岡野雅行とは (オカノマサユキとは) [単語記事]

岡野雅行とは、

野人と呼ばれた元サッカー選手。本稿で解説。
岡野工業代表社員である工業技術者。

岡野雅行（おかのまさゆき、1972年7月25日 - ）とは、日本の元プロサッカー選手である。
J3リーグのガイナーレ鳥取代表取締役GM。元サッカー日本代表。

現役時代のポジションはFW、MF。175cm71kg。利き足は右足。

概要

神奈川県横浜市港北区出身。「野人」のニックネームで知られる快速FWで、1998 FIFAワールドカップアジア第三代表決定戦のイラン戦で日本のFIFAワールドカップ初出場（ジョホールバルの歓喜）をもたらしたVゴールを決めた選手として歴史に名を残している。

プロサッカー選手としての技術はそれほど高くはないが、100m10秒台という圧巻のスピードの持ち主であり、トレードマークの長髪をなびかせて、ピッチを爆走する姿からサポーターからは絶大な人気があり、現役当時は彼がボールを追いかけるだけでスタジアムに大きな歓声が響いていた。また、「一人スルーパス」などの伝説的なプレーも披露しており、傑出した快速だけで登り詰めた男と言っても過言ではない。

高校時代にサッカー部がないヤンキー学校に入学し、一からサッカー部を立ち上げたという逸話の持ち主で、立正大学淞南高校と校名を変えた現在は選手権の常連校となっている。この岡野の高校時代のエピソードは2018年にドラマ化されている。

2013年に現役を引退した後はガイナーレ鳥取のゼネラルマネージャーに就任し、2017年には代表取締役GMに就任。

経歴

生い立ち

一人っ子として生まれ、幼少期は女の子とばかり遊んでいたことから、小学1年生のときに「男の子の輪の中に入れるように」と無理やりサッカー部に入らされたのがサッカーと出会ったきっかけ。最初は泣いて拒否していたが、徐々にサッカーの魅力に引き込まれるようになり、3年生の頃には上級生の試合に出場するなど頭角を現すようになった。

中学校は慶應義塾中等部からの推薦を断り、多くの友達が行く地元の日吉台西中学校に進学。しかし、当時はまだJリーグがない時代で、真剣にサッカーに取り組める環境ではなかった。中学卒業時、実績を残せていなかったためサッカー推薦の話はなく、勉強が苦手だったこともあって行ける高校はヤンキー校のみだった。そこで、三浦知良に憧れてブラジルへのサッカー留学を希望したが、両親に猛反対されたことで断念。親戚から「全寮制でサッカーに全力で打ち込める」と薦められ、島根県松江市の松江日本大学高等学校（現：立正大学淞南高等学校）へ進学する。

高校時代

サッカー部に入部する気満々で島根へとやって来た岡野だったが、入学後、サッカー部がないことに気づく。しかもそこは全国の不良を更生させるためのヤンキー高校であり、岡野は後に「リアル男塾」と語っている。そこで諦めなかった岡野は、先輩と二人でサッカー部を立ち上げ、まさにゼロからスタートすることとなった。部員のほとんどがサッカー経験の無い素人であり、監督もいなかったため、1年生ながらキャプテン兼監督を務めることになる。

島根県内でも悪名高い高校だったことから練習試合もやっと受けてもらえるような状態で、しかもその試合で部員が乱闘騒ぎを起こしてしまう。岡野は「こんなのサッカーじゃない。学校を辞める」と号泣。これで反省した先輩たちが寮で岡野に謝罪し、この出来事をきっかけに部員たちは真面目にサッカーに取り組むようになり、先輩たちは練習以外の時間も自主練をするなどして、チームは成長するようになる。

部員たちは負けず嫌いで根性だけはあるため、岡野が作った厳しい練習メニューにも誰もリタイヤせず、ついには島根県大会で3位に入るという快挙を成し遂げる。

大学時代

波乱万丈だった高校を卒業し、日本大学へ進学。しかし、スポーツ推薦ではあったがサッカー推薦ではなかったため、なんと今度はサッカー部に入れないという事態に直面する。そんな中、部員二名募集のポスターを見てトライアウトに参加。そこは有名校出身者や全国大会経験者が多くひしめていたが、彼らを蹴落として入部テストに合格。晴れてサッカー部に入部する。

