概要
『スカーフェイス(原題:SCARFACE)』は1983年に公開されたアメリカ映画。
底辺層のチンピラが麻薬密売で成り上がり、しかし身の程を越えた栄華に押し潰され破裂していく無情をバイオレンスに描く、クライム・サスペンス映画である。
公開当初の評価は芳しくなかったが、映画全体の強烈なビジュアルに加え、主人公トニーの強欲かつ無軌道な生きざまが、彼と同じような鬱屈を抱えて生きるマイノリティ層にピンポイントで受け、いつしかマフィア・犯罪映画のカルト的名作として再評価されていった。その影響を受けた作品は枚挙に暇がない。
その他の「スカーフェイス」については該当記事を参照のこと。
あらすじ
時は1980年。キューバから反カストロ主義者として追放され、フロリダ州マイアミへやってきた犯罪者トニー・モンタナ。彼は弟分のマニーと共に、マフィアのボス・フランクから、暗殺やコカインの密売を請け負うようになる。
常に己の本心のみを話し、上昇志向の強いトニーはフランクに気に入られ、組織内で存在感を示すようになっていく。そんなトニーは同じくマイアミに渡ってきた妹のジーナの身を案じつつ、フランクの情婦・エルヴィラを狙っていた。
やがてトニーはフランクへの不満を隠さなくなり、独断でボリビアのコカイン王と取引したことで関係は決裂する。マニーを始めとする手下を抱き込んだトニーは反旗を翻し、組織とエルヴィラをその手に収める。夜空を飛ぶ飛行船の電光広告に流れる "The World is Yours(世界はあなたのもの)" の文字を見上げ、人生の絶頂に達した感慨にふけるトニー。
作風
| スカーフェイス | |
| 基本情報 | |
|---|---|
| 監督 | ブライアン・デ・パルマ |
| 脚本 | オリバー・ストーン |
| 音楽 | ジョルジオ・モロダー |
| 製作 | マーティン・ブレグマン |
| 配給 | ユニバーサル・ピクチャーズ |
| 公開日 | 1983年12月9日(米) 1984年4月28日(日) |
| 上映時間 | 170分 |
| 映画テンプレート | |
1934年に公開されたギャング映画の名作『暗黒街の顔役(原題:Scarface)』のリメイク作品。密造酒を巡るシカゴ・マフィアの暗闘を描いた原作から大筋の変更はないが、本作では当時の時事問題であったマリエル難民事件によって流入したキューバ系犯罪者を主人公に据え、主人公の妹の立ち回り方と、クライマックスに至る過程も変更されている。ちなみに脚本家の名前でピンと来た人はそれなりの映画通。後にアカデミー作品賞作品『プラトーン』を監督するオリバー・ストーンその人である。
……が、この新しい主人公トニー・モンタナの強烈な個性(穏当な表現)が生み出す下品かつ無軌道かつバイオレンスな展開が炸裂しまくった本作は、いわゆる「糞リメイク」として評論家や映画ファンからボコボコに叩かれることになった。原作が約90分なのに2倍近い170分に伸びたことも興行的にはあんまりよくなかった。
1980年公開の『殺しのドレス』におけるセックス・バイオレンス描写で悪名を高めたブライアン・デ・パルマ監督は、83年のゴールデンラズベリー賞で最低監督賞にノミネートされてしまう(受賞は逃した)。これまで様々な撮影技法を駆使し、様々な人々を写してきた彼の作品としては、1人のアウトローに密着した本作は逆に異質であり、監督の固定ファンからも賛否は分かれていた。デ・パルマ監督の復活は4年後の『アンタッチャブル』まで持ち越しとなる。
しかし、ストーリー自体は長尺を感じさせずにテンポよく進み、なおかつトニーの壮絶な生き様を容赦なく描き切っており、駄作とは程遠い(当時コカイン中毒だったストーンの筆と考えると妙な感慨がある)。主演のアル・パチーノを始めとする出演者たちの名演も光っており(ミシェル・ファイファーのロボットダンスは…まぁ…)、特にスランプに陥っていたパチーノにとっては久々の当たり役として高く評価されることになった。長回しや独特のアングル撮影を多用するデ・パルマ節も健在であり、一人のチンピラの人生を克明に描き出すことに成功している。更にイタリアの雄、ジョルジオ・モロダーが手掛けた数々のシンセサイザー楽曲が、80年代特有の高揚感と何とも言えない退廃感を演出する。
