「ロボット工学三原則」(ロボット三原則)とは、SF作家アイザック・アシモフが作品 [1]内で使用した作中設定で、ロボットが従わなければならないとする大原則のことである。
現実のロボット工学分野でも同じ由来と意味でロボット工学三原則が用いられ、また、後に加えられた第零条も含めてロボット工学三原則と呼ぶ場合もある。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
出典:『われはロボット』アイザック・アシモフ著、小尾芙佐訳(1983年)
概要
アイザック・アシモフ (1920-1992) |
アイザック・アシモフは、1950年に刊行された短編集『I, Robot』(邦題:われはロボット)の作品内において、ロボットが従わなければならない大原則として上記の三原則を作り出した。
アシモフが自らのロボット物にこうした行動の規制を設けた最大の動機は、短編集『ロボットの時代』で自ら語っているところによれば、『フランケンシュタイン』や『R.U.R.』から延々と繰り返されてきた「ロボットが創造主を破滅させる」というプロットと一線を画すためであったとされている。
また、「ナイフに柄が付いているように、人間の製作物なら何らかの安全装置があって然るべき」とも述べている。
作品内に登場するロボットには例外無く適用されており、ロボットの行動の全ては三原則の制約を受ける。ロボットはこれを自ら解除することはできない。もし抵触した場合はそれが結果的にであっても自己破壊機構が作動し、ロボットは強制的に活動を停止する。
なお、ロボット三原則を適用するには十分に高度な判断能力を有する人工知能が必要となる。(アイザック・アシモフの作品群では、陽電子頭脳がそれに相当する)
1985年に刊行されたアイザック・アシモフの『Robots and Empire』では、上記の三原則が内包する深刻な問題点と指摘されていた部分を補う、最優先条項の第零条が追加された。
ちなみにアシモフ自身は三原則を絶対視も偶像視もしていない。それどころか、ロボットを扱った初期作品では、三原則を忠実に守り過ぎたり、三原則では対処できない事態に陥ったロボットがトラブルを起こし、人間のトラブルシューターが三原則を逆用して原因追及と事態の解決を行うストーリーとなっており、意図的に欠陥のある行動基準として策定している。
なお、ロボット三原則は世の中の全てのロボットに適用されなければならないと主張しているものではない。
当然ながら軍事や戦闘向けなど、用途によっては適用すると本来の役に立たなくなってしまうことになる。
また、ロボット三原則はその内容から、奴隷を縛るルールであると嫌悪感を示されることもある。
ロボット三原則の影響
このロボット三原則は他のSF作家などのクリエイター、ファン、また現実のロボット工学・人工知能などの研究者にも影響を与え、様々な作品に取り入れられたり、考察が行われるなどした。日本でも漫画、アニメ、小説などにおいて様々なクリエイターが影響を受けた。
明確な行動原理の定義はロボットと人間の違いを際立たせたり、ロボットを使う人間あるいはロボット自身がいかにして三原則を回避して出し抜くか、状況と三原則 の板挟みで葛藤するさま、人間並みに高度な人工知能を持ち合わせても三原則に縛られ自由意志は許されないのか等々、とても想像を膨らませる余地を備えた設定と言える。
また、現実のロボット工学の分野でも安全性の基本的な考え方などに同じ意味でロボット三原則(ロボット工学三原則)が用いられている。
ロボット三原則またはその類型をモチーフに使用している作品
- ロボットシリーズ、ファウンデーションシリーズ(小説)-アイザック・アシモフ
- 鉄腕アトム(漫画、アニメ)-手塚治虫 ※「鉄腕アトム」のロボット法はロボット三原則とは別に独自に考え出したものと本人は述べている。
- エイリアン/エイリアン2(映画)-リドリー・スコット(監督)/ジェームズ・キャメロン(監督)
- アイ,ロボット(映画)-アレックス・プロヤス(監督)、2004年公開
- 鉄コミュニケイション(アニメ、漫画、小説)-たくま朋正(漫画・原作)、秋山瑞人(小説)
- リバティ・ランドの鐘(小説)-秋山完
- 導きの星(小説)-小川一水
- アイの物語(小説)-山本弘
- メダロットシリーズ(漫画、ゲーム、アニメ)-ほるまりん(漫画・原作)、ひらのかな(ゲーム・脚本)
- イヴの時間(アニメ)-吉浦康裕(演出、原作、脚本、監督)
- サクラダリセット(ライトノベル)-河野裕
- スワロウテイル・シリーズ(小説)-籘真千歳
- ダンスロボットダンス(初音ミクオリジナル曲)-ナユタン星人
ロボット三原則とフレーム問題
フレーム問題とは、人工知能の研究分野の問題のひとつで「有限の情報処理能力しか持たない人工知能には、世の中に起こり得る全てに対処することはできない」というものである。(フレームは「枠」の意。情報処理能力の限界を枠とすると、その枠の範囲内のことしか対処できないということ)
つまり、ロボットの人工知能の情報処理能力には自ずと限界があるため、第零条や第一条に従い自分の行動の結果が人類や人間に危害を及ぼさないか判断しようにも、厳密に考えるほどあらゆる要因を考慮しなければならず答えが出せなくなる(=行動できなくなる)ことである。
アイザック・アシモフのファウンデーションシリーズでは、ロボットのR・ダニール・オリヴォーが同様の趣旨を述べる場面がある。
とどのつまり、
ロボット三原則をぶっちゃけ単純に要約すると…
- 危険でない。
- 扱いやすい。
- 壊れにくい。
…なんのことはない。要は使い勝手のいい家電を作るつもりでロボットを開発すればいいのである。
それは人間にも言えることかもしれない(社会的信用を得られる交流、柔軟な理解と行動、怪我しにくい(立ち直れる))。
関連動画
関連項目
脚注
- *初出は1950年発表の短編集『I, Robot』(邦題:『われはロボット』)アイザック・アシモフ著である。
- 21
- 0pt