有用微生物群 (英:effective microorganisms、略:EM) は、複数の微生物群によって作られた資材である。1994年より株式会社EM研究機構とその関連企業群によって販売されている。名前は琉球大学名誉教授の比嘉照夫が命名した。
通称EM菌。ただし、上記の通り本資材は単独の菌から成るものではなく、この通称は実体を指し示す上で不適切である。このため、本記事では『有用微生物群 / EM』と記すこととする。
概要
比嘉教授がいつも「EMは効くまで使え、空気や水の如く使え、必ず効果は表れる」の、言葉を信じ、実践した結果、上記報告の通りであります。
甦れ!食と健康と地球環境 第78回 EMの波動作用, 2023/05/10閲覧
有用微生物群 / EMは1982年に琉球大学名誉教授の比嘉照夫が開発した微生物群による資材である。EM研究機構のウェブサイトによれば、『農地や水環境の改善に威力を発揮する光合成細菌や、発酵型の乳酸菌、酵母など、自然界にいる人にも環境にもやさしい善玉菌』を絶妙な比率でブレンドして相乗効果を生み出したものが有用微生物群 / EMという共生関係なのだという (参考) 。
この資材を汚染された土壌や河川に投入することで、その環境の微生物群の多様性が豊かになり、自己浄化能力が高まり、改善されるとEM研究機構は主張している。その他、下記のような効果があると主張している (参考) 。
農業 | |
畜産 | |
水産 | |
水処理 | |
ゴミ処理 |
|
建築 | |
健康 |
この他にも、有用微生物群 / EMを使用した洗剤や、セラミックスの焼成にも役立つとしている。彼らが主張するところの効果が非常に多岐にわたることがわかろう。
メカニズム
この有用微生物群 / EMが作用するメカニズムについて、比嘉は以下のように主張している。
私はEMの本質的な効果は、関英男先生が確認した重力波と想定される縦波の波動によるものと考えています。
この重力波はオカルトで言うところの波動といったものに類似する、物質に対する反物質的な存在と言える「シントロピー (蘇生)」であると比嘉は説明している。また、別のところではEM研究機構により、このような主張も見られる。
「EMに含まれる微生物がリーダー的な存在と なり、現場の微生物を連係させる」
すなわち、EMが常に優勢となるように人間の手助けが必要だということです。酸素が多いこの地球では、酸化を促進する微生物が常に優勢になるような状況にあり、光合成細菌や乳酸菌や酵母などEMを構成する抗酸化微生物は少数派であり、人間の手助けなしに多数派になることは不可能です。
EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [74] 比嘉照夫 名桜大学教授, 2023/05/10閲覧
補助してやらないとあっという間に他の微生物に負けてしまうような有用微生物群 / EMが現場の微生物を連携させることがはたして可能なのかという、非常に奇妙な説明に見える。比嘉としては、このような観点から有用微生物群 / EMが環境に負の影響をもたらすことはないという意味合いで主張しているようだが。
基本的にどんな薬剤でも使用に際して「適した量」というものが存在するが、比嘉は有用微生物群 / EMに関しては「効くまで使え」と主張している。また、上記ソースにおいて、「いいことがあったらEMのおかげ」「悪いことはEMを極めなかったから」と普段から考えよと主張しており、海の水質改善に有用微生物群 / EMを使用することで最終的に海難事故の減少にもつながるとも主張している。
比嘉はまた、江本勝の『水からの伝言』の理論を支持しており、彼に対する批判を謂れなきバッシングであると主張。更に、江本を支持しているために比嘉もえせ科学のブラックリストに入れられたのだ (=つまり、検証なく「江本の支持者だから」批判された) と主張している。
有用微生物群 / EMへの批判
こうした有用微生物群 / EMには批判が多く寄せられている。一番の理由はやはり、「効果がない」ことである。
岡山県環境保健センターは1997年度、EM菌は水質浄化に「良好な影響を与えない」と報告。 実験用の浄化槽にEM菌を加えて600日間観察したが、EM菌のない浄化槽と同じ能力だった。 広島県も03年、同様の報告をしている。
メカニズム以前に、そもそも効いていないのだから批判も当然である。実際この手の水質浄化について否定する報告は多い。また、比嘉の言によれば、ずっと放置していればそのうち有用微生物群 / EMは在来微生物に負けてしまうのだから、環境負荷はないはずだが、
福島県では、「高濃度の有機物が含まれる微生物資材を河川や湖沼に投入すれば汚濁源となる。」との見解であり、広島県も同様の見解を示しております。
これまでにいただいた市長への手紙 > 平成21年度 > 環境[PDFファイル/181KB] (伊達市), 2023/05/10閲覧
と、「微生物資材は汚濁源である」というように否定する自治体も登場している。
北朝鮮でも故金正日元総書記が推進したものの、効果がないとして使用を中断している (参考) 。
そもそも、有用微生物群 / EMのメカニズムに使われている「重力波」についても、微生物がこのような波動を出すという主張そのものがありえないとして批判されている。