ところが、入部して言い渡されたのは洗濯係だった。入部テストはあくまで雑用専門部員としての部員募集であった。洗濯以外の雑用・寮の生活係を一手に引き受け、試合では選手登録さえされない日々が長らく続く。

だが、そんなときに転機が訪れる。それまでの岡野はディエゴ・マラドーナに憧れた中盤のパサーだったが、大学1年の体育で自らが100m10秒台で走れる俊足の持ち主であることに気付き、俊足を生かしたプレースタイルへと変貌を遂げる。スピードスター「野人・岡野」はこうして誕生した。この岡野の才能に気付いた長島裕明コーチによって1991年の天皇杯予選のメンバーに抜擢され、途中出場ながら6ゴールを決める活躍を見せたことでレギュラーの座を獲得。

Jリーグが開幕した1993年にはJリーグ6クラブからオファーが来るほどの選手に成長。中でも「大学を辞めてでもうちにきてくれ」という一番熱心なラブコールを送って来た浦和レッズ入りを決意し、日大を3年で中退する。

プロ入り後

1994年にJリーグの浦和レッズに正式に加入。プロ1年目から出場機会を得ると、3月26日の1stステージ第5節名古屋グランパスエイト戦でボレーシュートを決め、Jリーグ初ゴールを記録。続く4月2日のガンバ大阪戦で初スタメンを飾ると、トラップミスがそのままゴールになるという珍ゴールが決まり、チームの勝利に貢献。このゴールで一躍岡野の知名度は飛躍的に上がり、Jリーグのお荷物と揶揄された当時の浦和にとって希望のような存在となる。

1995年は主にスーパーサブとしての起用が多くなるが、岡野が出場のスタンバイをするだけで大きな歓声が沸くようになり、ピッチを走る岡野の姿は駒場スタジアムの名物と化していた。長髪を振り乱し、疾走する姿から「野人」というニックネームが定着していく。伝説の「一人スルーパス」や速すぎて止まれずに副審に激突した、倒されてファウルを主張したらゴールが決まったことに気付き慌ててゴールパフォーマンスを始めたなどの印象に残るシーンもこのシーズンだった。ホルガー・オジェック監督の掲げる堅守からのカウンタースタイルに嵌り、浦和の3位躍進に貢献する。

1996年は福田正博との2トップでレギュラーに定着。技術もだいぶ向上し、切り返しからのゴールやらしくないミドルシュートを決める場面も見られるようになる。この頃はゴールを決めると、ガブリエル・バティストゥータのポーズを真似するようになっていた。この年はキャリア最多となるシーズン11ゴールを記録。JリーグアウォーズではJリーグベストイレブンと野人らしからぬJリーグフェアプレー賞を受賞する。

1998年は前年のジョホールバルの歓喜によって国民的ヒーローとなった中、8月8日の1stステージ第17節ヴィッセル神戸戦ではプロになって初となるハットトリックを達成する。1999年にはオランダの名門アヤックス・アムステルダムの練習に参加。だが、チームは予想外の低迷によって降格の危機に立たされることになる。2ndステージ第14節ヴェルディ川崎戦に途中出場するが、この試合で靭帯断裂の大怪我を負ってしまう。だが、それでもピッチに立ち続け、PKを獲得。だが、この岡野の奮闘も空しく、最終節で浦和はJ2リーグ降格の憂き目に逢ってしまう。

移籍の噂も出た2000年だったが、J2の浦和に残留。怪我に苦しみながらもチームの1年でのJ1復帰に貢献する。ところが、2001年に就任したチッタ監督からの信頼を得られず、第5節以降はベンチ外が続くなど冷遇を受ける。

2001年9月に出場機会を求めてヴィッセル神戸に期限付き移籍。2002年からは三浦知良、城彰二、播戸竜二とFWが揃っていたこともあって右MFや右WGにコンバートされる。スピードと運動量を活かして右サイドを上下移動し、サイドからクロスを入れるスタイルにシフト。2003年には完全移籍に移行する。

2004年、かつてのチームメイトだったギド・ブッフバルト監督の要望もあって浦和レッズに復帰。神戸時代の経験を活かして右MFを主戦場としてプレーし、常時スタメンというわけではなかったが、貴重なベテランとしてチームを支える。2007年元旦の天皇杯決勝では途中出場から永井雄一郎のゴールをアシストし、クラブのタイトル獲得に貢献する。2008年10月26日のアルビレックス新潟戦では、史上34人目となるJ1通算300試合出場を達成。しかし、若返りを図るクラブ側の方針もあって年々出場機会が減ってしまい、この年を最後に退団する。

