slew	Bold Reasoning
			My Charmer
		Eva sive	Buckpasser
			Summer Scandal
	Belle of Killarney 1981 栗毛	Little Cur rent	Sea-Bird
			Lui ana
		Cherished Moment	Graustark
			Pumpkin Patch