そもそも「効能があまりにも多すぎる」点も批判されており、大阪大学教授の菊地誠は何でも都合の良い方向に働くとの万能性をうたっていること自体を指して非科学的だと切り捨てている。
もうひとつ、問題点がある。それは、有用微生物群 / EMとはなにか、という中身について実態が明かされていないという点である。比嘉はその構成微生物を明確にしていない。批判者のひとり、片瀬久美子は自費でメタゲノム解析を行い、結果比嘉の主張する光合成細菌などは有用微生物群 / EMに含まれていないことを示している (参考)。
有用微生物群 / EMが効果があるとした論文・報告も今では書かれているが、そもそも中身について明らかにされていない以上論文や報告で使われたものと実際に販売されているものが一致しているかさえ示せないので、証拠としての信頼性は薄いと言わざるをえない。そもそも、有用微生物群 / EMに実際に効果があるならば、次はどの微生物同士のどういった作用がその効果を示すのか、と深掘りするのが科学であり、「どうだ、EMは効いたぞ!」というのは科学的態度とは程遠いものである。
なお比嘉やEM研究機構はこうした批判に対して法的手段をとる訴訟を度々起こしているが、スラップと判断され敗訴や不起訴処分となっているケースが多い。
有用微生物群 / EMと教育
このように批判の大きい有用微生物群 / EMであるが、その効果の有用性に疑義が呈されているにも関わらず、教育において浸透してしまっていることも問題である。
子供たちは権威のある「先生」や「特別講師」の話を疑いにくく、そのような場で有用微生物群 / EMの有用性を説かれれば無批判に信じ込みやすい。ある事例では、小学生が米の研ぎ汁で培養したEM発酵液を飲んだという事例すらある。
子供たちはせっせと「先生」の言うことを効いて米の研ぎ汁でEMを培養し、それをプール清掃時などに散布するということを行っている。本来であれば教師こそ子供たちに対して間違っていることを教えていないか自己批判を行うべきであるが、教師も自治体が推進していることに対して疑いを持っていないケースもあるようだ。
「県の支給なので、まさか効果に疑問があるものとは思わなかった」
中学校で、EM菌による水質浄化を指導する女性教師は話す。近所の川にEM菌をまく活動は、 前任 者の時代から10年以上続いてきた。1学級2人ずつの美化委員会が、年数回活動している。 委員以外の生徒からも家庭のコメのとぎ汁を収集。EM菌の原液と混ぜて灯油缶で「培養」し、 川に流す。生徒たちは、真冬の雪の中でも積極的に参加した。流したEM菌の液は昨年度、1千リ ットル超。教師は「川がきれいになる」と教えてきた。
こうした教育の問題について、「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」という署名活動も行われている (参考)。上記の片瀬の報告からみても、日和見感染菌であるアシネトバクター属のAcinetobacter ursingiiが培養液中から検出されており、とても安易に飲食を勧められるものではない。
有用微生物群 / EMと宗教
有用微生物群 / EMは世界救世教開祖岡田茂吉が救世自然農法のイベントに比嘉を招待し、そこから関係を強めていったことが知られている (参考) 。比嘉は世界救世教の関連団体である財団法人自然農法国際研究開発センターの理事も務めている。この世界救世教の後ろ楯を得ることで日本だけにとどまらず、タイをはじめとした世界中の国々に有用微生物群 / EMは紹介されたと吉野航一は指摘している。なお、のちの世界救世教の分裂において、新生派のいづのめ教団は有用微生物群 / EMの推進を継続したのに対して、再建派の東方之光・MOAは有用微生物群 / EMを否定した。
関連リンク
一般
- EM GROUP JAPAN - EM研究機構のウェブサイト。
- 甦れ!食と健康と地球環境 第78回 EMの波動作用
- EM情報室 WEBマガジン エコ・ピュア 連載 新・夢に生きる ⑤ 比嘉照夫 名桜大学教授
- EM情報室 WEBマガジン エコピュア 連載 新・夢に生きる [74] 比嘉照夫 名桜大学教授
- これまでにいただいた市長への手紙 - 福島県伊達市公式ホームページ - 平成21年度(2009年度)の「環境」PDFファイル内に該当の資料あり
- EM菌の正体(構成微生物を調べました)|片瀬久美子
- 沖縄における「EM(有用微生物群)」の受容 : 公的領域で語られたEM言説を中心に
- Daily NK - “北 複合微生物工場の大部分が稼動を中断”
- シャボン玉EMシリーズ | シャボン玉石けん
有用微生物群 / EMと教育
- 「水質浄化」EM菌効果 検証せぬまま授業 青森県 - 有限会社 バイオ化研
- 自然水系へのEM投入から「環境教育」を考える/片瀬久美子 - SYNODOS
- EM菌が各地で「環境教育」として使われていることの問題 - wezzy|ウェジー
- エゴからエコへ ~EM菌~
- 新潟市立早通小学校の事例
- 授業でEM菌を飲食する子供たち - Togetter
- 署名活動「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」の報告 — Y.Amo(apj) Lab
関連項目
- 2
- 0pt