2009年に香港1部リーグの天水圍飛馬に移籍。デビュー戦で初ゴールを決めるが、半年間で9試合1ゴールという成績に終わり、シーズン終了後の6月をもって退団。

37歳となった2009年にJFLのガイナーレ鳥取に移籍。クラブの顔ともいえる存在となり、2010年にはJ2リーグ昇格を決める。鳥取では、選手としてだけではなく、若い選手に豊富な経験を伝える役割やJリーグに加盟したばかりのクラブに自身の経験に基づくノウハウを伝えるなど運営面にも協力。2012年には岡野のニックネームから名前が付いた「YAJINスタジアム」が感性。

2013年シーズンを最後に41歳で現役を引退。

日本代表

1995年1月、加茂周監督の初陣となったキング・ファハド・カップで初めて日本代表に招集される。このときは出場機会を得られなかったが、練習中に岡野のスピードを目の当たりにしたラモス瑠偉は「やっぱあいつ速いよ」と感嘆している。9月20日、パラグアイとの親善試合で代表デビューを飾る。その後、代表に定着するようになる。

1996年8月25日のウルグアイ戦で憧れの三浦知良に代わって途中出場すると、後半39分に代表初ゴールを決める。この年の10月に開催されたAFCアジアカップ1996のメンバーにも入り、相手の運動量が落ちた後半にスピードでかき回す役割として重宝され、全試合途中出場する。

1997年の1998 FIFAワールドカップアジア最終予選ではずっとメンバーに入っていたものの出場機会は訪れず。加茂監督が更迭され、岡田武史が監督に就任してからも状況に変わりは無かった。しかし、大一番となったアジア第三代表決定戦のイラン戦、2-2で迎えた延長戦から出場。最終予選初出場となった岡野は、岡田監督の狙い通り疲れの見えるイランの守備陣の裏のスペースに何度も抜け出し、もはや代表の王様となった中田英寿からのパスに反応して決定機を迎える。だが、堅さのあった岡野は絶好のチャンスをことごとく逃してしまう。だが、そのときはやってくる

実況「こぼれている～～～～」
解説「やったあああああああ」
実況「岡野おおおお、最後は岡野おおおおおお」

延長後半13分、中田のミドルシュートをGKが弾いたこぼれ球に反応し、値千金のゴールデンゴールを決め、日本サッカー界悲願のワールドカップ初出場をもたらす。
ジョホールバルの歓喜と呼ばれる歴史的ゴールを決めたことで岡野は一躍時の人となり、国民的ヒーローとして祭りあげられる。翌年、所属する浦和レッズの親会社である三菱自動車よりパジェロエボリューションが贈呈される。

1998年6月、フランスで開催された1998 FIFAワールドカップ本大会のメンバーにも選出される。グループリーグ第2戦のクロアチア戦に後半16分から途中出場している。

ワールドカップ後の1999年6月、フィリップ・トルシエ監督からコパ・アメリカ1999のメンバーに選出される。第3戦のボリビア戦にスタメンで出場したが、これが最後の代表での出場となった。

個人成績

シーズン	クラブ	リーグ	試合	得点
1994	浦和レッズ	Jリーグ	35	3
1995	浦和レッズ	Jリーグ	44	5
1996	浦和レッズ	Jリーグ	30	11
1997	浦和レッズ	Jリーグ	23	4
1998	浦和レッズ	Jリーグ	34	7
1999	浦和レッズ	J1リーグ	11	0
2000	浦和レッズ	J2リーグ	26	6
2001	浦和レッズ	J1リーグ	8	0
2001	ヴィッセル神戸(loan)	J1リーグ	11	3
2002	ヴィッセル神戸(loan)	J1リーグ	24	1
2003	ヴィッセル神戸	J1リーグ	24	1
2004	浦和レッズ	J1リーグ	15	1
2005	浦和レッズ	J1リーグ	20	1
2006	浦和レッズ	J1リーグ	8	0
2007	浦和レッズ	J1リーグ	11	0
2008	浦和レッズ	J1リーグ	4	0
2008-09	天水圍飛馬	香港1部	9	1
2009	ガイナーレ鳥取	JFL	7	1
2010	ガイナーレ鳥取	JFL	16	0
2011	ガイナーレ鳥取	J2リーグ	13	0
2012	ガイナーレ鳥取	J2リーグ	20	0
2013	ガイナーレ鳥取	J2リーグ	10	0