こうした「悪の立身出世と破滅」をこれ以上なく描き出した作風が、トニーと同じような底辺層や、あるいはそのような生き方に憧れるアナーキー層(特に有色人種層)にクリティカルヒットした。根強いアングラ人気はいつしか文化的なアイコンにまでなり、犯罪映画の名作として再評価が行われるようになった。
ギャングスタ・ラップでは幾度もモチーフとして引用された他、ビデオゲーム『グランド・セフト・オート・バイスシティ』は本作に多大な影響をうけて制作されていることでも有名。一昔前のヴィレッジヴァンガードやアングラショップを訪れた人なら、映像ソフトのジャケットにもなっている、赤と白のコントラストに彩られた「M16ライフルを振りかざすパチーノ」のビジュアルを一度は目にしたこともあるだろう。嘘か真か、物語の舞台となったマイアミでは本作のご当地グッズがお土産屋さんに並んでいたとか。
さらに公開23周年となる2006年には、プレイステーション2ソフトとしてIf続編『SCAEFACE The World Is Yours』が発売されている(残念ながら日本未発売)。ぶっちゃけ『GTAVC版スカーフェイス』だが、中々に遊びごたえのある名作。
登場人物/演者
- アントニオ・<トニー>・モンタナ / アル・パチーノ
- この物語の主人公。顔の左側に傷を持つ、思ったことをすぐに口に出してはすぐ行動に移す無駄にエネルギッシュなチンピラ。キューバのカストロ体制下で刑務所送りにされたこともあり、共産主義を嫌悪している。成り上がるためにはどんな犯罪にも手を染める根っからのクズ野郎だが、騙し討ちは好まず、子供は絶対に殺さないという、妙なところで仁義に熱い一面も持つ。
金とコカイン、そして妹の将来に執着するあまり、全てを失っていく。 - マニー・リベラ / スティーヴン・バウアー
- トニーの弟分で、共にキューバから渡ってきた。ちょっと抜けたところはあるが、トニーの忠実な右腕として働き、互いの信頼も厚い。だが、コカインビジネスに傾倒し、周囲を顧みなくなっていくトニーの様子に、一抹の不信感が芽生え……。
- ジーナ・モンタナ / メアリー・エリザベス・マストラントニオ
- トニーの妹。20歳になったばかりだが、その割には精神年齢が幼い。小さいころから兄に溺愛され、本人も無邪気に兄を慕うが、やがて兄の愛を「束縛」に感じるようになっていく。
- エルヴィラ・ハンコック / ミシェル・ファイファー
- やたらめったら胸元がきわどい服装を好むフランクの情婦。常にけだるげながら、思ったことはすぐ口に出すタイプ。周囲から隔絶した孤高の女という第一印象を受けるが……実は重度のコカインジャンキーである。
- フランク・ロペス / ロバート・ロッジア
- マイアミを拠点とするマフィアのボス。コカイン密売をシノギにしている。トニーのガッツを見込んで重用するが、やがて猪突する彼の対応に苦慮することになる。
- オニール・スアレス / F・マーリー・エイブラハム
- フランクの代理人を務めるマフィア。慎重派。トニーを田舎者と見下す。
- アレハンドロ・ソーサ / ポール・シェナー
- ボリビアでコカイン生成を行う麻薬王。商談に訪れたトニーを気に入り、彼を自らのコカインビジネスに巻き込もうとする。
各種ランキングなど
- AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート) アメリカ映画名セリフベスト100(2005)
- 61位「Say 'hello' to my little friend!」
- AFI 10ジャンル映画トップ10(2008)
- ギャング映画部門 10位 ちなみに『暗黒街の顔役』が6位
- エンターテインメント・ウィークリー誌 カルト映画トップ50(2003)
- 8位
- エンパイア誌「史上最高の映画500」(2017)
- 284位
関連動画
関連リンク
関連項目
──俺と遊びてぇのか?
いいぜ、遊んでやるよ、来やがれ
さぁ来いよ、派手にやろうぜ!?
Say 'hello' to my little friend!
これが「ごあいさつ」だ!
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