概要
フライ(毛ばり)と呼ばれる、ハリに鳥の羽根や獣の毛、合成繊維などを巻き付けて作られた疑似餌を用いる釣り方で、広義のルアーフィッシングのひとつとも言える。
日本にはテンカラという毛ばり釣りが古くからあり、両者にはその土地に合わせた差異がある。それぞれの違いについてはテンカラの頁が詳しい。
対象魚は一般的にイワナ、ヤマメ、ニジマスなどの渓流魚が主であるが、渓流だけでなく下流域、湖、池、そして海でもまた違ったターゲットを狙える。
竿や糸、フライを換えれば実質的な対象魚は非常に多く、オイカワやアジといった小魚から、GTやマグロなどのビッグゲームまで幅広い。
道具立て
フライフィッシングで必要な道具はざっくり述べると、フライロッド、フライリール、バッキングライン、フライライン、リーダー、ティペット、フライ。
リーダー、ティペット、フライは消耗品なので多めに持っていくこと。
また、これ以外にもコネクター、インジケーター、シンカー、フライフロータントなどの小物が必要になる場合もある。
英国紳士がサーモンを狙ったハンティングスポーツ発祥ということもあり、道具自体が全体的に高い。さらに日本国内ではフライフィッシャーが少ないこともあって、他の釣法に用いる道具と比較して流通量はきわめて少ない。そのような事情もフライフィッシングの敷居が非常に高い現状に拍車をかけている。
道具の調達は個人経営のフライ専門プロショップが主流で、一部の大型アウトドア専門店でも取り扱いがある。一応渓流釣りが盛んな地域の釣具店なら取り扱いがあることもあるが、海が近い場所だと大型店であってもフライの道具は何一つ置かれていないことの方が多い。
しかしながら、数こそ少ないもののエントリー向けの安価なセットなどもあり、昨今はネットで簡単に買えるようになっているため入手自体は難しくなくなってきている。
ロッド
フライロッドは長さや強さも多岐にわたるが、一般的な竿とはリールシートやガイドの形状が異なるため、併用はできない。
片手で振るシングルハンドロッドと、両手で振るダブルハンドロッド、状況に応じて使い分けられるスイッチロッドがある。
素材は釣り竿で一般的なカーボンのほか、柔らかくしなるグラスファイバー、古式ゆかしい竹竿がある。竹竿は機械化と量産が出来ないため基本的に手作りの高級品で、コダワリを追求するロッドビルダーが国内外で様々活躍している。
リール
片軸受けリールという古典的なリールを用いる。フライフィッシングにおいてリールはほとんどただの糸収納装置でしかなく、リールを巻いてやり取りをすることが多くないためである。そのため専用品であるにもかかわらず割と安いものも(海外ブランドの高級品も多数なのでこの限りではない)。
大型魚、特にシイラやシーバスといった海のターゲットではリールファイトが多くなる傾向にあり、それに従ってリールのドラグ性能も求められる。もちろん競技人口が減るため価格も高くなる。
バッキングライン
リールに巻く下巻き糸のこと。なくても釣り自体はできるが、長さを稼いだり軸の太さを稼いで巻き癖を低減したりするため、リールのキャパシティに応じて巻いておく。
フライライン
フライフィッシングの最も特徴的な道具がフライラインである。PVCなどの樹脂でできた糸で、ラーメンくらいの太さがある。
なぜわざわざこんな太い糸になっているかというと、フライはそれそのものには大した重量がなく、例えば普通のルアータックルのように投げることができない。のべ竿の餌釣りのように竿のしなりで送り込むことはできるが、精々竿2本分しか届かない。
そこで、フライフィッシングではこのフライラインの重さを利用して仕掛けを遠くへ飛ばすのである。フライフィッシングにおけるラインは糸であると同時に長いオモリでもあるのだ。それゆえキャストは独特なものとなる(後述)。
種類は多く、水に浮くフローティングと沈むシンキングがあり、さらにシンキングでも沈む速度が違う。また、フライラインにはテーパーが掛けられており1本のラインでも場所によって太さが異なる。テーパーの種類は主に4つに分けられる。
・ダブルテーパー(DT)
中央が太く両端に向けて先細りとなる。遠投はしにくいが操作性が良く、ラインが痛んだら前後を逆にして使うことができる。
・ウェイトフォワード(WF)
先端側に膨らみが寄り、途中からは均一な太さになった形のテーパー。近距離ではDTと同じように扱いやすく、それ以上の距離では重心が前に寄ることから、DTでは成し得なかった遠投をしやすくしている。
・シューティングヘッド(ST)
遠投に特化したライン。ST自体は太く重く短く、後ろにランニングラインを結ぶことで極端に重心を前寄りにした形を成す。WFとは比べ物にならない圧倒的な飛距離を誇るが、扱いには慣れが要る。
・レベルライン
全て均一な太さのライン。あまり使われることはなく、細いものがSTとバッキングラインの間のランニングラインとして使われる。
重量性能は米国フィッシングタックル製造業協会(AFTMA)によって規格化され、“DT4F”(ダブルテーパー・4番手・フローティングラインの意味)といったように番手で管理されている。この番手はロッドにもあてがわれており、ロッドとラインの番手を合わせる事がフライタックル選択の基本となる。因みに低番手のロッドに高番手の重いラインを使うと、最悪キャスティング時にロッドが折れる。
リーダー
リーダーはナイロンやフロロカーボン等の素材が使われる。キャストの力を糸先のフライまで伝えるため、こちらもテーパーが掛かっている。対象魚によって太さを使い分ける。
ティペット
餌釣りで言うハリスにあたるもの。こちらも素材はナイロンやフロロカーボンで、磯用や鮎用など普通のハリスを使うこともできる。太いと食わない、細いと切れる。