個人タイトル

Jリーグベストイレブン：1回（1996年）
Jリーグフェアプレー個人賞：1回（1996年）
Jリーグ功労選手賞（2014年）

現役引退後

2013年に現役引退を発表するのと同時にガイナーレ鳥取のゼネラルマネジャーに就任することが発表される。現役の頃から推し進めていた「野人プロジェクト」を継続。

2014年12月のJリーグアウォーズにおいてJリーグ功労選手賞を受賞。

2017年よりガイナーレ鳥取の代表取締役GMに就任。名実ともにクラブの顔となる。
若手の教育をおこないつつ、地元企業へのあいさつ回りも精力的におこない、現役時代の知名度を活かしてクラブの発展のために奔走。パソコンは使えないらしいが、持ち前の明るさとガッツで日々奮闘している。

野人伝説

現役時代のトレードマークだった長髪は元アルゼンチン代表のクラウディオ・カニーヒアを意識したものである。ただし、あっちは貴公子だが、こっちは野人。
体育の授業で100m走の記録を計っている時に、陸上部の人に「一緒に走って」と言われました。陸上スパイクを持っていなかったのでバスケットシューズで走り、記録は100m10秒７。これによって自らの俊足を知り、MFからFWへのコンバートとプレースタイルの変貌に繋がる。当時他の大学の学生だった武井壮も、グラウンドを借りて練習に来ていたため、偶然その姿を見ていたらしい。
犬に追いかけられたとき、走って逃げ切ったことがある。
Jリーグの試合中、自分で出したスルーパスに自分で追いついた。
大学時代、居酒屋でバイトしていたが、天皇杯関東大会の対筑波大学戦では「試合があるのを忘れて朝まで飲んでいた」。にも関わらず、大岩剛、望月重良、藤田俊哉を擁した強豪相手に五人抜きのゴールを含む2得点を挙げて、勝利している。
中東の国に遠征した際、現地の政情によりホテルの廊下に銃を持った軍人が立っていた。なぜか「負けたくない」と思った岡野は、裸で廊下をダッシュした。そんな姿に、思わず軍人も笑っていたという。
腕を大きく振り回しながら走る独特の走法は、「腕を相手に引っ掛けることで前進している」ためサッカー仕様に工夫したもの。
1997年に蝶野正洋率いるプロレスのヒールユニット「nWoジャパン」のサポートメンバーになっている。
試合中、キーパーと交錯した際に肺に穴が開くという重傷を負い、医者から半年はサッカーができないと診断されるが、翌日にレントゲンを取るとなんと穴が治っているという医学の常識を覆す回復を見せている。
高校時代のヤンキー高校にサッカー部を作ったエピソードが2018年に『激アツ!! ヤンキーサッカー部』のタイトルでドラマ化される。
2021年にプロレス団体DDTのアイアンマンヘビーメタル級王座（第1515代）を監督している。

ジョホールバルの歓喜関連のエピソード

1998 FIFAワールドカップアジア大会最終予選でなかなか出場機会が与えられず、不満を募らせて監督の岡田武史に直談判したところ、「おまえは秘密兵器だから」と言われて納得してしまった。

最終予選が進むにつれてプレッシャーの大きさを痛感し、だんだん出場したくないと思うようになった。

イラン戦の延長戦で予選初出場をした際、中田英寿から声をかけられたが、緊張のあまり覚えていない。

イラン戦で再三に渡って決定機を外したとき、「これは日本に帰れない」と考え、頭が真っ白になっていた。ふとベンチを見ると、岡田監督が「殺してやる」と叫んでガチ切れしていた。

このときスタンドで観戦していた小宮悦子は、岡野が決定機を外したとき「何やってんだ、バカ」と叫んだところが映像に映されている。また、当時高校生だった高原直泰はテレビで観戦し、「岡野、何やってんだ！」と怒っていた。

岡野の母親は、ジョホールバルのスタンドに駈け付け、頭に「野人」と書いたハチマキを付けていた。

ゴールデンゴールを決めた瞬間、歓喜でベンチに走る岡野だったが、なぜか岡田監督がその岡野よりも速く走っていた。

岡野雅行単語

概要

経歴

生い立ち

高校時代