テーパードリーダーとティペットもAFTMAによって規格化されており“5X”の様に数字とエックスの組み合わせで太さが管理されている。因みに6Xが日本のハリスにおける0.6号に相当する太さ。ただし数字が大きくなると重くなるラインとは逆に、リーダー・ティペットのX表記は数字が大きくなると細くなる。ややこしい。
フライ
フライの種類は非常に多く、世界中で日々新たなフライが自作されている。大きさや色、形、素材もさまざまだが、概ね以下の4種に大別される。
・ドライ
水に浮くフライ。水中から羽化した虫や墜落した陸生昆虫を模すものが多い。
・ウェット
水中を漂うフライ。羽化直前の虫をイメージしたものが一般的。
・ニンフ
底を転がすフライ。クロカワ虫やピンチョロのような幼虫のイメージ。
・ストリーマー
小魚や小エビを模したフライ。比較的大型で、渓流よりも湖沼や海で活躍する。
著名なフライとして、エルクヘアカディス、シルバーマーチブラウン、アダムス、ロイヤルコーチマン、ゴールドリブドヘアーズイヤーニンフ、フェザントテイルニンフなどがある。
また、フライは自作(タイイングという)が盛んであり、新しい創作フライが日々生み出されている。そういった事もありフライショップにはタイイング用の鳥の羽根や絹糸など、一般的な釣具屋ではなか見ることの無い商品が多数置かれている。代表的な素材は鶏の首筋の細い羽根が取れるハックルケープ。タイイング専用に育てられる米国産ジェネティックハックルは、ケープ1枚で1万円ほどする。高い。雉(フェザント)やウズラ(パートリッジ)などの鳥まるごと1羽というコンプリートスキンもある。
フィールドを事前に想定し、魚が食べる虫を想像しながらそれに似せたフライを巻く文化は、フライを魚のエサに合わせるマッチザハッチの重要な要素であり、フライフィッシャーの間でタイイングが発展した所以でもある。フライでの釣りに慣れたらタイイングにもチャレンジしてみると、楽しみの幅が広がる。あと、ロストしてもいちいち買いに行かなくて済む。
その他
フライフィッシングの結び目は5カ所あり結び方は色々ある。
・ネイルノット(ネイルレスネイルノット)
・サージャンズノット
・ユニノット
・オルブライノット
・ブラッドノット
水中で釣りをする場合は、ウェーダー(胴長)を履く必要がある。しかし無闇に水中に立ち入ると、魚に警戒されやすくなるだけでなく危険なので十分に注意すること。ウェーディングスタッフという杖もあるので必要に応じて用意したい。
他、ベストや帽子、偏光サングラスなど通常の釣りと同じように役立つ。
釣り方
フライフィッシングのキャスティングは、フライラインの重さを利用して少しずつ糸を出しながらフライを運ぶ。
そのためフォルスキャストと呼ばれる、前後に何度も竿を振るフライ独特のキャストを習得しなければならない。このキャストで綺麗なループを描くことが、フライ上達の要である。
練習には実際にフィールドに赴いたり、本やサイトを見たりする他、50年の歴史を持つ日本最大手のフライフィッシングメーカー・ティムコのYouTubeチャンネルがあるので、参照すると良いだろう。
ティムコ フライフィッシング YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCWuCxWB_KcDzjTjPHHxr4kQ
キャストしたら、渓流ではそのまま流れに任せて流していくナチュラルドリフトという釣り方が主になる。そのままだと糸の方が先に流されフライが引っ張られる(ドラグがかかると言う)格好になることが多いので、上流側へラインを移動させるメンディングという技術などが求められる。ヤマメはフライに食いついてから離すまでが速く、超早合わせが基本。
一方海では自分でリトリーブするのが基本で、止めると逆に見切られる。どちらにしても知識と経験が求められる釣りになるだろう。
主な対象魚
フライフィッシングで釣れる魚 https://hermit-jp.com/zatugaku/chouki.html
タックルが軽いフライフィッシングは沈める釣りがあまり得意ではないので、狙いは必然的に表層が多くなる。日本では大半がイワナ、ヤマメ、アマゴ、ニジマス狙い。他にブラックバス、ブルーギル、コイが淡水での主なターゲットとなる。オイカワやカワムツなど、身近な小川の魚も人気上昇中。
海ではメバル、シーバスといったところがメイン……だが、そもそもソルトウォーターフライをやっている人がほとんどいない。もし見かけたら、競技人口の少なさにめげず竿を振り続けているサムライか、よくわからないまま手を出したこの記事の2版編集者かである。
フライフィッシングが日本に入ってきたのは……
長崎の洋館で有名な英国人商人のトーマス・グラバーが、栃木県日光市にある中禅寺湖の別荘で晩年を過ごした際に、フライフィッシングに没頭したのが始まりと言われている。
華厳の滝で下流と遮られた中禅寺湖は元々魚が生息していなかったが、明治期に地元の釣りキチの星野定五郎がイワナなどを放流し、密かに釣りを楽しんだ。この魚と環境に魅せられたグラバーは1902年に、米国から取り寄せたブルックトラウト(カワマス)の卵を、戦場ヶ原を縫って湖へと注ぐ湯川に放流。以降この一帯は華族や外国人賓客などのレジャースポットとなったという。
中禅寺湖は1966年に移入されたレイクトラウトが生息する本邦唯一の湖沼であり、今日はトラウトフィッシングの聖地として釣り人に知られている。雪が残る4月の釣行解禁日以降はフライ・ルアーでトラウトを狙う釣り人で賑わう。また湯川もブルックトラウトが国内で自然繁殖する数少ない河川という特徴があるため、憧れのフィールドとして多くのフライフィッシャーが訪れる。
関連動画
関連静画
関連項目
- 1
- 0pt